「幻の布」芭蕉布とは?喜如嘉の芭蕉布の特徴や歴史、体験工房の紹介

「幻の布」芭蕉布とは?喜如嘉の芭蕉布の特徴や歴史、体験工房の紹介

沖縄の伝統工芸品の一つに、芭蕉布と呼ばれる織物があります。
聞いたことがないと、芭蕉布と言われてもピンと来ない方も多いでしょう。

「芭蕉布って一体何?」
「芭蕉…植物のこと?」
「どうやって作られているの?」

芭蕉布について初めて見聞きする方は、たいていこのように感じるのではないでしょうか。芭蕉布はその希少性の高さから「幻の布」と呼ばれ、現在に至るまで継承されています。
今回は、沖縄の伝統工芸品である芭蕉布について焦点を当て、解説していきます。芭蕉布の歴史や製造工程、お手入れ方法まで詳しく説明しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

芭蕉布とは?

芭蕉布とは、沖縄で制作されている織物のことを指します。
糸芭蕉と呼ばれるバナナの仲間の植物から採られる繊維を利用しており、沖縄県大宜味村の喜如嘉地区を中心に制作されています。
「喜如嘉の芭蕉布」として有名な織物で、昭和49年に重要無形文化財の総合指定を受けました。

伝統的工芸品『喜如嘉の芭蕉布』

沖縄の伝統工芸品である芭蕉布は、はっきりとした定義があります。

1次の技術または技法により製織された織物とすること。
(1)経糸及び緯糸に使用する糸は糸芭蕉より「苧引き」し、「手うみ」した芭蕉糸とすること。
(2)織り組織は、平織り又は紋織りとすること。
(3)染色をする場合には、先染めによること。

2かすり糸を使用する場合には、かすり糸の染色法は、「手くくり」によること。

原材料…使用する糸は、芭蕉糸とすること。

これらの条件を全て満たして、初めて「喜如嘉の芭蕉布」と名乗れるのです。

喜如嘉の芭蕉布の特徴

芭蕉布は糸芭蕉を原料にしていることから、絹とも麻とも違う独特のシャリ感がある生地に仕上がります。
着心地はさらっとしていて肌にまとわりつくことがないので、暑い夏でも快適に過ごせるようになっています。
その薄さと丈夫さから「トンボの羽」とも表現され、高温多湿の沖縄でとても重宝されている着物でもあります。

素朴な絣模様が芭蕉布らしさ

芭蕉布には素朴な絣柄が多いのですが、これは沖縄の伝統的な絣技法である「手結(てゆい)」を守っているためです。手結は絵図を使わずに、両耳のほうで緯糸を引きずらしながら織る技法のことを言います。経糸を上下、左右にずらすことによって、さまざまな模様が生み出されます。特に、緯糸の場合は同一単位の経糸を左右にずらすことで小鳥柄になったり、矢羽根になったりします。一反の中で絣柄のひとつひとつが同じ形にならない場合もあり、加減の難しさが伺えます。
また喜如嘉の芭蕉布の絣柄にはたくさんの種類があるのをご存知でしょうか。絣柄を取り入れたのは明治28年と言われているのですが、その後徐々に発達し、大正期にはかなりの絣柄が生まれました。絣柄は複雑な模様はなく、ほとんどが1単位か2単位の組み合わせによるものが多いのが特徴です。絣柄の基本的なパターンも数多くあり、そのひとつひとつに沖縄の生活風土にちなんだ名称がつけられています。日常生活や自然の風物をモチーフにしたものが目立ち、巧みにデザイン化されています。それが基本柄となり、さらにいくつかを組み合わせて絣模様を構成しているのです。

天然染料の琉球藍と車輪梅

芭蕉布には植物の根や樹皮、実などから採集した植物染料が使われます。主に琉球藍、車輪梅と呼ばれる染料をよく使用します。
琉球藍は沖縄に自生している藍で、名前の通り藍色の染料になります。淡い藍色は少し赤みがかっており、日本本土の藍とは少し違う色合いになっているのが特徴です。
車輪梅は沖縄や奄美大島などに自生しているバラ科の植物です。染料は茶色がかった色をしており、芭蕉布の他に大島紬や久米島紬にも使用されています。
また、そのほかに

・福木(フクギ、オリーブ色のような色になる)
・ヤマモモ(本州中部以南の温暖な地域に自生している植物で、黄色や茶色、金色などになる)
・蘇芳(インドやマレーシア原産のマメ科の植物で、赤やピンク、紫色になる)

と言った染料もよく使用されています。

原料「糸芭蕉」は3年かけて栽培

原料「糸芭蕉」は3年かけて栽培

芭蕉布の原料である糸芭蕉は沖縄に自生しており、とてもポピュラーな植物です。
ですが、喜如嘉地区ではすべて栽培したものを使用しています。人の手で栽培された糸芭蕉は自生しているものよりも繊維が柔らかくなり、より芭蕉布づくりに適しているものになるのです。
成熟するまでに約3年を要し、5月から9月の間は剪定作業を行い、手間暇をかけて我が子のように大切に育てます。
糸芭蕉の幹はたけのこのようになっており、断面は20数枚の輪層になっています。幹の外側から4種類に分けて糸が採られ、それぞれ目的に合わせて使用します。
外側の一番固い部分は「ウヮーハー」と呼ばれ、主に、座布団カバーやテーブルセンターなどに使用されます。二番目に固い樹皮は「ナハウー」と呼ばれ、これは帯地やネクタイなどに加工されます。三番目の「ナハグー」は一番上質な繊維で、主に芭蕉布の反物に仕上げられます。そして一番柔らかい樹皮である四番目の「キヤギ」は変色しやすいため、主に染色糸用として用いられます。
芭蕉布は一反織るのに約1000gの糸が必要とされています。ですが、糸芭蕉1本から採れる繊維はわずか20gほどしか採れず、また使用するのは「ナハグー」の部分だけですので、実質1本から5gほどしか採れない計算になります。
つまり、一反を完成させるには糸芭蕉が約200本必要になるのです。糸芭蕉の成熟に約3年かかることを考えると、とてつもない労力が必要であることが伺えます。

芭蕉布の着用シーンとコーディネート

芭蕉布の着用シーンとコーディネート

芭蕉布は原料の栽培からとてつもない労力と時間を要する着物であることが分かりましたが、ここでは芭蕉布のコーディネートについて解説していきます。
簡単な手入れの方法についてもまとめていますので、どこに着ていけば良いのか分からない方や芭蕉布のコーディネートでお悩みの方はぜひ参考になさってください。

『芭蕉布』は極上の夏着物

芭蕉布が活躍する季節は、何と言っても夏です。
薄物の着物ですので、厳密に言うと7月から8月の盛夏に着るのが正しいと言われています。ただ現代は気候が不安定なので、必ずしも7月、8月に着なければいけないものでもありません。6月でも冷房を入れなければ熱中症を引き起こしてしまう暑さの日も多いですし、9月になってもまだジメジメと蒸し暑い日もあります。
芭蕉布はおしゃれ着に分類される着物です。古い形式にはとらわれず、その日の気温に合わせてうまく取り入れ、夏のおしゃれを楽しみましょう。
またおしゃれ着ですので、改まった場以外であればどこでも着て行くことができます。お友達との食事会や観劇など、自由に楽しんでください。
暑い中芭蕉布を着て颯爽と街を歩くのも素敵ですね。

芭蕉布は乾燥に注意!お手入れ方法

正絹着物のお手入れ方法
一般的に着物は湿気に弱く、手入れはとにかく乾燥させることを目的としています。ですが芭蕉布はその反対で、乾燥すると生地が傷み、弱ってしまいます。
絹の素材の着物と同じように手入れをしてしまうと逆に劣化してしまうので、注意しましょう。
芭蕉布にとってある程度の湿気はとても大事なものです。そのため、一番のお手入れ方法は何と言ってもたくさん着ることです。
拍子抜けしてしまった方も多いかと思いますが、着ることで適度に水分を含み、大敵である乾燥から守ってくれるのです。
高価な着物だから…と大事にしまっておくのは、芭蕉布の場合かえってよくありません。どんどん着て芭蕉布を潤してあげましょう。

着用した後はハンガーなどにかけ陰干しをしておきます。しわが気になる場合は霧吹きなどをかけて少し湿らせ、手で伸ばしてあげます。(高温のアイロンではなく、手で優しく伸ばしてあげましょう。)
たんすにしまう際はくれぐれも乾燥剤は入れないようにしましょう。可能であれば、絹の素材の着物と分けてしまった方が良いです。
私たちのお肌と同じように、乾燥から守ることが大事なのです。

芭蕉布に合わせる帯

おしゃれ着である芭蕉布には、名古屋帯や洒落袋がおすすめです。
もちろん、帯も夏の素材である絽や紗、羅を合わせてあげましょう。また博多帯は季節に関係なく一年中着用することが出来るので、ひとつ揃えておくととても便利です。
芭蕉布はとても素朴な着物ですので、同じ素朴な帯を合わせてしまうと少し地味な印象になりがちです。
メリハリをつけるために、上質な織の帯を合わせるととても上品にまとまります。
帯揚げや帯締めで色を出してあげるとコーディネートの幅も広がりますので、ぜひ色々合わせて楽しんでください。

詳しい帯の種類についてはこちらをご覧ください。

喜如嘉の芭蕉布の歴史

喜如嘉の芭蕉布の歴史

芭蕉布は古い時代から沖縄に定着しており、長年大切にされてきました。ですが、太平洋戦争によって衰退を余儀なくされ、消滅しかけた背景もあります。
衰退から復興にいたるまでの過程を説明していきます。

13世紀から続く芭蕉布

はっきりした年月は分かっていませんが、13世紀ごろにはすでに芭蕉布が織られていたと言われています。
中国や江戸幕府への献上品に芭蕉布を提供しており、国を問わず重宝されていました。また当時の風俗画からも琉球からの随行員が芭蕉布を着ている様子が描かれており、現代と変わらず庶民に愛されていたことが伺えます。

参考、引用 中川政七商店の読み物 芭蕉布とは

大宜味村の女性たちの副業と産業化

芭蕉布づくりは次第に大宜味村の女性たちの副業として盛んになりました。
明治になり近代化が進むにつれ、芭蕉布は衰退していくのですが、これを食い止めようと奔走したのが当時の村会議員を勤めた平良真祥氏です。
真祥氏は戦後の芭蕉布再建を手掛けた平良敏子氏の祖父にあたる人物で、村の産業に情熱を注いでいました。
昭和に入り大宜味村の芭蕉布品評会が盛んになるとともに、芭蕉布づくりもより活発になっていきました。昭和14年に東京の三越で地方の特産品の即売会が開催され、このとき芭蕉布が300反も出品されています。翌年の15年に「大宜味村芭蕉布織物組合」が結成され、県の補助を受けて芭蕉布の工場を建設するまでに至りました。
芭蕉布はますます繁栄の一途をたどると思われていた矢先、沖縄が戦時下に置かれてしまい、工場の閉鎖を余儀なくされてしまったのです。

戦後の復興と人間国宝・平良敏子氏

芭蕉布の発展と言って欠かせないのが、平良敏子氏の存在です。
平良氏は戦後、いち早く芭蕉布づくりを再開させました。本格的に再開されたのは昭和21年に平良氏が倉敷から帰って来てからのことです。倉敷で織の基礎を学んだ平良氏は、柳宗悦の著書「芭蕉布物語」に感銘を受け、さらに倉敷で大原総一郎、外村吉介両氏に、沖縄の織物を守り育ててほしいと激励されたことから、芭蕉布を織り続ける決心をしました。平良氏は戦争未亡人などに声をかけ、芭蕉布再建に積極的に動き出したのです。
さまざまな技術改良を加えながら反物を織り、一方で在日アメリカ人用にテーブルマットやクッションカバー、日本本土用に座布団カバーや帯地などを次々作りました。
昭和40年代になると「日本伝統工芸展」や「日本民藝館展」などに出展するようになり、昭和47年、平良氏は県の無形文化財に指定されました。さらに昭和49年には国の重要無形文化財総合指定を受け、平良氏を代表とする「喜如嘉の芭蕉布保存会」保持者団体として認定を受けました。

参考、引用 中川政七商店の読み物 芭蕉布とは
芭蕉布とは。空気のように軽やかな着物は、沖縄の畑から生まれる | 中川政七商店の読みもの (nakagawa-masashichi.jp)

喜如嘉の芭蕉布の製造工程

芭蕉布として完成するには、様々な工程を経なければなりません。
それはとても気が遠くなるほど長い時間を要し、しかもどの工程においても決して気を抜くことなく仕上げなければならないのです。
また芭蕉布は織の工程が全体の1パーセントしかないと言われています。それだけ糸にするまでの工程に手間暇がかかっており、重要な作業であるということが分かります。
ここでは、原料から芭蕉布になるまでの過程を説明していきます。

色芭蕉の栽培と苧はぎ(うーはぎ)

糸芭蕉は沖縄に自生しているのですが、喜如嘉では全て栽培したものを使用しています。約3年で成熟しますが、繊維を柔らかくするため、5月から9月の間に3~4回ほど葉と芯を切り落とす作業を行います。
成熟した糸芭蕉は10月から2月に伐採されます。
原木は20数枚の層になっており、根の切り口に切り込みを入れ、1枚ずつ丁寧に皮を剝いでいき、用途ごとに4種類に分けます。

苧炊き(うーだき)

まず、木灰を入れたお鍋を沸騰させます。 鍋の底に丈夫な縄を敷き、その上に束ねた原皮を重ね、蓋をして煮ていきます。煮る時間は繊維の分量によって異なるため、しっかりと見極めなければなりません。煮た原皮は束が崩れないように気をつけながら水洗いをし、木灰汁を落とします。

苧引き(うーびき)、チング巻き

束ねてある原皮をほどいていきます。1枚の原皮を2つか3つに裂き、「エービ」と呼ばれる竹バサミで根の方へ何回もしごき不純物を取り除きます。しごきながら柔らかいものは緯糸に、硬いものや色のついたものは縦糸に分け、風の当たらない日陰で乾燥させます。
次の工程に入る前にチングと呼ばれる玉を作ります。繊維を2,3本親指に巻き付け、こぶし大の大きさにまとめます。硬い物や色が付いた物を取り除き、できるだけ薄く柔らかい物を残しておくのがポイントです。

苧績み(うーうみ)

チング巻きから糸をつなぐ工程です。繊維の根の方から筋に沿って裂いていきます。
太さが均一になるように裂かないと出来上がりに影響しますので、非常に根気のいる作業になります。
芭蕉布の製作工程の中で、最も時間のかかる作業です。

撚りかけ、整経

糸の毛羽立ちを防ぎ、丈夫にするために、経糸と緯糸によりをかけていきます。作業を行うときは必ず糸に霧吹きをかけ湿気を与えてから経管に巻いていきます。よりが甘いと織りにくくなり、また強くなり過ぎると打ち込みにくくなるので、熟練の技を要する作業となります。
またよった糸は湿っていて腐りやすいので、すぐに経糸の長さに整えます。この作業を整経と言い、こちらも熟練の職人にしか扱えない技法のひとつです。

煮綛(にーがしー)

染める糸は木灰汁で煮て柔らかくします。取り出したらよく洗い、両端を竿にかけて固定します。
経糸の糸はまっすぐに引っ張って固定し、絣模様に合わせて染めない部分に「ウバサガラ」と呼ばれる糸芭蕉の皮をあて、ビニール紐で固く結んでおきます。

染色

いよいよ糸を染めていきます。琉球藍や車輪梅など、出したい色の染料に漬け込んでいきます。

織りの準備

糸が染め上がったら、今度は糸を織る準備をします。
経糸は結んだ紐をほどき、整経した糸を合わせて筬に仮通しをし、巻取りを行います。巻取りに使用した筬を外し、綜絖に経糸を1本1本通していきます。

織り

上記までの作業を経て、やっと糸を織りあげる作業に移ります。乾燥すると糸が切れてしまうため、常に霧吹きをかけて水分を与えながら織っていきます。
糸を織りあげる作業は主に湿気がおおい梅雨時に行われ、一反が完成するのに約1か月から1か月半かかると言われています。

洗濯

織りあがった反物は木灰汁で煮こみ、水洗いをして汚れを落とします。
その後米粥に米粉と水を加えて発酵させた「ユナジ」と呼ばれる発酵液に漬け込みます。水洗いした反物を何度か布を引っ張って幅を出したり丈を出したりして布目を整え、最後にアイロンをかけ仕上げます。
こうした作業を経て、ようやく芭蕉布が完成します。

参考、引用 
沖永良部芭蕉布協議会 芭蕉布ができるまで

喜如嘉の芭蕉布の工房見学や体験はできる?

喜如嘉の芭蕉布の工房見学や体験はできる?

芭蕉布は出来上がりの良さを楽しむだけでなく、自分で作って体験することも出来ます。芭蕉布づくりを体験できる貴重な体験工房を紹介いたします。
見て楽しむのも良いですが、ぜひ自分の手で芭蕉布を作ってみてはいかがでしょうか。

※芭蕉布体験は常設している工房がとても少なく、期間限定のワークショップという形で体験会を行っているショップが多いようです。今回紹介する工房以外で芭蕉布の体験をしてみたい方は、逐一ショップ等に確認してみてください。

大宜見村立芭蕉布会館

地場産業の振興を図る為県の補助を受け、昭和61年に大宜味村が設立した施設です。
1階が芭蕉布製品の販売や作業工程のビデオ上映が行われており、2階の作業スペースで芭蕉布製作の研修等が行われています。

開館時間:10時~17時
定休日:日曜日、旧盆、年末年始(12月29日~1月3日)
体験内容等の記載はないので、大宜味村立芭蕉布会館へお問い合わせください。

沖永良部芭蕉布会館

沖縄ではなく、鹿児島県大島郡にある体験工房です。
当日でも受け付けている場合もあるので、近くを訪れた際は体験してみてはいかがでしょうか。

開館時間:9時~17時
定休日:火曜日、お盆、年末年始ほか
体験コース:ストラップ1,500円~

まとめ

沖縄がはぐくんだ夏着物の最高傑作である芭蕉布。戦争という荒波にもまれながらも、たくさんの継承者によって確実に技術が受け継がれています。
素朴でありながら確かな存在感を放つ芭蕉布は、着る人を選ばずどの年代の方にもよく合います。ぜひ芭蕉布を身にまとい、夏のお出かけを楽しんでください。