錦織とは?西陣織技法の定義や唐織との違い、歴史や体験工房を紹介

錦織とは?西陣織技法の定義や唐織との違い、歴史や体験工房を紹介

「錦織って何?」
「西陣織や唐織とは何が違うの?」
「どんなコーディネートを楽しめる?」

豪華な色彩と繊細な模様で根強い人気を誇る錦織。きらびやかさと上品さを兼ね備えた雰囲気に憧れている方も多いでしょう。

しかし、錦織について何となくはわかるけれど、改めて説明するとなると自信がない…という方も多いのではないでしょうか?
西陣織や唐織など、似ている織物が多くて違いもわかりにくいですよね。

そこで今回は、錦織についての基本から歴史、製造工程までまとめました。
TPOに合わせた錦織のコーディネートについてもご紹介していますので、いつかは手に入れたいと考えている方はぜひ参考にしてください。

錦織とは?

錦織とは、多彩な色の糸を使用して織られた紋様や織物をさします。
「錦」の字は「金」に絹織物の意味を持つ「帛」を合わせ、美しいものを表すときに使われてきました。
金糸銀糸のほか、さまざまな色の糸を用いて織りだされた生地は、豪華絢爛という言葉がぴったり。華やかで繊細な錦織は、絹織物の芸術作品と言えるでしょう。

錦の字にふさわしい品格が漂う錦織は、今も多くの人の心を惹きつけている高級織物です。

「光の織物」錦織の特徴

「光の織物」と言われる錦織の特徴は以下の通りです。

・光の加減で輝きが変化する
・立体的に見える

理由は錦織の原料と構造にあります。

原料となる絹糸は半透明で、断面は丸みのある三角形。光を通して分散し反射する性質を持ちます。
光の角度で変わる複雑な輝きはまるで宝石のよう。金や銀など使われている多くの色と相まって、錦織の美しさがあらわれています。

また、一般的に織物は経糸と緯糸を交互に重ねて織られますが、錦織の構造はさらに繊細で複雑です。糸を細かく使い分け、いくつも重なり合ってできているため、刺繍のように紋様が浮かび上がって見えます。

光による輝きの変化と立体感は「光の織物」と呼ばれる錦織最大の特徴です。

錦織の種類

錦織には、糸錦、暈繝錦(うんげんにしき)、唐錦、綴れ錦、金蘭錦、など多くの織物が含まれます。中でも西陣織が錦織の代表として有名です。

ここからは、西陣織にも使われている錦の技法「経錦」と「緯錦」の2種類をご紹介します。

経錦(たてにしき)

経錦とは文字通り、経糸で地の文様を織り出した錦の技法です。
裏も表と同じく美しい紋様が楽しめます。

ただ、色が多くなると経糸の本数が増えて織りが難しくなることから、配色に限りがあるのが弱点。大きな模様の織り出しが難しい一面も抱えています。

発祥は明らかになっていませんが、錦で最も古い歴史を持ち、1200年以上も前から織られていたと言われている技法です。

緯錦(ぬきにしき)

緯錦は、緯糸を使って地と紋様を織り出した錦の技法です。
特徴は色数の多さと模様の大きさ。経錦にはあった技術的な制約がなくなり、比較的織りやすいため、江戸時代には頻繁に生産されました。
現代でも華やかな紋様の錦はほとんどが緯錦で作られています。

「錦織」と「唐織」の違いは?

似ていて間違えやすいのが錦織と唐織です。両者の違いは分類にあります。

錦織は複数の色糸を使って模様を織りだした絹織物の総称です。
対して、唐織は中国(唐)から伝えられた織物をさします。糸を織物の表面に浮き上がらせて織られた立体感のある模様が特徴です。
しかし、金や銀など色鮮やかな色糸を用いて紋様を織りだしているため、唐織も錦織の中に含まれます。

広い意味では同じ織物と言える錦織と唐織ですが、特徴から細かく分類すると異なる織物です。

錦織の衣装と着用シーン

華やかな紋様が多くフォーマル向けと思われがちですが、ちょっとしたおでかけなど幅広く楽しめるのが錦織の魅力。
しかし、柄や色、雰囲気などに合わせて選ばないと、せっかくの錦織もちぐはぐな印象になってしまうため、注意が必要です。

ここからは錦織の商品とともに着用シーンや着物を選ぶ際の注意点についてご紹介します。ぜひコーディネートの参考にしてください。

・フォーマルに向く錦織の「袋帯」
・カジュアル向けの「名古屋帯」
・花嫁衣装の「打ち掛け」としての錦織

▼詳しい帯の種類については以下の記事もあわせてご覧ください。

フォーマルに向く錦織の「袋帯」

フォーマルに向くのは、金糸銀糸を使用した錦織です。
格式高い古典柄が織り出されており、着姿に重厚感と華やかさを漂わせてくれます。

袋帯は現代では礼装の主流になっている帯。格式が高いため、礼装の留袖や色留袖、準礼装である色無地や訪問着にも合わせられます。

ただ、袋帯であっても紋様によって合わせる着物が異なりますので注意しましょう。
金糸銀糸が施された伝統紋様は留袖や色留袖、金糸銀糸の少ないモダンな紋様は色無地や訪問着に向くとされています。

気にしすぎる必要はありませんが、実際に帯と着物などを合わせてみたときの雰囲気を一度確認してみてください。

▼あわせてご覧ください。

カジュアル向けの「名古屋帯」

錦織の技法で織られたカジュアル向けの帯も生産されています。
シックな色合いで美しい光沢があり、控えめながらも上品な華やかさが感じられる帯です。小紋や紬などのカジュアル着物とも合わせやすく、同窓会やお茶会などの場面で活躍してくれます。

カジュアルシーンに錦織を着用する場合は、金や銀、格式高い伝統的な紋様が使われていないことがポイントです。
金糸や銀糸はフォーマル向けになりますので、普段着に使用するのは避けましょう。

錦織には、落ち着いた色遣いと文様の帯も多くあります。色や柄の雰囲気を着物と合わせて、コーディネートしてください。

▼あわせてご覧ください。

花嫁衣装の「打ち掛け」としての錦織

花嫁衣装のひとつ「打ち掛け」は、白無垢と同じく和装の結婚式で着用する正礼装です。
鶴や亀などの吉祥柄が施され、豪華絢爛な錦織は打ち掛けにもぴったり。
織りながら柄を描いていくため重厚感が増し、人生の節目を飾るのにふさわしいゴージャスな雰囲気を纏えます。

花嫁衣裳で一般的な白無垢に比べ、色や柄が豊富なので自分に合った衣装を選べるのが打ち掛けの魅力。
白無垢は挙式のみ着用できる正装ですが、色打ち掛けは挙式と披露宴の両方で着られます。和装の結婚式でも個性を出せるため、近年人気が高まっている衣装です。

錦織の歴史

錦織の始まりは、約2000年前。中国で生まれ、日本に伝わりました。
ここからは、繁栄と衰退を経て現代に受け継がれていった錦織の歴史をご紹介します。

中国の前漢時代から存在する織物

錦織は、紀元前206年から紀元後8年の中国・前漢時代には存在していたと言われています。当時からすでに高い技術で経錦が織られていました。

日本には7世紀の飛鳥時代、四川省の蜀で生産されたとされる「蜀江錦(しょっこうきん)」が奈良の法隆寺に伝わっています。お寺を彩る幡などに用いられ、1400年以上経った現在でも鮮やかな色彩は衰えていません。

1200年以上前から存在する錦織

日本に錦織の技術が伝わったのは少なくとも1200年以上前とされています。中国から伝えられた高機を用いて手織りされてきました。

奈良時代には経錦や緯錦などの技法や文様が大きく発展します。平安時代にはさらに多くの技法が生まれ、錦織が盛んに織られていました。

さらに時代は進んだ室町時代、平安時代には宮廷御用達となっていた織り手たちによって、錦織のひとつである西陣織が生まれます。
応仁の乱で避難した後に再開した場所が西軍の陣地後だったため「西陣織」の名前が付けられました。

錦織の衰退と龍村平蔵氏による復元

日本を代表する高級織物として西陣織は地位を確立しますが、時代とともに衰退の影が忍び寄ります。
生活スタイルの変化や服装の西洋化などで需要は右肩下がり。産業自体も縮小していきました。

そんな中、西陣織は明治時代初期にフランスのジャガード織機やバッタン(飛び杼装置)などの織機装置をいち早く輸入して取り入れ、作業の効率化に力を入れます。
伝統的な織物の研究も進み、初代龍村平蔵氏は法隆寺や正倉院に残る70種類の古代裂の復元にも成功。長い歴史の中で育まれた技術に、現代の技術を取り入れた古くて新しい経錦も織られ始めました。

1990年代以降、職人の高齢化や後継者などの問題はあるものの、錦織は進化を続けています。和服にとどまらずネクタイやカーテンなど、さまざまな形の錦織も目にするようになりました。
時代や社会の変化にも柔軟に対応した錦織は現代でも日本人の憧れとして輝きを放ち、未来へ技術を伝え続けています。

錦織の製造工程

時代の変化を乗り越え、現代に受け継がれてきた錦織の製造工程は、大きく分けると以下の通りです。

1.図案
2.紋意匠図
3.紋彫り
4.製糸
5.糸染め
6.糸繰り
7.整経
8.製織

錦織は技術の高さから細分化され、糸から作品になるまで70人以上の職人が携わっていると言われている錦織。
ここからは、製造工程や使用する道具についてわかりやすく解説します。

図案

錦織は、図案の作成から始めます。
専門の職人が描いたり、古典文様を参考にしたり、スケッチから図案をおこしたり、作成方法はさまざまです。

紋意匠図

次は、織物の設計図となる紋意匠図の作成です。
意匠紙と言われる方眼紙に、図案を見ながら糸の色や織る場所がわかるように升ごとに塗り分けていきます。
織り方などの指示も書き込まれ、最後は形をも決める重要な工程です。

紋彫り

紋意匠図を作成したら、紋彫りに移ります。
紋彫りとは、紋意匠図をもとに紋紙に穴を彫っていく工程です。
ジャガードと呼ばれる織機を使用する際、紋紙の穴が指令となって経糸の上げ下げを行います。ひとつでも穴を間違えるとデザインに影響する作業です。

※ジャガードや紋紙については、「製造工程で使用する道具」で詳しく解説します。

製糸

製糸は、絹の材料となる繭から糸を取り、数本を合わせて撚りをかけて生糸を作る工程です。
必要な本数だけをまとめてねじる撚糸(ねんし)を行い、原料となる絹糸を作ります。

糸染め

次に絹糸を染める工程に入ります。
染色の前に行うのが精錬(せいれん)と呼ばれる作業です。表面の汚れや不要な成分を取り除き、絹が持つ美しい光沢や柔らかな風合いを引き出す役割があります。

染めに使うのは天然染料や化学染料。色はもちろん、明るさや濃さ、彩度など細かく決められており、職人は指示通りになるよう調整を行います。技術と経験が必要となる工程です。

糸繰り

糸繰りとは、染めた糸を色別に糸枠に巻き取る工程です。
織りあげる図案によって異なる枠数や本数を、設計図に従って経糸は整経に、緯糸は糸枠の後緯管に巻いていきます。

整経

整経は、織りに入る前の経糸を整える工程です。
整経機と呼ばれる機械で、織りに必要となる長さと幅になるよう本数をそろえます。糸の張っている状態を整え、織りあがったときにムラが出ないようにする大切な作業です。

製織

糸の準備が整ったら、いよいよ生地を織る工程に入ります。

織る機械は、動力のついている力織機と、手足で操作する手機の2種類です。複雑で細かな紋様や色数の多い織物には、今でも手機を使用します。

織っている最中も、使用する機の状態や糸の張りなどの調整が欠かせません。紋意匠図を確認しながら、織り手が丹念に丁寧に織りあげ、錦織が完成します。

製造工程で使用する道具・材料

錦織の製造工程で使われる専用の道具や材料ついて簡単に解説します。

・ジャガード
・紋紙
・綜絖
・杼
・筬
・銀糸・金銀箔・模様箔

ジャガード

ジャガードはフランスで1801年に開発された自動織機です。紋紙と呼ばれる厚紙にあけられた穴を読み取り、経糸を動かして複雑な紋様を織りあげます。
ジャガードの誕生まで2人以上を必要とした経糸を上下する作業が、1人でもできるようになり、複雑な模様も簡単に織れるようになりました。

紋紙(もんがみ)

紋紙は、ジャガード織機に使う穴のあいた型紙です。紋意匠図をもとにあけた厚紙の穴をジャガード織機が読み取ることで、経糸の上下や糸通しを行い、生地を織ります。
複雑な模様を作るための指令書のような存在です。

現代では紋紙も電子化が進み、専用の設備を使用して紋意匠図を直接データを読み取り、生地を織る動きも広がっています。

綜絖

綜絖とは、織機にある部品のひとつです。経糸を上下に動かす役割を持ちます。
綜絖で開いた経糸の間を緯糸を通して布ができるため、織機の要となる部分です。
ジャガード織機では紋紙からの指令で動きます。

杼(ひ)

杼は、織機にある部品のひとつです。舟形をしており、シャトルとも呼ばれています。
中央に緯糸を巻いた木簡を入れ、経糸の間を通りながら緯糸を出して生地を織っていきます。

筬(おさ)

筬とは、織機についている道具のひとつです。経糸の位置や密度を整え、織りあがる生地の幅を一定に保つために使用します。
緯糸を通すごとに筬で打ち込み、折り目を細かくするためにも使う櫛状の道具です。

金銀糸・金銀箔・模様箔

錦織、特に西陣織に欠かせない材料が金銀の糸や金銀箔、模様箔です。
金糸や銀糸は、芯となる糸に細かな金銀の箔を巻いたもの。金銀箔は、和紙に金や銀を貼り付けたものを細かく切ったものをさします。
模様箔は、金銀箔に顔料や染料などで彩色したり、金砂子を振りかけ仕上げたりした無地ではない箔のことです。柄箔や絵柄箔とも呼ばれています。

錦織の工房見学や体験はできる?

錦織の見学や体験を受け付けている工房は、京都にある「光峯錦織工房」です。
体験コースも豊富なので、実際に自分で触れて、技術の高さや歴史の重みを実感してみてください。

※掲載内容はすべて2024年2月現在の情報です。

光峯錦織工房

光峯錦織工房は、明治時代に古裂の復元に尽力した初代龍村平蔵氏の工房です。1894年の創業以来、錦の伝統技術を継承し、未来へ伝え続けています。
現場をそのまま見られる工房見学のほか、錦織ならではの箔織りなど体験コースも豊富。
人数制限を行いながらの開催になりますので、訪れる日時が決まったら早めの予約がおすすめです。

▼体験コース

コース 内容 料金(1人分、税込) 所要時間 対象者
工房見学 解説付きでものづくりの現場を見学。 大人:500円
学生:300円
※小学生以下無料
60~90分 子どもからOK
平織りと織物工房見学 平織り約10×10㎝の布を織る体験に、解説付きの工房見学が付いたコース。 1500円+工房見学料 約30分
(織り約20分)
120㎝以上ある小学生以上
錦地織り(綾織り)体験と織物工房見学 約18cm×18cmの綾織りを織る体験に工房見学が付いたコース。 3500円+工房見学料 約50分
(織り約40分)
130㎝以上ある小学生以上
親子で機織り体験(平織り)と織物工房見学 未就学児のお子さんと親子で機織りする体験に解説付きで工房見学も付いたコース。
約8種類から緯糸を選べる。
1500円
保護者:500円(見学料)
工房見学込みで約90分
(織り約20分)
未就学児
※保護者は織りのサポートが必要
高機織り体験と工房見学 普段使われている高機を使用した織り体験コース
・Aコース:織り体験+見学
・Bコース:約46×16.5㎝の紋様部分の織り+持ち帰り+見学
・Cコース:約46.5×27㎝の紋様部分の織り+持ち帰り+見学
・フリーコース:数種の中から織物を選んで織る体験
Aコース:1500円+見学料
Bコース:25000円+見学料
Cコース:35000円+見学料
フリーコース:要相談
・Aコース:織り方の説明後、約15分の体験
・Bコース:平均3~4時間
・Cコース:約3時間半(体験とは別に見学約60分)
・フリーコース:約3時間半(体験とは別に見学約60分)
A・Bコース:身長約150㎝前後
C・フリーコース:身長約150㎝ほど(小学生不可)
箔の織り体験と工房見学 約18×18㎝の箔を織る伝統の技術を体験。
持ち帰りと工房見学も可能。
6000円+見学料 約120分
錦織アクセサリー手作り体験と工房見学 数種類の錦織の織物の中から1つ選んでアクセサリーを作るコース。
アクセサリーは
・イヤリング
・ピアス
・ブローチ
・マカロンストラップ
・ヘアゴム大
・ヘアゴム小
・ネクタイピン
から1つ選択
3500円(見学料込み) 約40分

▼施設概要

住所 京都府京都市北区紫竹下ノ岸町25
Googleマップ
アクセス 京都駅から
【地下鉄】地下鉄烏丸線「北大路駅」または「北山駅」で下車、さらにバスに乗り「下岸町」で下車、徒歩3~4分
【バス】「西賀茂車庫ゆき」のバスに乗車、「下岸町」で下車し徒歩で3~4分
【タクシー】京都駅から約30分
営業時間 10:00~17:00
予約方法 電話・メール・ネット
※高機・箔体験はネット予約の受付はなし
名前、希望日時、人数、連絡先、希望コースを伝える
平日9時~17時まで
電話番号 075-492-7275
メールアドレス info@koho-nishiki.com
注意事項 ・支払いは現金のみ。
・機織り体験は1回につき1人での体験のみ。交代で織ることは不可。

まとめ

錦織は、光によって表情を変え、豊かな配色と立体的な紋様が特徴の絹織物です。
1200年以上の歴史を持ち、現在でも70人以上の職人の手によって丁寧に作られています。

金糸や銀糸が使われ豪華なイメージがありますが、柄や色によっては留袖や訪問着だけでなく、小紋や紬などに合わせられるのも魅力。TPOに合わせて幅広いシーンで活躍してくれます。

「光の織物」や「絹織物の芸術」とも言われている錦織。気高さを感じさせる生地を身にまとい、不思議と背筋が伸びる感覚を味わってみませんか?