子供の入学式・卒業式に着物を着てもいい?

子供の入学式・卒業式に着物を着てもいい?

一生のうちに何度か訪れる、大切なセレモニー。
特に、子供の成長の節目となる入学式や卒業式は、ぜひとも参加したいものです。

ただ、その際に多い悩みが、ずばり「何を着ていくか」ということ。
せっかくの機会だから着物を着て参加したい、でも着物で行っていいのかわからない……そういった思いを抱えている方も多いことでしょう。

今回は、子供の入学式や卒業式に着物を着ていく時のポイントや、着物選びの注意点などをご紹介いたします!
ぜひ大切なイベントに向けて、素敵な着姿を叶えるご参考になさってください。

子供の式典にNGな着物

入卒のイベントに相応しくない着物とは何でしょうか?
フォーマルシーンでは着用を避けるべき着物と、その理由について解説していきます。

派手すぎるデザインの着物

特別なセレモニーのある日には、「せっかくの晴れの日だから、思いっきり着飾りたい!」という気持ちになりがちですが、入学式・卒業式は子供が主役。

家族はあくまで参観する立場であるため、あまりに奇抜な色柄や、パーティーシーンのように派手な着物は避けましょう。

紋が入っていたり、柄付けが訪問着のようになっていても、デザインによってはカジュアルに見えてしまうので、注意が必要です。

季節外れの着物

入学式や卒業式は春、特に3月と4月に行われるのが一般的です。

季節としては袷の時期となるため、単衣の着物や夏物、浴衣の着用は避けましょう。

万が一暑さが予想される場合は、肌着や襦袢を薄い素材のものに変えたり、夏用の帯枕や帯板を使用したりと、見えない部分で涼しくなる工夫をしてみましょう。

カジュアルな紬や木綿の着物

式典での服装といえば、礼装、すなわちフォーマルスタイルです。
着物を着る場合も、格式に合ったものを選びましょう。

小紋や紬などの街着や、ウール、木綿といったカジュアルな素材の着物は避けるのがマナーです。
いくら高価なものだとしても、小紋は小紋、紬は紬。格式が上がることはありません。

式典では、主役である子供を立てるため、マナーに沿った着物選びが必須です。
趣味の着物は、それに相応しいTPOで着用しましょう。

入学式・卒業式におすすめの着物

現代では、入学式や卒業式で和装を見ることも少なくなってきましたが、四季を彩る着物姿は、周りの空気も華やかにする力があります。

とはいえ、入卒の式典の主役はあくまでも子供。
参列する家族の着物姿が豪華すぎて、周囲が霞んでしまうのはNGです。

春らしく、淡い色合いで落ち着いた柄の着物を選ぶのがおすすめです。

訪問着

訪問着は、着物の縫い目をまたいで一続きの柄(絵羽柄)が描かれたものを指します。
留袖と違って胸元にも柄があり、色やデザインもさまざまで、フォーマルシーンにぴったりの着物です。
紋なしの訪問着は、略礼装として入学式や卒業式、七五三などのほか、結婚式やパーティー、観劇など、畏まった場からちょっとしたおでかけまで幅広く着用できるため、一着持っておくと非常に重宝します。

訪問着の中でも、特に古典柄、吉祥文様などのおめでたい柄は式典の雰囲気を壊さず、上品に華を添えてくれるのでおすすめです。

枝や葉が描かれた花文様の場合は、花の咲く季節によっては時期外れとなってしまうため注意しましょう。
桜などの春の花や、抽象化された花、梅や菊などの吉祥文様に含まれる花であれば問題ありません。抽象的な花模様の代表である「辻が花」の模様なども、はんなりとした魅力があって素敵です。

また、あまりに派手な色や大きな柄が入っているものよりは、落ち着いた色柄のものを選ぶほうが、入卒の場にはよりふさわしいです。

付け下げ

付け下げは訪問着のように縫い目をまたいで柄が繋がっているわけではなく、訪問着よりも柄が落ち着いているものが多いです。

こちらも訪問着の場合と同様、派手すぎないデザインのものを選ぶと良いでしょう。

同じ刺繍の柄入りの着物でも、真っ白な地の着物は派手に見えがちです。
淡い色や、濃く深い色の着物を選ぶと、より場にしっくりと馴染みやすいです。

深い色の着物を着る場合は、帯や小物で春らしい色を足すと、見た目の印象が重くなりすぎません。

色無地

色無地は、紋の数によって格式が変わる着物です。
一つ紋、三つ紋、五つ紋…と、紋の数が増えるほど格式が高くなっていきます。
また、生地の上から紋を刺繍した縫い紋よりも、白く染め抜かれた染め抜き紋のほうが格が高くなります。
入卒の式典であれば、五つ紋とまではいかずとも、一つでも紋が入っている着物のほうが品格が上がります。

また、色無地は文字通り無地の着物であるため、帯によって大きく印象が変わります。
カジュアルな雰囲気になりすぎないよう、上品なデザインの帯を選びましょう。

江戸小紋

江戸小紋は、遠目で見ると無地に見える、細かな柄が全体に入った着物です。

特に、「三役」「五役」と呼ばれる柄のものは、紋を入れれば訪問着と同格の着物としてフォーマルな場面で活用できます。
「三役」は行儀・鮫・角通し、「五役」はそれに万筋・大小霰を足したものを指します。
いずれも、柄が細かければ細かいほど品格が高いとされています。

入学式や卒業式であれば五役以外の柄でも問題ありませんが、できれば一つ紋の入っている、細かな柄の江戸小紋を選びましょう。

入学式・卒業式の着物コーディネートに必要なもの

着物を選ぶことができたら、次は合わせる帯や小物を選びましょう。

基本的には着物の場合と同じく、控えめで落ち着いたデザインのものが好ましいです。
ただし、寿ぎの意味合いは忘れないよう、金銀がさりげなく入った礼装用の小物を選ぶのがおすすめです。

袋帯

帯は名古屋帯や半幅帯ではなく、二重太鼓ができる袋帯が望ましいです。

特に金糸や銀糸の入ったものがおすすめですが、留袖に合わせるような袋帯の場合、重厚感がありすぎて場にそぐわないこともあります。

着物と同じく、控えめで落ち着いたデザインの帯を選べば間違いありません。

半衿・重ね衿

半衿は、白地のものを選びましょう。

無地か、もしくは柄が欲しい場合、地紋入りの半衿がおすすめです。
控えめであれば刺繍入りの半衿も素敵ですが、あくまでも控えめなものを選ぶこと。
着物の礼装の基本は、無地の白半衿です。

重ね衿は、着物の地色と合わせると上品で落ち着いた印象になります。

帯締め・帯揚げ

金糸や銀糸の入った、淡い色味のものがおすすめです。

色選びに迷った場合は、着物の柄から一色取るとまとまりがよくなります。
帯に近い色を選ぶとふんわり優しい印象に、違う色を選ぶと差し色が際立つ組み合わせになります。
キリッと雰囲気を引き締めたい場合は、あえて帯とは違う色のものを選んでも良いでしょう。

礼装用の帯揚げと帯締めはセットで売られているものも多く、統一感のあるコーディネートができます。

草履・バッグ

草履とバッグも、フォーマル向けにセットで販売されているものが多数あります。
金銀の入ったデザインで、かつギラギラとしすぎない落ち着いた印象のものを選びましょう。

また、子どもの式典といえば荷物が増えるのがつきもの。
大切な証書などを持ち帰るために、サブバッグも忘れずに持って行くことをおすすめします。
サブバッグは、シンプルで上品なものを一つ持っておくと、式典だけでなくセミフォーマルな場面やちょっとしたおでかけにも便利です。

髪型・髪飾り

入学式・卒業式においてのフォーマル着物の場合、髪飾りはなくても問題ありません。

もしヘアアクセサリーを着用する場合は、パールのついたコームや簪など、控えめな装いでまとめましょう。
ヘアスタイルについては、髪の長い方はアップスタイルで、すっきりと仕上げるのがおすすめです。
ショートヘアの方は、前髪を編み込んだり、あるいは左右に流してタイトにまとめるのも素敵です。

シニヨンキャップなど、着物に似合いやすい和装用ウィッグもあるので、髪型に悩んでしまうという方やヘアアレンジが苦手な方は、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

羽織・コート

着物の上に羽織るコートや羽織は、防寒よりも塵除けなど、帯や着物を守る意味合いのほうが強いです。
特に春先は塵除けとしての意味が強いので、しっかりとした素材よりも透け感のある紋紗やオーガンジーなど、薄物のコートが素敵です。

羽織は屋内でも着用したままのことが多いですが、コートは基本的に屋内に入る際に脱ぐのがマナーとされています。
よその家に上がる際に、外の塵を持ち込まないようにする…というのがその理由です。

現代では、式典の際に羽織るものといえば、着物衿の道行コートが主流です。
羽織ものの格は衿の形で決まってくるため、羽織や道中着はこれに含まれません。
昔、礼装の着物に黒羽織をあわせるスタイルが流行しましたが、近年ではあまり見かけなくなってきました。

ただ、伝統も形を変えていくものです。

洋服の礼装といえば本来はドレスですが、近年ではパンツスーツなどを着用することも珍しくありません。
羽織は礼装向きではないという歴史的背景はあるものの、それを知識として踏まえた上で、羽織を着てみるという手もあります。

特に黒の絵羽織は、洋装でいうスーツのジャケットのような感覚で合わせることができます。
ただし、昔の黒羽織は丈が短いものが多く、流行にそぐわない場合があるため注意しましょう。

入学式・卒業式で着物を着用する際の注意点

普段、着物を着慣れていない方は特に、和装での立ち居振る舞いや持ち物にも不安が生じることでしょう。
式典の場で気をつけるべきポイントや、持っておくと便利なアイテムについてご紹介します。

所作・姿勢・直しなど着物に慣れておこう

式典などの畏まった場では、着物での所作も気になるところです。

着付けを当日お店に頼む場合でも、できれば早いうちから和装に慣れておくことが大切です。
自分で着付けの順番やポイントを把握していると、着崩れたときの対処法もわかり、安心して式典に臨むことができます。
普段着の着物や浴衣でもいいので、たまに和服を着る機会を作っておけば、歩き方や所作、姿勢などが身につきやすくなります。

まずは、美しい立ち姿を意識しましょう。
背筋を伸ばして胸を張り、あごは少し引きます。足は内股気味に、草履の先がハの字になるように立つと美しく見えます。
歩く時も背筋はまっすぐ、膝頭が軽く当たるよう少し内股で。着物の裾がはだけないよう、歩幅は小さめにしましょう。右手で上前をそっと押さえて歩くと、裾がはだけるのを防ぎつつ、しっとりとした歩き姿になります。

椅子に座る際は、帯の形を崩さないよう、背筋を伸ばして浅く腰掛けましょう。
畳に座る場合は、着物の上前を少し押さえたり、裾を整えたりして気を遣う必要があります。立つ時は、まずかかとを立て、かかとにお尻をのせてから立ち上がります。上前を押さえることを忘れずに。

また、物を取る時などは片方の手で袂を押さえるようにすると、上品な所作になります。袖を汚したり、何かを引っ掛けたりというアクシデントも防ぐことができるので、ぜひ意識しましょう。

ピアスやアクセサリーの選び方に注意しよう

礼装において、和装にアクセサリーは基本的にNGとされていますが、上品に見える範囲でさりげない組み合わせを心掛ければ問題ありません。

腕周りにアクセサリーがあると、着物の袖口に引っ掛けて傷める可能性があるため、ブレスレット類は避けましょう。
時計は、携帯やスマートフォンで代用するか、懐中時計がおすすめです。
また、リングのように着けられる「指輪時計」などもあるため、頻繁に時間を確認する必要がある場合は活用してみてもいいかもしれません。

また、ピアスをつける際は、小ぶりなパールのものがおすすめです。大きくて目立つデザインや、揺れるタイプのピアスは避けましょう。

かかとの高いスリッパを準備しよう

着物は足首が出ないよう、裾が床ぎりぎりになるように着付けるため、室内で普通のスリッパに履き替えると裾を踏んでしまうことがあります。

草履を脱ぐ必要がある際は、かかとが高いスリッパを持参するのがおすすめです。

着付けクリップを持ち歩こう

自分で着付けができる方や、ご家族が着物を着る方の場合は着付けクリップが自宅にある方も多いことでしょう。
持っていない方も、出掛ける前に着付けクリップを用意しておくと何かと便利です。

お手洗いの際に、着物の裾を持ち上げて帯に留めておいたり、袖を留めておいたりできます。
また、食事の時にハンカチを襟元に留めておくとナプキン代わりになります。

着崩れが起こった際の応急処置にも、着付けクリップが一つあれば対応できます。

入学式・卒業式の着物に関するQ&A

最後に、式典での着物の扱いの疑問についてお答えします。

Q.小さい子供を連れて参加する場合、注意することは?

子供を抱っこした際に着物に汚れがつく可能性があります。
正絹であればガード加工を掛けておき、あるいは化繊など洗える素材の着物や帯にしておくことをおすすめします。

もし汚れてしまった場合は、すぐにクリーニングに出しましょう。

また、帯留を蹴ってしまったり、引っ搔いて怪我をしてしまう恐れがあるため、小さなお子様の場合は帯留をしないほうが安全です。

Q.雨予報で着物の汚れが心配。洋装に変えるべき?

雨だからといって、着物の着用自体を諦める必要はありません。
雨コートや草履カバーの準備をして、着物や帯、草履が濡れない工夫をしましょう。

万が一汚れた場合は、すぐにクリーニングへ出すようにしましょう。

Q.レンタル着物ではみっともない?

きちんとサイズの確認をして、自身のサイズに合っており、格式やコーディネートが合っていればまったく問題ありません。

話の流れで、レンタルか自前かという話題を出す親御さんもいるかもしれませんが、気にすることはありません。
大切なのは、着物が似合っているか、その場に相応しい装いかということだけです。

Q.華やかな帯結びをしたいけど、おすすめは?

基本的に、帯結びは「二重太鼓」一択です。
華やかな帯結びは振袖や花嫁衣裳、カジュアル着物や浴衣に合わせるという認識が一般的です。

どうしても帯結びを華やかにしたい場合は、趣味の範囲で楽しみましょう。
小紋や紬など普段の着物に、角出しや銀座結びなどの帯結びを合わせても楽しいですよ。

Q.入学式と卒業式に同じ着物ではいけないの?

同じ着物でも問題ありません。

入学式も卒業式も「子供の式典」なので、それにふさわしいコーディネートであれば同じものでOKです。

ただ、せっかくなので小さな部分に変化をつけてみると楽しいかもしれません。
帯だけを変えてみたり、時期に合わせて小物の色を若葉のようなグリーンから桜色に変えてみたりすれば、コーディネートの幅も広がり、気持ちもぐっと華やぎます。

まとめ

大切なお子様の成長の節目である、入学式や卒業式。
子供にとっても保護者にとっても、一生に一度の思い出になる素敵なイベントです。
ぜひいい思い出となるよう、事前準備を怠らずに当日を迎えましょう。

きちんとこだわって選んだ着物姿で過ごせば、晴れの日のおめでたさをいっそう彩ることができます。
また、保護者同士で着物好きという共通点が見つかれば、仲が深まるきっかけになるかもしれません。

ただしお子様によっては、成長期になるとお母様の華やかな着物姿を恥ずかしがることもあります。照れ隠しもあるかと思われますが、お子様の気持ちを尊重するため、事前に相談するのもいいかもしれませんね。