着物の種類

2022.9.5

着物の素材には何がある?生地の種類と見分け方・選び方を紹介

着物の素材には何がある?生地の種類と見分け方・選び方を紹介

着物には様々な素材が使われていますが、どのような種類があり、それぞれどんな特徴があるかご存知でしょうか。「着物を着てみたいけど、絹以外にどんな素材があるの?」「素材によって着る季節やシーンが限られているのでは?」「どうやって素材を見分ければいいの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、代表的な着物の素材や生地の種類について、特徴やメリット・デメリット、生地の見分け方や季節によっての使い分けを紹介します。それぞれの生地のポイントを知っていれば、これからの着物選びもしやすくなります。

着物の素材5種

着物の素材の代表格である絹は、蚕の作る繭から取り出した糸から作られ、特に絹100%の生地は「正絹(しょうけん)」と言います。やわらかい質感で肌馴染みがよく、優れた保温性と吸水性を備えています。見た目は光沢感があり高級感のある素材です。一方で、水に濡れると縮んでシミになりやすい性質のため、着物の素材の中でも特にデリケートな素材と言えます。

●メリット
・通年で使用できる(熱を伝えにくいため夏は涼しく、冬は暖かい)
・肌触りがいい
・静電気がおきづらい
●デメリット
・手入れに手間がかかる(自宅での洗濯ができない)
・水に濡れたら縮み、シミになりやすい
・摩擦に弱い
・他の素材に比べて高価

木綿

綿花から取った糸で作る木綿は、肌に優しく柔らかな着心地が特徴です。日本各地で木綿が生産されるようになった江戸時代以降、それまで麻が主流だった庶民の普段着として木綿が定着しました。通気性と吸湿性に優れているため、現在でも普段着や浴衣などに使用されます。仕立ては袷の季節に着る時も、裏地を付けない単衣に仕立てるのが一般的です。

●メリット
・自宅で洗濯ができる
・汚れが目立ちにくい
・絹に比べて安価
●デメリット
・シワができやすい
・生地が縮みやすい
・色落ちしやすい

大麻の皮からとった繊維で作る麻糸を織って作る麻布は、透け感があり、耐水性に優れ丈夫な素材です。麻の生地には、糸に強い撚りをかけて織り生地の表面にシボを出す「縮(ちぢみ)」と、細い糸(苧麻)を平織にしてつくる「上布」の2種類があり、それぞれ、「小千谷縮」「近江縮」、「越後上布」「宮古上布」など有名な産地があります。

●メリット
・自宅で洗濯が可能
・繊維が丈夫
・吸水性があり乾きやすい
●デメリット
・シワができやすい

毛(ウール)

羊の毛から作るウールは、保温性に優れ、絹に比べて厚手でザラついた肌触りになります。昨今では絹を織り交ぜたシルクウールもあり、より滑らかな肌触りのものもあります。

●メリット
・自宅で洗濯が可能
・絹に比べて安価
・シワになりにくい
●デメリット
・虫に食われやすい(ただし、虫食いが起きづらいシルクウールなどもある)
・ざらついた肌触りなため、肌が敏感な人などは注意が必要

化学繊維

絹に似せて作られた化学繊維の着物は、ポリエステルやレーヨンが使われますが、特にポリエステルが多いです。化学繊維は発色が良いというメリットがある一方で、熱を逃がしにくく静電気がおきやすいというデメリットがあります。一昔前の化学繊維の着物は、絹に比べて固い肌触りでゴワゴワする感触と言われていましたが、現在は東レの「シルック®きもの」のように絹のような肌触りに近づいてきています。また、「セオα(セオアルファ)」という吸湿性に優れた夏用の素材も開発されています。

●メリット
・絹に比べて安価
・自宅で洗濯が可能
・皴になりにくい
・保管しやすい
●デメリット
・熱を逃がしにくいため、夏は暑い
・静電気が起きやすい

織り方の素材6種類

着物の生地は、糸の種類だけでなく織り方にも様々な種類があり、同じ絹でも織り方で生地の風合いが変わります。ここでは代表的な6つの織り方を紹介します。

縮緬(ちりめん)

平織の絹織物。経糸に、強く撚った緯糸を交差させて織ります。そうして織られた生地を煮沸すると、強く撚った緯糸が戻ろうとするため、表面にシボ(凸凹)が現れます。縮緬は厚手で温かみがあるため、秋から春先の時期に用いられます。

綸子(りんず)

綸子は繻子織で織られた生地のこと。繻子織とは経糸、もしくは緯糸を長く浮かせて織る方法で、しなやかな光沢が特徴です。生地が薄いため、袷のほかに単衣にも用いられます。

羽二重(はぶたえ)

羽二重とは平織の生地のことで、細い経糸2本と緯糸1本を交差させて織ります。そのため滑らかな光沢が生まれ、軽くて柔らかい肌触りとなります。

御召(おめし)

御召とは御召縮緬の略で、経糸、緯糸ともに撚りをかけた糸を用いて織り上げていきます。表面にシボが出るのが特徴で、光沢と独特のシャリ感があります。

紬(つむぎ)

紬とは紬糸を使って織った生地のことです。紬糸とは、真綿を引き出して糸にしたものですが、玉糸(1つの繭の中に2つの蛹が入った玉繭からとった節のある絹糸)などを使って、紬の風合いを出したものも含まれます。代表的なものは、大島紬、久米島紬、牛首紬、結城紬などがあります。
紬についてはこちらの記事もご覧ください。

紗(しゃ)

搦み織(からみおり)の一種で、経糸2本が互いに絡む間に緯糸1本を交差させて隙間をつくる織り方です。生地の目が非常に粗いため、見た目にも涼しく、夏の時期に適した生地です。紗の他に、同じく搦み織の一種である絽(ろ)や羅(ら)も、夏の時期に使用する「薄物」として用いられます。

着物生地の素材の見分け方

では、実際にこれらの生地をどのように見分ければ良いのでしょうか。ここでは素材を見分ける3つの方法を紹介します。

風合い・着心地の違い

生地の風合いや着心地からある程度、素材を見極めることができます。絹は滑らかな肌触りで、着心地も体になじみやすい素材です。化学繊維は、以前はゴワゴワとした肌触りでしたが、近年では絹に近い滑らかな肌触りに近づいています。とはいえ、絹と比べて光沢感はなく、より乾いた肌触りになります。ただし、何度か手入れをした絹も次第に肌触りが固くなってきますので、見た目や触っただけでの判断が難しい場合もあります。
木綿や麻は絹に比べてざっくりとした風合いなので、見た目や肌触りで分かりやすいと思います。ウールは毛羽立ちがあり、触るとチクチクする感じがあるので、明らかに違いが分かります。

証紙を確認する

※反物商品(証紙画像あり)

※着物商品(証紙画像あり)

反物には証紙(しょうし)と呼ばれる品質保証書がつけられているものもあるので、それを確認しましょう。証紙には糸を紡いだ職人や、生地を織った職人の名前などが記されているので、素材だけでの確認のためだけなく、産地や品質の保証になります。着物に仕立ててあるものでも、証紙が付属される場合もあるので、気になる方は証紙がついているかお店に訪ねてみるのも良いでしょう。

端切れを燃やす

あまりおすすめはしませんが、端切れや着物に影響しない部分の糸を燃やし、燃え方で素材を確認する方法もあります。これはあくまでも最終手段ですので、試す際は十分注意してください。
●燃え方の違い
・絹…火をつけた部分が早く燃え、その部分だけがチリチリになり、燃えた部分が黒い塊になり、押すとポロポロと崩れます。また髪の毛を燃やした時と同じような臭いがします。
・木綿/麻…絹に比べて早く燃え上がります。燃え方は似ているので
・毛(ウール)…絹と同じような燃え方をしますが、嫌な臭いが発生します。
・化学繊維…ポリエステルの場合、黒煙を出して溶けるように燃え、独特の臭いが発生します。レーヨンの場合は、燃え方も臭いも紙を燃やした時に似ており、ぱっと燃えあがり、白い灰になります。また独特の臭いがあります。

季節で選ぶ着物の素材

【素材】絹、木綿 【仕立て】袷(木綿の場合は単衣)
3~4月の春の時期には、仕立ては「袷」を着るのが基本です。素材は絹や木綿は通年使用することのできるものが多いですが、木綿の場合は単衣仕立てが一般的です。織り方は、紗など薄物以外であれば問題ないでしょう。

【素材】絹、木綿、麻、サマーウール 【仕立て】単衣・薄物
初夏(6月頃)は「単衣」、7~8月の盛夏は紗など「薄物」が基本です。素材は絹のほか、木綿や麻といった通気性の高い素材が適しています。またウールでも夏用のサマーウールの着物もあるので、暑い日に快適に過ごせる生地を選びましょう。

【素材】絹、木綿、麻/紬 【仕立て】単衣・薄物(9月まで)、10月以降は袷
暑さがまだ残る9月頃は、初夏と同じく「単衣」(暑ければ薄物も可)になります。素材も絹、木綿、麻など初夏と同じ素材で構いませんが、柄や色合いなどは変えて、秋の涼やかで落ち着いた雰囲気の着物がより良いでしょう。

【素材】絹、木綿、ウール【仕立て】袷
10月~翌年4、5月までが袷の季節になります。この時期に適した生地は、絹や厚手の木綿のほか、保温性の高いウールがおすすめです。春と同様、薄物以外であれば、縮緬・紬・御召など様々な織の着物を着ることができます。

お手入れ方法で選ぶ着物の素材

着物の素材で気になるのは、お手入れの仕方ではないでしょうか。クリーニングに出した方がいい素材、自宅で洗濯ができる素材についてそれぞれ紹介します。

クリーニングに出す

着物の素材の中でも最もデリケートな絹は、水に濡らすとシミになり、摩擦にも弱い素材のため、基本的にお手入れは専門店に任せるのが無難でしょう。繊細な絹をなるべく汚さないためにも、クリーニングの際に併せてガード加工という撥水加工を依頼すると、シミや汚れの防止になるのでおすすめです。シルクウールも絹が使われているので、お店での手入れをおすすめします。

家で洗う

自宅での洗濯が可能な素材は、木綿、麻、ウール、化学繊維です。手洗いの場合は押し洗い、洗濯機を使う場合は、着物を洗濯ネットに入れて、ドライ(おしゃれ着洗い)モードなど生地を傷めないように洗い、陰干しをするのが基本です。それぞれの素材についての詳しい手入れの仕方については、各素材の関連記事もご参照ください。

着物の素材Q&A

Q.初心者におすすめの素材は?

着付けがしやすいという点で、絹よりも化学繊維や木綿といった生地が固めの素材がおススメです。着物の扱いに慣れていない初心者の方でも、形を決めやすいです。絹の中では紬や御召がおすすめです。

Q.静電気をなるべく減らす対策は?

まずは、着物と長襦袢の素材を合わせることです。また化学繊維であれば、静電気を抑えるスプレーなどを使う方法もあります。

Q.袷の着物を仕立てる場合、裏地は化繊でもいい?

裏地と表地は合わせましょう。ふくろ(たるみ)の原因になります。

Q.着物の素材によって格は変わるの?

格は着物の柄付けで決まります。
※ただし、安い着物は縫製や染め上がりもそれ相応であり、見たときに見劣りする可能性はあります。

まとめ

絹は柔らかくて年中使用できる素材で高級感のある素材ですが、デリケートなため気を遣う事も多く、手入れに手間がかかる点が難点です。そうした絹に対して、通気性の高い木綿や麻、あるいは保温性の高いウールなどの素材は、家でも洗濯でき、普段着として使いやすい素材です。また、化学繊維は絹のような滑らかな質感に似せつつ、家で洗濯できる手軽さから使いやすい素材です。
それぞれの素材の特徴を意識して、季節や使うシーンに合わせて素材を選んでみてください。