着物の種類

2022.9.6

訪問着はいつ着る?付け下げとの違いや訪問着の選び方・着用シーンを解説

訪問着はいつ着る?付け下げとの違いや訪問着の選び方・着用シーンを解説

訪問着はお式ごとに最も着用される着物であり、よく耳にする名前ではないでしょうか。
しかし、着る機会が多いからこそ、細かなルールに悩んでいる方も多いはず!
訪問着について基本的なことをこちらの記事でご紹介していきます。
ぜひ着物についてこれから学びたい方や、訪問着を着る予定がある方はどうぞ最後までご覧ください。

訪問着とは

訪問着は、広げると一枚の絵のように見える柄付けがされている着物です。
着物の縫い目のことを合い口とも言いますが、縫い目を跨って柄が繋がっているものを「絵羽模様」といいます。
上半身は襟から袖、下半身は後ろ身頃から衽の縫い目まで繋がっています。

色合いや柄は、娘さんに良さそうな可愛らしい雰囲気のものから、奥様ならではの風格のある雰囲気のものまで様々有ります。
訪問着は色や柄のデザインによってかなり着用場面が変わるため、細かいルールやマナーを考え着用する訪問着を選んでいただく事が大切です。
まずは、訪問着の成り立ちや着物の位置付けを確認し、どのような場面や立場でもふさわしい訪問着を着用できるようにしましょう。

※紬の訪問着は洒落技になる為、礼装には向かない。

既婚・未婚問わない女性の準礼装

訪問着は、既婚・未婚の区別なく着用できる華やかな着物なので、社交着として多く用いられるようになりました。
また、着る方の年齢も問わない為、着用頻度の高い着物といえます。

訪問着の起源・歴史

ではここで、訪問着はどうやって生まれたのか振り返ってみましょう。
元々着物は留袖が正装、小紋が普段着として扱われてきました。
その中間の着物として訪問着が誕生したので、格は留袖の方が高いということになります。
そのため、よりフォーマルな場面での着用は留袖の方が選ばれます。
訪問着が生まれたのは着物の中では比較的新しく、大正時代初期1910年〜1920年頃と言われています。
そのきっかけは、生活簡略化の影響でした。
日々の生活は座布団から椅子へ変わり、着るものは洋装へと変化していきました。
その反動もあってか、元々の日本文化を取り戻そうとする人々の動きが強まりました。
留袖ほどの大袈裟でない装いで、しかし人様の家へ行っても失礼のない格式・華やかさを備えた着物として普及していきました。

留袖や付け下げとの違い

着物の種類や見分け方は、あまり着る機会の少ない方にとっては判別が難しいかと思います。
ですが、一度見分け方のポイントを知ってしまえばそう難しくはありません。

訪問着 留袖 付下げ 付け下げ訪問着
絵羽模様
上は無地
下のみ
✖️
上は繋がっていない
下のみ
比翼仕立て ✖️ ✖️ ✖️
共八掛 ✖️ ✖️

まず、留袖との違いについてご説明します。
最大の違いは上半身に柄が入っているか、それとも無地かという事です。
どちらも柄付けは絵羽模様であり、色合いも似ています。
ですが、留袖は上半身に柄がなく無地となっているので、ここが最大の見分けのポイントです。
また、留袖は比翼仕立てになっているというのも違いになっています。
さらに柄にも違いがあり、留袖は格調高い吉祥文様や有職文様の柄が入っている事が多く、訪問着は古典的な柄やモダンな花柄など実に様々な柄があります。
その為、訪問着は幅広い年齢層で色々なシーンや用途に着用する事ができます。

次に付下げとの違いをみていきましょう。
仕立て上がり前であれば、反物は付け下げ。仮絵羽は訪問着と判断する事が多いでしょう。
仕立て上がった状態での見分け方は、絵羽模様でないかをポイントとして見分ける方法が一般的です。
付け下げの柄は控えめで左肩にちょこちょこある、縫い目に柄をつけていないというように見た目は控えめな雰囲気です。
訪問着よりも落ち着いた印象のものが多く、仕立ても手順が少ない為付け下げの方が格は下となります。

また、付け下げ訪問着という着物もあります。
衽線の縫い目にまたがって柄付けされていると付け下げ訪問着となります。
付け下げ訪問着の格は、訪問着と付け下げの間だと思ってもらうと良いです。

ざっくりとお伝えすると、柄の大きさや金銀が多く使われていたり、吉祥文様で格式高い模様がつけられていれば訪問着として着用する。
カジュアルめの柄で控えめであれば付け下げとして着用する、といったように色柄の特徴を見て判断していただく事がおすすめです。

きものの世界には本当に例外も多くある世界なので断定する事はできません。

訪問着の紋と着用シーン

次に紋の数や種類による格式の違いと着用シーンをお伝えします。
ただ、現代ではお店や人によって定義が異なります。その為、参考程度にご覧になってください。

TPOや格については以下の記事も参考にしてください。

三つ紋:準礼装

三つ紋は、背と両後ろ袖に袖紋をつけます。
豪華な柄であれば、結婚式や披露宴などの式典に紋をつけて着用する事ができます。
スピーチなどで壇上に上がる場合は紋付の訪問着がおすすめです。
ですが、格が上がってしまい着用シーンはかなり限られてしまう為、付けない場合が多いです。

一つ紋:準礼装

一つ紋は、背につけます。
紋付きの着物の中でもっとも格が低いのが一つ紋です。
紋は染め抜きでも縫い付けでも良いですが、より高級感が出るのは染め抜き日向一つ紋です。
日向紋は白い部分が多く、明るいことから陽紋とも呼ばれることもあります。
その為、お祝いのお式ごとに着用する事が縁起が良いとされています。

紋無し:略礼装

紋無しの訪問着は紋有りに比べて着用シーンが幅広くなる為、紋無しの訪問着を着られる機会は多めです。
品格が必要なシーンでは、帯や小物の組み合わせ方を工夫して格調高く装います。
最近では、紋を省略される方も多く、お召しになる方の年齢や未婚・既婚、また新郎新婦との関係等によっては紋無しの訪問着を結婚式・披露宴に着用する事が多くなってきています。
そうはいっても、紋無しの訪問着は一つ紋の色無地とほぼ同格となる為、街着などカジュアルな場面には向きません。

訪問着に合わせる帯と小物

訪問着の格や着用シーンなどがわかりましたね。
次は、訪問着にはどのような帯や小物が良いのかをお伝えします。
訪問着には織りの袋帯を合わせる事が基本となりますが、合わせる帯によってガラリと雰囲気が変わるので、どのような場面に着用していくのかを考慮しつつ合わせてみると良いですね。

訪問着におすすめの帯

訪問着には上品な金や銀の袋帯を合わせるのがおすすめ。
いくつか着用していくシーン別におすすめの帯をご紹介します。

準礼装として格式高く着物を着用したい場合は、こちらのように重厚感のある袋帯がおすすめです。
金銀を豪華に、おめでたい柄を使っているのでお祝いの席に相応しい素敵な帯です。
このように金糸銀糸を多用している帯は礼装用の帯で、あらたまったフォーマルなお式ごとに着用できます。

こちらの帯は、全体的に柔らかい色合いで、クリーム色の明るい白地に淡いピンクや藤の色が上品で優しい雰囲気を演出してくれます。
お宮参りや入学式、卒業式などお子様が主役のお式ごとにおすすめの帯です。

訪問着は準礼装ですが、合わせる帯によっては少しカジュアルよりに仕上げる事もできます。
こちらの綴織の名古屋帯は、気軽なパーティーやレストランでのお食事などにおすすめの帯です。
観劇などの場合は落ち着いた色柄の訪問着に、金糸銀糸を控えめにしつつも品のある帯がおすすめです。

迷った場合は、訪問着の色合いと同系色を選ぶと全体的な調和が合います。
そこに金糸銀糸をどの程度使った帯を着用するかで、フォーマル度合いをコントロールする事ができます。

長襦袢はフォーマル用

訪問着に合わせる長襦袢は、地紋の入った白、またはぼかしがおすすめです。
式典などに合わせる時には、着物と同系色系の淡い色も調和がとれます。
結婚式などは年齢幅が広く、様々なお客様がいらっしゃるので無難にまとめておくのも良いでしょう。

二部式の長襦袢も訪問着におすすめです。
着丈の調整ができ身動きがしやすいので一つあると大変重宝します。
また、自宅で洗えるというのも気兼ねなく着用する事ができて助かりますね。

重ね襟と小物類

重ね襟はお顔周りに近い場所になりますので、似合う色を選んでいただくと顔色やトーンが明るく見えるようになります。
こちらは、フォーマルなお着物に最適な優しい色合いの正絹の重ね衿です。
また、着物の地色に合わせていただく方法も一般的な選び方となっています。

訪問着が薄色地の場合は、訪問着の地色より濃い色を選んでいただくと、ほどよく引き締まり控えめながらも差し色として使用する事ができます。

帯あげは中抜きの絞りという全部が絞りでなく間が絞られていない絞りや、綸子がおすすめです。

髪型やアクセサリーの選び方

訪問着の時のおすすめの髪型は、ロング・ミディアムの方はアップヘア。
ショートの方は毛流れを出すような粋な髪型がおすすめです。
20代、30代の方はふわりとした柔らかい髪型でも訪問着には合いますが、後れ毛をたくさん出すような髪型はフォーマルな場では控えた方が良いでしょう。

シンプルなパールの髪飾りやかんざしは訪問着の上質な雰囲気をさらに引き上げてくれるアイテムとなります。

訪問着の着用シーン

では次に、実際に訪問着を着用するシーン別に気を付けるポイントやマナーをお伝えします。
訪問着は着用できる場所や年代が幅広いからこそ、着こなし方やコーディネートの仕方が広がります。
紋の有無別や立場によって変わるポイントなどありますので、ぜひチェックしてください。

結婚式・披露宴

親族の立場として参加される場合は、三つ紋や一つ紋を入れると格が高くなり準礼装の着物として着用する事ができます。
紋をつけて結婚式に参加される場合は、華やかな色柄のものがおすすめです。

ご招待された友人の立場でしたら、一つ紋または無紋の訪問着を選ぶようにしましょう。
また、親族や花嫁とかぶるような黒地や白地の訪問着は選ばないよう気を付けましょう。

フォーマルな場合の着付けは衣紋をよりぬき、帯は幅出しをしてより華やかにすると良いです。

訪問着の色味を考えたり、格を揃える事は着物を着る上での大切なマナーとなります。
大事な方達を大切におもてなしする上では欠かせない礼儀です。

お茶会など

お茶会では侘び寂びに重きをおいている為、華美すぎる訪問着は不向きです。
シンプルな雰囲気のものや柄が小さめの古典柄など、控えめながらも品のあるものを着用すると良いでしょう。

ただし、派閥や教室の先生によっては厳しいきまりがあります。

お宮参りなど子供の行事

子供が主役のイベントになる為、ママさんはそこに華を添えるような雰囲気の訪問着がおすすめです。
淡いクリーム色のものや薄いピンクなど優しく柔らかい色柄のものは、落ち着いて上品に見えます。

同窓会などのパーティー

同窓会などの集まりなどに訪問着での参加は品があり素敵ですね。
その場合は、結婚式やお茶会のような着用ルールはありませんので、華やかな色柄のものでも構いません。
帯揚げや重ね襟にも華やかな色味を使って、パッと明るい訪問着を着用してみても良いのではないでしょうか。

訪問着の選び方

では、実際に訪問着をどのように選ぶのかを考えていきましょう。
訪問着を着用する場面は、自分ではない大切な方をおもてなししたり、お祝いしたりする場面が多いかと思います。
そうなると、自分の立場にふさわしい訪問着を選べているのか気になるところですね。
ここでは、様々な目線でのふさわしい選び方を紹介いたします。

TPOで選び方

訪問着の着用シーンでもご紹介したように、着用する目的別に考えて選ぶと失敗しません。
披露宴などのフォーマルな場面では、金糸銀糸を多く使った華やかな雰囲気のもの。
子供がメインのイベントには、控えめで華を添えるようなもの。
同窓会など少しカジュアルな場面では、半襟や重ね襟、帯締めなど小物も華やかにして明るい印象のもの。
お出かけ先に合わせて選んでみてはいかがでしょうか。

年代で選ぶ

色味や柄によっておすすめする年代が変わるので、こちらも参考にしてください。
10〜20代では、色柄が多く使われているものや明度のはっきりしているものが似合います。
30〜40代では、渋みのあるピンクや淡い水色など少し控えめなものが人気です。
50〜60代では、極端に落ち着いた色柄を選ぶと年齢より上にみられてしまったりと落ち着き過ぎてしまいます。暗め・淡目のお色味でも華やかな柄の訪問着がおすすめです。
70代以降の方は、落ち着いた色柄のものをシックにおしゃれに合わせられる方が多いですね。
小柄な方は小さめの柄が良いです。

色で選ぶ

年代で選ぶ事も良いですが、ご自分に似合う色で選ばれるのもおすすめです。
パーソナルカラー別にご紹介します。
春カラーは、柔らかいコーラル系や暖かみのある色味がおすすめです。
夏カラーは、水色や白色をベースにした柄入りの着物が似合います。
秋カラーは、くすみカラーの赤やこってりとしたオレンジ、赤味のあるブラウンなどが良いです。
冬カラーは、黒や紺色などの濃い色味のお着物が得意です。

パーソナルカラーで似合う色味のものを選ぶと、その人の良さを格段に引き上げてくれる効果があるので、色で選ぶ事も正解です。

柄・文様で選ぶ

慶次に着用するものなので、柄や文様の意味を知り、そこに願いを込めて着用されるのも素敵ですね。
おめでたい席におすすめのものは様々なものがありますが、やはり吉祥文様はおすすめです。
・菊の花 邪気を払い不老長寿の願いがこめられている事からお宮参りなど
・鶴 不老長寿もあり、鶴はつがいを持つ事から一生夫婦で添い遂げる、子孫繁栄という意味があり結婚式にもよく使われている
・宝尽くし 様々な宝が描かれている大変縁起の良い柄です。どのようなお祝いの席にもおすすめ

着物の柄には素敵な意味があるので、お手持ちのものがあれば一度調べてみるのも良いですね。

訪問着のQ&A

ここでは、訪問着を着る際に実際に出てくるお悩みをお答えいたします。
どうぞご覧ください。

Q訪問着を着る前後のお手入れはどうしたら良い?

訪問着を着る前の日には、着物ハンガーにかけてください。
風通しをする事で、湿気がとれたり軽いシワは吊るしておく事でとれます。
着用後も1日〜2日程度、着物ハンガーにかけて陰干ししておく事で、同様の効果が得られます。
特に汚れがない場合は、着用ごとにクリーニングに出す必要はありません。

着物のお手入れに関しては下記を参考にしてください。

Q.ポリエステル(化繊)の訪問着は格が下がる?

格は下がりません。
ポリエステルは絹の代用品となる為、格としては正絹の訪問着と同格です。
ポリエステルにも現代では、様々な風合いがあり中には正絹と見分けのつかない程のものもあります。

Q.訪問着をレンタルするには?

ホテルや結婚式場からレンタルする事もできますし、ネットでレンタルする事もできます。
ホテルなどでレンタルする場合の相場は2万円ほどです。
小物や草履などは別途レンタルとなり、3千円〜1万円ほどです。

ネットの場合は、1万円〜3万円ほどが多いです。
必要な小物などを一式まとめてレンタルする事ができ、豊富な色柄を選ぶ事ができます。

訪問着の着用シーンは多岐にわたるため、お子様のイベント事や親族・友人の結婚式やお花見など様々な機会に着用することができます。
レンタルの機会が多ければ購入した方が安くすみます。

着物は小物や帯を変えるだけで、ガラリと雰囲気が変わります。
まずは一枚購入し後から少しずつ小物を変えていくのも着物をよりよく楽しめますよ。

Q.親族の結婚式に訪問着は失礼?

失礼ではありません。
基本的には留袖を着用するのが正式なマナーではありますが、訪問着の柄行や、小物の合わせ方次第では可能です。
柄付けが留袖に近い訪問着や、デザインが落ち着いたものなどは留袖に準ずる小物合わせをすることで着用できます。
※参列する方が着物に詳しいか、会場の格式などによって変わってくる部分もありますので新装新婦やその親族にお伺いを立てるのが一番確実です。

留袖風の柄付けの訪問着をいくつかピックアップしますので、ご参考にどうぞ。

まとめ

訪問着はお式ごとでの着用シーンが幅広く、また既婚・未婚や年齢問わずに着用できる着物なので一枚持っておくと非常に便利なものとなります。
ただ、フォーマルな場面でも活躍できる着物のため細かい着用ルールやマナーがあります。
お出かけ先に合わせた着こなしをして、ぜひお着物ライフを楽しんでください。