着物のコーディネートにおいて帯周りのポイントとなる「帯揚げ(おびあげ)」。お太鼓結びの登場とともに用いられるようになり、今や着物姿に欠かせない小物となりました。
今回はそんな帯揚げの種類や着物に合わせるポイント、結び方などについて解説します。
この記事の目次
帯揚げとは?
帯揚げは、帯をお太鼓結びにする際に帯枕の紐を隠し、お太鼓を安定させるための長方形の布です。帯周りを美しく整えるとともに、着物姿に色や柄を添えるコーディネートのポイントとしても重要な役割を担っています。
帯揚げの歴史
帯揚げの発祥は江戸時代後期です。
当時は帯揚げを使う習慣はなく、帯は帯締めのみでとめられていました。
しかし帯の幅が広くなり重くなると帯締めだけではずり落ちてくるように。
そんな中、当時の芸者が太鼓橋の形に似せた帯結びを考案しました。
後に「お太鼓結び」と呼ばれる帯の結び方です。
背中に位置するお太鼓部分の折山に紐を通し、帯が落ちて来ないよう前帯の上部で結ぶようになりました。これが「帯揚げ」の原型です。
のちにお太鼓の山型をきれいに作るために帯枕が考案され、帯枕の紐を隠すとともに帯の形を崩れにくくするための布が「帯揚げ」と呼ばれるようになりました。
明治以降は、帯まわりを華やかに見せるアクセサリー的な意味合いが強くなっていきます。
現代の帯揚げについて
お太鼓結びが主流の現代の着物シーンでは、帯揚げは必需品です。
しかし、江戸時代の頃のように帯がずり落ちてくるのを防止する役割ではなく、帯まわりを飾るアイテムとして取り入れられています。
着物姿の横から、そして前からちらりとのぞく帯揚げは、おしゃれな着こなしには欠かせないポイント。
現代ではその日の気分に合わせて好みの素材やきものと帯に合わせた帯揚げを選ぶことで、コーディネートを楽しみます。同じ着物でも合わせる帯揚げによって雰囲気を変えることができるため、何通りもの着こなしができますよ。
帯揚げの種類
帯揚げには様々な素材があり、着用する場面によって使い分けが必要です。
帯揚げの種類は大きく分けて4種類。
・綸子(りんず)
・縮緬(ちりめん)
・絞り(しぼり)
・夏用:絽(ろ)
紗(しゃ)
麻(あさ)
生地の特徴や着用シーンについてそれぞれ解説します。
◇綸子(りんず)地の帯揚げ
薄く柔らかい生地で、光沢がある素材の帯揚げです。訪問着などのフォーマルな着物には綸子の帯揚げを合わせることが多いです。小紋などのお出かけ着でも、綺麗めのコーディネートには端正な綸子の帯揚げがよく合います。
◇縮緬(ちりめん)地の帯揚げ
やや厚めの生地で、染めの色柄がはっきりと出る素材の帯揚げです。縮緬地に楽しい柄が染められた帯揚げなどはカジュアルな着物によく合います。丹後ちりめんなど、フォーマル用に刺繍や織柄が施された帯揚げもあります。
◇絞りの帯揚げ
正絹の生地に絞りの技法を施した、ボリュームのある素材の帯揚げです。全体が絞りの「総絞り」の帯揚げは、現代では基本的に振袖や7歳の七五三の晴れ着用とされています。
◇夏用の帯揚げ
・絽(ろ)
盛夏用の正絹素材で、絽目(ろめ)と呼ばれる隙間の空いた生地の帯揚げです。夏に近い時期の単衣や夏物のきものに、フォーマル、カジュアル問わず合わせます。
・紗(しゃ)
絽と同じく盛夏用の織物で、全体的に透け感の強い生地感の帯揚げです。主に真夏の時期に夏着物に合わせてコーディネートします。
・麻(あさ)
夏着物用として麻の素材の帯揚げもあります。シャリ感のある涼しい素材で夏にはぴったりですが、シワになりやすいのが難点です。
帯揚げの選び方
それぞれの着物を着るときに、どんな帯揚げを選んだらよいのでしょう?
帯揚げを選ぶ際には、着物の格式や季節などによってルールがあります。
ここでは帯揚げの選び方について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
着物(格式)で選ぶ
着物の種類ごとに、帯揚げを選ぶ際のポイントを表にまとめました。
着物の種類 | 帯揚げの種類 | 帯揚げの色 | 帯揚げの柄 |
黒留袖 | 綸子、縮緬 | 白 | 金糸・銀糸の刺繍、織柄 |
色留袖 | 綸子、縮緬 | 白 | 金糸・銀糸の刺繍、織柄 |
訪問着、 付け下げ |
綸子、縮緬 | 淡色 | 染め柄、刺繍、織柄 |
振袖 | 絞り | 着物、帯に合わせて | 無地か刺繍 |
色無地 | 綸子、縮緬 | 淡色 | 染め柄、刺繍、織柄 |
小紋 | 綸子、縮緬 | 着物、帯に合わせて | 染め柄、刺繍、織柄 |
紬 | 縮緬 | 着物、帯に合わせて | 染め柄、刺繍、織柄 |
季節で選ぶ
帯揚げは着物と同じく、季節に合わせて素材を選びましょう。
10月から4月までの袷の着物の時期には、透け感のない綸子や縮緬の帯揚げを合わせます。
5月から9月にかけて、着物姿を涼しげに見せたい季節には帯揚げにもひと工夫加えたいもの。
単衣の時期には少し透け感のある紋紗などの帯揚げを選ぶとおしゃれです。
夏物を着る盛夏には、しっかりと透け感のある絽、紗、麻の帯揚げを合わせると涼しげな装いに。レースの素材も人気です。
色合わせで選ぶ
帯揚げをはじめ小物の色味は、着物の柄などの一色をピックアップして合わせると上手にまとまります。
帯締めや重ね衿の色と合わせるのもおしゃれです。
ほかにも、季節に合わせた色味を選ぶのも効果的です。
特に暑い時期の帯揚げは淡い色合いがおすすめ。濃い色が帯まわりにあると、どうしても涼やかな雰囲気が損なわれてしまいます。淡色かつ寒色系の帯揚げを選ぶと清涼感が演出できること間違いなしです。
着用シーンで選ぶ
着用シーンによっても帯揚げの選び方は変わります。
成人式や七五三など、人生の節目を祝う晴れ着のときは総絞りの帯揚げで華やかに。
入学式や七五三の付き添いなど、フォーマルな場面では上品な帯揚げを。
お茶席などには華美にならない落ち着いた色合いの帯揚げ、などなど。
TPOに合わせてふさわしい雰囲気の帯揚げを選びましょう。
帯揚げの結び方
帯揚げは着付けの際にどのように結ぶのでしょう?
代表的な結び方の本結びと一文字結び方について、5ステップで紹介します。
本結び
1.帯揚げの左右の長さを揃え、それぞれ細かくたたんでひと結びする
2.下側に出てきた方の帯揚げを帯と平行に折り曲げ、輪を作る
3.上から下ろした方の端を、2で作った輪に通す
4.結び目と帯揚げの両端を帯と着物の間に入れ込み、見えている部分をきれいに整える
5.完成!
一文字結び
1.帯揚げの左右の長さを揃える
2.右の帯揚げを1/3の幅にたたみ、前帯に1cmほどかかるように添わせて左脇で帯揚げの端を帯と着物の間に入れ込む
3.左の帯揚げも同様に1/3幅にたたみ、2に重ねる
4.右脇で帯揚げの端を2の上から帯と着物の間に入れ込む
5.完成!
帯揚げのお手入れ・保管方法
帯揚げを綺麗な状態に保つために、保管方法やお手入れには気を配りたいもの。
帯揚げの保管のポイントは、以下の通りです。
・シワにならないように収納する
・カビないよう湿気に気を付ける
綺麗にたたんでタンスや衣装ケース等に入れるか、帯揚げ用の収納グッズを活用するのも◎。
帯揚げの多くは正絹のため、着物と同様日焼けすると色あせなどの劣化の原因になります。日光に当たらず湿気のこもりすぎない場所で保管するのがよいでしょう。
自宅で洗う方法
着用後に帯揚げを自宅で洗いたいと思う方もいるかもしれません。
しかし、正絹の帯揚げは水洗い厳禁。
絹は水につけると縮むため、幅や長さが短くなり帯揚げとして使用できなくなる可能性があります。自宅での水洗いはしないよう気をつけましょう。
ただし、素材が化繊の帯揚げは水洗い可能です。
正絹はクリーニングへ
帯揚げは基本的にクリーニングには出さなくてOK。着用後、数時間陰干しをして汗を飛ばしてから保管しましょう。
どうしても汚れや汗が気になる場合、着物対応のクリーニング屋または呉服専門店に持っていけば、お手入れを受け付けてくれますよ。
帯揚げの保管方法
帯揚げの保管方法、「もっとすっきり収納できないかな?」と思いますよね。
ここでは帯揚げの保管におすすめな便利グッズをご紹介します。
帯揚げを筒状で保管できるアイテム・「帯揚げくるみ」。
使い方は簡単、丸めた帯揚げを透明なシートで巻くだけ。
帯揚げが筒状になり、かなりの省スペース化がはかれます。
色柄が一目でわかるため、コーディネートの際に使いたい帯揚げをさっと見つけられるのも嬉しいポイント。たたんで保管するよりシワになりにくいところもよいです。
帯揚げ・帯締め専用の「桐箱」もおすすめ。
昔から着物の保管には桐のタンスと言われるだけあり、調湿と防カビ、防虫効果で安心です。
こちらも帯揚げを丸めて収納できる省スペース設計。1箱で帯揚げを5枚収納できます。とても軽いので、コーディネートを決める際の出し入れも楽々です。
まとめ
今回は着物姿のポイントとして欠かせない「帯揚げ」について、種類や着物に合わせるポイント、保管方法などについて解説しました。
帯揚げはおしゃれな着姿のポイントとなる小物のひとつ。
TPOや季節などの知識をもとにその日の気分に合った帯揚げを選んで、自分らしい着こなしを楽しみましょう。