数多く種類のある着物の中でも汎用性が高く、一枚必ず持っておきたいのが“色無地”です。
着物屋さんでも「一枚あると良いですよ」と勧められた方も多いのではないでしょうか。
色無地は、色目や紋の数、更には帯や小物次第で着用場面が変わる面白い着物です。
ですが実際には、どんな着物でどんな時に着れるのか…お困りではありませんか?
この記事では色無地とはどういう着物なのか、紋の数や着用シーン別でおすすめの選び方などを紹介します。
手元にある色無地を活用したい方や、今後購入を考えている方は是非参考にしてみてください。
この記事の目次
色無地とは?
そもそも、“色無地”とはどういった着物を指すのでしょうか。
色無地の定義としては、『地紋のある、または地紋のない白生地を一色に染めた着物』を色無地といいます。
紋の数や合わせる帯によって格が変わることから、冠婚葬祭から普段着感覚で着用することが可能で、色や地紋、紋の数次第で着用場面が変わる利用価値の高い着物です。
一色染めであるという特徴から染め替えがしやすく、丈夫な生地であれば一枚の着物でもお好みで年代を重ねるごとに深みのある色に染めていくこともでき、何十年も着続けることができる着物です。
色無地の歴史
色のついた無地の着物ということで「色無地」と呼ばれている着物ですが、染め物の技術自体は古くからあるとされているため、歴史的にいつから存在するのかはわかっていません。
しかし江戸時代末期、庄屋のお供をする使用人の女性・子供たちは改まった場では紋付の色無地を着用していたと言われています。
その後大正時代になり紋付の色無地は礼装とされるようになり、留め袖や振袖と同じ格式となりました。
現在では、シンプルで派手すぎないことから侘び寂びの文化を重んじる茶道の世界では重宝されています。
地紋による着用シーンの変化
色無地の中では地紋があるかないかで分けられており、地紋があるものが礼装にも着用可能なもの、地紋なしは弔い事やカジュアル向けとされています。
地紋とは、「機織で生地に文様を表現したもの」であり、生地に織り込まれた柄を指します。
地紋ありで礼装にも着用できる生地
地紋にもひとつひとつ意味があり、「よい兆し、めでたい印」の意味を持つ吉祥を表現した文様を総称して吉祥文様といいます。
お祝いの席の礼装用に多く用いられ、弔事では着用できません。
両用できる地紋を希望する場合は、購入する際にきちんと伝えるようにしましょう。
弔事でも使える柄は流水や雲、有識文様と呼ばれるものがおすすめです。
地紋なしでカジュアル向けの生地
地紋のない縮緬(ちりめん)などの生地は、主にカジュアルな場面で普段使いに着用できます。
紋の有無や生地の色によっては弔い事の際にも着用可能です。
「紋」と色無地の格
色無地は準礼装の格に分類される着物ですが、紋の数や帯合わせによって格が変わる着物です。
紋は入れる位置と数が決まっており、数が増えるごとに格が上がります。
色無地は紋を入れる場合、三つ紋か一つ紋のどちらかを選ぶことが多いですが、稀に五つ紋を選ぶ方もいます。
一つでも紋が入ると無紋の訪問着よりも格上に、紋を入れなければおしゃれ着感覚でも着られます。
最近は用途を広げるために、紋なしもしくは一つ紋を入れて帯で格を上げるのが主流ですが、着用シーンをよく考えて選ぶと良いでしょう。
五つ紋
稀ですが色無地に五つ紋を入れる場合は、染め抜き日向紋を入れることで礼装の格になります。
正式な式典や格式高い結婚式に主賓として出席する場合、また授賞式などのフォーマルな場で落ち着いた控えめな着物を着用した場合におすすめです。
三つ紋
染め抜き日向三つ紋を入れることで、準礼装の格になり一つ紋の訪問着より格上になります。
パーティーやお茶席などに着用できますので、控えめに装いたいときにおすすめです。
着物の格としては親族の結婚式に着用可能とされていますが、親族は留袖を着るのがマナーとされていますので、おすすめはしません。
一つ紋
格としては準礼装となり色無地の中で最も一般的で、パーティーなどの華やかな場では洒落紋を用いても素敵です。
友人の結婚式や披露宴全般、七五三やお子さんの行事ごと、お茶席などでも着用できますのでフォーマルな場面での着用が主な目的であれば一つ紋がおすすめです。
慶弔両用できる地紋と色で一枚作ると、いざという時にとても便利です。
紋なし
カジュアルにも、フォーマルにも着用したいという場合は紋を入れずに帯で格調を整えるのがおすすめです。
紋なしの色無地は略礼装になり、案内状などに「平服」と書かれている場合はこの略礼装に該当します。
一つ紋と同じく七五三やお子さんの行事ごとやお茶席、他にも格式ばらない友人の結婚式に一般招待客として出席する場合などに着用できます。
色無地の着用シーンと合わせる帯や小物
紋によって格が変わるのがわかったところで、今度は着用シーン別の帯や小物をご紹介します。
前提としてカジュアルな場面で着用する色無地は紋なしになります。
紋が一つでも入っている色無地はカジュアルでは着用できませんので注意してください。
フォーマルな場面
結婚式や入学式など「式」と名のつくものや、人生の節目を祝う七五三などの儀式のことを指します。
お稽古やお茶席で着用したい場合は、流派やお茶席の格式などにより大きく変わりますので、師範に確認するのが望ましいです。
お祝い事
結婚式や披露宴、入学式や卒業式、授賞式などのシーンでは、金や銀の刺繍が入った格のある袋帯で二重太鼓を締めるのが一般的ですが、金糸や銀糸を用いた錦織や唐織であれば、名古屋帯を締めることもできます。
その際衿元に、着物の地色よりも薄い色の重ね衿を入れましょう。
二重太鼓と重ね衿に共通する意味合いとしては、「お祝いを重ねる」という意味があるからとされています。
名古屋帯は袋帯を簡略化したもので一重太鼓になりますが、そこまでチェックする人はあまりいません。
帯の素材や柄が、着用する場にあっていることが大切です。
また、着物の地紋はお祝いの席のみで使える松竹梅や鶴亀などにちなんだ吉祥文様がおすすめですが、慶弔両用で使える流水柄や雲柄も着用可能です。
半衿は白、帯揚げや帯締めは上品で金糸や銀糸が少し入っているものがおすすめです。
草履バッグは上品なフォーマルなものを選びましょう。
弔い事
通夜や法事などの際に薄紫、グレー、渋めの水色など寒色系の色であれば、色喪服として着用することも可能です。
お悔やみの席では光沢のある生地ではなくマットな質感で、地紋は流水柄や雲柄を選びましょう。
帯は黒一色の名古屋帯を、小物類も黒で統一しましょう。
草履バッグは告別式では黒を、法要では重すぎないグレーなどがおすすめです。
カジュアルな場面
小紋や紬と同じ普段着感覚で着用する場合はカジュアルな名古屋帯や半幅帯を締めましょう。
普段着として着用する場合は自分が主役なので好きな小物合わせを楽しめます。
帯揚げや半衿なども柄の入ったもので遊ぶのもひとつです。
紋 | 色・生地 | 地紋 | 帯 | 衿元 | 小物 | 草履バッグ | |
友人の結婚式などのお祝い事 | 一つ | 決まりはないが、明るめの色がおすすめ | お祝い柄である吉祥文様か、流水、雲などの無難なもの | 金糸、銀糸入りの華やかな袋帯 | 白半衿・白or着物の色目より少し明るい重ね衿 | 金糸や銀糸入りの上品な帯締め帯揚げ、五枚こはぜの白足袋 | 明るめで上品な色合いのもの |
通夜・法事 | 一つ | 光沢のない薄紫、グレー、渋めの水色など | 流水・雲や有識文様 | 黒の名古屋帯 | 白半衿 | 黒、五枚こはぜの白足袋 | グレー(黒でも可) |
告別式 | 一つ | 光沢のない薄紫、グレー、渋めの水色など | 流水・雲や有識文様 | 黒一色の名古屋帯 | 白半衿 | 黒、五枚こはぜの白足袋 | 黒 |
普段使い | なし | 自由 | 自由 | 名古屋帯、半幅帯 | 自由 | 自由 | 自由 |
色無地の選び方・着用シーンについて解説
色無地を購入する際は、実際どうやって選んだらいいのか悩みますよね。
選び方のポイントをまとめますので、購入時の参考にしてみてください。
着用シーンで選ぶ
まず一番大切でわかりやすいポイントが、どんな場面で着ることが多いのか。
フォーマルかカジュアルか、はたまた両用にしたいのか。
前項を参考に考えてみてください。
予算、生地で選ぶ
一口に色無地と言っても、素材の違いで値段が大きく変わります。
着用の場面ももちろんですが、着る頻度や手持ちの着物との兼ね合いもあるかと思いますので、参考にしてみてください。
正絹(シルク)
一般的に古くからある着物は“正絹”という素材で、いわゆるシルクで織られています。
正絹は肌触りが良く、夏は涼しく冬は暖かいとても着心地の良い素材です。
見た目の質感も、地紋の出方もやはり絹の方が美しいです。
ただし繊細なため、自宅での洗いができないため、着用後のお手入れは着物専門店などの着物クリーニングができるお店に頼むようにしましょう。
価格としては大体10万円前後~になります。
仕立ての際は裏地も必ず正絹を選ぶようにしましょう。
安くなるからと表地は正絹なのに裏地をポリエステルにすると、絹の特性上寸法が狂いますのでご注意ください。
化繊(ポリエステルなど)
もう一方が“化繊”の着物で、近年普及したポリエステルなどの化学繊維で織られた着物です。
一般的にポリエステルは、通気性が悪く夏は暑く冬は静電気が起きやすく着心地が悪いと言われています。
しかし近年ではポリエステルの中でも着心地が昔に比べると格段に良くなった生地なども開発されています。
化繊の良いところは、やはり自宅で洗えること。
お手入れが自分でできるとクリーニング代もかかりませんし、天候などに左右されずに袖を通すことができます。
ただし化繊の着物に紋を入れたい場合は、薬剤によって生地が溶ける可能性がある為抜き紋を入れることが難しく、縫い紋での対応になることが多いです。
また、化繊の着物は正式な場には向かないという声を聞くことが多いですが、着物の素材によって格が変わるということはありませんので、きちんとサイズの合った着物で場にあったコーディネートができていれば何も問題はありません。
ただし着物の方が多く集まるような場ではどうしても見比べられる為、ものによっては絹の着物に見劣りする可能性はありますので、気になる方は状況に応じて選ぶのをおすすめします。
化繊のものはすでに仕立て上がっている「プレタ」と呼ばれる既製品の着物も多くあります。
安いものであれば1万円以下で購入することも可能ですが、誂え品ではないのでサイズがきちんと合っているかを確認するようにしましょう。
また、プレタの場合は値段相応であり、着心地は良くないものと認識しておいた方が良いでしょう。
誂え品で着心地が改良された化繊であれば、仕立て方にもよりますが5万円前後のものが多いです。
色・トレンドで選ぶ
着物にも流行は少なからず存在しますが、アパレルに比べてかなりゆったりとした移り変わりですので“着物”というよりかは衣服業界全体のトレンドを参考にするのも一つの方法です。
特に昔によくあった「紫色」「臙脂(えんじ)色」「抹茶色」「金茶色」「重いピンク色」のような色味はどうしても昔っぽさが出てしまい、今っぽくコーディネートをするのは難しく感じます。
しかし洋服に比べて特段はっきりとした流行はありませんし、色無地は長く着るものですから自分に似合う色を選ぶのが一番おすすめです。
「自分に似合う色がわからない…。」という方は、着物屋さんや似合う色診断などを行っているプロの方に診てもらうと参考になりますのでお悩みの方は検討してみてください。
色無地のQ&A
Q.一色の着物なら色無地と捉えていいの?
A. 色無地に分類される着物は『地紋のある、または地紋のない白生地を一色に染めた着物』です。
着物の作りは、「織り」と「染め」に分類されます。
生糸で白生地を織り、後から色を染めるものを「染めの着物」と呼びます。
色無地や、留袖などの礼装になり得る着物はすべて「染めの着物」に分類される柔らかい生地のものです。
一色で染めているものでいうと、紬などの「織りの着物」にも存在はしますので、一般的にいう着物の分類としての色無地の定義は、『地紋のある、または地紋のない白生地を一色に染めた着物』と覚えておくと良いでしょう。
Q,色無地におすすめの紋の種類は?
A.三つ紋なら染め抜き日向紋、一つ紋なら縫いの陰紋がおすすめです。
紋の中でも一番格式高いとされているのが、紋の形を面で染め抜き枠を墨描きされた『染め抜き日向紋』です。
紋の技法は格の高い順に、『染め抜き>摺り込み>縫い』となります。
2種類ある紋の表現の格は、『日向紋>陰紋』となります。
縫い紋を選ぶ場合、着物と同系色の糸を選ぶのがおすすめです。
Q.色無地をレンタルすることはできる?
A.可能です。レンタルを行っている着物屋さんなどに相談してみてください。
その際、必ず着用場面を伝えるようにしましょう。
レンタルの相場は15,000円程ですが、人気の色目や紋によって変わります。
レンタルの場合、紋は『五三の桐』が付いていることが多いですが、着物と同じ素材の別布に紋を描いて貼り付ける『張り紋(切り付け紋)』もあり、お店の許可があれば自分の家紋を付けることもできますので相談してみてください。
Q.夏の時期の結婚式に袷の色無地での参列は可能?
A.可能です。会場で着付けができるよう手配しましょう。
一般的に着物の仕立て方により着用時期が変わりますが、フォーマルの場合は袷を着用しても問題ありません。
その際、自宅からでは暑く着ていくことはできませんので、必ず会場で着付けてもらうようにしましょう。
まとめ
光の加減で美しく浮き出る地紋によって良さを引き出し、帯や小物次第でいろんな顔を見せてくれる色無地。
勿論家紋があれば格が上がり正式なものになりますが、できる範囲の中で守りながら着物を楽しんでください。