季節の移ろいを楽しみ、それぞれの季節を楽しむ日本人の感性は、着物のルールにも表れています。
着物は季節によって仕立てや素材、色柄が異なり、時期によって細かく衣替えをするのが通例となっています。
ただし、季節のルールといってもそこまで堅苦しいものではありません。
日本の四季を思う存分味わい尽くすために、着物の上でも季節を表現しながら快適に過ごしたい…そんな思いによって、現代まで着物における季節のルールは守られてきました。
今回は、季節ごとの着物の違いと楽しみ方、さらに雨の日の対策についてもご紹介いたします!
着物に季節のルールがある理由
そもそも、着物における季節のルールとは何なのでしょうか?
暑い時期は薄着に、寒い時期は厚着に…といった配慮は洋服の場合も同じですが、着物の着用には洋服以上に細やかな決まりごとが存在します。
もちろん、体調や気候、デザインへのこだわりなどに応じて自由に着方をアレンジするのも素敵ですが、アレンジも基本となるルールがあってこそ。
まずは、なぜ着物の着用に季節のルールが生まれたのか、原点から紐解いていきましょう。
四季や旬を楽しむ和の心
日本の気候の特徴といえば、四季があること。
移り変わる四つの季節を名残惜しみ、楽しむことが日本人の国民性であるとされています。
実は、四季のある国は日本以外にも存在します。
たとえば、カナダやアルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドなどがそれに当たります。
ただし、日本の四季は、他国の四季とはかなり異なっています。
日本は全方位を海に囲まれた小さな島国であり、海と山が極めて近い距離にある地形であるため、海流や気圧の影響を受けやすく、その分季節の移り変わりがはっきりとしています。
およそ三ヶ月ごとという短いスパンで、気温や気候が明らかに変動するような国はかなり珍しく、日本ならではの特徴であると言えるでしょう。
また日本人は、四季を愛でる感性に優れているとされています。
古来より、日本ではすべてのものに精霊が宿るという「八百万信仰」が盛んでした。
動物に限らず、植物や無機物にすら神様が宿ると考え、ものを大切にしながら自然と共存する生き方が尊ばれてきました。
季節ごとの花に目を配り、歌を詠んだり絵を描いたりしてその姿を記録し、打ち水や簾といった暑さを乗り切り、厳しい寒さの中の雪景色すら、美しいものとして楽しむ…。
日本人には、心情豊かに季節の移ろいを感じ取るセンスが備わっているのです。
だからこそ、自分たちの着るものにも四季折々の柄行を施し、その季節にぴったりの仕立てや着方を考えるようになったのではないでしょうか。
着物に季節のルールがあるのは、日常着に四季の楽しみを取り入れようとした先人たちの遊び心が、色濃く残っているからなのです。
衣替えは生活の知恵から生まれた
日本の衣替えの歴史は、平安時代まで遡ります。
平安貴族は、年中行事として旧暦の4月1日と10月1日の年2回にわたり、夏の着物と冬の着物の入れ替えを行っていました。
この行事の由来となったのは、中国宮廷で行われていた「更衣」という習慣です。
着物を入れ替えることで、心身の穢れを祓うという意味が込められていたようです。
平安時代に取り入れられたこの習慣は、室町時代から江戸時代にかけて平民にも広まっていき、季節ごとに衣を入れ替える風習として根付いていきます。
また、気候の変化が激しい日本において、衣替えは庶民の生活の知恵の表れでもありました。
庶民にとって着物は貴重なもので、一年中同じ着物を着用するということも少なくありませんでした。
夏には薄手の着物一枚を羽織り、秋になると裏地を縫いつけて「袷」の着物に仕立て替え、冬の間は布地の間に綿を入れて「綿入れ」として着て、また春になると綿を抜いて「袷」、そして暑くなってくると裏地を外して「単衣」に…といった具合で、仕立ての工夫で一枚の着物を長く着続けていたのです。
着物の虫干し、洗い張り、そして仕立て直しを暦に合わせて行っていたことから、着物の季節のルールは確立されていきました。
季節による着物と衣替えの考え方
着物の季節は、生地や仕立て方によって分けられます。
まずは、着物の衣替えをする大まかな時期について押さえておきましょう。
一般的に、冬の間は袷の着物を着るとされています。昔は「綿入れ」と呼ばれる温かい着物を着ている人が多かったようですが、現代においては袷が主流となっています。
衣替えのタイミングは主に、春から夏にかけての間、夏から秋にかけての間に行います。
5月から6月の間に袷から単衣の着物に切り替えて、7・8月の盛夏には「薄物」という夏向けの着物に移行します。
9月の間に再び単衣を着用して、だんだんと涼しくなってきた頃合いに、袷の着物へと移っていくというのが、基本的な衣替えの目安です。
ただし、厳密に何月何日から衣替えをしなければならないという決まりはありません。
特に近年は地球温暖化によって気候が変化しているため、単衣や薄物といった涼しい着物を着用すべき時期は昔より長くなっているはずです。
ざっくりとした衣替えの目安は意識しつつ、ご自身の体調や実際の気候に合わせた着物選びを行いましょう。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
着物 | 袷 | 袷 | 袷 | 袷 | 袷、単衣 | 単衣、薄物 | 薄物 | 薄物 | 薄物、単衣、紗袷 | 袷 | 袷 | 袷 |
袷の着物の時期(10~5月)
袷の着物を着用する季節は、一般的に10月から5月にかけての「秋~翌年の春」頃であると言われています。
袷とは、胴裏や八掛と呼ばれる裏地が付いた着物のことです。裏地が付いているため、特に盛夏には向きません。
胴裏や八掛には、着物をより温かく着られるという効果の他に、生地の傷みや裂けなどを防ぐというメリットもあります。
また、歩いている時に、着物の裾がめくれて八掛がちらりと見えることがあります。着物の地色とは異なる色の八掛をアクセントにしたり、着物と同じ布地(共布)を使って裾がはだけてもわかりにくいようにしたりと、普段は隠れている部分を少しでもおしゃれに見せようという工夫が施せるパーツでもあります。八掛の色と小物の色を合わせて、統一感のあるコーディネートにするのも素敵ですね。
単衣の着物の時期(6・9月)
単衣の着物は、袷に対して、裏地を付けずに仕立てた着物のことを指します。
主に6月や9月の、季節の変わり目となる時期に着用されます。
裏地が付いていない分、袷と比べて涼しく着られることが特徴で、暑くも寒くもない時期にぴったりの着物です。
<単衣の記事はこちら>
薄物の着物の時期(7・8月)
薄物は、裏地の付いていない着物のことで、主に7・8月の盛夏に着用されます。
単衣との違いは、透け感のある生地が使用されている点にあります。
「夏物」とも呼ばれ、「紗」や「絽」といった種類の着物が薄物に該当します。
夏の和服といえば浴衣を連想されるかもしれませんが、浴衣はもともと部屋着やカジュアル着として着用されていたものなので、改まった場では薄物を着るのが一般的です。
紗や絽の着物は肌が透けて見える素材なので、必ず下に襦袢を合わせるようにしましょう。
色がついたカラー襦袢を着たり、襦袢の代わりにワンピースやスリップを着てドレス風の着こなしにしたりと、透け感のある薄物ならではの着こなしも楽しめます。
色や柄だけでなく、素材の質感によって涼しげな夏らしさを表現できるところが薄物の特長です。
【豆知識】暑がり対策の胴抜き仕立てとは?
袷と単衣の間に位置する仕立て方として、「胴抜き仕立て」というものもあります。
「胴単衣」とも呼ばれ、着物の裾や袖口などには八掛を付けて、胴裏は付けずに仕立てることを指します。
胴体にあたる部分が単衣仕立てとなるので、見た目には袷の着物を着ているように演出しつつ、袷よりも涼しく過ごせるというメリットがあります。
本来であれば袷の着物を着る季節だけど、暑いから単衣の着物を着たい…といった場面の救世主となる仕立て方です。
近年は暑い気候が続くことが多いので、真冬の時期に着たい着物を除いて、袷の着物はすべて胴抜き仕立てにしてしまうのも一つの手かもしれません。
八掛を付けると重心が下のほうに引っ張られるため、紬など、丈夫な素材の着物におすすめの仕立て方です。
季節による帯の考え方
帯は使用する季節によって、ざっくりと2種類に分けられます。
夏に用いられる帯は夏帯、それ以外の季節に使用される帯は冬帯と呼ばれます。
素材や織り方などにそれぞれ違いがあり、夏帯はより涼しく、冬帯はより温かく過ごせるようになっています。
袷の着物の時期(10~5月)
秋から春にかけての袷の季節には、冬帯を合わせます。
冬帯は夏以外の3シーズンに使用できるとされていますが、生地の厚みや通気性、色柄などの特徴はさまざまです。
錦織や綴れ織といった格の高い帯や、唐織や紬地の帯、塩瀬や綸子などの後染めの帯、博多織や木綿の帯など、フォーマルからカジュアルまで幅広い種類の帯が存在します。
着用シーンや季節に合わせて、よりふさわしい帯を選べるといいですね。
単衣の着物の時期(6・9月)
単衣の季節に使用する帯は、主に夏帯となります。
紗袋帯や麻袋帯、絽綴、紗献上、絽紬といった種類の帯の他、塩瀬地の帯や八寸仕立ての帯も単衣に合わせることができます。
塩瀬とは生糸を使用したやわらかな絹織物のことで、八寸仕立ては裏地のない単衣状の帯のことを指します。
よりカジュアルな場面であれば、浴衣に合わせるような半幅帯を単衣の着物に合わせることもできますが、畏まった席には向きません。
9月の初めには秋のモチーフが入った夏帯を使用し、涼しくなっていくにつれて塩瀬地の帯や八寸帯、あるいは冬帯へと移行していくのが一般的な流れです。
薄物の着物の時期(7・8月)
薄物の季節に使う帯は、もちろん「夏帯」になります。
絽や紗、羅、麻、絽綴れ、紗献上といった種類があり、いずれも透け感のある織りが特徴で、手触りや見た目から涼しげな雰囲気が伝わってくる帯です。
軽くて通気性に優れているため、盛夏でも蒸れにくいのが嬉しいポイントですね。
夏帯は例外なく、盛夏の季節と単衣の時期にしか着用しないため、夏らしさや秋らしさを感じさせるデザインのものが多く、季節感のあるコーディネートを楽しめます。
【豆知識】一年中使える「博多織の帯」とは?
「博多織」という単語を聞いたことはあるでしょうか?
日本の伝統工芸品にも指定されている織物の一種で、たくさんの縦糸に数本まとめた太い横糸を打ち込んで織り上げる絹織物です。
博多織の帯は、キュッキュッと絹鳴りの音がするような抜群の締め心地に、しなやかでハリのある質感が特徴で、非常に締めやすく、初心者の方から着物上級者まで広く愛される帯です。
そして、博多織の中でも平織りで織られた薄手の博多帯は、季節を問わず一年中使用することができます。
シンプルな献上柄と美しい織りの風合いは、あらゆる着物にマッチするため、一本あれば重宝することまちがいなしです。
半幅帯は浴衣に用いられることも多く、さまざまな色の博多帯が存在します。
季節による襦袢の考え方
袷の着物の時期(10~5月)
長襦袢は基本的に帯と同じく、夏以外の季節に着るものと夏用のものとに分かれます。
秋から春の3シーズンに着用する長襦袢は、無双袖で腰回りに居敷当てが付いており、塩瀬やちりめん地の半衿が付いています。
無双袖とは、袖の表裏両面共に襦袢地の表面が出るよう、二重になっている仕立て方のことで、つまり着物でいう袷仕立てのような形の長襦袢ということです。
着ていて温かいのはもちろん、袖の振りからちらっと長襦袢の色柄が見える際、裏地ではなく表地を覗かせることで細かい部分にも気を遣うおしゃれが叶います。
また、「胴抜き仕立て」のように、袖部分は二重にしておいて、居敷当ては付けず胴部分を単衣仕立てにした長襦袢を「半無双」と呼びます。
少ない生地で仕立てられる分軽やかになり、より涼しく過ごすことができます。
無双袖の長襦袢の生地は主に綸子、縮緬、羽二重などで、透け感がないことが夏用の長襦袢との大きな違いです。
化繊の長襦袢などもありますが、乾燥する冬場になると静電気が起きやすく、正絹の着物との相性も良くないため注意しましょう。
また、夏用の長襦袢は白がメインとなりますが、夏以外の長襦袢は色や柄があるものも多く、着物との組み合わせを楽しむこともできます。
白い襦袢に袖だけ色柄のあるものを付け替える、替え袖という商品も存在します。
単衣の着物の時期(6・9月)
6月や9月の単衣の季節は、基本的に夏用の長襦袢で問題ありません。
9月は袷の着物へ移行していくにしたがって、無双袖の長襦袢に切り替えていくと良いでしょう。
無双袖の長襦袢に対し、夏用の長襦袢は単衣仕立てと呼びます。
絽、紗の織り方で透け感があるのが特徴で、半衿部分は絽になっているものが多いです。
ただし、透け感をある程度抑えるために薄い居敷当てを付けた夏用の長襦袢も存在します。
薄物の着物の時期(7・8月)
夏用の長襦袢は、絽や紗の他に麻素材のものもあります。
麻は吸水性の高さや風通しの良さが特徴なので、サラリと肌に貼りつかず、夏のインナーにはぴったりの素材です。
ご家庭での洗濯も可能なため、普段着の着物の強い味方でもあります。
ただ、麻はごわごわとして足捌きが悪くなったり、シワになりやすかったりするというデメリットもあります。
正絹の着物と組み合わせると素材感が悪目立ちしてしまうこともあり、また、カジュアルなので礼装にも向きません。
シワや足捌きの問題は、ポリエステルなどの化繊と麻の混合素材であればある程度解決できます。
正絹の薄物を着たいけれど、できるだけ涼しい天然素材の長襦袢を合わせたいという場合には、アイスコットンという接触冷感の生地もおすすめです。
肌に触れるとひんやり冷たく感じ、シワにもなりにくいため夏場は非常に人気の高い素材です。
【豆知識】年中夏物襦袢を愛用している人もいる?
長襦袢はいわば洋服のインナーと同じものなので、他人から見える部分に問題がなければ、ある程度どのようなものを身に着けても大丈夫です。
異常気象だと言われるほどの暑さなのに、袷の季節だからと袷の着物に無双袖の長襦袢を着ていては、体調を崩してしまいます。
暦の上の目安はざっくりと認識しておいて、気候と体調優先で長襦袢を選ぶのが得策です。
汗っかきで年中暑い思いをしているという方や、逆に汗をかきにくく体温が上がりやすいという方であれば、一年を通して夏用の長襦袢を身に着けたほうが快適に過ごせるはずです。
「うそつき衿」などの便利アイテムも活用して、暑い時期はできるだけ涼しく着物を着られるよう工夫しましょう。
|
季節に合わせる小物と上物
半衿や帯締め、帯揚げといった和装小物や、上物と呼ばれる羽織やコートも衣替えが必要です。基本的には、着物の季節に準じて、袷、単衣、薄物にそれぞれ合った小物や上物を選びましょう。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
半衿 | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど | 絽ちりめん、楊柳など | 絽、紗、麻など | 絽、紗、麻など | 絽ちりめん、楊柳など | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど | 塩瀬、ちりめんなど |
帯揚げ | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 絽、絽ちりめんなど | 絽、紗、麻など | 絽、紗、麻など | 絽、絽ちりめんなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど | 綸子、ちりめん、絞りなど |
帯締め | 冠組、平組など | 冠組、平組など | 冠組、平組など | 冠組、平組など | 冠組、平組など | 冠組、レース、三部紐など | 冠組、レース、三部紐など | 冠組、レース、三部紐など | 冠組、レース、三部紐など | 冠組、平組など | 冠組、平組など | 冠組、平組など |
上物 | 羽織、コートなど | 羽織、コートなど | 羽織、レース羽織など | 羽織、レース羽織など | レース羽織など | 雨ゴートなど | なし | なし | 羽織、レース羽織など | 羽織、コートなど | 羽織、コートなど | 羽織、コートなど |
袷の着物の時期(10~5月)
それでは、季節ごとに小物や上物の使い分けを細かく見ていきましょう。
まず、半衿と帯揚げは着物や長襦袢などと同じく、透け感の有無で2種類に分けられます。透け感のあるものが夏用、ないものが夏以外の3シーズン用です。
帯締めも同様に、レース組の透け感のあるものは夏用となります。
ただし、レースの帯締め以外は特に使用時期の決まりはなく、太めの帯締めは盛夏以外の時期に使うほうが暑すぎなくて良い、という程度の認識で十分です。
足袋や下駄、草履などのほかの小物については、基本的に通年使用することが可能です。
色や柄によってより使用するのにふさわしい季節はありますが、お好みで使い分ける程度で問題ありません。
ただし、ベロアの足袋やファーの付いた草履など、明らかに冬物と思われる素材が使われている小物は、できるだけ冬に使うようにしましょう。
袷の季節の半衿は、塩瀬やちりめん地などでできているものが多く、帯揚げは綸子やちりめん、ぼかし染めや絞り染めのものなどがあります。
化繊やコットンなど、絹以外の素材で作られた半衿や帯揚げも近年増えていますが、いずれも透け感がなければ袷の時期に使えます。
あとは洋服のコーディネートと同じように、ほっこりとした質感のものは涼しい季節に使うようにすると、より季節感のある装いとなります。
上物は、基本的に袷の時期に活躍するアイテムとなります。
風が冷たくなってくる秋から冬にかけて、羽織や道中着、道行コートなどを着ると温かく過ごせます。
羽織は前部分が開いているので、より防寒に特化するなら、道中着や道行コートのほうがおすすめです。また、洋服用のコートであっても、袖にゆとりのあるものやポンチョ型のコートであれば問題なく着物と合わせられます。試着の際には、衣紋を抜いた衿がつぶれないか、袖の振りがきちんと収まるかをチェックしましょう。
羽織やコートに関する決まりは特にありませんが、暖かくなってくる春先や初夏には、レースの羽織を着ると季節感にマッチしていて素敵ですね。
単衣の着物の時期(6・9月)
単衣の季節の小物は、基本的に夏用のものを使います。
透け感のある半衿や帯揚げ、レースの帯締めなどを組み合わせて、秋が近づくにつれて袷用の小物に入れ替えていくのが良いでしょう。
ただ、単衣の時期の小物は帯ほど厳密に考えなくてもいいので、暑くなければ袷用の小物を使ってもOKです。
上物は無理に着なくても大丈夫ですが、塵よけのためにレース羽織を羽織ってもいいですね。
薄物の着物の時期(7・8月)
盛夏に用いる半衿は絽や紗、麻など、透け感があって通気性のいい素材で作られています。
帯揚げも同様で、こちらは折りたたんで帯の下に挟むため蒸れやすく、より通気性が重要となります。
帯まわりの小物で体感温度が変わってくるので、ヘチマ素材の帯枕やメッシュの帯板など、見えない部分もできるだけ涼しくなるよう工夫を施しましょう。
帯締めはレース組のものや細い三部紐がおすすめですが、半衿や帯揚げ、足袋などもレース素材のものは涼やかに見えるので、夏にぴったりのアイテムです。
【豆知識】一年中使える優秀小物
前述したレースの半衿や帯揚げは、夏に限らず通年使用することができます。
洋服由来の素材だからなのか、レースは季節を選ばないオールマイティなアイテムなのです。
そのほかにも三部紐や紋紗の帯揚げ、ビーズの付いた半衿もオールシーズン使用可能です。
小物選びで迷った時は、これらのアイテムをチョイスすればまずまちがいありませんね。
雨の日でも着物を楽しむ方法
梅雨や台風の影響を受けやすく、湿気や雨に悩まされがちな日本。
着物や帯にシミを作り、草履や足袋をじっとりと湿らせる雨はまさに着物の天敵です。
しかしながら、雨が降っているからといっていつも引き籠っている訳にはいきません。
工夫次第で、雨の日でも素敵な着物姿を楽しむことは可能なのです。
ぜひポイントを押さえて、大切な着物を守りつつコーディネートを楽しみましょう!
雨に強い着物を選ぶ
一番の雨対策は、雨に強い素材の着物や帯を選ぶことです。
濡れてしまっても簡単にお手入れができたり、シミになりにくい素材のものを選べば、雨を恐れずおでかけすることも可能になります。
化繊や綿、麻素材の着物はご自宅で洗濯できるので、雨の日にはうってつけです。
また、大島紬は密に織り上げられた生地なので、多少の水分は弾き、濡れても風合いが変化しないため、こちらも雨に強い素材と言えるでしょう。
絹には「ガード加工」をかけよう
とはいえ、雨の日でも正絹の着物を着ていきたい用事は出てきます。
あるいは、家を出た時には晴れていたのに、出先で急に雨に降られるようなこともあるでしょう。
そういった事態に備えて、正絹の着物や帯には「ガード加工」をかけておくことをおすすめします。
ガード加工は撥水加工とも呼ばれ、絹の表面を水から守る効果があります。
絹素材は水で縮んだり、シミが残ったりするので、大切な着物や帯にはあらかじめガード加工をしておくと安心です。
ただし、基本的には雨の日に正絹の着物や帯を着用することは避けたほうが無難です。
雨ゴートは一部式or二部式
着物や帯にガード加工をしていない場合でも、雨ゴートでしっかり守るという方法があります。
水溜まりなどの水が跳ねて着物の裾を濡らすことがあるので、雨ゴートは裾まですっぽり覆われるような長さが必要です。
雨ゴートには、一部式と二部式があります。
一部式の道中着型の雨ゴートは、一枚で完結するためコンパクトに持ち運べます。晴雨兼用の道中着であれば、急な雨にも対応でき、雨が止んだら塵よけとして着用できます。
二部式の雨ゴートは上下で分かれているため丈の調整がしやすく、身長が低い方にもおすすめです。
雨上がりには裾部分だけを外して、道行コートとして着ても良いでしょう。
そして、着物通に人気なのが、大島紬や東レシルック製の雨ゴートです。
化繊の印象が強い雨ゴートも、上品な大島紬や正絹に近い見た目の東レシルック素材で誂えれば、周囲の人と差がつく装いになります。
雨草履・雨下駄・草履カバー
雨の日は履物にも注意が必要です。
趣味の着物であれば、いっそのこと草履を避けて、ブーツやスニーカーなどを履くと気兼ねなく外出できそうです。
礼装でのおでかけや、草履を合わせたいコーディネートの際には、雨草履や雨下駄を履くか、草履に雨カバーを付けましょう。下駄の場合は、撥水加工をした爪皮をつま先に付けるのもおすすめです。
雨下駄や雨草履は基本的に外を歩くためのものなので、屋内の改まった席に入る場合は、替えの履物を用意したほうが良いと言われています。
雨カバーや爪皮を付けない場合は、足袋が濡れた時のために替えの足袋を持参することもわすれずに。
【Q&A】雨の日に普通の草履はダメなの?
草履は底も含めて、コルクなどの芯を革で覆って作られているため、水分がしみこむと革が剥がれて傷んでしまいます。
雨の日は合皮やウレタンなど、ビニールコーティングされている草履を選ぶのがおすすめです。
雨用に新しく草履を誂える場合は、鼻緒にも撥水加工をしておくと安心です。
【豆知識】雨の日対策ポイント
雨の日に気をつけるべきことの一つに、「歩き方」があります。
着物を着ている時は特に、できるだけ水を跳ね上げないようにしながら、水溜まりや車通りを避けて歩きましょう。
着物の裾は、できれば捲り上げて帯まわりに挟んでおくとより安心です。上に雨ゴートを着れば、裾まで見えなくなるので問題ありません。
屋内で雨ゴートを脱ぐ前に、お手洗いなどに寄って裾を下ろしておきましょう。
また、正絹の着物には防水スプレーはNGです。生地が傷んでしまうので、ガード加工をかけるようにしましょう。
季節の色合わせ・柄の着こなし
仕立てや素材以外に、着物において大切なのが色柄です。
配色やモチーフの選び方にも、季節を重んじる感性を反映させることができます。
もちろん、スタイリングは個人の自由なので、季節の枠組みにとらわれず、好きなコーディネートを組んでも構いません。
一方で、季節の訪れや去り行く季節を噛みしめながら、その時々に合った色柄を選ぶのもまた、着物の楽しみでもあります。
ここでは、一応の目安として、季節ごとのモチーフやおすすめの色選びについて解説していきます。
春はやさしい色で初夏へ向かう
寒々しい冬の空気が徐々にゆるみ、春の訪れを感じはじめると、やはり明るい色合いの着物を着たくなります。
3月はまだ風が冷たく肌寒い頃ですが、春を先取りする装いが似合う時期でもあります。
桃の節句にちなんだお人形や桃の花、蝶や菜の花といった模様がぴったり。スミレや木蓮などの春の花も文様に取り入れましょう。
薄桃色や水色、クリーム色など、淡く明るい配色を意識すると春らしいコーディネートになります。
4月の風物詩である桜は、盛りを過ぎる頃には花びらの模様を選ぶようにしましょう。
儚く散りゆく桜は、深追いをせずに早めに着おさめするのが日本人らしい感覚です。
4月の終わり頃には藤色や若葉色といった爽やかな色合いを選び、初夏である5月に向けて涼しげなコーディネートを意識しましょう。
チューリップや藤の花、苺なども季節を感じさせるモチーフです。
夏は涼しくクールに演出
何を着ていても暑い夏は、なるべく涼やかに見える着こなしを目指しましょう。
無機質なモノトーンは、凜としてクールな印象を与えます。
着物から帯、小物までモノトーンで揃えて、現代風のコーディネートを楽しむのも素敵ですね。
涼を感じさせる寒色系の色はもちろん、薄い色同士も合わせやすいのでおすすめです。
紫陽花やアザミ、百合などの花文様は、5月から6月にかけての短い時期にしか着用できないので、年に一度はぜひ着たいものです。
梅雨の季節に雲文様や立湧文様を選ぶと、雨の日の雰囲気をたっぷりと楽しめます。
また、通常は季節を先取りした文様を身に着けるものですが、夏はあえて雪輪や氷割れ文様など、冬を感じるモチーフで涼しさを演出するという方法もあります。
もちろん、水辺の文様や金魚、千鳥、朝顔や向日葵などの文様も夏にぴったりです。
夏休みらしさあふれる風鈴や団扇、花火の文様もいいですね。
撫子や桔梗といった花のモチーフも浴衣や夏着物には多く見られ、秋を少し先取りすることができます。
秋は温かみのある赤茶で色づけよう
お彼岸の時期を過ぎたら、着物の上では秋を表現するのがしきたりとなっています。
色選びのコツは、秋になると色づく葉や果実、木の実を連想させるような色を選ぶこと。
朱色やえんじ色、辛子色、茶色などで紅葉やイチョウの葉を、また、深い紫色や橙色で葡萄や柿の実を表現するのも良いでしょう。
モチーフは紅葉や秋草のほか、月や兎、虫かご、菊の花やきのこなどが人気です。
紅葉と鹿、月と兎など、複数のモチーフを組み合わせた物語性のある着物や帯も秋の雰囲気にぴったり合います。
帯揚げや帯締めといった小物に赤茶色などの温もりのある色彩を取り入れると、いっそう秋らしさが深まります。
冬は華やかさと都会的な着こなしを
枯れ葉が散り落ちる冬は、自然の色味がめっきり減り、白や灰色といったモノトーンに包まれます。
それに対して、街はイルミネーションで華やかに輝き、クリスマスやお正月といったイベントに浮き立つ心を反映しているかのようです。
暖色系が主となる秋の色合いから打って変わって、抑えた色味と華やかな色柄を取り合わせたメリハリのあるコーディネートを楽しむのが冬らしい装いと言えそうです。
クリスマスが近づくころには、緑と赤の配色も美しく映えます。雪輪や星などのいかにも冬らしい文様以外に、唐草模様や更紗など、異国情緒あふれるデザインもクリスマスのイベント感に合います。
お正月には、南天の実や鶴、椿の花、松竹梅など、吉祥の意味が込められた文様がぴったりです。初詣に合わせて、干支の文様を取り入れるのもいいですね。
2月に入る頃には、他の花に先駆けて香りを放つ梅の花が、これから訪れる春を予感させてくれるモチーフとなります。
【豆知識】季節を問わない着こなし
四季の移ろいを楽しむのが着物の醍醐味ではありますが、すべての季節に沿ったモチーフを集めるのは大変です。
手持ちの数が少ない場合は特に、季節を問わず楽しめるアイテムを揃えておくと着回しがきいて非常に重宝します。
たとえば、無地の着物は何も描かれていないキャンバスのような存在になります。帯合わせ次第でいくらでも表情が変えられるので、袷仕立ての色無地は一枚持っていて損はありません。実は無地の帯も、帯揚げや帯留といった小物でアクセントをつけられるので便利なアイテムです。
そのほか、特定の季節を表さない吉祥文様や更紗、幾何学模様の着物や帯も着回しにはうってつけ。
季節の草花はそれぞれの時期に着用するものですが、四季折々の草花が同時に描かれているようなデザインは、通年着用することが可能になります。
ポイントは、できるだけ抽象的なデザインや、シンプルなデザインのものを優先的に取り入れること。着物か帯、どちらか一方が季節を問わず着られる色柄であるだけで、コーディネートの幅はぐっと広がります。
まとめ
着物に込められた季節の楽しみ方は、古来より日本人が守り抜いてきた伝統と、自然を慈しむ感性に支えられています。
慣れないうちは窮屈に感じられるかもしれませんが、自分の好きなスタイルを見極めつつ、季節感を取り入れたコーディネートを考えていくうちに、自然と身のまわりの変化に目を向けられるようになっていきます。
気温の上下や風の質感、花や葉の色づき、生き物の活動など、目に見えるものから見えないものまで、日々変化しながら四季が巡っていくことに気がつくはずです。
ぜひゆったりとした時の流れを感じながら、季節に沿った着物の着方を楽しんでみてください。
日本に生まれ、日本で着物が着られる喜びを、きっとしみじみ実感できることでしょう。