有松・鳴海絞りの違いとは?京鹿の子絞りとの関係や歴史、技法を体験できる工房など紹介

有松・鳴海絞りの違いとは?京鹿の子絞りとの関係や歴史、技法を体験できる工房など紹介

「有松・鳴海絞りって何?」
「どんな風に作られているの?」
「歴史は?」

思わず目を奪われる繊細な模様と、独特の手触りの有松・鳴海絞り。名前を聞いたり製品を見たりしたことはあっても、詳しくは知らない方も多いのではないでしょうか?

今回は、国の伝統工芸品に指定されている有松・鳴海絞りについてご紹介します。
手拭いや浴衣に多く用いられる有松・鳴海絞りの特徴や技法を知れば、漂う高級感と高い価値の理由もわかりますよ。

(関連:絞り・京鹿の子絞り)

『有松・鳴海絞』とは?

有松・鳴海絞りとは、愛知県名古屋市の有松町・鳴海町地域で作られている絞り染め木綿の総称です。布を縫ったり畳んだり、糸で巻いたりするなどして染まらない部分を作り、模様を描き出します。

現代に伝えられている絞りの技法は70種類、最盛期には100種類以上にも及びました。種類の豊富さは世界一ともいわれています。

絞りの特徴でもある凹凸により肌への接着面が少ないことから、軽やかで涼しい着心地も特徴の1つです。
国内産の絞り製品の大半を有松・鳴海地区で生産しており、1975年には国の伝統工芸品にも指定されました。

日本における絞り染めの2大産地である京鹿の子絞りとの違いは、加工を行う布地です。京鹿の子絞りは絹生地、対して有松・鳴海絞りは木綿生地に絞りを施します。
(関連:京絞り)

有松絞りから始まる歴史

有松・鳴海絞りのルーツは400年以上前の江戸時代初期まで遡ります。
名古屋城築城の手伝いに九州の人たちが着ていた絞り染めを職人が見たことが始まりです。職人は絞りの技法を研究し、当時普及し始めた三河木綿に考案した技法を施して手拭いを販売しました。

農業には向かない荒れ地だった有松地域の特産物として、尾張藩の手厚い保護を受けたのも有松絞りが栄えた理由の1つです。
三河木綿の産地が近くにあり、流通の大動脈である東海道沿いという立地も、商いの後押しになりました。

17世紀後半には浴衣がおしゃれ着として着られるようになり、絞り染めの需要も拡大。有松絞りの技術も発展し、着物地も多く作られました。

有松地域の下請けだった鳴海地域

江戸時代に尾張藩により独占権を得た有松ですが、周辺地域でも絞り染めの技術は広がっていました。
下請け・分業の作業が行われていたのが、有松に隣接する鳴海地域です。

鳴海は東海道五十三次にある宿場町の1つです。有松地域でのみ生産された絞り染め製品の多くも鳴海宿で販売されました。
東海道を行く旅人がお土産に絞り製品を買い求めて名産品になり、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵にも描かれています。
しかし、他の地域で広まった呼び名は、販売していた宿場町の名前から取った「鳴海絞り」でした。

両地域での勢力争いは当時から絶えませんでしたが、その後の衰退や再興、戦争などの時代の流れを経て、現在では組合を結成して協力体制となっています。

継承された有松・鳴海絞りの技術は、1975年愛知県初の国の伝統工芸品に指定されました。

有松・鳴海絞りの技法種類

国内生産の大半を占める有松・鳴海絞りの特徴は、最盛期には100種類にも及ぶとい言われた技法の豊富さです。
ここからは、技法の一部を厳選してご紹介します。

1.杢目縫い絞り
2.唐松縫い絞り
3.折り縫い絞り
4.手蜘蛛絞り
5.機械蜘蛛絞り
6.巻き上げ絞り
7.横三浦絞り
8.人目鹿の子絞り
9.突出鹿の子絞り
10.蜘蛛入り柳絞り
11.みどり絞り
12.日の出絞り

下絵を描かずに手先の感覚だけで作業を行う「手蜘蛛絞り」「三浦絞り」「手筋絞り」は、有松・鳴海を代表する技法です。下絵に沿って忠実に絞りを施していく京鹿の子絞りとの違いであり、特徴でもあります。

杢目(もくめ)縫い絞り

模様が木目に見えることから「杢目」と名前がつきました。縫って絞る技法の1つです。
布の線に沿って一定の感覚で平縫いをし糸を固く締めることで、不規則なシワのような模様が表れます。

唐松縫い絞り

模様が松かさに似ていることから「唐松」と呼ばれます。
左右対称な柄を半分に折り、線に沿って外から等間隔に何本も縫う技法です。糸を引き締めて布にヒダを作り染めることで、円、角形、ひし形などの模様ができます。

折り縫い絞り

別名は「つまみ縫い」「山縫い」です。
線に沿って布を山折りにし、山の下を浅く折りたたんでから縫って糸を固く締め、染め上げます。
直線、蛇行線の他、葉や文字などの輪郭を表現する場合も多い技法です。

手蜘蛛絞り

下絵を描かず、指先の感覚だけで絞る技法で、有松・鳴海絞りならではの特徴です。
染め上がった模様が、蜘蛛の巣に見えることから名前がつきました。
専用のかぎ針に布をひっかけ指先の感覚で傘の竹骨のようにヒダを作り、シワを寄せて根元から糸を細かく巻いて絞ります。
均等に絞る技法は、高度な技術が必要です。

機械蜘蛛絞り

100%手作業の手蜘蛛絞りと違い、一部の工程を機械で行う蜘蛛絞りの技法です。機械と名前についていますが、約70%は手作業で行われています。
手蜘蛛絞りより細かい模様ができるのが特徴です。

巻き上げ絞り

生地の下絵に沿って平縫いをして糸を締め、引き寄せられた生地の袋状になった模様部分を、さらに糸で巻き上げる技法です。角を綺麗に表現するため、高度な技術を要します。
表現される模様は、円・角・菱・花・麻の葉など、さまざまです。

横三浦絞り

有松・鳴海絞りを代表する「三浦絞り」の1つです。
下絵の描いていない生地を糸で一巻きして、絞り台の針にひっかけ引き締めることを繰り返し染め上げます。
小さなひよこが並んでいるように見える模様から、ひよこ絞りという別称もついています。

人目鹿の子絞り

絞り染めの最も代表的な「鹿の子絞り」の1つで、一般的な鹿の子絞りよりも細かい粒模様が特徴です。「一目鹿の子絞り」とも書きます。
生地を引っかけ、小さな粒になるよう糸を引き締めて染め上げる技法で、細かい柄の表現が可能です。とても繊細な技術が必要とされています。

突出鹿の子絞り

凹凸が均等に出た鹿の子模様が特徴です。
専用の絞り台の針の上から生地をかぶせ、粒を引っかけて糸で1回巻き、2回目で根元を固く止めて染め上げます。

蜘蛛入り柳絞り

有松・鳴海絞りを代表する「手筋絞り」の1つです。
前もって蜘蛛絞りの技法で加工した生地の先端を、決められた数だけ折りたたんで縦に筋を取り、巻き上げます。
蜘蛛絞りと手筋絞りを組み合わせた技法です。

みどり絞り

有松・鳴海絞りを代表する「手筋絞り」の1つです。
手で折りたたんでヒダを取った生地に、4〜5cmほど間隔をあけて糸を巻き、次はたたみ方を変えて交互に筋を取って巻いていきます。

日の出絞り

縫い締め絞りの1つです。丸が並んだような染め上がりが、日の出に見えることから名前がつきました。
生地に対して一列ずつ横に縫い、縫った間を糸で巻き終わったらさらに巻く作業をしています。唐松絞りに似ていますが、縫った後の生地に、回転させながら糸を巻く「竜巻加工」をしているのが特徴です。

有松・鳴海絞りの製作工程

有松・鳴海絞りの製作工程は、以下の7段階です。

1.柄・図案の決定
2.型彫り
3.絵刷り
4.くくり
5.染色
6.糸抜き
7.仕上げ

すべての工程は、専門の職人が担当。300年以上前から変わらない「分業制」と呼ばれる工程に、歴史の重みと職人の誇りを感じます。

柄・図案の決定

初めに、着物地のどこにどのような絞り模様を配置するか、図案を決め下絵を作ります。
紙に書く作業を行うのは専門の絵師です。新しい図柄や復刻した柄、組み合わせてアレンジすることもあります。

型彫り(かたぼり)

図案が決定したら、下絵をもとに型を彫っていく作業です。
小刀や木槌などの道具を使用し、線をくり抜いたり穴を開けたりして型紙を作ります。

絵刷り

布生地の上にできた型紙を置き、刷毛で染料を刷る作業です。
次のくくり作業で目安となる下絵を作ります。

くくり

絵刷りの作業で色がついた部分を目安に、染めない部分の加工を行う作業です。
くくり職人は「1人1技法」とされ、図案に必要な模様の数だけ職人の手を渡り、加工されていきます。中には完成まで10カ月かかるものもあるほどです。
緻密さを要するくくり作業は、有松・鳴海絞りの最も重要な工程になります。

染色

くくり作業が終わると、次は染色作業です。
専門の染屋で行われ、染料に浸す方法が多く用いられますが、用途や量によって調合や染め方も変わってきます。

糸抜き

くくり作業で用いた糸を抜いていく作業で、絞り染めだけの工程です。
色に染まらないよう固く糸を止めているため、作業中に生地が破れないよう慎重に行います。
技法によって糸抜きの方法は異なりますが、生地を手で引っ張る方法が主流です。

仕上げ

糸抜き作業後の生地は縮んでいるため、最後に行うのが仕上げです。
染料が落ちないよう色止めをし、軽く脱水して糊付けを行ったら、乾燥させます。蒸気をあてながら生地を伸ばす「湯のし」が終われば完了です。

有松・鳴海絞りの商品

有松・鳴海絞りでおすすめの商品は以下の3点です。

  1. 有松絞りのはじまり『手拭い』
  2. 伝統を身近に感じる『浴衣』
  3. 男性向けの絞り浴衣も

豪華で美しい絞り染めは、受け継がれてきた職人の技術が詰まっています。
有松・鳴海絞り製品を購入すれば、技術や職人を応援することにも繋がりますので、ぜひ伝統工芸品を手元に置いて楽しみましょう。

有松絞りのはじまり『手拭い』

手拭いは、有松・鳴海絞りの始まりともいえる商品です。
バリエーションは「三浦絞り」「蜘蛛入り柳絞り」「機械蜘蛛絞り」「縫い絞り竜巻絞り」「巻き上げ絞り」「蜘蛛なし柳絞り」の6種類になります。
模様によって雰囲気が異なるので、好みに合わせて選び、それぞれの魅力を楽しみましょう。

伝統工芸品は敷居が高いと感じていても、手拭いなら気軽に購入できるのも嬉しいポイントです。
洗濯後もすぐに乾き、気兼ねなく普段使いできます。

伝統を身近に感じる『浴衣』

浴衣は、有松・鳴海絞りで定番アイテムです。絞りの名残りである生地の凸凹の効果による涼しい着心地は、絞り染めの真骨頂。
有松・鳴海絞りの技法で代表的な三浦絞りの地に、白い百合の花を小帽子絞りで、流水を鹿の子絞りで表現されています。
藍染めは、日本人の肌を美しく見せてくれる色。プレタ浴衣よりも値段は少々張りますが、合わせる帯を変えればずっと着られる一生モノとしてもおすすめです。

絞りの浴衣は、襦袢を合わせて足袋を履けば、夏着物としても着用可能です。花火大会以外でもランチやショッピングなど、夏の外出にお出かけ着として活躍します。

(関連:浴衣、夏着物)

男性向けの絞り浴衣も

女性用だけでなく、メンズの浴衣用反物も多く作られています。
こちらは、シンプルな総絞りの反物です。有松・鳴海絞りの代表的な技法である三浦絞りを施しています。
夏場では重く暑い印象になりがちな濃い紺色でも、清涼感と着心地のよさを与えてくれるのが、絞り染めの特徴である表面の凸凹です。
動きに合わせて、染められていない白い部分が見えるのが粋です。

男性向けの反物ではありますが、女性用に仕立てられます。
寸法が足りれば、女性用反物の男性用に仕立てることも可能なので、男性用・女性用関係なく好みの色・模様で自由に選べます。

有松・鳴海絞りを体験するには?

有松・鳴海絞りを体験できるおすすめの施設は、以下の3つです。

  1. 有松・鳴海絞り会館
  2. 有松工芸
  3. 都内で体験するなら『和なり屋』

歴史的資料や職人が作業されている現場を見学できるのも、生産地で体験する魅力です。
現地まで行くのが難しい方は、最後に東京都内で体験できる施設もご紹介しています。
ぜひ、400年以上の歴史を持つ伝統技術を体感してください。

有松・鳴海絞り会館

駅から徒歩5分と近く、有松・鳴海絞りを総合的に学べる施設です。
絞りの歴史的資料や技術が、実物を使用して展示され、伝統工芸士による絞りの実演も行われています。

研修室で行われる体験教室は、ハンカチやのれん、Tシャツなど6種類から選択が可能でした。しかし、2023年1月現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、残念ながら土日に行われる手拭い以外の体験は中止しています。
必ず予約が必要となりますので、公式サイトから事前の予約をして訪れましょう。

所在地 〒458-0924
愛知県名古屋市緑区有松3008番
アクセス 名鉄「有松」駅より徒歩5分
電話番号 052-621-0111
定休日 年末年始、その他臨時休館日あり
営業時間 9:30~17:00
※実演は16:30まで
体験教室 要予約
手拭い:2,500円
所要時間:手拭い約1時間
※新型コロナ感染症拡大防止のため、土日の手拭い以外の体験は中止

有松工芸

有松・鳴海絞り製品を作成・販売する会社です。イベントや学校でも絞りの技法を伝えています。

選べる絞りの種類は、雪花絞り、板締絞り、縫い巻き上げ絞り、手筋絞りです。染める色も選べ、絞り作業から染める工程まで丁寧な指導の下で体験できます。
事前に予約が必要なので、ご注意ください。

所在地 〒458-0924
愛知県名古屋市緑区有松3501
アクセス 名鉄「有松」駅から徒歩5分
電話番号 052-622-5881
定休日
営業時間 体験教室は、10:00~と13:00~の2回
体験教室 要予約、2名以上
所要時間:1~2時間
体験絞り技法:雪花絞り、板締絞り、縫い巻き上げ絞り、手筋絞り
・大判ハンカチ:2,800円~
・手拭い:2,800円~
・トートバッグ:(小)2,800円~、(大)3,800円~

都内で体験するなら『和なり屋』

東京・浅草にある、体験を通して日本文化の入口となることをコンセプトにしたお店です。
お子様からご年配の方まで手ぶらで体験ができる「絞り染め体験」と、本格的な絞り染めができる「糸絞りクラス」が開かれています。

絞り染め体験は、当日直接訪ねても体験可能ですが、事前予約と決済をするとお得なプランも用意されています。
糸絞りクラスは、マンツーマンに近い形で糸を使用した伝統的な絞り模様をデザインするワークショップです。唐松絞り、胴斜め杢目絞り、波型杢目絞りの3種類から選べます。

プランにより開催場所が異なるため、公式サイトから詳しい情報を確認しましょう。

所在地 〒111-0031
東京都台東区千束1-8-10 黒澤ビル1階
アクセス 東京メトロ日比谷線「入谷」駅1番出口より徒歩10分
つくばエクスプレス「浅草」駅A2出口より徒歩10分
※プランにより開催場所が異なる場合あり
電話番号 03-5603-9169
定休日 不定休
営業時間 10:00~18:00
体験教室 ※金額はすべて税込
・絞り染め体験
ハンカチ:2,500円、60分
手拭い:3,300円、60分
トートバッグ:(小)3,800円(大)5,500円、ともに60分
ほか、ストールやキャップ、Tシャツなど12種類。詳しくは公式サイトをご覧ください。
・ミニ初心者講習付き糸絞りクラス(巾着1枚):唐松絞り・胴斜め杢目絞り、波型杢目絞りの3種類から1つ
・糸絞りクラス:基礎の講習から染めまで全6回

まとめ

江戸時代に始まり、現在は国の伝統工芸品に指定されている有松・鳴海絞り。
種類豊富な技法による模様の素晴らしさもさることながら、絞りでできた生地の凸凹によるさらっとした着心地が魅力です。
専門の職人が1つの工程を担当する完全分業制を300年以上変わらずに守り、現在も愛知県名古屋市で製造されています。
上品さと高級感の漂う有松・鳴海絞りの着物を纏い、その歴史と奥深さを全身で感じましょう。