新潟の絹織物『塩沢紬』ってどんな着物?本塩沢との違いや織物体験ができる工房を紹介

新潟の絹織物『塩沢紬』ってどんな着物?本塩沢との違いや織物体験ができる工房を紹介

新潟の絹織物『塩沢紬』ってどんな着物?本塩沢との違いや織物体験ができる工房を紹介

「塩沢紬ってどんな着物?」
「特徴は?」
「本塩沢との違いがいまいちわからない…」

紬の中でも最高級品とされる塩沢紬。上品で落ち着いた印象から『通好み』の着物として人気が高く、日本三大紬のひとつにも数えられています。

しかし、名前は聞いたことがあっても、特徴や歴史などをしっかり把握している方は少ないのではないでしょうか?
塩沢紬を生産する新潟県塩沢地方は古くから織物の名産地として知られ、同じ産地の絹織物「本塩沢」との違いもわかりにくいですよね。

そこで今回は、伝統工芸品である塩沢紬の魅力から歴史、製造工程や本塩沢との違いまで徹底解説します。
機織り体験ができる施設もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

▼紬について詳しく解説している記事はこちら

塩沢紬とは?

塩沢紬は、新潟県南魚沼市塩沢地方で織られている絹織物です。生糸(※)の他に、光沢のない玉糸や真綿手紡糸(※)を使用し、すべて職人による手作業で丁寧に作られています。

さらりとした着心地から、単衣に仕立てて夏に着る着物としても人気です。落ち着いた色合いと主張し過ぎない細かな模様が特徴で、着物愛好家の方々からも評価が高く、季節問わず愛用する方もいらっしゃいます。まさに『通好み』の着物と言えるでしょう。

大島紬や結城紬とともに日本三大紬に数えられ、国の伝統工芸品にも指定されている織物です。

※生糸とは蚕の繭から引き出して極細の糸に手紡ぎした糸です。
※玉繭から作られる玉糸は節が特徴。真綿手紡糸は繭を煮て柔らかくした真綿を、手紡機を使用して撚りながら紡いで作られています。

▼結城紬についてはこちらもあわせてご覧ください。

塩沢紬の特徴

塩沢紬の特徴は以下の通りです。

・生地表面のシボ
・柔らかさと光沢感
・さらっとした着心地

塩沢紬の最大の特徴は生地表面に見られる「シボ」です。シボとは立体的な凸凹模様のことで、独特の風合いと味わい深さを生み出しています。

生糸や玉糸、真綿手紡糸を使用しているため、紬独特のざっくりとした肌触りの中にも柔らかさや温かさ、絹特有の光沢感があり、他の紬に比べて生地が薄いのが特徴です。

着心地の良く、シボがあるおかげで着崩れのしにくい着物として知られています。

細かい絣模様が魅力の塩沢紬

塩沢紬は、非常に細かな絣模様も魅力のひとつです。

十の字が連続したような十字絣や、亀の甲羅を表したような六角形の亀甲絣(きっこうがすり)、十字絣をさらに細かくした蚊絣(かがすり)などが代表的。職人による丁寧な手作業が、細かな模様の織りだしを可能にしています。

地の生地と絣模様はどれも黒や紺、白やグレーなどの渋めの色合わせで、決して派手さはありません。一見すると地味と言われてしまいそうな生地から漂う上品さと落ち着きのある風合いが、着物愛好家からも高く評価されている着物です。

塩沢紬の歴史

塩沢紬が誕生したのは約250年前の1764~71年、江戸時代中期頃です。

産地である塩沢地方は、一年のうちほぼ半分が雪に覆われ、夜が長いことでも知られています。雪の季節に家の中でできる仕事として機織りが発展し、冬の湿った気候が加工に適している麻が古くから作られてきました。
1200年以上前の奈良時代に塩沢地方で織られた麻布(現在の越後上布)が正倉院に現在でも残っています。

長年培われた越後上布の技術を絹に応用して織られたものが塩沢紬です。
麻の需要が減少するのに対して塩沢紬は徐々に注目されるようになり、大正時代には麻織物の生産量を抜いたと言われています。1975年には国の伝統的工芸品に指定されました。

時間をかけて作られるため、現代では生産量が限定的ですが、高級な紬として広く知られている貴重な織物です。

伝統的工芸品・塩沢紬の定義

1975年、塩沢紬は経済産業省が指定する国の伝統的工芸品に認定されました。
ここからは、伝統工芸品と名乗るために必要な条件と、認定された製品である証の証紙をご紹介します。

伝統マークを付ける条件

伝統的工芸品の指定を受けるための条件は以下の通りです。

・先染めの糸を使用し、たて糸とよこ糸が交互に交差する平織りで織られていること
・たて糸に生糸または玉糸を使用し、よこ糸に真綿手紡糸を使用すること
・よこ糸をたて糸に通す際には手投杼(てなげひ)という道具を使用すること
・絣糸の染色法は「手括り」「手摺り込み」又は「板締め」を用いること

原材料から機織りの道具、染色方法まで幅広く規定されています。
条件をひとつでも満たさない製品は、伝統工芸品として認められません。店頭で「伝統工芸品・塩沢紬」と名乗れるのは、厳しい条件をクリアした製品のみです。

塩沢紬の証紙

国の伝統工芸品と指定された製品には、「伝」のロゴと赤い丸を組み合わせた「伝統マーク」が貼られています。前述した材料や技法を用いて作られたことを証明する証紙です。

塩沢紬に添付される証紙には、他にも雪さらしの風景が描かれている「産地統一商標」や、繭や糸が描かれている「組合員之証」があります。
塩沢の織元9社が使用し、企業名も明記されているので、産地と織元が一目瞭然です。

証紙は使用されている技法や産地、織元を保証するマーク。見分けがつかず、生地の産地や種類に迷ったらまずは証紙を探してみてください。

本塩沢と塩沢紬の違いは?

本塩沢と塩沢紬の違いは、使われる糸にあります。
塩沢紬は、太さが均一ではなく節がある紬糸を使用しているのに対して、本塩沢はすべて生糸。強い撚(よ)りをかけ、織られた後に行う湯もみによって、塩沢紬よりもシボも強く出ています。

両者ともに越後上布がルーツの絹織物ですが、使用する糸が違うため風合いの異なる別の織物です。
混合してしまわないよう格の違いについても見ていきましょう。

本塩沢は『御召』

すべて生糸を使用している本塩沢は、従来「塩沢お召」の名前で親しまれてきた織物です。
お召は織りの着物の中で最も格式が高く、染めと織りの中間に位置します。

絹を使っていても、分類は庶民が着るカジュアル着物。食事会やお稽古など、おしゃれ着や普段着として着るのが一般的です。
渋い色合いの着物なので、結婚式など華やかな場面への着用は避けたほうがよいでしょう。しかし、訪問着や色無地などの柄に、合わせる帯に気を付けることで少しあらたまった料亭での会食や講演会などへの着用も可能です。紋をつければ略礼装として着られます。

裏地を付けて袷に仕立てる方もいらっしゃいますが、4〜6月、または9月頃に着る単衣仕立てがおすすめ。
表面にシボ(凹凸)があるため、肌にまとわりつかず、涼しく着られますよ。

柄や帯合わせを変えれば、カジュアルからセミフォーマルまで幅広く活躍してくれる着物です。

塩沢紬は『紬』

紬糸で作られている塩沢紬は、基本的にカジュアルなシーンで着用できます。
絹織物であっても、紬は上質な絹糸には使えない繭を使用して作られた背景があるためです。

庶民の普段着として長く愛用されてきた歴史から、現代では友人との気軽な食事やお稽古、観劇などの外出着として着られています。
一つ紋入りの紬なら準礼装として対応できる話もありますが、定義があいまいなのであまりおすすめはできません。

また、塩沢紬は袷にも単衣にも仕立てられ、オールシーズン対応可能な着物です。
他の紬より薄手でさらりとした着心地なので、暑い時期用の着物として人気の高い織物です。

▼こちらもあわせてご覧ください。

塩沢紬の製造工程

塩沢紬の製造工程は以下の通りです。

1.図案・設計
2.糸つくり・撚糸(ねんし)
3.墨付け、くびり
4.摺込み
5.機織り準備
6.織
7.仕上げ整理・検査

工程はすべてが職人による手作業。織に入るまでにも多くの過程を経ています。
時間と手間をかけて作られる塩沢紬の製造工程を見ていきましょう。

図案・設計

塩沢紬を作る工程は、図案の設計から始まります。

原図案などを見本に方眼紙を使い、図案を書き込んでいく作業です。
絣模様の入る位置や糸の長さなどをすべて設計しておくことで、織りあげた際の模様が出来上がります。

塩沢紬の特徴である細かな模様を決める要となる工程です。

糸つくり、撚糸

次に塩沢紬を織る糸を作ります。使うのは生糸と玉糸、真綿手紡糸の3種類です。

生糸は、繭から採取した糸を何本か束ねて作ります。
玉糸とは、2匹以上の蚕が入っている玉繭から紡ぐ糸のこと。細い糸に仕上げるために、根気のいる作業を繰り返します。

真綿手紡糸に使用するのは、生糸にはならない繭。数時間煮込んだ後、手で引き伸ばして作った真綿を指先で引き出して均一の太さに仕上げていきます。
真綿から引き出す際の手加減によって糸の太さが決定するため、繊細な力加減が必要です。

本来、玉繭や真綿手紡糸の元となる繭は、生糸に使えずくず繭として廃棄されていました。節がある糸を使うことで、織った時に生糸にはない独特の風合いが生まれています。

墨付け、くびり

墨付けやくびりは、織りだす模様に合わせて印をつけ、防染の糸をくくる工程です。

張り台によこ糸を張り、最初の設計図に合わせて墨で模様の場所に印をつけていきます。
染付けは染めない場所を表す目印。印のある場所に綿糸を巻きつけ、染めても染料が入らない箇所を作ります。模様がズレてしまわないように、設計図通りに染め分けることが重要です。

手作業で行われるくくりは、染め加減にムラが出ないよう均等な力で行う必要があります。長年の経験と熟練の技を駆使し、職人がひとつひとつ丁寧に行うため、時間のかかる工程です。

摺込み

摺込みとは染めの工程です。専用の竹ヘラを使い、墨付けの印を目印に染料を摺り込んでいきます。
摺込みが終わると行われるのが蒸し上げる作業です。色を定着させるために、100℃の蒸気に入れて蒸してから乾かします。

機織り準備

次に機織りの準備に入ります。

よこ糸がまず行うのは、加工される際に8本まとめられていた糸を1本ずつに分ける「絣起し(かすりおこし)」です。
分けられた糸は右撚りと左撚りで別々にし、機織りで使う舟形の「杼(ひ)」という道具にセットするため管(くだ)に巻き取っていきます。

たて糸をセットするのは、機織り機です。
絣模様がずれないよう固く巻き取った後、織機の「綜絖目(そうこうめ)」と呼ばれる場所に1本ずつ、「筬(おさ)」という箇所には2本ずつ通します。

よこ糸・たて糸どちらも糸を巻きますが、最初に作成した図案に合わせて模様をきれいに織りだすためには、巻き加減が重要な工程です。

織に使用するのは、髙機(たかはた)と呼ばれる織機です。
たて糸を通した綜絖目と筬が上下に動き、その間をよこ糸をセットした杼が左右に行き来して織られていきます。

塩沢紬の特徴である細かな絣模様を図案通りに出すためには、織っている最中も調整が欠かせません。時間も根気も必要な作業です。

仕上げ整理、検査

織りあがった後は洗って汚れや糊を落とし、チェック作業を行ってやっと塩沢紬が完成します。

塩沢紬の体験や工房見学はできる?

塩沢地方には塩沢紬の体験を行っている施設があります。
実際に自分で作ることで、工程の難しさや貴重さを実感できておすすめです。新潟県塩沢地方を訪れる際には、ぜひ立ち寄ってみてください。

※記載内容はすべて2023年7月現在のものです。

塩沢つむぎ記念館

塩沢つむぎ記念館は、塩沢で作られる織物の魅力を伝える施設です。
高機を使った機織り体験と、塩沢織物の生地や真綿を使った織物アート体験ができます。

体験コースの種類が豊富なので、気になるコースを複数受けるのもおすすめ。スタッフからの指導があるので安心して受けられますよ。

織物アート体験を行う1階は無料ですが、織物体験の会場である2階の工房へは入館料が必要となりますのでご注意ください。

▼施設概要

住所 新潟県南魚沼市塩沢1227番地14
アクセス 電車:JR上越線「塩沢駅」より徒歩3分
自動車:「水沢石打I.C.」または「六日町I.C.」より約15分
※駐車場有
Googleマップはこちら
営業時間 9:00~17:00
休館日 年末年始(12月24日~1月3日)
入館料 1階 展示販売場:無料
2階 織工房・資料室:大人400円、小児200円
電話番号 025-782-4888
FAX 025-782-1148
注意事項 ・10名以上の体験は要予約(WEB・電話・FAX・メール)
・ゴールデンウィークやお盆などの繁忙期の予約は不可。体験は来館順。

それぞれの体験コース内容は以下にまとめましたので、参考にしてください。
機織り体験

塩沢つむぎ記念館でできる手織り体験コースは以下の通りです。

コース 料金 所要時間
※コースター体験以外は3㎝を織る目安
使用用途
しおり手織体験 長さ3㎝:1,000円
1㎝追加:190円
約15分 しおり・ショール・帯・着物
綴織り体験 長さ3㎝:2,500円
1㎝追加:475円
約40分 ランチョンマット・タペストリー・テーブルランナー
裂織り体験 長さ3㎝:3,000円
1㎝追加:570円
約20分 バッグ・タペストリー
コースター手織り体験 約12×12㎝のコースター3枚:3,500円
1㎝追加:230円
約60分 コースター
コースター裂織り体験 約12×12㎝のコースター3枚:7,500円
1㎝追加:550円
約60分 コースター

実際に使われている高機を使っての機織りは、なかなかできない貴重な体験です。
自分で織った生地は、旅行のお土産になりますよ。

▼詳細はこちら(公式ホームページ)


織物アート体験

塩沢つむぎ記念館でできる織物アート体験は以下の通りです。

コース 料金 所要時間
※コースター体験以外は3㎝を織る目安
使用用途
小物作り体験 1,000円/パーツ 約15分 8種類
・ブローチ
・ピアス
・イヤリング
・キーホルダー
・ストラップ
・ネクタイピン
・カフスボタン
・帯留め
携帯うちわ作り体験 1,000円/個 約30分 縦29×横17㎝、厚さ1.5㎝
コースター作り体験 1,500円/個 約20分 直径8.3㎝、厚さ0.8㎝
こま作り体験 1,500円/個 約30分 2種類
・手回し式
・紐回し式
うちわ作り体験 2,000円/個 約30分 縦37×横24㎝
貼り絵作り体験 2,000円~ 約45分 4種類
・お雛様
・五月人形
・織姫
・かたつむり
風鈴作り体験 2,500円/個 約45分 縦9㎝、直径7㎝
万華鏡作り体験 2,500円/個 約60分 縦20㎝、直径4㎝
扇子作り体験 2,500円/個 約30分 半径27㎝
リース作り体験 3,000円/個 約60分 厚さ4㎝

塩沢紬だけでなく本塩沢や夏塩沢、真綿などを使い、世界にひとつだけのオリジナル作品が作れます。
伝統工芸品に触れ、身近に感じられる絶好の機会です。旅の思い出にぜひ作ってみてください。

▼詳細はこちら

まとめ

落ち着いた色合いと、職人の丁寧な仕事による細かな模様が魅力の塩沢紬。1200年以上前から新潟県南魚沼市で生産されてきた麻織物・越後上布の技術を絹に応用して誕生しました。

生糸のみを使用する本塩沢とは異なり、塩沢紬には本来廃棄されていた繭から紡いだ玉糸や
真綿手紡糸を使用しています。
紬にゴワゴワしたイメージを持っていた方は、さらりとした触り心地と柔らかさに驚きますよ。

反物や着物などは気軽に購入できなくても、体験なら伝統工芸品に触れるだけでなく、旅の思い出として持ち帰りもできるのでおすすめです。

時間と手間をかけ、現在まで受け継がれてきた美しい塩沢紬に袖を通し、伝統と職人の技術を全身で感じてみてくださいね。