着物の種類

2023.4.23

おしゃれ木綿着物の代表・伊勢木綿とは?特徴や着用時期、見学できる工場を紹介

おしゃれ木綿着物の代表・伊勢木綿とは?特徴や着用時期、見学できる工場を紹介

「お伊勢さん」と呼ばれ親しまれている伊勢神宮に縁深い着物、「伊勢木綿」。
おしゃれ着物の代表ともいえる木綿着物の中でも、着物雑誌「七緒」に取り上げられたお洒落な文様が印象に残っている人も多いのではないでしょうか。

また、2018年より着物好きに人気の漫画「恋せよキモノ乙女」7巻の表紙で主人公のももちゃんが伊勢木綿を着用しており話題になりました。

日常的に着物を着る着物愛好家から不動の人気を誇る、木綿着物。

同じ三重県で有名な木綿には松阪市、明和町で織られている「松阪木綿」が有名ですが、今回は三重県で作られている「伊勢木綿」についてご紹介します。

木綿とは?普段着物におすすめの木綿の特徴と代表的な生地の種類を紹介

伊勢木綿とは?


三重県津市を代表する三重県指定伝統工芸品「伊勢木綿」は、国内最上級の純綿糸で織られた木綿生地でその肌触りはふんわりと柔らかく古くから庶民の普段着として愛されてきました。
純綿糸とはその名の通り他の原料を混紡しない「純粋な綿(ピュアコットン)」を指します。

江戸期より綿花の大産地で、江戸時代より伊勢神宮の参拝土産として人気だった伊勢木綿を生産している工房は、現在三重県の「臼井織物」一軒のみです。

三重県指定伝統工芸品『伊勢木綿』

三重県指定伝統工芸品『伊勢木綿』
参照元:三重県庁公式ホームページ

三重県によって管理される伊勢木綿は、以下の指定要項をクリアした織物のみが指定される「三重県指定伝統工芸品」に認められています。

1.主として日常生活の用に供されるものであること。
2.その製造工程の主要部分が手工業的であること。
3.伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
4.伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。
5.県内の一定の地域において、一定期間製造されていること。

これらの要項をクリアした工芸品はその証として、三重県の「み」をもじり、カギの組み合わさった形で伝統工芸品と、赤い四角形を頭として座って工芸品を作る匠の姿を表現したひらがなの「み」を象ったシンボルマークを表示しています。

国の伝統的工芸品とは違う?

着物や伝統工芸を代表するシンボルマーク「伝産マーク」を表すのは国の経済産業大臣指定の伝統的工芸品で、指定要項が異なるため別物です。

中には国からも県からも指定され両方の証をもつ製品もあります。

伊勢木綿の特徴

なんといってもさわり心地、着心地に優れた伊勢木綿ですがその秘密はどこにあるのでしょうか。
伊勢木綿の特徴を風合い、色柄などを踏まえて具体的にみていきましょう。

伊勢木綿の特徴はやわらかさ

伊勢木綿の特徴は、なんといってもその風合いにあります。
一般の綿は洗えば硬くなるのに対して、伊勢木綿は洗えば洗うほどやわらかくなり、最高の肌触りと古布のような素朴な風合いが出てきます。
伊勢木綿ならではの製法によって、ふんわりと柔らかい肌触りとしわになっても元に戻りやすい性質があります。

単糸の長所として、糸がやわらかいのでシワにならないということもあります。
やわらかくて肌触りが良く保湿性や通気性も良いので、使い込めば使い込むほど、味がでてくるのです。

伊勢木綿の要「単糸」

伊勢木綿の風合いを実現させているのは、こだわり抜いた製法と糸です。
伊勢木綿に用いられる糸は「単糸」という、紡績した1本のままで繊維によりをかけた糸で織られています。

通常の木綿生地は機械織りが多いですが、機械織りが導入できる理由は「糸の丈夫さ」です。
単糸の対極である「双糸」は2つの糸をより合わせた糸のことで、物理的に1本の単糸より強度があります。

単糸は、アメリカ製のサンホーキンスという最高級の綿を芯にした糸で、切れやすく織るのが非常に難しいので良い綿を使った単糸でないと織れません。
さらに現代のスピードの早い織り機では糸の性質上織れないため、明治時代から動く力織機で織られています。

織り上げるときは密度の高い布地にするため、緯糸には糊付けせず、経糸の柔らかな単糸を天然の澱粉糊で固めながらゆっくりゆっくり織られていきます。
この糊が、「洗えば洗うほどやわらかくなる伊勢木綿」の正体です。

一台の織機から1分間に織り上がるのは約3センチ。
一反分の約13メートルが織り上がるには、ほぼ1日かかります。
その間もベテランの織り子さんがすぐそばに待機し、「くちあき」と呼ばれる経糸の空間を調整しながら絶えず織りあがりに目を配ります。

現在では、三重県の「臼井織布」一軒のみでしか織れない木綿布です。

縞や格子で色柄豊富な伊勢木綿

伊勢木綿は代表的な柄に古くから伝わる縞(しま)模様や格子柄があります。
伝統的でありながら縞の太さや色味を現代風にすることで親しみやすくモダンな印象に昇華したのも伊勢木綿の特徴と言っていいでしょう。

女性も男性も選ぶ楽しさがあり、手軽に着られる伊勢木綿は着物愛好家には人気の普段着物で、力士の愛用者も多いそうです。

伊勢木綿の着用シーンとコーディネート

伝統的な縞や格子柄を現代風に織り上げた伊勢木綿は、いつ、どんな場面で着用するのがよいのでしょうか。
おすすめの着用シーンやコーディネートについて紹介します。

伊勢木綿はカジュアルな着物

伊勢木綿はその名の通り「木綿」に属する着物です。
木綿は古くから続く伝統的な織物ですが、現代では値段やブランドにかかわらず木綿の着物は「カジュアル着物」とされ、完全な普段着になります。

昔は庶民の普段着といえば木綿の着物で、着倒した後はハギレにして雑巾にして使い切ったという生活に根差した織物だったため丈夫で扱いやすいのです。

洋服でいえば「Tシャツ×ジーンズ」のコーディネートに当てはまる格です。
お買い物やお食事、街歩きなど普段出かける分にはどこへでも着ていけます。
ただし、ドレスコードのある場所やフォーマルでの着用は向きません。

詳しいTPOについて知りたい方は、こちらを合わせてご覧ください。

真夏以外着用OKな伊勢木綿

伊勢木綿は単衣に仕立て、盛夏(7、8月)以外の3シーズン着用できます。
季節によって暑さ、寒さを感じることがあるためインナーで調整しましょう。

一般的な単衣の時期(6、9月)には夏物襦袢や筒袖の半襦袢を合わせなるべく中を薄着にし、袷の時期は単衣~袷の長襦袢を合わせたりインナーに暖かいものを選ぶなどして対策に努めましょう。

冬におすすめ!あたたか和装インナー

伊勢木綿に合わせる帯や小物

普段着なので、一番簡単な半幅帯の他カジュアルな名古屋帯がよく合います。
素材は綿や紬などの可愛らしい柄やざっくりとした風合いの帯がおすすめです。

半幅帯は裏表つかえるリバーシブルの場合出す面によって印象がかわるので、いろんなコーディネートが組めます。
近年の半幅帯は変わり結びのため長尺が増えていますので凝った結び方をしたい人は長さに注意しましょう。

リバーシブル半幅帯/長尺

帯だけでなく小物で遊べるのも伊勢木綿のいいところ。
足元に下駄を合わせてみたり、帯留めやブローチで季節感を取り入れたりコーディネートは無限大です。

ウール着物ですが、下駄を合わせたコーディネートです。

帯の種類について詳しく知りたい方はこちらを合わせてご覧ください。

伊勢木綿は自宅で洗濯OK

伊勢木綿は「木綿着物」なので自宅での洗濯が可能です。
扱いは浴衣や化繊などの洗える着物と同じく、大きめの洗濯ネットに入れて洗濯機のおしゃれ着モードでやさしく洗いましょう。
基本は水洗いのみで十分ですが、汗の匂いや皮脂汚れが気になる場合はおしゃれ着用の中性洗剤がおすすめです。

脱水を控えめに、水分が多めの状態できものハンガーで干すと水の重みでシワが伸び綺麗な状態で乾きますのでやってみてください。

着物・浴衣用洗濯ネット

もしも自宅で落ちない濃いシミが付いてしまった場合は、無理せずに着物屋さんや悉皆さんなどに相談してみましょう。

伊勢木綿の歴史

「伊勢は津でもつ、津は伊勢でもつ、尾張名古屋は城でもつ」
と歌われた様に伊勢の国の中心地であった津の周辺には、絹(伊勢袖)、麻(津もじ)、木綿(伊勢木綿)の産地でした。
伊勢木綿がどのようにして生まれ現代まで愛されているのか、その変遷をみてみましょう。

綿の栽培に適した三重県で生まれた伊勢木綿

伊勢神宮の神領で古くから紡織業と関係が深い神服織機殿神社周辺で織り継がれてきた伊勢の木綿「白雲織(紺無地)」は「伊勢晒」と共に有名になり、無地だけでなく次第に洒落た縞模様も織られるようになりました。
その品質を見込んだ伊勢商人が江戸へ持ち込み「伊勢の国からきた木綿、伊勢木綿」と称して販売したのが始まりとされています。

三重県は綿の栽培に向いた気候で、運河もあり、輸送にも最適で綿花の一大産地でした。
当初は伊勢神宮の参拝土産の一つとして売られていた伊勢木綿ですが、その上質な生地でできた織物は戦前まで全国の人々に愛用され、販路は遠く東北、北海道にも及び、伊勢商人の経済の基盤を作ったと言われています。

現在は「臼井織布」一軒の工房のみ

明治20年には伊勢織物業組合が結成され、質の悪い織物を取り締まり品質向上に努めていたそうですが戦後の化学繊維の発展や洋装化により伊勢木綿の生産工房は次々と廃業していきました。

江戸時代全盛期は多くあった織物会社も今は三重県の『臼井織布』一件のみとなっており、大変貴重な木綿布として現存しています。

[公式]臼井織布

伊勢木綿の製造工程

伊勢木綿はどのようにして作られているのか、製造工程を紹介します。
実際に臼井織布で工房見学も行っているようなので、気になる方はぜひ工房まで足を運んでみてください。

糸の準備

「かせ(=糸)」を束の状態にする「かせくり」を行います。
束になったら精練して汚れや油分を取り、1本1本丁寧に整えていきます。

糸染め

藍、お茶、くり皮などの染料をもちいてかせごとに糸を染めます。
経糸には澱粉糊で糊付けをし補強します。

糸巻き

長年使い続けている木の糸巻「ボビン」に糸を巻いていきます。
1回250本ほどを繰り返し、多い時には1200本必要になることもあります。

糸巻きを「屏風」という形にセットし、一本ずつ引き出した糸を「チキリ」と呼ばれる織機のパーツに巻いていきます。
根気のいる手作業です。

機織

チキリに巻き付けた糸を経糸として力織機に取り付け機つなぎをします。
シャトルについた緯糸が左右へ自動的に行き来し、1分間におよそ3センチほど、少しずつ綿布が織りあがります。

紐で「くちあき」と呼ばれる経糸の空間を調整する細やかな仕事を担うのは織子さん。
この細やかな調整によって織り上がりの風合いを大きく変えるといわれています。

水通し

織りあがった伊勢木綿は一度水通し、陰干しを経て輸送され店頭へ届けられます。

伊勢木綿の工房見学や体験はできる?

伊勢木綿の製造工程の見学や、レンタルとして伊勢木綿を体験できる店舗を紹介します。

【見学】臼井織布

伊勢木綿唯一の織元臼井織布では、工房見学を受け付けています。
予約が必要ですが、平日10:00~16:00の間で30分ほど見学が可能だそうなので気になる方は問い合わせてみてください。

【工房情報】
所在地:三重県津市一身田大古曽67
電話番号:059-232-2022
営業時間:8:00~17:00(見学は平日10:00~16:00)
定休日:土・日・祝日
公式HP

【体験】伊勢着物がたり あやの

伊勢神宮・おかげ横丁の参拝、散策におすすめなのが伊勢木綿の着物レンタルです。
着物着用に必要な肌着や草履、バッグなど一式揃って5,000円(税込)で伊勢木綿を体験できます。

伊勢生まれの着物をまとってゆかりのある地を観光するのが粋ですよ。

【店舗情報】
所在地:三重県伊勢市宇治浦田1丁目5-6 くみひも平井 奥座敷 内
電話番号:0120-454-865
営業時間:9:30~17:00
公式HP

[アクセス情報]
伊勢市駅(JR・近鉄)
バスのりば 10番 内宮前行き → 『猿田彦神社前』下車 徒歩5分
バスのりば  7番 浦田町行き → 『浦田町』下車 徒歩5分

宇治山田駅(近鉄)
バスのりば 1番 内宮前行き → 『猿田彦神社前』下車 徒歩5分
バスのりば 2番 浦田町行き → 『浦田町』下車 徒歩5分

五十鈴川駅(近鉄)
バスのりば 2番 内宮前行き → 『猿田彦神社前』下車 徒歩5分

【体験】浅草着物レンタル 愛和服


都内で伊勢木綿を体験したいなら、浅草の「愛和服」がおすすめです。
期間によって価格は変動するようですが、通常8,140円(税込)のところ5,000円前後に割引されることが多いようです。

内容は着付けに必要なもの一式にプラスして、ヘアセットがついています。
頭からつま先までバッチリ決めて伊勢木綿を楽しめますね。

【店舗情報】
所在地:東京都台東区花川戸1-11-1
電話番号:03-6231-7232
営業時間:9:00~18:00
公式HP

その他の浅草着物レンタルに関してはこちら↓

まとめ

木綿着物の中でも独自のデザイン性で人気を博す伊勢木綿。
唯一の生産工房である臼井織布では一反に丸1日かけながら日々丁寧に織り上げています。

木綿着物は着心地や扱いやすさから着物愛好家のみならず初心者さんにもおすすめです。
自宅で簡単に洗えるため、雨の日や小さいお子様連れでのお出かけにも気兼ねなく着用できますよ。

思いっきり普段に着物を楽しみたい方は、是非一度伊勢木綿を体験してみてください。

紹介した工房・ショップ一覧

臼井織布

伊勢着物がたり あやの

浅草着物レンタル 愛和服

紹介した商品一覧

伊勢木綿/ギンガムチェック

恋せよキモノ乙女7巻

[1巻はこちら↓]

伊勢木綿/ギンガムチェック 仕立て上がり

冬におすすめ!あたたか和装インナー

リバーシブル半幅帯/長尺

着物・浴衣用洗濯ネット