普段、着なれない着物にはいろいろな疑問があります。
「振袖は特別なときに着る着物だよね?」「普段着だと袖が短いものなら何でもいいの?」
このように考えてはいませんか。
着物には格があり、留袖や振袖は第一礼装、訪問着や付け下げは準礼装です。
普段着は一番下の格となります。
着物はもともと日本人が普段着として着用していました。
当記事では、着物の普段着の意味や現代でも気軽に着られる和服を紹介します。
手持ちの着物がある方は、普段着としてぜひ活用してみましょう。
普段着・洒落着とは
和装の中で最も格式が低い着物が普段着と呼ばれています。
気軽にお出掛けの際に着る着物が普段着です。
普段着を格式の面からみてみましょう。
着物における普段着・洒落着の歴史
現代の着物は、平安時代中期に身分の高い成人女性の正装であった十二単の下着である「小袖」にあたります。
明治維新により着物一色であった日本に洋装が導入されました。
和服から洋服へと一気に変わったわけではなく、最初に皇室や政府の正装が洋装となり、同時に軍人や駅員・郵便局員などの公的機関の制服にもに洋服が採用されたのです。
昭和時代、第二次世界大戦終戦後に洋装は急速に進歩し日常生活に浸透しました。
また江戸時代にオランダ商船により日本の着物がヨーロッパへ渡りました。
オランダの知識階級では着物を仕立て直し、上下が一続きになったローブと呼ばれる室内着が流行したのです。
当時のヨーロッパはコルセットでウエストをしめつけるドレスの時代でした。
日本の「KIMONO」はコルセットなしで着用できる開放的な室内着として流行したのです。
江戸時代に着物という呼び名はありました。
公家が儀式では「大袖」を着用していたため、それに対する言葉として「小袖」の呼び名が残っていましたが、明治時代になり「大袖」の着用がなくなったため、「小袖」=「着物」となったのです。
略礼装との違い
着物には格があり、略礼装と普段着で格が違います。
礼装、準礼装、略礼装などの冠婚葬祭に着られる着物と、外出着、街着、家庭着などの普段着に分けられるのです。
略礼装は、付け下げや紋付の江戸小紋(えどこもん)となります。
紋の入らない色無地や小紋、紬(つむぎ)などは外出着、ウールや木綿は家庭着と呼ばれ、どれも普段着です。
略礼装と普段着では格が違うので、外出先によって使い分けましょう。
普段着物と家紋
普段着に家紋入りの着物を着るのは、格式からいうとルール違反です。
紋付は礼装であり、冠婚葬祭にふさわしい着物となります。
しかし、現代では着物を着る機会も少なくなり、紋があるから着られないとしまい込んでおくより、紋付の着物に名古屋帯を合わせるなどのカジュアルダウンさせて着たらよいのではないでしょうか。
刺繍で紋を表現した「縫い紋」もあり、一般的には略礼装扱いです。
刺繍で紋を縁取る円を飾りつけた家紋は「加賀紋(かがもん)」と呼ばれ、縫い紋に含まれます。
加賀紋は「洒落紋(しゃれもん)」と呼ばれるため、現代では刺繍紋=洒落紋と考える方も多いです。
家紋をぼかしたり、多色使いをしたりする縫い洒落紋は、格というよりおしゃれ扱いになり、よりカジュアルな扱いになります。
普段着として家紋入りの着物では格には合いませんが、一つ紋の着物であれば少しの工夫で普段着として着られるでしょう。
普段着・洒落着に該当する着物
普段着・洒落着(しゃれぎ)に該当する着物は、洋装でいうとスーツやブラウスとスカート、TシャツとGパンなどにあたります。
お出かけから家でリラックスしたいときに着ている洋服です。
着物の普段着・洒落着を詳しくみていきましょう。
色無地
色無地は単色で柄や模様のない無地の着物です。
紋入りの色無地は略礼装になり、暗めの色合いであれば黒の帯を合わせ法要にも着用できます。
入学式や卒業式のお祝いの席やお茶会にふさわしいでしょう。
単色で地模様のみの色無地は、帯や小物に合わせやすく、万能の着物といえます。
小紋
小紋は、着物全体に小さな模様が繰り返し入っている着物です。
基本的にお出かけ着となります。
柄の種類が豊富にあり、格式の高い古典柄の小紋は、軽いお茶会やパーティーなどでも着用が可能です。
小紋は、全面に同じ模様が同じ方向に繰り返し入ったおしゃれ用の着物となります。
御召
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御召(おめし)は御召縮緬(おめしちりめん)の略で、織の着物としては最上級の品です。
「高貴な方がお召しになる」といった意味から御召と呼ばれたと言われています。
観劇や食事会、お稽古などに幅広く着用が可能です。
紋を付けると略礼装にもなります。
格のある場所でも着られる御召は、織の着物としては最高級品です。
紬
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紬(つむぎ)は織の着物で、節(ふし)のある糸で織った先染めの織物です。
昔は家庭着とされ家の中で着ていましたが、現代では外出着としてお出かけに着用されています。
習い事や友人との食事など、気負わずに着られる着物です。
大島紬など高価な品であっても、婚礼や茶会などの格の高い礼装には不向きとなります。
紬は織の着物の代表です。
木綿
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木綿は普段着の代表格の着物となります。
家で洗濯が可能で、手入れが簡単です。
主な木綿の着物は、会津木綿(福島)、片貝木綿(新潟)、遠州木綿(静岡)、伊勢木綿(三重)、備後絣(広島)、久留米絣(福岡)などとなります。
食事やショッピング、美術館めぐりなど、気軽なお出かけで着用が可能です。
最近は洋服地の木綿の着物もあり、チェック柄やドット柄、デニム素材など、おしゃれに着られます。
ウール
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ウールは木綿と並ぶ普段着の代表で、羊毛で織られた着物です。
安くて丈夫だったため、昭和時代は普段着として流行しました。
家庭で洗濯ができ、お手入れが簡単です。
最近はレトロ柄がかわいいと再び人気が復活しています。
ウールには羽織の着いたアンサンブルがあり、初詣などの真冬の外出でも暖かく着られるのでおすすめです。
普段着物に合わせる帯や小物
普段使いの着物には、TPOに合う装いはあるものの、礼装と比べて決まりごとが少なく、自由度が高いです。
同種類の着物でも、色、柄によって合わせる帯や小物でよそ行き感を出したり、カジュアル感を出したりと個性的でおしゃれな雰囲気を楽しめます。
着物に合わせる帯や小物を解説しましょう。
帯
名古屋帯や半幅帯、兵児帯(へこおび)がおすすめです。
袋帯なら染めなどの洒落袋帯(しゃれふくろおび)を選びます。
金銀の配色や有職文様(ゆうそくもんよう)など格の高い袋帯は礼装で着用する帯なので避けましょう。
おうち時間やスーパーのお買い物などには、帯枕、帯揚げ、帯締めなどを使わずに着られる半幅帯や兵児帯を締めて、ゆったり過ごします。
普段着に合わせる帯は、礼装以外の帯です。
羽織・コート
羽織やコートは着物の上から着用するもので、厳格な格は存在しません。
羽織の紋付は礼装となりますが、紋付以外は着物とのコーディネートを楽しめるのです。
コートは洋装と同様に、室内では必ず脱ぐといったマナーがあります。
羽織は着たままで良いので、帯結びに自信がなく隠したいときや、着物との相性が良くおしゃれに見せたいときに活躍するでしょう。
羽織やコートは厳格な格がないので、その日の天候やTPOに合わせておしゃれに着こなしましょう。
長襦袢
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長襦袢は、礼装とは違い遊び心のあるおしゃれなデザインが好まれます。
内袖で目を引くような色使いであれば、より粋な感じです。
長襦袢は着物の土台になるので、正絹(しょうけん)がおすすめとなります。
正絹は冬暖かく、夏は涼しく、着物との相性や着心地も良いです。
しかし正絹は高価で手入れも大変です。
普段使いには紋綸子(もんりんず)、楊柳縮緬(ようりゅうちりめん)、ウール、木綿、化繊などの長襦袢を合わせます。
色や柄は自由に選び、着物とのコーディネートを楽しみましょう。
帯締め・帯揚げ
帯締め、帯揚げも何を使っても問題ありません。
金糸・銀糸は礼装用にあたるので使わないほうが無難です。
名古屋帯はお太鼓が一重になるので、細めの帯締め、帯揚げはすっきりしたものを使うとバランスよく着こなせます。
着物によってはスカーフを帯揚げ代わりに利用しても大丈夫です。
普段着は堅苦しくない着物のため、帯締めや帯揚げの格も揃えるように気をつけましょう。
草履・バッグ
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草履やバッグはカジュアルなものを選びます。
草履は礼装用を避け、かかとが低めで鼻緒や全体に色柄のあるものが普段履きです。
バッグは洋装用など何を持っても構いませんが、ショルダーバッグやリュックサックは衣文(えもん)や帯に影響が出てしまうため、おすすめはしません。
草履・バッグは着物とのバランスを考えて、おしゃれに選びます。
半衿・足袋
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半衿・足袋も自由に選べます。
白でなくても好みの色や柄で合わせられるのです。
半衿ならビーズやレース、足袋なら色足袋や小紋柄などたくさんの種類がそろっています。
着物に合わせて半衿や足袋を選ぶと、着こなしの幅が広がるでしょう。
着付け小物
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着付けには、普段着であっても下記の肌着や紐類が必要です。
衿芯は前もって、長襦袢の衿に入れておきます。
成人式で使用したものでも大丈夫なので、一式揃えておきましょう。
着物生活のランクを上げるアイテム
日常生活にも和服を取り入れてはいかがでしょうか。
家の中で着物を着るのに抵抗のある方も下記の和服なら大丈夫かもしれません。
ひとつずつみていきましょう。
日常着に必須!割烹着
家で着物を着るなら割烹着が必要です。
家事のとき着物の上からはおれば、着物を汚さず動けます。
白い昭和風割烹着もありますが、最近は素材、機能、シルエットが進化中です。
素敵な割烹着を探して、お家時間を楽しんでください。
自転車にも乗れる!もんぺ
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もんぺは戦時中に女性がはいていた印象が強く、古臭いイメージです。
作業着だったもんぺは、最近でははきやすくくつろげる普段着として変化しました。
はき心地の良さとデザイン面での両立がかないます。
お気に入りのもんぺを探してワードローブにくわえてみてはいかがですか。
オールラウンダー!作務衣
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作務衣(さむえ)はパジャマ、部屋着、仕事着、外出着として着られる和服です。
上は紐を結ぶだけ、下はズボンスタイルなので、誰にでも簡単に着られます。
職人感はありますが、タートルネックを中に着たり、パーカーを合わせてみたりと個性的な着こなしが可能です。
オールラウンダーの作務衣をぜひ着てみてください。
夏のお祭りだけじゃない!甚平
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甚平(じんべい)は最もカジュアルに着られる和服です。
暑い夏に涼しく過ごすために作られました。
洋服でいえば、Tシャツと短パン姿と同等となります。
Tシャツ・短パンで出かけられる場所なら、甚平も大丈夫です。
袴は普段着にも使える?
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袴(はかま)にはスカートタイプとキュロットタイプの2種類があります。
どちらのタイプも着物より足さばきがよく、日常生活に向いている和服です。
個性的で他人とかぶらないファッションが楽しめます。
ブーツや普段使っている小物を合わせると、和洋ミックスになりモダンなコーディネートが可能です。
着用シーンで選ぶ普段着物
着物の格式上、普段着とはいえ場所やシーンによって着ていける着物の種類が変わります。
季節感を柄や小物での演出も可能です。
詳しく解説します。
ランチ会や食事会
ランチ会や食事会には、外出着の装いがふさわしいとされています。
洋服であっても改まった席や友人との集まりには、くつろいだ家着から外出用の洋服に着替えて出かけるでしょう。
ホテルのアフタヌーンティー | 正絹小紋、付け下げ、控えめな柄行の訪問着 |
近所のカフェ | 正絹小紋、レトロ着物、カジュアル着物 |
居酒屋 | レトロ着物、カジュアル着物、おしゃれ着物 |
食事にはハンカチと着物用ハンカチクリップの持参がおすすめです。
和食の食事会では、衿元に懐紙(かいし)を携帯して受け皿として使うと上品に見えます。
ランチ会や食事会であっても、その場所にふさわしい着物選びが大切です。
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美術館や観劇
美術館や観劇には紬や小紋、御召などの装いがぴったりです。
美術館では派手な色柄が作品のそばにあると落ち着いて鑑賞できなくなりがちなので、派手な色柄は避け、周りの雰囲気と調和する落ち着きのある着物を選びます。
帯は染めか織りの名古屋帯か八寸帯です。
観劇には寄りかかれる帯枕の観劇枕をおすすめします。
軽くて体にフィットするので、観劇や長時間の電車移動などにぴったりな帯枕です。
美術展や観劇に限らず、着物で季節感を取り入れる装いは本人にも周りの方へも楽しみのひとつとなります。
季節を伝えてくれる花柄や行事柄の染め帯は便利なので、外出着に合わせて持っておくと重宝するでしょう。
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日常
着物は昭和初期までは日常生活で着られていました。
家で洗濯が出来る手入れが楽な素材を選ぶようにします。
木綿やウールでも構いませんが、最近ではポリエステル製の着物も販売されているのです。
着物がすぐに着られるように簡単仕立てや、帯は初めからお太鼓が出来ているつくり帯への加工もおすすめします。
着物を着ていると普段よりも立ち居振る舞いが丁寧になるでしょう。
なんでもない日常を着物で彩ってみませんか。
普段着物におすすめの素材
普段着となる着物は手入れが簡単で着心地の良さが求められます。
日常着であれば家で洗えることが重要です。
着心地は断然絹が一番であり、正絹の場合は撥水(はっすい)や防汚(ぼうお)効果のあるガード加工をおすすめします。
現代の生活スタイルに沿って、みていきましょう。
木綿
木綿は丈夫で肌触りが良く、手入れも楽です。
汗を吸いやすい素材で、風通しもよく暑がりな方や暑い季節にぴったりとなります。
逆に寒がりでエアコンによる冷えが心配な方は、着物用の肌着を着ると良いでしょう。
浴衣の多くが木綿でできているので、夕涼みや花火大会のお出かけにも活躍します。
ウール
ウールはシワになりづらく、単衣(ひとえ)仕立てのため自宅で洗えます。
保温性が高く、寒い時期に向いています。
保管の際、カビや虫食いに注意が必要です。
正絹の着物と同じ引き出しには入れず、同じウールや木綿の着物、帯と一緒に防虫剤を入れて保管します。
ウールの着物で、下にタートルネックやハイネックのシャツを着るといった現代風のアレンジもおすすめです。
ポリエステル
ポリエステルの着物は安価で購入でき、気軽に洗濯ができるのがメリットです。
汗を吸いにくく通気性が悪いといわれていますが、雨の日やお子様連れの方には重宝されています。
最近では東レ株式会社から清涼快適新合成繊維の「セオアルファ」が発売中です。
セオアルファはスポーツウェアにも使用されている清涼感のある生地で、夏でもさらさらしたドライ感のある快適な浴衣になります。
セオアルファに半衿・足袋・名古屋帯で着物風のコーディネートも夏の素敵なスタイルです。
普段着物のQ&A
Q.どこにでも着ていっていいと言われますが、それでも着物が合わない場面はある?
激しい動きや汚れる場面です。
たとえば、川遊びやBBQなど、洋服でも服を選ぶような場面に着物は避けましょう。
Q.普段着なのに着物は着方をきちんとしなくてはいけないの?
和洋折衷も素敵です。
普段着は好きなように着こなしてください。
着物警察に出会ってしまったら、無視するのが一番ですが、無視する勇気がなければ「ありがとうございます」「参考にします」と一言で立ち去るのが無難です。
Q.着物が着られるお稽古は?
茶道、華道、日本舞踊、お琴、着付けなどになります。
興味があればぜひ習いに行ってみてください。
Q.日々着物を着る上でもっと着やすさを追求したい。なにかおすすめは?
思い切って仕立てを簡易的にするのもおすすめです。
帯では太鼓ができあがった状態のワンタッチ帯加工をしたり、着物ではおはしょりが初めからついている特殊仕立てなどがあります。
まとめ
普段着や洒落着は洋服と同じように、自分のためにおしゃれをすると考え、いろいろな着こなしに挑戦してみてください。
色、柄、種類がたくさんあり、可愛くも素敵にも楽しめるのが着物です。
和服を一つのアイテムとして考え、普段に着るワードローブの選択肢にくわえてはいかがでしょうか。
着物は式やフォーマルな場面ではTPOが必要ですが、それ以外の場面では自分らしく好きなように楽しみましょう。
着物の格を知りたい方は下記を参照してください。