シボが魅力の希少品『白鷹御召』の着物とは?置賜紬や白鷹紬との違い、特徴の板締め染めについて解説

シボが魅力の希少品『白鷹御召』の着物とは?置賜紬や白鷹紬との違い、特徴の板締め染めについて解説

白鷹御召をご存じでしょうか?
鬼シボとも言われる大きめの凹凸があり、足さばきの良さから単衣に人気の着物地です。置賜紬の名前で国の伝統的工芸品にも認定されています。

しかし、
「御召は知っているけれど、白鷹御召は聞いたことがない」
「白鷹御召なのに、なぜ登録名が置賜紬なの?」
「特徴は何?」
と、わからないことも多いのではないでしょうか?

そこで今回は、近年存続が危ぶまれている白鷹御召についてまとめました。知っておきたい基本情報や置賜紬との違い、今では白鷹にのみ残っている貴重な「板締め染め」をご紹介します。
製造工程はもちろん、道具の管理に至るまで手間も時間もかかる伝統技法を守り、職人がひとつひとつ丁寧に作っていることがわかりますよ。
白鷹御召を知ったばかりという方はもちろん、興味があるだけという方もぜひ最後までご覧ください。

白鷹御召とは?

白鷹御召は、山形県白鷹町で作られている、生地の表面にある大きめのシボが特徴の先染めの織物です。置賜紬の名前で国の伝統的工芸品にも認定されています。シボによって肌にぴったりと生地が付きすぎることなく、風が通りやすい生地です。

白鷹御召を始め、白鷹で作られる織物の特徴が板締め染めによる染色。今では白鷹でしか使われていない貴重な技法で、御召用の強撚糸を板で挟んでから糸を染めます。

貴重な染色方法で染められた糸を交互に織って生み出されるのが、小絣模様。1本1本糸を正確に合わせながら柄を細かな柄を表現していくため、1日で20〜30㎝ほどしか織り進められません。年間で100反も出回らない稀少性の高い生地です。

御召とはどんな着物?

御召とは、「御召縮緬(ちりめん)」を略した言葉で、緯糸に強い撚りをかけたお召糸を使い、織りあがった生地を湯の中でもむ「湯もみ」で生み出されるシボ(凸凹)が特徴です。織りの着物でありながら、格はフォーマルの代表格である染めと、普段着用とされる織りの着物の中間とされています。江戸時代中期に11代将軍徳川家斉が好んで着たことから「御召」と呼ばれるようになりました。

縮緬との違いは、不純物を取り除く「精錬」のタイミング。縮緬は生地を織りあげてから精錬をして染めていくのに対し、御召は糸の状態で精錬と染色をします。そのため、縮緬よりも強く、紬よりも身体にしっとりとなじむ独特の風合いがあります。着心地や裾さばきのよさもあり、単衣に仕立てて楽しむ方が多い着物です。

女性用・男性用共に使われており、無地・縞・絣・小紋など柄の種類も豊富。
御召の代表として、山形の白鷹以外に、京都の西陣、新潟の塩沢、群馬の桐生などがあります。

▼同じく御召の産地である本塩沢(塩沢御召)については以下の記事をご覧ください。白鷹御召と本塩沢の違いも解説しています。

▼西陣御召の記事はこちらです。

白鷹紬と白鷹御召の違い

白鷹紬と白鷹御召は、技法が違います。白鷹紬は米琉板締小絣、白鷹御召は白鷹板締小絣です。どちらも置賜紬の技法として国の伝統的工芸品に指定されています。

米琉は、米沢琉球紬の略です。置賜地方は江戸時代、北前船により運ばれた琉球の織物が最上川を渡って長井に運ばれたことから、琉球産の織物に強い影響を受けた絣柄が発展しました。白鷹で受け継がれてきた織物は、米沢琉球紬の流れを汲んでいます。その後栃木県足利の技術者から「板締」を学び、白鷹独自の織物として確立していきました。

同じ米琉紬の流れを汲んでいる米琉板締小絣と白鷹板締小絣ですが、伝統的工芸品に認定されるための条件には違いがあります。米琉板締小絣には地糸用の緯糸に施す「追ねん」や、シボ出しを行う「湯もみ」がありません(詳しい条件は「白鷹御召の技法『白鷹板締小絣』」で解説)。
追ねんも湯もみも、御召の特徴であるシボを出すための工程なので、紬にはない特徴です。

しかし、白鷹紬は、山形県白鷹町で作られる先染め織物すべてをさし、白鷹御召も含まれる場合もあります。そのため、呼び方が混同されるケースがありますので、上記の違いを把握しておきましょう。

板締め技法の小絣と鬼シボが特徴

白鷹御召の特徴は以下の通りです。

・板締め技法による染色
・繊細な絣模様
・「鬼シボ」とも呼ばれる大きなシボ

現在では国内で2社しか行っていない板締め技法は、まさに白鷹で作られる織物のみの特徴です。糸を板に巻きつけ、もう1枚を重ねて固定した上から染料をかけて染め上げます(詳しくは後ほど解説)。

貴重な技法で染められた糸で表現されるのが繊細な絣模様です。1本1本正確に絵柄を合わせなければ生まれないため、織りの工程では高度な技術と丁寧な仕事が求められます。

さらに、織りあがった生地を湯の中でもむことで生まれるのが、御召共通の特徴でもあるシボ。他の産地と比べ、白鷹御召は鬼シボと呼ばれるほど大きいことで知られています。
生地表面にあるシボのおかげで肌と生地の間にすき間ができ、さらりとしたシャリ感を生みます。さらりとした着心地は、夏に着る単衣にも白鷹御召が人気である理由のひとつです。

伝統的工芸品『置賜紬』に分類される白鷹御召

1976(昭和51)年、白鷹御召は「置賜紬」の名前で国の伝統的工芸品に認定されました。
「置賜」は、白鷹を始め米沢・長井を含めた地域を差す言葉です。置賜紬には米沢や長井で作られる紬も含まれますが、それぞれの織物で異なる個性を持っているため、現在でも地名を付けた名前(米沢紬や長井紬など)で呼ぶ場合もあります。

白鷹で作られる織物が御召も含めて白鷹紬と呼ばれるのも、地名が理由です。絣織の産地では最北に位置することから、白鷹の板締絣は「北限の絣」とも呼ばれています。
現在でも白鷹では、貴重な板締め染めを用いて御召が生産されているのです。

白鷹御召の技法『白鷹板締小絣』

白鷹板締小絣は、伝統的工芸品に認められるためには、以下7つの条件をすべて満たす必要があります。

・先染めの平織
・経緯糸には『水より』をする
・地糸の緯糸には『追ねん』をする☆
・かすり糸は経糸及び緯糸に使用
・かすり模様は手織り
・かすり糸の染色は『板締め』
・しぼ出しは『湯もみ』☆

特に☆がついた条件は、白鷹御召の特徴である鬼シボを生み出す重要な工程です。それぞれ簡単に解説します。

先染めの平織であること

先染めとは、糸の状態で染めてから織りあげた生地です。着物に関しては、織の着物とも言われます。平織は、経糸・緯糸を交互に1本ずつ上下に重ねて織る織物のこと。

つまり「先染めの平織」とは、先に染めた糸を使用して、経糸と緯糸を交互に重ねて織りあげた生地をさします。

経緯糸には『水より』をすること

水よりは「水撚り」と書きます。糸を水に通してから撚りをかける方法です。糸が強くなるため撚りがしやすく、毛羽立たずになめらかな糸になります。
縮緬では緯糸に使われていますが、白鷹板締小絣では経糸緯糸ともに水よりをした糸の使用が定められています。

地糸の緯糸には『追ねん』をすること

地糸は、織物の地色になる無地の糸です。縞や絣などの模様を表現する糸(縞糸やかすり糸)と違い、模様を表現する役割はありません。
地糸の経糸に決められている追ねんは「追撚」と書きます。撚りをさらに追加でかけた糸のことです。撚りの強い糸(強撚糸)の使用によって、静電気がおきにくく、裾さばきのよい生地に仕上がります。
御召の特徴であるシボを生み出す重要な工程です。

かすり糸は経糸及び緯糸に使用

かすり糸は、かすり模様を織るために事前に2色以上で染められた糸のことです。できあがりの図案に合わせて白く染め残す部分を板で締めて防染を施してから染色します。染色された部分と白い部分が残った糸を経糸と緯糸に使用し、白い部分を交差させて作られるのが絣模様です。

かすり模様は手織り

白鷹御召のかすり模様は、手織りで作られます。織りの工程では、染め分けされた糸の模様を合わせるひとつひとつ合わせるだけでなく、緯糸の間に強撚糸の右撚りと左撚りを交互に規則正しく織り込むことが大切です。
白鷹御召では一反の幅36㎝の中に200〜250もの文様が織り込まれています。ひとつの大きさはわずか数ミリの世界。熟練した職人でも1日20〜30cmを織るのが限界と言われるほど、高度な技術が必要になる作業です。

かすり糸の染色は『板締め』

白鷹の特徴である「板締め」も、伝統的工芸品の条件に含まれています。
板締め染めは、溝を彫った板(絣板)に糸を巻きつけ、平らなもう一枚の板を重ねてネジで締め上げた後、熱した染料を注いで染めていく技法です。溝を辿って染料が通り、決められた糸の部分だけが染まって絣糸ができます。

白鷹紬と言えば板締め染めと言われていますが、難しい作業が多いことから継承する人も少なくなり、存続の危機にある染色方法です。

しぼ出しは『湯もみ』

湯もみとは、織った後にお湯に浸すことです。
強撚糸は糊で固定してから織りあげています。湯もみが担う役割は、糊や汚れを落とすこと。糸を固定していた糊が落とされると布は1割ほど縮み、シボのある立体的な生地を引き出します。
白鷹御召の特徴である鬼シボを生み出す大切な工程です。

板締めの工程と難しさ

板締め染めが希少と言われる理由は、技法の難しさから他の絹織物に比べても少ししか作れず、一般にはあまり流通していなかったためです。
板締め染めの技法を詳しく見ていくと、いかに手間がかかる作業かわかります。幻の染色技法の奥深さと繊細さを見ていきましょう。

板締め技法の工程

板締め染めの工程は以下の通りです。

①糸と専用の板(かすり板)を用意する
②板に糸を均一に巻いていく
③糸を巻きつけた板を30~50枚重ねて押し木で強く締める
④③で固定した板の上から染料を直接かける(ぶっかけ染め)
⑤④は約1時間続けて、染料を行き渡らせる
⑥板を外して染め上がりを確認する

糸を巻きつける板は、文様に合わせて溝が彫られており、この溝から染料が入り込み、糸を染めていきます。板に直接染料をかける工程にかかるのは、約1時間。何度も染料をかけ続け、ようやく板から糸が外される段階になって仕上がりが確認できます。

板に巻きつけた糸の張り具合や、染料の入り方によって白のまま残るはずだった部分が染まってしまえば、織りの段階で柄がずれてしまうため、手間をかけて染めた糸でも使えないと判断せざるを得ません。
職人の勘と経験、そして熟練の技が求められる染色方法なのです。

板締め染めの難しさ

板締め染めの難しさは、以下の2つが挙げられます。

・作業工程の難しさ
・道具管理の難しさ

作業工程の難しさは前述の通りです。板に糸を巻く際の張り具合はもちろん、板を重ねる際の微妙なズレさえも、織ったときの文様表現に影響を与えてしまいます。

さらに、板締め染を困難にしているのは、道具の管理です。
かすり板は全てブナなどの天然木で作られているため、乾燥しすぎると歪みが生じてしまいます。最悪の場合は割れてしまう恐れもあり、一度歪んでしまった板は他のかすり板と文様が合わなくなり、もう使用ができません。
近年は複雑な文様を彫れる板大工がいなくなったため、新たな文様の板製作は難しくなってしまったのも、道具管理が大切な理由のひとつです。

染めの作業にも高度な技術が求められる上に、作業に使用する道具の管理にも繊細さが求められる染色方法なのです。

白鷹にだけ残る唯一の技法

難易度の高さとかすり板の管理の難しさから、現在では板締め染めを行っているのは白鷹にある2社のみです。

・小松織物工房
・白たか織工房

白鷹御召は、かすり板作りから織りまで全工程に携わる職人が技術を結集させて作られています。専業のかすり板職人が姿を消した現代では、全盛期だった大正時代に用いられていた表現方法のうち、再現できているのは2〜3割ほど。
伝え続けた貴重な技法が失われないよう、2社では未来につないでいく道を模索しながら、生産を続けています。

▼小松織物工房公式ホームぺージ

まとめ

鬼シボが魅力の白鷹御召。肌に生地がまとわりつかず、風が通りやすいため単衣にも人気の高い織物です。現在では国内で2社しか取り扱っていない「板締め染」を用いて生産されています。
糸を染める工程も、文様を合わせてかすり模様を織りあげる工程も、それぞれの職人が丁寧に手間と時間をかけなければ完成しません。

手間も技術も必要な板締め染めを伝え続けてきた織元も、後継者不足や板締めに必要不可欠な彫り師の不在など、存続の危機に瀕しています。すでに希少と言われている染色技術が「幻」となってしまわないよう、白鷹御召をまとって伝統文化を後世に伝える一端を担ってみませんか?