洋服にTPOがあるように着物にも場や状況に応じた装いがあります。普段着や訪問の際に着る着物、冠婚葬祭で着るべき着物など種類は様々。
特に悲しみの場面で着る着物の喪服は年々着用する方も減り、いざという時にどうすればよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、着物の喪服や着用する際の基礎知識について徹底解説していきます。
この記事の目次
喪服とは?喪服の基礎知識
悲しみの場面は突然やってきます。結婚式などのお祝い事はスケジュールが決まっているので準備がしやすいですが、葬儀の場合はそうは言っていられませんよね。
近年では洋服の喪服を着る方は増えていますが、着物を着ている方もいらっしゃいます。まずは喪服の基礎知識とどんな人着るのかをチェックしていきましょう。
喪服とは
喪服は通夜や告別式など葬儀の際に着るものであることは広く知れ渡っていますね。本来は遺族が「喪に服している」という意味で着用されるもので、故人や参列者に礼を尽くす意味があります。特に着物の喪服は日本女性として最も格式が高い装いと言われています。
だれのお葬式で着る?喪服の選び方
着物の喪服はもともと誰が着てもよいもの。ですが、近年では親族、身内の方、喪主が着るケースが多いようです。通夜、告別式では喪主や親族の方が喪服を着用しているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
そういった場面から考えると、親族の方が着るものと思われがち。ですが、参列者が着物の喪服を着ても礼に反することはありません。
喪服の種類
喪服は正式礼装と略式礼装の2種類に分けられます。色は黒が主流ですが、地方によっては白の場合があり、色喪服が着用可能なるケースもあります。
まずは正式礼装と略式礼装の喪服の違いを見ていきましょう。
【正式礼装】
素材:羽二重、縮緬の黒生地
着物:五つ紋のついた黒の喪服
小物:黒の帯や小物
その他:親族は通夜・告別式共に着用、法事は3回忌まで
【略式礼装】
素材:羽二重、縮緬の黒生地他
着物:五つ紋紋のついた黒の喪服
紋付きで地味な色の色無地、江戸小紋
小物:黒の帯や小物
その他:参列者は通夜・告別式共に着用可能
3回忌以降は親族も着用可
最近では簡略化が進み、正式な喪服は持っていても略式の喪服を持っている方は減っているようです。
また、故人との関係や弔事の内容、場面によっては色喪服での参列が望ましい場合もあります。色喪服としておすすめの色はグレーや藍色、暗めの紫などのダークな色目。素材は光沢感のない無地の縮緬が無難。生地に文様が入っている場合は流水など 祝いの文様は避けましょう。さらに色喪服にも紋が入っていると格があがります。
流水文様:数本の平行線により、流水をかたどった模様を流水文といいます。水の流れるさまを表したもので、Sの字状の曲がりくねった線で表されています。
季節のよっての違い
喪服にも季節によって着用できる素材に違いがあります。素材の違いをチェックしていきましょう。
【季節による装いの違い】
月 | ||
1~5月 | 袷(あわせ) | 胴裏・袖裏・裾回しなどに裏地を付ける |
6月 | 単衣(ひとえ) | 裏地はすべて除く |
7~8月 | 絽(ろ) | 薄物(うすもの) |
9月 | 単衣(ひとえ) | 裏地はすべて除く |
10~12月 | 袷(あわせ) | 胴裏・袖裏・裾回しなどに裏地を付ける |
上記のように喪服でも季節によって着用する素材が変わって来るので注意が必要です。また7~8月に着用する夏物の場合は帯や小物も夏用でコーディネイトしましょう。
喪服の家紋
前述で「家紋付きの喪服」という言葉が出てきました。家紋にも数や種類によって意味や着用場面が変わってきます。喪服についている家紋について解説していきます。
家紋の種類
喪服には必ず「家紋」が入っています。家紋とは各家で定めている、家のしるしのこと。図柄は名字にちなんだもの、家の歴史的事跡を記念するもの、信仰にちなんだものなど様々な種類があります。
家紋の種類は下記の通りです。
・実家の家紋
・嫁ぎ先の家紋
・女紋
女紋は関西を始め、西日本で多く見られる風習です。
女紋とは:女性が嫁ぎ先の紋ではなく、実家の家紋を用いること。関西に多い習慣のようです。別の意味では母譲りの紋をさしたり、代々続く旧家などで、女性だけが使う紋のことを指します。
嫁ぎ先の家が家紋を気にしていなければ、実家の紋でも問題ないとされています。家紋の入れ方は大きく分けると日向紋、陰紋、縫い紋の3種類があります。
【家紋のタイプ】
家紋のタイプ | 日向紋 | 陰紋 | 縫い紋 |
方法 | 家紋そのものを白く染め抜いて付ける | 家紋の輪郭を白く染め抜いて付ける | 家紋を刺しゅうとして縫い付ける |
正式な喪服は家紋が日向紋で、数は5つとされています。色喪服の場合は家紋の種類や数に決まりごとはなく、気にしなくてもよいようです。
家紋の数
家紋の種類についておわかりいただけたかと思います。気になるのは家紋の数ではないでしょうか。着物についている家紋の数は、五つ紋、三つ紋、一つ紋の3種類があります。
家紋は五つ紋が最も格式高い正式なものとなっており、喪服も五つ紋が正式なものと前述でも解説しています。三つ紋、一つ紋は略式礼装とされています。同じ略式礼装であっても三つ紋の方が着物の「格」が上なので、着用する際は注意しましょう。
家紋の位置は下記の通りです。
家紋の数 | 家紋がついている場所 |
五つ紋 | 左右の胸、両袖の背面、背筋 |
三つ紋 | 背筋、両袖の背面 |
一つ紋 | 背筋 |
喪服でも家紋の数によって正式か略式かに分かれるので、葬儀の場合でもTPOをより細分化することで故人や参列者に対して礼を尽くすことにつながります。
レンタルの場合の家紋
ここまでは自宅に喪服があるケースを紹介してきました。近年では洋装化がより進み、
着物の喪服を持っていない方も増えています。また準備が間に合わず、レンタルの喪服で済ませる方も多くいらっしゃいます。
その際の家紋の扱いが気になるところではないでしょうか。自分の家の家紋がわからないケースもありますよね。レンタルの場合は家紋がわからない、知らない方のために誰でも使える「通紋」を使っています。
「通紋」とは:誰でも利用できる紋。代用的要素で使われることが多い紋。
通紋は「桐」、「木瓜(もっこう)」、「梅鉢」などが多く利用されています。着物は黒無地で家紋のシールを張り付けるタイプのレンタル喪服もあります。
レンタルはすぐに調達できるので便利ではありますが、場合によっては自分に合わないサイズを着用しなくてはならないこともあります。その点に注意しましょう。
喪服の着用で必要なもの
喪服に着いている家紋の種類、意味や数による格の違いはご理解いただけたかと思います。ここからは喪服着用で必要なものを紹介していきます。
必要な着付け小物
喪服を着用する際にはまずは下記のものがあるか、チェックしてみましょう。
【必要な喪服と小物】
・喪服の着物
・黒共名古屋帯
・草履(黒)
・バッグ(黒)
次に小物が揃っているかを確認してみましょう。
【着付けに必要なもの・小物】
・肌襦袢
・裾除け
・長襦袢(白)
・半襟(白)
・足袋(白)
・帯揚げ(黒)
・帯締め(黒)
・和装用肌着
・帯枕(黒)
・前板(黒)
・伊達締め(2本)
・腰ひも(3~5本)
帯枕も黒が望ましいですが、色が着いていても問題にはならないでしょう。さらに着付けをスムーズにするコーリンベルト、ウエストベルトがあると便利です。
着付け小物がない場合の対処法
悲しみの場面は時を選んではくれません。喪服はあっても小物が足りないといったケースも充分に考えられます。そういった場合は身の回りにあるもので臨機応変に対応しましょう。
肌襦袢がない場合は襟の開きが大きいTシャツ、またはインナーを肌襦袢の代わりに利用します。裾除けがない場合はステテコやペチコートを代用。どちらもない場合はワンピースタイプの肌着を代わりに使うなど、工夫してみましょう。
帯や小物の選び方
喪服に合わせる帯や小物は黒で統一します。ただし、地方によっては白の場合もあります。その土地の習慣に合わせた色を選択しましょう。
帯は黒一色の名古屋帯がおすすめ。喪服に合わせる帯の結び方は一重太鼓。結び方は一重太鼓なのは、「悲しみが重ならないように」という意味が込められています。結び方にも悲しみを示す意味や理由があるんですね。
素材は緞子(どんす)、繻子(しゅす)、織り方は法相華、有職紋様などの紋織り。
*紋織りとは:別名、ジャガード織物ともいう。様々な色糸を使用して複雑な紋柄を折り出した織物の総称。
帯締めも色は黒を。平打ちでも丸くげでもOK。
また色喪服を着用する場合は色喪服に合った色喪帯を選択します。おすすめの色は
紺や灰色の帯。ベーシックな色の無地の名古屋帯があると便利でしょう。
喪服の着付けのポイント
ここからは喪服を着つけていく際に注意していくポイントか解説しています。紋の位置や半襟や衣紋、帯の位置など、控えめな装いを意識することが重要です。早速チェックしていきましょう。
着付けの手順
まずは着付けの手順を見ていきましょう。着付けの仕方は他の着物とそう変わりはありません。
1.足袋をはく
2.肌襦袢、裾除けを付ける
3.体系を補正する(茶筒をイメージする)
4.長襦袢を着る
5.喪服を着る
6.伊達締めをする
7.帯を締める
8.帯締めをする
喪服の種類によって着付け方が違う場合がありますが、たいていはこの流れで着付けていきます。
さらに次の点に注意します。
・紋の位置ズレがないか
・紋の高さは左右同じか
・5つ紋の喪服で袖の抱き紋は袖の中心にあるか
・背中の紋は背中の中心にあり、たるんでいないか
・おはしょりは短めにしているか
こういった点に注意します。場合によって帯締めはコーリンベルトで調整した方がよい場合もあります。着付ける際に調整してみましょう。
控えめな装いを意識する
着物の喪服はつつましやかに着付けすることがポイントです。肌の露出は極力控え、
次の3点に気を付けて着用しましょう。
・衣紋、裾を長くしすぎない
・衣紋 指3本ほど抜く程度
・半襟は1~1.5cmほど出す
衣紋の抜きすぎや衿も開き具合に注意が必要です。裾線は床すれすれに、またタイトにならないよう意識しましょう。
帯の位置に注意
喪服の帯の結び方はお太鼓結び。先にお話しした通り、「悲しみが重ならないように」
という願いが込められています。
着付けのポイントとして、帯の位置や結び方にも気を付けましょう。お太鼓は控えめにし、位置は少し下。お太鼓のたれは短めにすることもポイントです。
帯締めは下向きに
帯締め、帯揚げの結び方でも喪に服したときの気持ちの示し方があります。着付けた時に次の点をチェックしましょう。
【帯締め、帯揚げのチェックポイント】
・帯締めの位置は帯幅の中心よりやや下で結ぶ
・帯締めは左右ともに下に向ける
・帯揚げはあまり外に出さないよう意識する
帯の結び位置同様、帯締めの位置や結び方にも注意しましょう。また帯揚げも外に出しすぎないよう気を配る必要があります。
髪型、メイクのポイント
着物の喪服に合わせた髪型やメイクも極力ひかえめを意識するのがポイント。
葬儀の際にふさわしい髪型は下記の通りです。
髪型 | |
ショートヘア | 特になし |
ボブ、セミロング | 耳にかける、ピンなどで留める |
ロング | 低い位置でアップにまとめる |
髪型は顔回りをすっきり見せるのがポイント。髪の長さに合わせて髪型も整えます。
また喪服を着用した際のメイクは薄化粧が原則。ラメやグロスなど光沢感がある華やかなものは避けましょう。薄い色の口紅を付けるのは問題ありません。髪型やメイクも喪服に合わせた装いをするよう心掛けましょう。
喪服のお手入れ方法
着用した喪服のお手入れの方法が気なるところ。レンタルはそのままは返却すればよいのですが、自分の持ち物だったら大切にしたいですよね。ましてや代々から受け継がれてきた喪服であれば、尚のこと大切にしたいものです。ここからは喪服のお手入れ方法について解説しています。
喪服のお手入れの手順
喪服のお手入れで重要なのは陰干しをして水分を飛ばす点。1~2日、夜間を除いてよく晴れた日に陰干しします。
陰干しする理由は直射日光下だと着物そのものが傷んでしまうため。汗をかく季節に着用していなくても、着物には汗などの水分が付着している可能性があります。水分をきちんと飛ばすことで、保管した際のカビなどの発生を抑えることが可能です。
片付ける際にシミがないかもチェックしましょう。油性のシミであれば、家庭でもできます。が、シミの成分がどんなものなのか、わからないことが多いですよね。原因不明のシミはプロにお任せしましょう。
喪服のクリーニング
着物についてしまったシミや汚れは一般の家庭では取れにくいもの。喪服は絹であることが多いので、取り扱いがむずかしいことが理由です。シミの成分を考えずに、シミ取りをしてしまうと消せるシミも消せなくなる可能性があります。
迷った時はプロにお願いすることも視野に入れてきましょう。半年以上着用予定がない場合もクリーニングに出します。
喪服のクリーニングの相場は7,000~8,000円と言われています。着物の素材や
単衣か袷によっても変わってきますが、価格帯もチェックしておくと便利です。
喪服の保存方法
陰干しやクリーニングが完了した喪服はきれいにたたみ、たとう紙に包んで保管します。理想は桐のタンス、もしくは木製のタンスに保管ですが、なかなかそうも言っていられないですよね。
桐や木製のタンスがない場合はプラスチックの衣装ケースに入れて保管しましょう。
ただし、たくさんの着物を収納しすぎない、桐や木製のタンスと比べて湿度が高いので、お手入れは早めにすることを忘れずに。
防虫剤は「着物用」を使いましょう。
お手入れの際のポイント
着物の喪服を着用する場面はそれほどないかもしれません。が、喪服も大切に取り扱いたいですよね。喪服のお手入れや保管する際に注意すべき点は次の通りです。
【お手入れ・保管する際のポイント】
・着物と小物は分けて収納する
・半年に一度は無虫干しをする
・防虫剤は定期的に交換する
上記の点を頭に入れて、喪服も定期的にお手入れし、保管しましょう。
保管する際には備長炭シートをつかうのもおすすめ。備長炭には下記のようなメリットがあります。
・防カビ作用
・防虫・抗菌作用
・消臭作用
備長炭シートは着物の保管における問題のすべて解決。また効果は半永久的と言われています。定期的に風を通すなどの作業は必要にはなりますが、こういったアイテムも取り入れて、お手入れや保管の手間を省くのもアリですね。
まとめ
「着物の喪服、着用する際のおさえておきたい基礎知識、徹底解説」では喪服を着るシーンや意味、種類や紋について、着用時のポイントやお手入れの方法について解説してきました。
喪服は故人や参列者に礼を示すものであり、正式礼装・略式礼装に分けることができます。また黒喪服だけでなく白喪服の地方があることや色無地でも対応できる場面があること、紋の数でも正式・略式に分けられています。
着用する際は控えめに、衣紋の抜き方、半襟を見せすぎない、裾の長さは床スレスレに、帯の位置は下にといった点に注意しましょう。
保管前は必ず陰干し、もしくは着物クリーニングへ。お手入れは半年に1回程度虫干しをするなどしましょう。
着物の喪服を着用するシーンはそれほど多くはないと考えられますが、いざという時に慌てないよう、備えておきたいものです。
着物の喪服をお持ちの方は悲しみの場面が来た際にスムーズに着用できるよう、
正しく大切に保管しておきましょう。