着物にも衣替えの時期があり、季節に合わせた種類があります。
洋服でもあまり厚着をしない季節には、「単衣(ひとえ)」の着物がぴったりです。
この記事の目次
単衣(ひとえ)の着物とは?
裏地、八掛(はっかけ)の付いていない着物が単衣です。
反物を着物として仕立てたときに、袖口や裾などを折り返して始末してありますので、生地としては1枚のみとなります。
また、ウールや木綿の着物は裏地を付けることの方が少ないため、基本的に単衣となります。
なお、生地1枚で仕立てられているため、袷の着物に比べると縫い目の強度が小さいというデメリットもあります。
特に、動くたびに力のかかる腰から下半身にかけての負荷が高いのですが、これは後ろ身頃に「居敷当て(いしきあて)」という別布を付けることで解消できます。
※居敷当てについて詳しく(居敷当てについて/居敷当てのメリット/居敷当てのデメリット)はこちら
単衣(ひとえ)の着物はいつ着る? 季節や月は?
さて、単衣の着物はいつ着るのがよいのでしょうか?
単衣の着物の時期(6月、9月)
基本的な衣替えの慣習では、単衣の着物を着る季節は6月と9月となっています。
10月1日~5月31日までは袷、7月1日~8月31日までは薄物(夏物)となります。
ですが、5月や10月でも暑い日が続く最近では、カジュアルな場面に着る着物に対してはこのルールが緩くなってきています。
外の気温やご自身の体感温度に合わせて、「袷では暑い……」という日には単衣を着る方も増えています。
ただ、5月でもまだ寒い日がありますので、単衣の出番が来たからと言ってすぐに袷の着物を片付けてしまわない方がいいですね。
ウールや木綿の着物は、真夏以外いつでも着られます。
決められた季節以外には着てはいけない?
「〇月の結婚式にお呼ばれしている」「ゴールデンウィークに着物でお出かけしたい」など予定が決まっているときは何を着たらいいの? と疑問を持つこともあるかもしれません。
個人的なお出かけのときには、5月や10月でも単衣を着て構いませんが、出席者や主催者の方に礼を尽くす場では、暦通りに合わせた着物を着るのが好ましいと言えます。
4月の暑い日に単衣の着物を着るのはOK?
本来6月に着る単衣を、4月に着ることには躊躇するかもしれません。
カジュアルな場でしたら、木綿などをさらりと着るのが良いでしょう。
でも、改まった場ではなかなかそういうわけにもいきません。
そんなときは、襦袢を単衣にしたり、麻素材や吸湿涼感効果のある高機能ポリエステル等のものにしたりすることで、暑さを和らげることができます。
単衣(ひとえ)の着物の種類にはどのようなものがある?
単衣の着物を着る場面と、着物の種類に迷ったことはありませんか?
礼装(訪問着、付け下げ、色無地、振袖、喪服)
礼装は、留袖、振袖、喪服、訪問着、付け下げ訪問着、付け下げ、色無地があります。
これらの素材は正絹またはポリエステルであることがほとんどで、木綿や麻、ウールなどの素材は使われません。
なお、着る時期が短いため自前で単衣の礼装をあつらえる人は比較的少なく、結婚式やお葬式などで単衣の礼装を着る場合にはレンタルされることが多いようです。
小紋(少しおしゃれしたお出かけ~普段着)
ちょっとおしゃれをしてお出かけするときや、日常の普段着には、小紋が最適です。
素材には正絹やポリエステル、木綿、ウールなどがあります。
浴衣も単衣の着物の一種です。
最近では長襦袢や足袋、草履と合わせて着物風として着る高級浴衣も増えてきました。
コーマ地と呼ばれる生地を使った、昔ながらの「ザ・浴衣」は、襦袢と合わせると暑くなってしまいますので注意が必要です。
「襦袢を着ると暑くなるけれど、どうしても着物風に着たい!」というときには、美容衿または仕立て衿、うそつき衿という、衿だけを着用することも可能です。
単衣(ひとえ)の着物に合わせる帯
単衣の着物にも色々な種類があることをご紹介しましたが、それではどのような帯を合わせたらよいでしょうか?
単衣の着物に合わせる袋帯
単衣の着物に合わせる袋帯は、春、夏、秋のスリーシーズンに使えるものを持っておくと便利です。
袋帯はその名の通り袋状に織られている帯ですので、単衣の着物に合わせる帯でも、見た目に生地1枚ということはありません。
また袋帯には礼装用とカジュアル用の洒落帯の2種類がありますが、どちらも単衣に使うものは袷の季節の帯に比べると生地が軽く薄めです。
6月に入ったら絽など夏用の帯を使います。
そして9月になったら季節感を取り入れて秋に向けた色、柄、織り方の帯を合わせると自然でお洒落です。
単衣の着物に合わせる名古屋帯
名古屋帯にも、着物と同様に、裏地や帯芯の付いておらず両端をかがっただけの単衣の帯があります。
これは単衣の着物にぴったりです。
裏地が付いていても、表地が薄いものや、楊柳などさらっとした感覚の帯なら単衣の着物にはよく合います。
4月、5月に単衣の着物を着る時には帯はあまり季節を先取りせず、その時期に合った色柄(春の花をイメージするピンクや黄色、黄緑など)の帯や、薄すぎない帯がお勧めです。
6月は夏用の帯で構いません。ただ、紗や羅など、夏真っ盛りに締める帯はまだちょっと置いておいて、絽くらいがいいですね。
9月になったら、徐々に夏帯はしまい始めて、秋に向けた軽めの袷用帯を合わせていくと良いでしょう。紅葉や秋野菜の柄、茶色系統の色を意識すると取り入れやすいです。
博多織の帯は1年を通じて使えるので便利です。
「献上柄」「献上博多帯」と呼ばれる独特の柄の帯を、見かけたことがあるかと思います。カジュアルシーンならどのような着物にも合わせやすく、オールマイティと言えますので、お気に入りの一本を見つけると良いかもしれません。
単衣の着物に合わせる半幅帯
カジュアルな単衣の着物に、半幅帯はぴったりです。
着物の素材や質感、色柄が合わせれば、たいていの半幅帯はOKです。
帯の結び方で楽しめるシーンが広がります。
ただし、礼装には合わせません。
単衣(ひとえ)の着物に合わせる襦袢、半衿、帯揚げ、帯締め
着物や帯には、それぞれ適した季節があることをご紹介しましたが、襦袢、半襟、帯揚げ、帯締めなどの小物類について疑問に思ったことはありませんか?
襦袢
長襦袢も着物と同様、袖も身頃も生地が一重に作られている単衣の襦袢があります。
基本的には単衣の着物には単衣の襦袢を合わせますが、6月と9月は夏用の絽の襦袢でOKです。
上下が分かれている二部式襦袢では、単衣用でも袷用でも、身頃は一重の木綿の晒でできていることがほとんどです。
単衣の着物には、袖が一重の二部式襦袢を用います。
モスリン素材の襦袢は保温性が高いため、寒い時期にウールの着物に合わせることが多くあります。
半衿・帯揚げ
着物は暑さに応じて薄いものに変えても、半衿や帯揚げなどの小物は衣替えの慣習通り、6月や9月から変えていくのが一般的です。
また、その方が季節感を出しやすいのでおすすめです。
5月や10月に単衣を着る時は、半襟や帯揚げは夏物ではなく、透け感の無い織り方のものが良いでしょう。
帯締め
基本的に、帯締めは一年を通して同じものを使って構いません。
着物の格や色柄、季節やお好みなどに応じて選んでください。
カジュアルなお出かけには、三部紐に帯留めで遊んでも楽しいですね。
居敷当て(いしきあて)について
居敷当てとは?
単衣の着物の後ろ身頃の縫い目を保護・補強するために付ける布です。
後ろ身頃の下半身全体、またはヒップ部分に付ける裏地のことをいいます。
木綿、ウールなどの素材の場合は、40センチ四方くらいの布をヒップの部分だけにつけることが多いのですが、正絹や紬の着物は、後ろ身頃全体につけることが多くあります。
居敷当てを付けない場合は、「背伏せ(せぶせ)」といって、背中心の縫い目を補強する縫い方をします。
居敷当てのメリット
居敷当ては、表生地の背縫い(背中心縫い目)の「きせ」(縫い目を隠すように覆いかぶせている2mm程の折り目)が取れて、縫い目が割れてくるのを防ぎます。
立ったり座ったりすることによって、お尻の部分に特に力がかかるため、縫い目の補強が無いと、最悪の場合には破れてしまうこともあります。
また、薄い着物の場合には、そのままだと透けてしまうこともありますので、居敷当てを付けることによって透け防止にも役立ちます。
特に白や淡い色の着物は、着物の生地1枚だけでは、日中の日差しによって足が透けて見えてしまうことがあります。
居敷当てのデメリット
居敷当てを付けることによって布が1枚増えるため、せっかくの涼しい単衣が暑くなりかねません。
また、着物と伸縮率が違う素材を使うと、クリーニングの際に形が崩れてしまうこともあります。
基本的には表生地と同じ素材の生地をつけるのがベターですが、仕立て代が安く、また丈夫なため、ポリエステルの居敷当てが付けられることがよくあります。
この場合、ヒップ部分だけでなく下半身全体に付けることが多いので、せっかく単衣を着ても風通しの悪いポリエステルでは逆に暑くなってしまいます。
既製品やリサイクル品など、すでに付いている場合は仕方ないとしても、反物から仕立てる時は呉服屋さんや仕立てやさんと相談してみましょう。
また、ヒップ部分だけに付ける場合には、縫い付け部分が後ろ身頃に出ます。
糸は目立ちませんが、勢いよくしゃがんだりすると、この縫い目に負荷がかかって表の生地が弱ってしまうので、少し気をつけたい点です。
まとめ
袷の着物に比べると着用時期が短い単衣の着物ですが、温暖化が進んでいる昨今、意外にも単衣の着物は重宝します。
初夏や初秋に、袷では少し暑いなと思う時に着てみてはいかがでしょうか。
袷の着物だけでなく単衣の着物も視野に入れることで、着物の着用シーンの幅が広がりますね。