着物の種類

2023.6.25

植物文様とは

植物文様とは

植物文様は、ほかの自然文様や器物文様と比べて、それぞれのバリエーションが豊富な文様です。
桜の花文様一つとっても、デザインにいくつものパターンがあり、それぞれ込められた意味や名前が異なります。

四つの季節が巡る日本において、植物は非常に身近なモチーフであり、四季の移ろいを感じる上でなくてはならない存在です。

今回は、海外から伝わり和の心を宿すようになった植物文様の種類と由来についてご紹介いたします。

植物文様の歴史

古代エジプトからアジアへ伝わる植物文様

植物文様の起源は、古代エジプトにまで遡ります。
正確な由来には諸説ありますが、紀元前のエジプトの食器や石碑に、睡蓮の花をモチーフにした文様が刻まれていたようです。

エジプトで生まれた植物文様は古代オリエントへと広まり、円や帯状の渦文様と組み合わせたアラベスク文様へと発展していきます。これが後の唐草文様のはじまりです。

さらに古代オリエントからアジアへと伝わった植物のモチーフは、中国を通じて仏教と共に日本へと渡ります。
正倉院の宝物にも唐草文様が描かれており、奈良時代には日本で唐草文様が取り入れられるようになったことが分かります。

仏教寺院や貴族の邸宅の装飾として採用された唐草文様は、後に四季折々の花文様を描き込んだ和の様式が生まれ、次第に日本独自の植物文様として確立していくようになります。

特に江戸時代は装飾文様の黄金時代とも言われ、多くの唐草文様が生み出され、現代へと受け継がれています。

海外色の強い植物文様

唐草

唐草文様は、蔓草が曲線を描くように表現された模様のことを指します。
古代ギリシャやローマの「パルメット文様」が原型であるとされていますが、日本に伝わってからはあらゆる花文様と融合し、架空の花である唐花と共に更紗文様として描かれることも多いデザインです。

<更紗の記事はこちら>

アカンサス

アカンサスは葉アザミを図案化した文様を指し、古代ギリシアや古代ローマにおいて建築の装飾として使われていました。
ギリシャ建築およびルネサンス建築の柱の装飾などに用いられたほか、現代でもヨーロッパのアンティーク家具や壁紙などに見られるモチーフです。

唐草文様と似たルーツの植物文様ではありますが、深く切り込みの入ったギザギザの葉が特徴的で、見比べるとその違いがわかります。

葡萄

葡萄は実をたくさんつける植物のため、子孫繁栄や豊穣を表す文様であると言われています。
特に大正末期から昭和初期にかけて着物に描かれた葡萄文様は、アール・ヌーヴォーの影響を強く受けています。

また、唐草と葡萄を組み合わせた葡萄唐草文様、栗鼠(りす)と葡萄を共に描いた葡萄栗鼠文様もあります。葡萄栗鼠文様には「武道に律す」というメッセージが込められています。

<動物文様の記事はこちら>

代表的な植物文様を解説

植物文様の多くは、枝葉も含めて描いた写実的なものと、抽象的にデザイン化されたものが存在します。

特に花が咲く季節が決まっている植物は、写実的なデザインであればその季節に合った時期に、抽象化されたデザインであれば通年着られるものが多いです。
桜や梅などの花も、描き込みの少ないデザインであったり、紅葉や菊といったほかの季節の植物と共に描かれている場合は、吉祥文様として通年着用することが可能です。

植物文様

植物文様_

また、「桜文様の着物を花見の時期に着るのはNG」など諸説ありますが、現代ではあまり問題視されるような場面はありません。
花の季節と異なる時期であっても、カジュアルシーンで、コーディネートとしてまとまっていれば着用は個人の自由です。夏に涼を感じるために冬のモチーフを身に着けることもあるくらいなので、細かいことは気にせずに自分の好きなスタイルを楽しみましょう。

お茶席などの畏まった場面で、特に季節感が気になるようであれば、その都度親しい方に確認してみると良いかもしれません。

桜は日本の国花であり、国内外問わず広く愛されている花です。
お祝いの場やフォーマルシーンにもふさわしい、縁起の良い花文様であるとされています。

桜という名前の由来には諸説あり、サ(山の神)が春になると里に降り、田の神となって稲穂に宿る途中に座した神座(クラ)が桜の木であった、という言い伝えから名付けられたとも言われています。
そのため、桜の花は五穀豊穣の象徴とも呼ばれます。

特に桜の人気が高まったのは平安時代以降で、それまで春の花の代表格であった梅から桜へと人気が移り、平安貴族が好んで歌に詠むようになったとのこと。

小さな桜の花を一面に散らした小桜文様、桜の花びらのみを描いた桜吹雪文様、流水と組み合わせた桜川文様や、山と共に描いた桜山文様など、桜をモチーフにした意匠はバリエーション豊富に存在します。

松は風雪に耐え、常緑樹の緑を年中保ち続けることや千年の樹齢を持つことから、古来より長寿の象徴とされてきました。
中国では理想郷の伝説のある蓬莱山に生える木であるとされ、また日本では神の降臨を待つ(松)木であるとして、お正月に門松を立てて年神様を迎える習わしが今も残っています。

松の文様は平安時代から用いられるようになり、江戸時代には文様の多様化も進み、現在まで吉祥文様として愛されてきました。

たとえば、年月を経て風格を備えた松の文様を老松と呼びます。能舞台にも使用される意匠で、枝や幹を写実的に描き、立派な枝ぶりが表現されていることが特徴です。
それに対して、新芽が生えたばかりの初々しい松の文様を若松と言います。新鮮さや将来への展望を表す文様として、新春やお祝い事の席にふさわしいモチーフです。

そのほかにも、若松を菱形にデザインした若松菱、松葉を笠のように二つ三つと重ねた笠松、松葉を放射状に描いた唐松、松葉散らし、松葉丸文様などの種類があります。

竹の子からあっという間に若竹へと育つ姿から、竹文様は成長を願う意匠として親しまれています。
また、竹取物語のイメージから、神秘的な印象を与える柄行でもあります。

松、梅と共に、竹は冬の寒さに耐える歳寒三友の一つとされ、しなやかさや健やかさ、まっすぐに伸びる姿の美しさなども魅力です。

竹をねぐらにしていた雀と組み合わせたデザインや、虎との組み合わせ、縞のように意匠化した竹縞、冬にぴったりの雪持竹文様などのバリエーションがあります。

中国で生まれ、奈良時代に日本へ渡ってきた梅は、まだ寒い時期から香り高い花を咲かせることから「百花の魁(さきがけ)」と呼ばれ、尊重されてきました。
また、学問の神様である菅原道真が愛した花としても有名です。

梅文様には、花びらの重なりを捻じるように表した捻り梅、小さな円の組み合わせでシンプルに梅を描いた梅鉢、裏から梅の花を見たようなデザインの裏梅、花と蕾のある枝をまっすぐ立てて伸ばした槍梅などがあります。

葵文様は、二葉葵、三葉葵の葉を意匠化したものです。
特に三葉葵は徳川家の紋として有名で、江戸時代には徳川家一門以外は葵文様の使用を禁じられていました。
明治時代以降には着物の柄として葵文様が用いられるようになり、葵唐草や立葵、葵巴といったデザインが一般的になりました。

「葵(あおい)」の名前が太陽を「仰ぐ(あおぐ)」ことに由来しているとして、縁起の良い柄行であるとも言われています。

菊は奈良時代から平安時代にかけて、中国から日本へと伝わりました。
元は薬草として扱われており、不老長寿を願って重陽の節句に菊花の宴を開く習慣も根付いていました。宮中では菊の花びらを浮かべた菊酒を酌み交わし、菊の被綿で身体を拭っていたと言われています。

皇室の御紋でもあり、華やかな印象の強い菊の文様にもいくつか種類があります。

花びら一枚一枚を細かく描いた狢菊(むじなぎく)、菊の花や葉を円形にデザインした菊の丸、長い花びらが乱れ咲く様子を表現した乱菊、饅頭のように丸っこい形の菊を表した万寿菊など、いずれもあでやかで大胆に咲き誇る菊花の特徴を良く捉えています。

桐には瑞祥樹としての伝説があり、天界に生息する鳳凰が桐の木を棲み家としていると言われています。鳳凰は優れた君主の象徴という言い伝えもあるため、桐文様は高貴な意匠として菊と共に天皇御用達の文様とされてきました。

桐と鳳凰の組み合わせは現代でも吉祥文様とされていますが、桐単体であっても品格や瑞祥を表し、家紋にも多く取り入れられています。

茎と花の配置によって、「五三の桐」「五七の桐」など種類が分かれ、さらに躍動感のある華やかなデザインのものを「踊り桐」と呼びます。

牡丹

牡丹は富貴の花、百花の王と呼ばれるほど、豪華な花姿が印象的です。
奈良時代に中国から日本へと伝わり、武士の甲冑や武具を飾るモチーフとしても愛用されました。

特に百獣の王と言われる獅子との組み合わせは、「唐獅子牡丹」という名で能装束にも用いられています。

そのほか、名物裂文様の一つである牡丹唐草、葉と共に描かれた春牡丹、葉のない寒牡丹など、いずれも気品あふれる吉祥の花文様として人気を博しています。

植物文様を活かしたコーディネート

フォーマル

礼装に多くみられる植物文様と言えば、吉祥の花文様や四季折々の花文様を描き込んだもの。

菊や牡丹、梅、桜など季節の異なる花文様がデザインされた着物は、着用時期も問わず、華やぎに満ちたムードを楽しめます。

袋帯も着物に合わせて、四季の花文様が織り描かれたものを選ぶと、爛漫としたあでやかな雰囲気になります。

また、現代的なコーディネートがお好みであれば、カトレアなどの洋花がモチーフとなった着物もおすすめです。

同じ花文様の帯も素敵ですが、あえて帯は蝶の文様を選ぶなど、遊び心のあるスタイルも素敵ですね。

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カジュアル

梅鉢や小桜文様など、図案化された古典的な和の花文様はカジュアルスタイルにも取り入れやすいモチーフです。

また、狢菊など、一見して幾何学柄のようにも見えるデザインの植物文様は、帯合わせもしやすく、ワンピースのように気軽に着用できます。

近年では花文様の種類も増え、大輪の薔薇をあしらったドレッシーな小紋などもよく見かけます。
唐花が描かれた更紗や洋風の小花文様も、現代風のコーディネートにぴったりです。

まとめ

着物の柄として描かれると、普段目にする植物とはまた異なる表情を見せる植物文様。

好きな花を聞かれても咄嗟に思い浮かばない…という方も、着物の文様として見れば捉え方が変わってくるのではないでしょうか?

ぜひお好みの植物文様を見つけて、さらに充実した着物ライフをお過ごしください。

<着物の柄の記事はこちら>