「夏用の織物としてよく聞く羅ってどんなもの?」
「紗や絽との違いは?」
「コーディネートのコツはある?」
夏に着る薄物用の生地、羅。透け感があり、見た目にも涼しげな織物です。
しかし、羅の存在は知っていても、実はあまり詳しくないという方も多いのではないでしょうか?
夏用の生地には絽や紗があり、よく似ていて違いがわかりにくいですよね。
そこで今回は、これから夏着物に挑戦しようと思っている方のために、羅の特徴や製品の違いによる着用時期の違い、着る際の注意点をまとめました。
羅の美しさに魅了され人間国宝に認定された2人もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
▼薄物に関してはこちらもあわせてご覧ください。
この記事の目次
羅とは?
|
羅とは、生地にすき間があり、手編みのような風合いが特徴の絹織物です。
通気性にも優れ、最も暑い7〜8月用に用いられています。
一般的な織物とはまったく異なる複雑な織り方をするため、特別な機械でしか織れません。
長く技術が途絶えていたものの、職人の尽力によって昭和に入ってから復興しました。
しかし、織るのに高度な技術が必要なことから現代でも織り手が限られており、生産量の少ない貴重な織物となっています。
羅の特徴
羅の特徴は以下の通りです。
・糸と糸の間隔が大きい(目が粗い)
・通気性に優れる
・透け感がある
・ねじりに強い
・強度がある
まるで編み物のようにすき間がある羅は通気性がよく、透け感と軽やかさがあり、見た目にも涼しげに映ります。
目が粗くてもしっかりとした強度があり、よれやしなりにも強いのが特徴です。
羅織の構造
羅は2本の経糸が左右で絡み合い、さらに反対側の経糸にも交差させて織られます。
羅の織り方は目の細かい「網捩り(あみもじり)」と、目の粗い「籠目捩り(かごめもじり)の2つ。
規則的に織られた籠目捩りに対して、網捩りは部分的に捩りを外すため目が広くなります。
2つの織り方を組み合わせ、密度の違いで文様を表現したものが「文羅(もんら)」です。
経糸を絡ませる複雑な構造をしているため、特徴的な透け感を表現できます。
羅の技法を代表する人間国宝
人間国宝は、各分野の高度な技術を持つ個人に対して重要無形文化財に認定された個人をさします。
羅織で人間国宝に認定されている方は、以下の2人です。
・喜多川平朗氏
・北村武資氏
認定された理由は、羅復興への功績です。
正倉院にも残っているほど長い歴史を持つ羅ですが、応仁の乱(1467~1477年)の混乱で技術が途絶えていました。
古代に織られた羅の研究を行い、技法が見直されるきっかけとなった両者をご紹介します。
喜多川平朗氏
|
京都西陣織の老舗の十七代目に生まれた喜多川平朗氏。羅の重要無形文化財保持者となったのは昭和31(1956)年です。
大正から昭和に正倉院に保存されている古代の織物に魅せられたのをきっかけに古典染織を研究、羅だけでなく錦や綾などの古代の織りの技術や染色の技の復元に尽力されました。
神社やお寺の国宝や重要文化財など、復元された作品は多岐にわたります。
平朗氏は昭和63(1988)年に90歳でお亡くなりになりましたが、現在も多くの羅織作品が残っており、技術の高さに触れることができます。
北村武資氏
|
京都市に生まれ、中学卒業後に西陣織の修行を始めた北村武資氏。平成7(1995)年に羅の重無形文化財保持者に認定されました。
当時「幻の織物」と言われていた羅との出合いはたった1枚の写真。羅の美しさに衝撃を受け、以来古代織の制作に取り組みました。
経錦の技法をもとに独自の機を考案、現代に羅をよみがえらせます。
さらに古代織の再現にとどまらず、北村氏は現代の技術や感性を取り入れて新しい羅を作り続けました。
令和4(2022)年に86歳でお亡くなりになりましたが、北村氏のチャレンジ精神が感じられる多くの作品は現在も取引がされています。
▼経錦は「錦織」の記事をご覧ください。
紗や絽との違いは?
羅とよく似ている夏用の生地に、紗や絽があります。
どれも夏でも涼しげな透け感のある織り目が特徴ですが、違いは織り方です。
紗は経糸2本を緯糸1本ごとにからませて織りあげます。
絽は、紗の織り方と「平織り」を組み合わせる織り方です。そのため、すき間のある部分(紗の織り方)とない部分(平織り)ができ、紗よりも目が詰まって見えます。
一方、羅の織りは3本以上の経糸をからませて織る複雑な織り方です。紗や絽は高機でも織れるのに対し、特別な織り機でなくては作れません。紗や絽よりも透け感が強く、編み目に近い見た目をしているのが特徴です。
織り方が違うため、見た目にも違いが出ます。
目が細かいのが絽、すき間のあるなし両方あるのが紗、最もすき間が大きいのが羅、と覚えておきましょう。
技法による羅の種類
羅の技法は以下の2種類です。
・筬で打つ
・ヘラで打つ
昭和に羅が復活してからは、織り職人それぞれの研究により技法を発展させ、独自に進化してきました。
両者の違いは繊細で、織りあがった生地を見ても職人にしかわかりません。だからこそ、仕事の丁寧さや品質など職人のこだわりが強く出る部分です。
今回は技法2つについて簡単にご紹介します。
筬で打つ
他の織物と同じように筬で打つ技法です。
筬は機織りに使う櫛状の道具で、経糸の間を通った緯糸を詰める役割があります。
しかし、羅で筬を使うと、糸が傷みやすくなるのがデメリットです。
羅専用の装置である「フルエ綜絖」ごと打つため、よじれやすくもなります。
職人がやりにくく感じるため、使われにくい技法です。
ヘラで打つ
もうひとつは、筬とフルエ綜絖は使わず、ヘラで打つ技法です。
籠目捩りと網捩りの差がはっきりしてメリハリがつき、より立体的な文様を表現できます。
羅の着物製品と着用時期
羅の生地でできた製品は以下の通りです。
・羅帯
・羅のコート(コート・羽織)
糸と糸との間隔が大きい羅は、着物ではなく帯やコートに用いられるのが一般的です。
本物の羅は、国内でも織り手が限られているため大変高価。
しかし、比較的お手頃な価格で購入できる製品もあります。「荒紗」や「羅くずし」などと区別される場合もあれば、羅の名がそのまま使われているものもあるので、注意が必要です。
それぞれ着用時期や注意点も合わせてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
▼夏に着用する「薄物」やコーディネートのコツはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
羅帯
|
羅織りの帯を締める時期は、7〜8月の盛夏です。
ただ最近は夏が長く厳しくなっているため、6月下旬や9月上旬頃までという考え方も広まっています。
生産数が少なく、希少な本物の羅は高価といえども、礼装には向きません。
友人との食事や同窓会など、カジュアルなシーンで活躍してくれる普段着です。
絽、紗、紋紗をはじめ、絹紅梅、麻や上布、カジュアルな物なら綿紅梅・綿麻にも合わせて楽しめます。
ただ羅の性質上、帯揚げや帯締め、帯板などが透けて見えてしまうかもしれないため、注意が必要です。
着物愛好家の中には「多少透けていても気にしない」方も多くいます。もし気になるようであれば、白や透明の帯板や気にならない色の帯揚げ・帯締めを使うなど、美しく仕上がるように小物の色に注意してください。
|
羅の上物(コート・羽織)
|
コートや羽織などの上物にも、羅織が用いられています。
帯とは異なり、上物の着用時期は桜の満開から9月頃までです。
透け感があるコートや羽織を1枚羽織るだけで、ワンランク上の上品な装いができます。
ただでさえ暑い夏。コートや羽織を着物の上に重ねる役割は、防寒ではなく塵除けです。
着物や帯を汚れから守り、訪問先に塵を持ち込まないよう着用します。
また、夏は涼しげに見える薄い色が多く、着物や帯から下に着ている襦袢などが透けやすくなるため、視線を遮る役割も担っています。
目の粗い羅織のコートでも1枚重ねると、人の目が気になる電車や人混みでも安心ですよ。
羅の製織工程
羅が作られる工程は以下の通りです。
1.生糸の精錬
2.糸染の工程
3.経糸整形
4.綜絖通し
5.製織
糸の用意や織りの図案作成、織機の調整など、実際に織りに入るまでの下準備が特に重要です。
原料となる生糸は、不純物や汚れを取り除く精錬を行い、化学染料で染め上げます。千切(ちぎり)と呼ばれる棒状の織機にある部品に経糸を巻きつけ(経糸整経)、綜絖に通してやっと準備完了です。羅専用の機で、職人が丁寧に手で織っていきます。
羅の職人に求められるのは、仕事の丁寧さや根気強さだけではありません。深い知識と経験、さらに感性が必要です。作業をすべてひとりで行う職人もいるほど。
同じ羅織でも、ひとつひとつ表情の異なる製品が織りあがります。
まとめ
編み物のようなすき間のある羅。通気性がよく、透け感と軽やかな質感が特徴です。
夏用の薄物として、帯は盛夏である7〜8月に、上物は春から秋ごろまで着用できます。
一度は技術が途絶えたものの、人間国宝である喜多川平朗氏と北村武資氏によって見事に復興しました。
現代によみがえった技法は、職人のさらなる研究により発展し、独自の進化を続けています。
複雑な織りを習得した織り手が、ひとつひとつ丹精込めて作っている羅。
涼しげな雰囲気が漂う和の装いで夏のおでかけを楽しみ、お洒落上級者の仲間入りをしてみませんか?