着物の種類

2023.9.28

吉祥文様とは

吉祥文様とは

吉祥文様(きっしょうもんよう)とは、繁栄や長寿といったおめでたい意味を表し、縁起が良いとされる文様の総称です。

現代の日本においても重宝されている吉祥文様は、お祝いの品や日用品、着物や帯、工芸品や調度品などにあしらわれてきました。また、お祝い以外に厄除けや御守りとしての意味もあり、文様の種類は数十種類にも上ります。

では、吉祥文様のルーツや、それぞれの文様の持つ意味にはどういった物語が隠されているのでしょうか?

今回は、身近なようで意外と知られていない、吉祥文様のあれこれについて解説していきます。

吉祥文様の歴史

まずは、吉祥文様が日本で用いられるようになるまでの歴史について紐解いていきましょう。

吉祥文様は世界各地に存在しますが、アジア圏、特に東アジアにおいて愛用されているものが多くあります。国によって文様の持つ意味には違いがあり、ある国では吉祥文様とされているモチーフが、別の国では不吉なものであると言われているという例も少なくありません。

では、日本における吉祥文様はどこから生まれたものなのでしょうか?

文様の始まりは中国

日本で吉祥文様とされている文様の多くは、中国から日本へと渡ったものです。
吉祥文様と関係の深い正倉院文様や有職文様は古代の大陸文化がルーツであり、それらはシルクロードを経由して中国に伝わり、やがて日本へともたらされました。

そのため、吉祥文様には中国の文化が色濃く残っているものが多く存在します。

日本発祥の図案

平安時代以降、遣唐使が廃止されたことにより、中国風の文様は次第にアレンジを加えられ、オリジナリティのある日本風の文様が貴族を中心に定着していきました。
扇文様や熨斗文様などもその一つです。

大陸文化や唐風文化が勢力を弱め、国風文化が盛んになると共に、日本発祥の文様も次々と生まれ、独自の発展を遂げていきました。

武家の図案

さらに鎌倉時代においては、平安貴族の間で根付いた文様とは異なる図案が、武家の間で考案されるようになりました。特に鎌倉中期以降、戦場において自己を顕示するための家紋が重宝されるようになり、さまざまな文様のバリエーションが生まれました。
貴族文化から外れた文様の数々は、江戸時代になると庶民の間にも多く広まっていきます。

家紋に用いられた文様は、一族を象徴するモチーフとなるため、願いの込められた吉祥文様であることがほとんどです。武田氏の家紋として有名な菱文様(武田菱)は、厄除けや子孫繁栄といった意味を持っています。

中国発祥の吉祥文様

龍は、古くから中国において崇拝の対象とされていた空想上の動物です。

天において四つの方角を守る神、四神(しじん)の一つとして数えられ、東の方角を守る青龍と呼ばれることもあります。四神には他に西を守る白虎、北は玄武、南は朱雀(鳳凰)、中央に麒麟がいるとされています。
あるいは、この世の動物の頂点に君臨する存在、瑞獣の四霊の一つであるとも言われています。四霊は四瑞(しずい)とも呼び、龍の他に鳳凰、麒麟(きりん)、亀が居り、吉兆を知らせる有難い霊獣として崇められました。

龍は、西洋のドラゴンと同一視されることがありますが、実際にはまったく異なる存在であるとも言えます。
視覚的な違いを挙げると、龍は一般的に翼がなく、角が生えていますが、ドラゴンは翼を持ち、角がない姿で描かれることが多いです。
また、西洋においてドラゴンは勇者に退治される悪者であり恐怖の対象という側面が大きいですが、東洋では龍を崇拝し、聖なる存在として見る傾向にあります。

龍は土の中や水中を棲み家とし、天に昇って飛び回り雲を呼ぶことで、雨や雷、風を自在に司るとされています。そのため、恵みの雨をもたらす水神として信仰を集め、また竜巻や稲妻を操るとして恐れられていました。現在でも、神社や農村部などにおいて水神や龍神として龍の像を祀ることが多いのはこのためです。

龍の姿は、九種の動物を組み合わせて描かれています。
龍の見た目を表現する「三停九似」という言葉がありますが、首から肩まで、方から腰まで、腰から尾までの長さが均一、かつ、九つの動物をモチーフとした姿であるという意味を示しています。
九種の内訳として、角部分は鹿、頭部は駱駝(らくだ)、目は兎、耳は牛、長い胴体は蛇、八十一枚ある硬い鱗(うろこ)は鯉、手の部分は虎、爪は鷹、腹は蜃(しん)に似せているとされています。蜃とは、蜃気楼の語源ともいわれる巨大な蛤(はまぐり)を意味しており、九つの中でこれだけが実在しない生物です。

殷、周時代から現れたとされる龍ですが、時代と共にそのイメージも変化を遂げてきました。描かれる姿形は徐々に変わっていき、写実的な龍の文様が日本へと伝わったのは飛鳥時代であるとも考えられています。

吉祥文様としての龍は、恵みの雨を降らせる水神であることから、しばしば瑞雲や波と共に描かれます。瑞雲や波は「永遠」「長寿」といった由来も持ち、縁起物としての意味合いを強める効果もあります。

さらに、龍は権力の象徴であるとも言われています。中国では五つの爪を持つ龍文様は王権のシンボルとされ、長く皇帝のみが着用できる柄行とされてきました。日本では身分の象徴という意味合いは薄く、大正時代以降は女性の着物にも龍文様が用いられるようになりました。

また、鯉が急流を登ると龍に進化することができるという中国の伝説から、龍は立身出世を示す吉祥文様でもあります。この言い伝えから、「登竜門」という言葉が生まれました。
龍が天高く昇っていく姿から「飛躍」の意味を表したり、単純に強く猛々しいイメージから男性向け、男児向けの文様としても重宝されてきた経緯があります。
龍は鳳凰とセットで描かれることも多いですが、龍を男性、鳳凰を女性の象徴として、夫婦円満を意味することもあるようです。

文様としての龍は、大きく分類すると「龍」「雨龍」の二種類があります。
「龍」は写実的な描き方、「雨龍」は単純化された描き方で表現されたものです。
龍文様には、頭と尾を繋げて円形に描いた丸龍、二匹の龍が向かい合う形の双龍(そうりょう)の他、角龍、雲龍、巻龍、升龍、窓枠龍文様などのバリエーションが存在します。

辰(たつ)として干支にも登場するため、現代でも幅広く活躍し、愛され続けている文様であると言えるでしょう。

鳳凰

鳳凰

鳳凰も龍と同じく、中国の伝説に登場する架空の生き物です。
優れた王が治める天下泰平の世に現れると言われ、翼を持つあらゆる動物の長であるとされています。

鳳凰は雄が「鳳」、雌が「凰」と言い表されます。
龍のように実在の動物がモチーフとされており、頭部は鶏、首は蛇、あごは燕(つばめ)、背中は亀、長い尾は孔雀に似ています。羽は五色に彩られており、やはり龍と同様に、時代によって姿形は変化していったと言われています。

鳳凰と似た存在として、西洋に伝わるフェニックスなどの不死鳥が挙げられます。
フェニックスは古代ローマ、ギリシャの文書に記述が残っており、さらに遡れば古代エジプトの神話に登場する鷲(わし)に似た霊鳥ベンヌにルーツを持っています。ベンヌの容姿は鳳凰とはかなり異なるようですが、フェニックスのもととなったのはペルシャ神話の「フマ」であるという説もあり、こちらは鳳凰と見た目の共通点が多い鳥です。
インド神話にも「ガルーダ」という霊鳥が登場しますが、そのビジュアルは人間に近く、鳳凰やフェニックスとは一線を画す存在のようです。

鳳凰は仙人の棲む山に生息するとされ、桐の木を住まいとして竹の実を食べ、その卵は不老長寿の妙薬となります。吉祥文様としては、子孫繁栄や不老長寿、鳳凰の名前が雌雄を表すことから夫婦円満、あるいは栄光や慶事をもたらすといった意味があります。

日本には飛鳥時代から奈良時代に鳳凰文様が伝わったとされています。瑞祥を表す柄行として多くの工芸品や衣服、調度品などに用いられ、格調高く高貴な文様として皇室でも重宝されました。
また、鳳凰文様は建築装飾としても採用されており、京都に建立された平等院鳳凰堂や金閣寺の屋根には、鳳凰をかたどった彫刻が飾られています。

鳳凰文様のバリエーションには、鳳凰を円形に表した丸鳳凰、二羽が向かい合った双鳳凰、有職文様としても代表的な桐竹鳳凰文などがあります。

華美かつ優雅な印象が強い鳳凰文様は、婚礼衣装や礼装に合わせる袋帯などにもよく見られます。

雲気

雲気

中国の伝説では龍が雲を呼ぶとされているため、雲には大きな力が宿っていると考えられてきました。
雲気とは、そういった雲の気配のことを意味し、おめでたいことが起こる前兆として瑞雲(ずいうん)という雲が現れると言われています。
瑞雲は、中国の神仙思想(しんせんしそう)をもとに考案された文様です、
神仙思想とは、古代中国における神や仙人に永遠の命を託した思想のことで、不老不死の仙人が棲む理想郷を空想したり、神仙に近付くための方法を模索したりといった考えを表しています。
瑞雲は別名を霊芝雲(れいしぐも)と言い、不死の象徴とされた茸(きのこ)=霊芝をかたどった雲のことを指します。
おめでたいことが起こる前兆として現れる雲を意味し、正倉院の宝物や名物裂の富田金襴(とみたきんらん)にも見られる柄行です。

雲気文様は唐時代の中国において流行し、飛鳥・奈良時代に日本へと伝わりました。仏教美術の文様として盛んに用いられた他、源氏雲や霞(かすみ)といった和風の蜘蛛文様へと発展を遂げていきます。
現在では雲取り文様などにその名残が見られ、振袖や留袖、袋帯といった礼装からカジュアルな着物まであらゆるシーンで活躍しています。

鶴

Beautiful graceful sandhill shadoof fly on light backdrop. Dark ink hand drawn picture logo in art retro print style. Closeup side view with space for text

中国において、鶴は千年生きるとされており、長寿の象徴であると言われてきました。
「鶴は千年、亀は万年」という有名な言葉の通りです。
おめでたいことが起きる前兆として現れる瑞鳥の一つに数えられており、人と交わらず、綺麗な水辺に棲むことから仙人の乗り物となる霊鳥とも言われています。また、その高い鳴き声は天と地を繋ぐともされています。

美しい純白の羽と気品のあるすらりとした姿が好まれ、さまざまな姿の鶴文様が描かれてきました。
翼を広げて飛び交う姿を表した飛鶴文、二羽の鶴を向かい合わせに描いた向鶴文、折り鶴をモチーフとした折り鶴文などがあります。同じく長寿を誇る松の文様とセットで描かれることも多いです。

また、つがいの鶴は夫婦円満や子孫繁栄を表すため、婚礼衣装などにも多く用いられています。

亀

鶴と共に、長寿の象徴として用いられている亀文様。
長く生きた亀は、人間の言葉を解するという言い伝えもあります。
神仙思想においては、亀は天を支える生き物であるとされており、仙人の棲む理想郷・蓬莱山は巨大な亀の背中に載せられて海に浮かんでいるとも言われています。
また、東西南北の方角を守る四神の一つ、玄武は亀に蛇が巻きついた姿をしており、中国において亀は神に近い扱いをされていることがわかります。

日本でも吉祥文様として重宝される亀文様ではありますが、霊獣のような権威ある存在ではなく、単に縁起物のモチーフとなっています。

亀文様の中には蓑亀(みのかめ)と呼ばれるものもあり、これは長く生きたために甲羅に海藻が生え、蓑のように長く尾を引いた姿を描いた文様です。海藻部分は金糸などで表現され、とても華やかで縁起の良い意匠です。

また、亀文様から派生した亀甲文様は幾何学的なモチーフとして活躍し、有職文様の一つにも数えられています。亀甲花菱や亀甲繋ぎ、毘沙門亀甲といったバリエーションも豊富です。

吉祥文様を意味別に解説

長寿

長寿の象徴として代表的な文様は、やはり「鶴亀文様」であると言えるでしょう。

特に長寿であるとされている丹頂鶴と葦亀は、併せて描くとその対照的な姿形が心愉しく、にぎやかな吉祥文様となります。

動物文様同士として相性の良い鶴亀文様は、同様に長寿繁栄を表す植物文様の松竹梅と共に、小袖文様のデザインにも採用されています。

夫婦円満

前述した鶴文様も、つがいで描くと夫婦円満を示すと言われていますが、二つ一組のセットで描かれる文様は円満な夫婦仲を表すとされることが非常に多いです。

「おしどり夫婦」という言葉が有名な鴛鴦(おしどり)はその代表格で、桃山時代から江戸時代にかけて流行した吉祥文様の一つです。
雌雄が常に行動を共にする鴛鴦は、美しい羽の色やシルエットもさることながら、その仲睦まじい様子が好んで描かれるモチーフです。
季節を問わず着用できることもあり、婚礼衣装としても人気の高い柄行です。

また、貝桶文様も代表的な二つ一組を表す文様です。
平安時代以降、トランプゲームの「神経衰弱」のように、二枚一組の蛤の貝殻を探し当てる遊びが貴族の間で流行しました。この遊びを貝合わせ(貝覆い)と呼び、貝合わせの貝殻を仕舞っておくための美しい入れ物が「貝桶」でした。
二枚貝である蛤は正しい組み合わせでないときちんと重なり合わないことから、ぴったりの伴侶と巡り合えるようにという願いを込めて、貝文様や貝桶文様が夫婦円満の象徴とされるようになりました。

健康

幾何学模様としても重宝される麻の葉文様は、麻がまっすぐ丈夫に育つ生命力の強い植物であることから、無病息災や安産祈願、魔除けなどの意味を持つ吉祥文様です。
正六角形を基本とする割付文様の一種であり、星型に近いその形状が大麻(おおあさ)の葉に似ていることからその名が付いたと言われています。

平安時代の仏像の装飾に用いられた他、赤ちゃんの産着や安産の御守りにもよく用いられました。江戸時代には年若い女性の着物の柄行として大流行し、現在でも着物や帯、長襦袢などに多く使用されています。

同じ幾何学模様の仲間でもある菱文様も、水生植物であるヒシの実、もしくは葉をモチーフとしており、ヒシの生命力と繁殖力の強さから、健康を願う吉祥文様であるとされています。シンプルなデザイン故に現代まで幅広く愛用されており、そういった意味でも麻の葉文様と似た由来と経歴を持つ文様です。

富喜

富喜(ふうき)とは、身分や地位が高く、裕福であることを指します。富喜を願う吉祥文様としては、打出の小槌や丁字(ちょうじ)、宝珠(ほうじゅ)といった宝尽くし文様が有名です。
宝尽くし文様は、中国の「八宝」という思想がもととなっており、仏教経典を由来として日本風にアレンジされた文様が現在でも使用されています。

打出の小槌は一寸法師の物語にも登場する、手に持って一振りすれば欲しいものが手に入るという縁起物です。七福神の大黒天が手に持っていることでも知られていますね。
丁字(ちょうじ)はいわゆる「クローブ」という名前の、スパイスの一種です。平安時代に日本へと伝わり、香料や薬などとして用いられ、その希少価値の高さから宝尽くしに含められました。
宝珠(ほうじゅ)は密教法具の一つであり、打出の小槌と同じく、望むものを手に入れることができる宝の珠です。
他にも、分銅や隠れ蓑、巾着などのモチーフが宝尽くし文様として数えられています。また、円を四方に重ねた幾何学模様である七宝文様も、宝尽くし文様の一つです。

さらに、西洋ではどちらかといえば不気味な動物のイメージがある蝙蝠(こうもり)文様も、中国や日本においては吉祥文様とされています。
蝙蝠の「蝠」の字は「福」と同義語であることから、福を運ぶ動物と言われるようになったようです。現代ではハロウィンのイメージのほうが強いですが、おめでたい柄行としてパーティーなどに着用するのも面白そうですね。

王室

その昔、王室以外に使用が許されなかった吉祥文様はいくつか存在します。

権力の象徴である四神文様―龍、鳳凰、麒麟、玄武など―はその代表格と言えます。
架空の生物であり、霊的な力を持った四神の文様は華やかで精緻なものが多く、王族の権威を示す柄行としてふさわしい威厳に満ちています。

時代と共にそのルールも薄れていき、現在では礼装などにおいて豪華絢爛なムードや勇ましい雰囲気を演出する文様として重宝されています。

子孫繁栄(多産)

子孫繁栄の意味が込められた文様には、多くの実をつける植物文様がいくつか存在します。
葡萄文様もその一つであり、たわわに実がみのる様子から子孫繫栄、豊穣といった意味を表します。共に描かれることの多い栗鼠も、子孫繫栄の象徴であると言われています。
また、実の中にたくさんの小さな果実がある石榴(ざくろ)や、たくさんの実とたくさんの種をつける瓢箪(ひょうたん)の文様も、同様に子孫繁栄を表します。

広がりや長いつながりを連想させる文様も、子孫繫栄の象徴となることがあります。
唐草文様は、蔓草が四方八方にのびて花や実をつける様子から、七宝文様は、同じ文様が連続して限りなく続いていく様子から子孫繫栄を表すとされています。

そして、鳳凰や鶴といった鳥類以外に、魚を描いた文様も夫婦円満・子孫繁栄を象徴しています。
鯉や金魚、海老などは多くの卵を産むことから多産を表すと言われており、単独で表現される他、波や渦、海藻などと共に水中の風景として描かれることもあります。

栄光・発展

西洋から日本へ輸入された吉祥文様として、月桂樹の文様が挙げられます。
月桂樹は「幸福の木」という別名があり、栄光や発展をもたらすと言われています。

また、出世魚と呼ばれる鯉の文様も、立派な成長や仕事での成功を願う意匠として長く親しまれています。

見た目から吉祥の意味が込められた文様、扇文様と青海波文様も有名です。
「末広がり」の形の扇は、商売繁盛や開運を示す他、福を招いたり、邪悪なものを遠ざけたりする効果があります。

青海波文様は、波を扇のような形にデフォルメして描き、鱗状に重ねることで、無限の広がりや発展を表します。
大胆に描き出した青海波文様を袋帯のデザインに用いる他、青海波を花で象った「花青海波文様」などのアレンジも行われています。

結婚式におすすめの吉祥文様

豪奢なイメージが似合う結婚式の衣装には、吉祥文様を複数種類組み合わさて描くデザインが多用されます。
おめでたい席に相応しい、華やかな柄行がおすすめではありますが、ご自身が込めたい想いやお好みに合わせてメインの文様を選びましょう。

松竹梅

中国には古来より、歳寒三友(さいかんさんゆう)という言葉があります。
常緑樹であり、冬の寒さにも負けず美しい緑を保つ松、雪が積もってもしなやかにたわみ、すくすくと伸びる竹、早春に他の花に先駆けて花を咲かせ、かぐわしい香りを届ける梅の三つを指して、厳しい寒さにも負けず、逆境に打ち克つ姿を表す言葉です。

松は不老長寿の象徴とも言われ、竹は成長と繁栄、梅は安産や子宝をも示す縁起のいいモチーフです。
三つの意匠を共に描くデザインは、豪華さもあり、結婚式にうってつけです。

日本において古くから愛され、国花として親しまれてきた桜の花。
春になると一斉に美しく咲き誇る姿から、豊かさや繁栄、新しい門出と明るい未来を表す文様であるとされています。

桜の文様は縁起物として定着しているため、実は春だけでなく、通年において着用することが可能です。
桜の他に、梅や菊、牡丹など、異なる季節の花を併せて描くことでより吉祥文様としての意味合いも強くなります。

桜と同じく、国花の一つであり、皇室の象徴でもある菊の花。
こちらも季節を問わず、通年使える吉祥文様として扱われることの多い花文様です。
また、秋に花を咲かせる菊は、春の蘭、夏の竹、冬の梅と共に「四君子文様」として、人間としての高潔さや気品を表すともされています。

香り高く、丸みを帯びた形が広く愛され、高貴なイメージのある菊の花。
薬として用いられていた歴史もあるため、無病息災、不老長寿といった意味も込められています。

牡丹

牡丹はぽってりとしたシルエットが目に華やかに映り、色鮮やかな百花の長として古代中国でも人気の高い花です。
百獣の王である獅子と共に描かれる、唐獅子牡丹という組み合わせのデザインもあります。
猛々しい唐獅子が、唯一「安らぎの場所」と感じる場所が牡丹の花の側であるという言い伝えもあります。

富貴や幸福の象徴でもあり、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉の通り、美しさを示す花の一つでもあります。

日本では平安時代から華やぎのある衣装の文様として用いられてきました。

夫婦円満、子孫繫栄、そして長寿の象徴である鶴の文様は花嫁衣装にぴったり。
白く流麗なその姿からは品格が感じられ、格調高いお祝いの席にも馴染みます。

打掛などに表される鶴は二羽以上で描かれるため、対になるお相手との永遠の絆を願うモチーフとしても相応しい文様です。

ギフトにおすすめの吉祥文様

吉祥文様はおめでたい意味をもつ縁起物なので、贈り物として失礼に当たるようなことはほとんどありません。
しかしながら、その時々のシチュエーションやお相手にきちんと沿った意味が込められていると、感謝やお祝いの気持ちはいっそう伝わりやすくなります。
ここではシーン別に、ギフトとして贈るのにおすすめの吉祥文様をご紹介いたします。

結婚・出産祝い

結婚祝いには、夫婦円満を表す吉祥文様はもちろん、健康や富貴、発展を意味する吉祥文様も相応しいです。
特に「末永く続いていく」という願いはあらゆる夫婦に共通の願いであるはずなので、連続柄である七宝や亀甲、青海波文様などは贈り物にぴったりです。
幾何学模様に近い吉祥文様は、モダンで和の要素も強すぎず、意味合いもさりげなく伝わるため押しつけがましさがありません。

出産祝いのギフトには、健康祈願や魔除けを意味する麻の葉文様、鱗文様などがおすすめです。
お子様の性別によって色柄を使い分けるよりは、ジェンダーレスな願いである栄光・発展などの意味が込められた文様を選ぶと良いでしょう。

誕生日、母・父・敬老の日

誕生日を祝うプレゼントや母の日、父の日、敬老の日に感謝を伝えるギフトであれば、長寿や健康を願う吉祥文様を選びましょう。

鶴や亀の文様が焼き印として押されたお菓子や、麻の葉文様などの幾何学デザインが施された江戸切子のグラス、今治のタオルなどがおすすめです。

昇進祝いなど

入学祝いや卒業祝い、昇進祝いなど、学業やお仕事の節目を祝う場合は、栄光や発展、富貴を示す吉祥文様がおすすめです。

龍や鯉といった立身出世を象徴するモチーフは、願いが伝わりやすく、珍しがってもらえるデザインです。宝尽くしの文様なども、メッセージがわかりやすく伝わりますね。

ギフトとしては、マグカップやグラスなどの食器類も良いですが、保温・保冷機能の付いたコーヒータンブラーなども喜ばれるかと思います。

まとめ

古今東西、あらゆる人びとが思いを込めて描いてきた吉祥文様。
身近にある文様の意味を知ることで、誰かの込めた願いに改めて気付かされることもあるかもしれません。
あなたの身近にある文様に秘められた願い事について、ぜひ紐解いてみませんか?