着物の種類

2022.9.7

麻の着物の特徴は?歴史や見分け方、代表的な織物の種類を紹介

麻の着物の特徴は?歴史や見分け方、代表的な織物の種類を紹介

夏の普段使いにぴったりの麻の着物。
ここでは麻の種類や麻の着物の特徴、見分け方、歴史、代表的な織物の種類をご紹介します。

麻とは?

麻とリネンとラミー

麻には3種類の定義があります。

1.広義の「麻」
2.狭義の「麻」
3.「麻」と表示される植物繊維

1.広義の「麻」は特定の植物を指しているのではなく、茎や葉脈の繊維の総称として「麻」という言葉が使われます。
その種類は茎や幹ゆらいの「靭皮(じんぴ)繊維」と、葉脈ゆらいの「葉脈繊維」に大別されます。
具体的に「靭皮(じんぴ)繊維」は亜麻(リネン)や苧麻(ラミー)、大麻(ヘンプ)など。
一方「葉脈繊維」はサイザル麻やマニラ麻、芭蕉などがあります。
広義の「麻」の原料植物は多く、その繊維の特徴によっても用途や質感に違いがあります。

2.狭義の「麻」とは日本名を「アサ」とする植物やその繊維のことです。
「アサ」とは「大麻」を指し「ヘンプ」とも呼ばれています。
大麻ですが繊維利用されるものは改良された品種のみで、許可制のもと日本では無毒大麻が栽培されています。

3.現在において日本の繊維製品で「麻」と表示できるのは亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の2種類のみになります。
また2017年4月には「家庭用品品質表示法」(消費者庁)が一部改正されて以下のような表示もできるようになりました。

・リネン
改定前=「麻」
改定後=従来の「麻」にくわえて「リネン」または「亜麻」の表示もできる

・ラミー
改定前=「麻」
改定後=従来の「麻」に加え、「ラミー」もしくは「苧麻」の表示もできる

なおリネン・ラミー以外の素材は一律「植物繊維」と表示されてきましたが、この改正により「植物繊維(○○麻)」などの表示も可能になっています。

麻の見分け方

絹や木綿との違い
麻は絹や木綿よりも硬くてツヤがあり、さらりとした肌触りが特徴。
絹は蚕のまゆからとれ、美しい光沢と手に吸いつくようななめらかさがあります。
木綿はワタの種子からとれ、絹よりも太い繊維でできているので絹より厚みがあり素朴な風合いです。

麻特有の生地の特徴
・硬くてツヤがある
・丈夫で水に強く家庭で洗濯できる
・さらりとした肌ざわり
・吸水性が高く乾きやすい
・しわができやすい

縄文時代から続く麻の歴史

麻は縄文時代から人々の衣服として使われてきました。
例をあげると縄文晩期前半の中山遺跡からは麻の編物が出土しています。

租庸調だった麻

租庸調とは古代中国唐代に完成し、それに影響を受けた日本など周辺諸国などがならった税制度。
日本では奈良時代に租庸調がはじまりました。
「租」は支給された農地に対して一定量の米の貢納、「庸」は労役もしくは米や物産の提供、「調」は繊維製品またはそれに代えた金銭もしくは特産物の貢納でした。

「麻」と「苧」はあわせて「苧麻」と呼ばれ、苧麻の織物は租庸調の「庸」と「調」として全国から平城京の朝廷に集められていました。
単に「布」と表記する場合は、この苧麻の織物だとされています。
一方それ以外の繊維は生産量が少なかったために、それぞれの繊維名で呼ばれていました。

麻の葉模様の誕生

「麻の葉模様」は大麻の葉に似ていることからその名がついた日本の伝統文様。
丈夫で成長が早い大麻の特徴から「子供の健やかな成長」の意味をこめられています。
麻の葉模様はそもそも鎌倉時代に仏教美術のデザインとして生みだされ、仏像の着衣や仏教絵画に用いられていましたが、江戸のころ着物の柄として定着しました。
くわえて人気の歌舞伎役者が麻の葉模様の衣装を着たことで流行し、着物だけでなく本の表紙や建具などのデザインにも応用されました。

庶民の衣服であった麻


室町時代に木綿が入るまで、麻は貴族や武士の下着として使われていました。
江戸時代においては絹が高級品とされていたため「百姓は布・木綿たるべし」という規制に則り、庶民は夏冬を問わず麻と木綿を着ることが定着しました。
江戸も中期になると財政難でたびたび「奢侈禁止令」が出されましたが、 庶民の服であった麻の中でもシボが特徴の小千縮は元禄年間には諸大名からも注文が入るようになりました。
その人気ぶりから贅沢だということで天保年間には奢侈禁止令の対象にもなったほどです。

夏の普段着物におすすめ!麻の特徴

麻の着物はさらりとした肌ざわりで汗ばむ季節にも心地よく着られる、カジュアルな夏の着物です。

麻の長所

・さらりとした肌ざわり
・暑さを感じにくい
・吸湿・速乾性に優れている
・家庭で洗濯できる

麻の短所

・しわができやすい
麻の着物はしわになりやすいため、水を入れたスプレーを携帯することをおすすめします。
しわになったときにはスプレーをして、手のひらで軽くポンポンと叩いてしわを伸ばしましょう。

麻着物のお手入れ方法

麻の着物は家で洗濯できますが、いくつか注意点もあります。
・必ず水で洗う
・中性洗剤を使う
・脱水は1分
お湯を使うと縮んでしまうため、かならず水を使いましょう。
おしゃれ着用の中性洗剤を使います。

洗濯機で洗うなら袖畳みにしてネットに入れ水流は弱め、しわにならないよう脱水はほんの1分ほどにしてください。
手洗いの場合は、袖畳みにした着物を水を張った浴槽に入れ、シャワーの水圧で汚れを流すイメージで押し洗いします。
もみ洗いやすり洗いをすると風合いが失われるので、かならず押し洗いにしましょう。
干すときは「だら干し」にします。
水滴がぽたぽた落ちるくらいが、水の重みで自然にしわが伸びて型崩れしません。
しわがあるところは両手で優しく叩いて伸ばしておきましょう。
色落ちを防ぐために、浴室など日の当たりにくい場所で陰干しするとなお良いでしょう。

着物における麻の種類

縮とは糸に強い撚りをかけて織ることにより、生地の表面にシボを出す技法のこと。
縮の原料には絹や麻が使われています。
シボのある縮は肌にまとわりつかず、さらりとした着心地のため夏でも涼しく着物を着ることができます。
着尺の価格帯は20,000~300,000円。
小千谷縮は新潟県小千谷市周辺で織られている、苧麻を原料とした上質の縮の織物。
また、明石縮は麻ではなく絹の縮織物になります。

上布

上布とは細い糸(苧麻)を平織りしてつくる上等な麻布のことをいいます。
過去には幕府などへ献上、上納されました。
縞や絣模様が多く、夏用の着物に使われます。
価格帯は30,000~6,000,000円。

芭蕉布

芭蕉布とは沖縄本島北部、大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)を中心に作られる織物。
芭蕉布はバナナ(実芭蕉)の仲間である糸芭蕉の繊維から織られます。
とんぼの羽のように透けるほど薄く軽いといわれ、張りがあり風を通す心地よい生地は高温多湿の沖縄で暮らす人々にとってなくてはならないものでした。
糸芭蕉の栽培から生地の仕上げまで、すべてを地元で手作業でおこなう稀な工芸品です。
価格帯2,000,000円~

麻着物の代表と特徴

近江ちぢみ

滋賀県湖東地域で作られている苧麻を使用した縮の織物です。
明治のころより改良を重ね、織り上げた生地を日本で唯一の技法で揉みこむことにより、独自の凸凹形状をもつ「シボ」を表現する仕上げ方法へと変革をとげました。
柔らかく光沢と強度があり、着心地に涼感があるので汗をかく夏にぴったりです。

小千谷縮

新潟県小千谷市周辺では古来から苧麻を原料として麻織物が作られていました。
江戸時代には改良され、独特のシボを出すことで小千谷縮が生まれました。
肌にべたつかないさわやかな着心地の通気性と吸湿性に優れた夏物着尺地です。

越後上布

越後上布は新潟県南魚沼市や小千谷市を中心に生産される平織の麻織物で、原料に苧麻が用いられています。上布の最高級品であり「東の越後、西の宮古」と呼ばれる日本を代表する織物です。
古来は越後縮といわれていましたが、現在では平織のものは越後上布、縮織りのものは小千谷縮と区別されています。ともに重要無形文化財指定。

能登上布

能登上布は石川県羽咋市に唯一の織元があります。
原料は苧麻で、特徴は染めにじみが少なく緻密ですっきりとした絣模様です。
またひんやり涼しい風合いや透け感や軽さ、丈夫さ、光沢感があり、贅沢な夏着物です。
石川県の無形文化財指定。

宮古上布

宮古上布は沖縄県宮古島で作られている織物。
苧麻が原料になり琉球藍で染めて作られます。
苧麻の繊維を1本1本手で裂いて作る細い糸で織られるため、通気性に富み、丈夫で長持ちします。
「砧(きぬた)打ち」によって独特の光沢と柔らかさが生まれます。
国の重要無形文化財指定。

八重山上布

八重山上布は沖縄県八重山郡周辺で作られている織物です。
苧麻の手紡ぎ糸を使って織られています。
特徴は苧麻手紡ぎ糸のさらっとした風合いと風通しのよさ、白地に浮かぶおおらかな絣模様です。

幻の布・喜如嘉の芭蕉布

喜如嘉の芭蕉布は沖縄県北部、大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)で作られている織物です。
特徴は原料が糸芭蕉であることと風通しのよいさらりとした生地。
薄く張りがある布は「トンボの羽」とも形容され、湿気の多い沖縄で珍重されました。
糸芭蕉の栽培から染め織りまで地元の素材を使い、一貫した手作業で行われる織物は国内でも少なく、喜如嘉の芭蕉布が幻の織物と呼ばれる理由です。

麻の着物を仕立てる際の注意点

麻は単衣仕立て

夏の素材の麻は単衣仕立てになります。

浴衣なら撥衿(ばちえり)

浴衣として着用するなら撥衿が楽でおすすめです。
着物として着るなら広衿にしましょう。
広衿は厚みが出るので、生地によってはゴロゴロして気になるかもしれません。
上半身が華奢で補正を入れている方なら、広衿に仕立てて補正代わりにするのもいいでしょう。

透けが気になる場合は裏地をつける

麻の着物は透け感を楽しむもの。
長襦袢の色によっても着物の雰囲気は変わります。
お出かけのシーンに合わせて長襦袢を組み合わせましょう。
それでも透けるのが気になるようであれば居敷当てをつけてもいいでしょう。
そのさいの注意点は居敷当ての部分は他の長襦袢の部分と見ためが変わること。
また麻は水に濡れると縮みやすいので、居敷当ての生地は着物と同じ生地にするとお手入れのさいも安心です。

麻の着物に関するQ&A

Q.高級な麻着物は礼装になる?


いいえ。
どんなに高価であっても麻の着物の格はあくまでも普段着です。
フォーマルシーンでは着られませんが、デパートでのお買い物やパーティー、美術館めぐりなど夏のお出かけには最適です。

Q.麻の着物は夏にしか着れないの?

気温によっては単衣の時期の6月から着用できます。
着物の色味によっては秋口まで着用可能。
麻の着物は盛夏に着る絽や紗よりも着用時期が長くなります。

Q.麻の着物と浴衣の違いが知りたい

仕立て方の違いになります。
基本的には綿は浴衣、絹なら夏着物といわれていますが、麻も立派な夏着物に属します。

Q.麻の長襦袢や半衿など、お手入れはどうすればいいの?

麻の着物と同じお手入れのしかたになります。
・必ず水で洗う
・中性洗剤を使う
・脱水は1分

Q.麻の長襦袢、「トスコ」って何?

ポリエステルと麻が混ざった、両方の特徴を併せ持った夏用の長襦袢です。
涼しさとお手入れのしやすさ(洗濯OK、ノンアイロン)を兼ねそなえています。

まとめ

麻の着物は普段から着物を着たい人や初心者にとって、一枚は持っておきたいもの。
デパートなどのお買い物やレストランでのランチ会、美術館めぐりなどのお出かけに重宝するでしょう。
また夏は汗が心配になる時期ですが、麻の着物なら汗をかいたり濡れたりしても家で洗濯できるので安心です。
着用時期も単衣の頃から秋口まで長いため、一枚あると着用機会がぐっと上がります。