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2023.8.20

正倉院文様とは

正倉院文様とは

正倉院文様は、日本に古くから伝わる古典文様の中でも、最古の文様であると言われています。
代表的な正倉院文様には、華文や唐花(からはな)といった植物文様、花喰鳥(はなくいどり)のような動物文様や、人物と動物を併せて描いた騎馬人物文様などがあります。

格式が高く重厚感のあるデザインから、多くは袋帯などの礼装の意匠として用いられています。

しかしながら、「正倉院文様」と聞いて、明確なイメージが浮かぶ方は多くはないのではないでしょうか。
なぜ正倉院文様という名前で呼ばれているのか?正倉院文様の名が付いた文様の共通点とは?それぞれの文様にどのような意味があるのか?気になる方もきっといらっしゃることでしょう。

今回は、正倉院文様の成り立ちと名前の由来、代表的な正倉院文様の持つ意味やデザインの選び方について解説していきます。

正倉院文様の歴史

正倉院とは

そもそも、正倉院とは何のことでしょうか?
正倉院は、奈良時代および平安時代に用いられていた建立された正倉(倉庫のようなもの)の集まりです。年月とともにその多くが失われてしまったため、現存しているのは東大寺の正倉院宝庫のみです。

正倉院宝庫には、聖武天皇ゆかりの品や、東大寺の法会において使用された仏具や什器などが数多く保管されています。これらは正倉院宝物と呼ばれ、中には中国やササン朝ペルシャから渡った品々も多く含まれています。国際色豊かな品々には染織品もあり、「正倉院裂(しょうそういんぎれ)」と呼ばれています。この正倉院裂に織り出されている文様や、宝物の装飾に用いられている文様を「正倉院文様」と称するようになったと言われています。

また、正倉院で見つかった染織品の中に、未だ解明されていない染色技法で染められた布があるかもしれないことが2021年5月に報じられました。
いわゆるロウケツ染めに近い文様のように見えて、他のロウケツ染めの宝物とは異なる特徴が見つかったのです。
このように、まだまだ多くの可能性を秘めている正倉院の宝物から、正倉院文様の歴史は始まったのです。

それでは、それらの宝物が日本に伝わった経緯について解説していきましょう。

シルクロード経由で伝わり、西域諸国の影響を受けた文様

正倉院文様が刻まれた宝物や染織品の数々は、中国やササン朝ペルシャから伝わったと前述しました。

東アジアと西アジア、南アジアを結ぶシルクロードは重要な交易ルートでした。その名の通り、主な交易品の一つは絹(シルク)でしたが、その他にも多くの工芸品や染織品がシルクロードを経由して運ばれていました。

シルクロードは交易を通じて、各地域の文化をも広範囲に伝えてきました。伝統的な文様もその一つです。
そして、朝廷や大寺の宝物庫とも言える正倉院は、いわばシルクロードの終着地点でした。
大陸文化を伝える数多くの文様も、シルクロードを経て日本へ渡ることで、最終的に正倉院に集められてきました。
ササン朝ペルシャ、ローマやインド、西域、中国といった西方諸国の文化の名残を、正倉院文様に見出すことができます。

特に中国の影響を受けた文様の多くは日本の伝統文様として現在も残っており、職工文様や唐花文様などもその一つです。

代表的な正倉院文様を意味別に解説

連珠文(れんじゅもん)

連珠文とは、小さな丸い玉を並べて描いた文様のことです。
これを帯状に連ねたものを珠文帯、円形になるように並べたものを連珠円文と言います。
ササン朝ペルシャで生まれた文様であり、中国を経て日本へと伝わったとされています。

連珠円文の中に獅子や鳥獣、唐草や樹木、狩猟図などを描くこともあります。

花喰鳥(はなくいどり)

花喰鳥は、鳳凰や鸚鵡(おうむ)、鴛鴦(おしどり)、オナガドリ、鶴といった鳥類が花をくわえている姿を表現した文様です。
瑞兆(幸福の兆し)を表す文様として奈良時代に流行し、やがて日本風にアレンジされた松喰鶴(松をくわえた鶴の文様)が生まれました。

花喰鳥文様はもともと異国情緒あふれるデザインとなっており、鳥がくわえる草花は唐花、宝相華(ほうそうげ)、瓔珞(ようらく)など、さまざまなバリエーションがあります。

蜀江文(しょっこうもん)

蜀江とは、三国時代の中国における国の一つ、蜀の首都を流れていた河のことです。蜀江の周辺では上質な絹織物が作られており、やがて日本にも伝来したその織物が「蜀江錦」と呼ばれたことから、蜀江文という名称が生まれたと言われています。

蜀江文は、八角形と四角形が隙間なく連続して繋がった、幾何学的な模様です。中に唐花など他の文様を描き込むことも多く、さまざまなパターンのデザインが存在します。

格調高い意匠として現在も広く愛され、豪奢な錦織の袋帯などに用いられています。

唐花(からはな)

唐花は、中国風の架空の花の文様です。特定の花をモデルにしたデザインではなく、複数の花を組み合わせたイメージをもとに描かれています。

どことなく異国情緒漂うデザインであること、蔓草やつぼみ、葉と共に描いたパターンもあることが特徴で、牡丹や芙蓉の花の一部をモチーフとした、華やかな唐花文様も多く存在します。

唐花は季節を問わず着用でき、モダンで使いやすいデザインであることから、フォーマルからカジュアルまで、あらゆるシーンに重宝します。

騎馬人物(きばじんぶつ)

騎馬人物とは、馬の上に乗った人物を表現した文様のことを指します。ササン朝ペルシャで生まれた文様であり、法隆寺に伝わる「四天王獅子狩文錦」などの狩猟文様も騎馬人物文様の一種です。

狩りの様子が描かれることが多い騎馬人物文様ですが、かつて日本にはその文化がなかったため、中国または西域の風俗を表現したものであると言われています。
狩猟とはいえ、ユーモラスな趣も感じられるデザインであり、着物以外にも絨毯や数寄屋袋などの柄に多く用いられています。

華文(はなもん)

華文は唐花と同様に、抽象的な花のイメージを表現した文様です。
正倉院華文、宝相華文といった名称で呼ばれることもあり、宝相華文は特に、大ぶりで華麗な印象の強い花文様です。

唐花文様との大きな違いは、花を円形にデザインした文様であることです。
抽象化された文様であるため、確かなモチーフはわからなくとも、なんとなく花らしい形だと思えるものを広く華文と呼ぶこともあります。

エキゾチックな雰囲気と重厚な趣を併せ持ち、雅やかな印象を与えるので、現代でもお祝いの席やパーティーで活躍する礼装の帯などに好んで使用されています。

正倉院文様の着用シーン

結婚式などの礼装に

正倉院文様は、格式高い古典文様であるため、主に礼装に施されることが多いです。
袋帯に用いられることが多いですが、留袖や訪問着の意匠として刺繍などと共に描かれることもあります。

正倉院文様があしらわれた着物を着る場合は、エキゾチックな華やぎを活かしたコーディネートを考えてみると楽しいですね。
結婚式などのフォーマルスタイルには、蜀江文様や宝相華文などの豪華な柄行が特におすすめです。

お祝いの場におすすめの正倉院文様

特にお祝いの席では、吉祥の意味が込められた文様が相応しいと言えるでしょう。
瑞兆を示す花喰鳥文様の他、鴛鴦や鳳凰など、縁起の良い鳥文様などが中に込められた正倉院文様もおすすめです。

また、宝相華文は場が華やぐ文様として、お祝いの席やパーティーシーンにぴったりの柄行と言えそうです。

ギフトにおすすめの正倉院文様

正倉院文様が使用される場面は、着物だけではありません。
現代的な雰囲気にも馴染みよく、上品な印象を与える正倉院文様は、小物の柄付けやお菓子のパッケージなど、幅広いジャンルのデザインにおいて採用されています。

ここでは、正倉院文様が用いられている、贈り物としておすすめの品々についてご紹介いたします!

正倉院文様革財布

本革と織物を組み合わせた財布は、洋服でも和服でもしっくりと馴染むムードがあり、フォーマルな席においてちらりと見せても恥ずかしくない逸品です。

あらゆるブランドが革財布を売り出している中、伝統ある正倉院文様が刻まれた財布は他とは一味違う趣があり、持ち物にこだわりのある人への贈り物にもうってつけです。
お世話になった方へのお礼の品や、誕生日などの節目のお祝い、母の日や敬老の日のギフトとしてもおすすめです。

奈良・本家菊屋の「鹿もなか」

「鹿もなか」は、奈良県大和郡山市にある1585年創業の老舗和菓子店・本家菊屋の銘菓です。鹿の焼き印を押した優しい甘さのお菓子はもちろんのこと、パッケージにまでこだわりが込められているのがその特徴です。

唐花と共に鹿や鳥を描いた箱に、宝相華文の包み紙を合わせ、モダンで美しい正倉院文様でまとめられた包装は、やや畏まった場での手土産にもぴったりです。

上品な和菓子の贈答品をお探しの場合は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

豆菓子 正倉院文様パッケージ

奈良祥楽が手掛ける「大和し美し 小花豆」は、落花生に小麦粉と砂糖をまぶし、軽い食感に炒り上げたお菓子です。
こちらも奈良に根付いたお店らしく、パッケージの正倉院文様を使用しています。

花唐草をリースのように描いた華文のパッケージは、まるで洋風のデザインのようにおしゃれで、かつ、日本古来の趣も感じさせる仕上がりです。
ころんとした立方体の箱入りなので、複数人に配るためのお土産や、ちょっとしたご挨拶のためのお菓子としても優れものです。

三輪そうめん 正倉院文様パッケージ

「三輪そうめん」の名前は、有名なそうめんブランドのうちの一つとして聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
奈良県桜井市三輪周辺が発祥の地とされている三輪そうめんは、伝統的な手延べ製法を用いて作られており、細くコシのある美味しいそうめんです。

正倉院文様があしらわれたパッケージは、繊細なデザインと淡い色彩が高級感を演出し、お中元や贈答品として相応しい、格のある雰囲気を醸し出しています。

美しい和の意匠で飾られた高級手延べそうめんを夏の贈り物として貰ったら、きっとどなたでも笑みがこぼれてしまうことでしょう。

まとめ

正倉院文様の成り立ちや意味を知ると、その奥深い魅力がきっと心に響いてくることと思います。

古代の大陸で育まれた文化が、シルクロードを渡って日本へと伝わり、何百年という時を超えて現代まで息づいていることを考えると、一つ一つの文様が持つ壮大な物語に、つい思いを馳せてみたくなりますね。

結婚式やお茶席などのフォーマルシーンや、ちょっとしたギフトにぴったりの正倉院文様。
お手持ちの着物や身近な調度品の中にも、ぜひその面影を探してみてはいかがでしょうか?

<着物の柄の記事はこちら>