唐織とは?定義や技法、袋帯の着用シーンや色打掛・能装束としての唐織について解説

唐織とは?定義や技法、袋帯の着用シーンや色打掛・能装束としての唐織について解説

「唐織って何?」
「特徴や歴史は?」
「どんなコーディネートができるの?」

浮かび上がるような立体的な模様が特徴の唐織。美しい色使いや重厚な雰囲気に、見るだけで心がときめく方も多いでしょう。

しかし、唐織の言葉は知っているけれど、改めて聞かれると理解できていないという方も多いのではないでしょうか?
打ち掛けや能装束など普段触れる機会の少ない用途もあってわかりにくいですよね。

そこで今回は唐織の基本情報から歴史、製造工程もまとめました。
唐織のコーディネートや着用シーンについてもご紹介していますので、TPOに合わせた使い方がわからないと悩んでいる方も、ぜひ参考にしてください。

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唐織とは

唐織とは、綾織地の上に金糸、銀糸をはじめとした色鮮やかな色糸を使い、草花や紋様などの柄が織りだされた織物の総称です。
もともとは中国・唐から伝わったデザイン性の高い織物の総称として使われていました。
現在でも京都の西陣織に唐織の技法が残っています。

最大の特徴は浮き上がって見える模様。
生地の表面に糸が浮いた状態で織る「浮織(うきおり)」と呼ばれる技法で織りだされており、紋様がまるで刺繍のように立体的に見えます。

2022年に大相撲で話題になったポケモンのモンスターボール柄の行司衣装にも唐織の技法が使われました。
袋帯や丸帯のほかにも、能衣装や打掛、几帳に用いられており、芸術的な価値も高い織物です。

まるで刺繍?唐織の特徴

唐織の最大の特徴は、刺繍と見間違えるほど立体的に表現された模様です。
柄の立体感は「浮織」と呼ばれる技法によって生み出されています。

浮織とは、生地の表面に糸を浮かせて織る技法のこと。糸の盛り上がりによって「刺繍のよう」や「レリーフのよう」と表現される立体感は、金や銀など使われる色彩の豊かさも相まって、生地に重厚感をもたらします。

模様の立体感によって重厚さのある唐織は、広さや天井高のある会場でも負けない存在感があり、フォーマルな場面にぴったりな織物です。

【唐織と刺繍の違いの見分け方】
唐織か刺繍か判断に迷ったら、糸の方向に注目してください。
唐織は緯糸で模様を出すため、横方向にしか糸が渡りません。
一方、刺繍はすでに織りあがっている布に糸を刺して模様を出すため、糸の方向は自由です。
迷った場合は柄を出している糸に注目し、方向を確かめてみましょう。

唐織の組織と構造

唐織の組織は、緯糸2本の間に模様を表現するための絵緯糸(えぬきいと)を1本挟んでいる状態です。経糸の間に挟む絵緯糸を模様に必要な数だけ用意し、定められた場所に決められた色糸をひとつひとつくぐらせて少しずつ織り進めていきます。

1寸(約3.03㎝)の間に打ち込まれる緯糸は90腰(緯糸は1腰、2越と数えます)。途方もない手間のかかる作業を繰り返して緻密な柄が織りだされています。

唐織に使用される絹糸

唐織の原材料である絹糸も、立体感を出す重要な要素です。

唐織の経糸には、通常行われるはずの「精錬」の工程をしていない絹糸を使用します。
「精錬」とは、生糸に付着している成分「セリシン」を取り除く工程です。

蚕からひいた生糸は、糸の周囲に付着するセリシンにより白というよりも卵のような色をしています。生糸のままで染色すると、染料が弾かれてきれいに染まりません。糸の白さや絹本来の光沢を出すためには、セリシンを取り除くことが必要です。

しかし、唐織の場合は、精錬をせず生糸のまま染色して織りあげます。セリシンを残して適度な柔軟性と張りを得るためです。
唐織は、経糸と緯糸を交互に重ねた生地に絵緯糸を挟み込んで柄をだしています。挟み込まれた絵緯糸をしっかり支えるしなやかな経糸は、まさに縁の下の力持ちなのです。

緯糸には精錬した糸を水に浸してから使います。
濡らした糸で織ると生地の目が積み、絵緯糸で表現する模様がさらに浮き上がって見えるためです。

本物の唐織は、土台となる生地は生糸の経糸によって薄く、模様は浮き上がらせて織られています。
経糸と緯糸それぞれの特徴を活かし、地の生地と模様とのわずかな段差を作ることによって、唐織最大の特徴である立体感が表現されているのです。

▼絹糸を使用しているため、自宅での洗濯はできません。専門の業者やクリーニングに出しましょう。
着物のお手入れに関しては以下の記事で詳しくご紹介しています。

唐織の価格と質が出るポイント

唐織の価格と質が分かるポイントは、模様を表現する絵緯糸の「縫い分け」です。
縫い分けとは、緯糸の間に織り込まれる絵緯糸を模様を表現する部分にのみ往復させることを言います。

緯糸の間に模様用となる糸(絵緯糸)を挟んでできる唐織は、糸が重なり合い、生地の密度が高くなりやすい性質を持っています。
糸をほどけにくくするため緯糸の密度は高いほうがよいのですが、重い生地では長時間の着用で苦しくなっては着心地がよいとは言えません。

そこで長時間でも快適に着用できるように「縫い分け」を活用します。絵緯糸は模様の部分のみ使用して、裏にわたる横糸を極限まで少なくすることが可能です。
縫い分けにより絵緯糸もしっかりとした製品になりますが、代わりに織る際に多くの手間と時間がかかります。
価格を抑えつつどこまで品質にこだわるか、両者の関係を見据えながら製品は生み出されています。

唐織の多種多様な文様

唐織の特徴のひとつは、多種多様な文様です。
長い歴史の中で唐織が用いられてきた能装束や花嫁衣装に文様の多さが表れています。

能で女役に使われる唐織は、特に伝統的な上品で優雅な日本の柄が多く見られます。
花嫁衣裳には、松竹梅、飛鶴、御所車、貝桶などの吉祥文。
他にも、扇面(せんめん)などの道具や、梅や菊などの植物、サギや蝶などの動物に至るまで、使われている紋様はさまざまです。

中国から渡った後、唐織が古くから共存してきた自然とともにある日本人の美意識とともに発展してきたことがわかります。

唐織の衣装と着用シーン

色彩豊かで立体感が特徴の唐織は、重厚感やきらびやかさからフォーマルに向いている織物です。
ここからは、唐織の衣装とともに、コーディネートのポイントをご紹介します。

・花嫁衣装の「打ち掛け」として人気の唐織
・フォーマルに向く「袋帯」としての唐織

花嫁衣装の「打ち掛け」として人気の唐織

花嫁衣装のひとつ「打ち掛け」は、白無垢と同じく和装の結婚式で着用する正礼装です。

江戸時代に大名の妻たちも打ち掛けの装飾に好んだといわれる唐織は、花嫁衣裳にもふさわしい重厚感があります。
赤と金の地に、所狭しと織りだされた秋の草花が目にも鮮やか。特別な日を一層引き立ててくれるでしょう。

伝統的には赤が好まれてきましたが、現代では白、黒、ピンクなどさらに選択肢が広がりました。和装の結婚式で個性が出せる唐織の打ち掛けは、近年注目を集めている衣装です。

フォーマルに向く「袋帯」としての唐織

唐織の技法を用いて作られた帯の中でも、金糸や銀糸が使われている袋帯はフォーマル向きです。
袋帯は、現代では礼装の主流になっている帯。
写真のような正倉院文や宝尽くしなどの古典柄が施されている帯は、結婚式などの格式が求められる場面でも活躍してくれます。
格調高く、留袖・色留袖・礼装用の訪問着に合わせられる帯です。

派手にも感じてしまう金や銀も、全体の柔らかな色使いで上品ささえ感じられ、着姿を華やかに演出してくれるでしょう。

▼袋帯は柄の付け方や仕立てによっても格が変わるため、詳しくは以下の記事をご覧ください

一方で、唐織は写真のようなカジュアル向けの帯も作られています。
カジュアルやフォーマルを見分けるポイントは、金糸銀糸の使用や色、柄。
付け下げや色無地、小紋や紬などのお洒落着には、金糸銀糸があしらわれている帯は向きません。写真のように遊び心を感じさせるような柄や、モダンな模様を選んで合わせましょう。

唐織の歴史と能装束

現代では礼装用として高い人気を誇る唐織。
中国から伝わった後、能装束や花嫁衣裳として用いられ、現代にまで伝えられてきた歴史を簡単にご紹介します。

美しい絹織物の総称だった「唐織」

唐織は、中国・唐から伝わった織物がルーツです。
当時は先進国である中国からもたらされる、デザイン性の高い織物に対して使われていました。

しかし、日本でも織られるようになると、日本の技法も取り入れられて独自の道を歩み始めます。唐織は次第に「中国風の織物」という意味になっていきました。
そのため、優れたものや美しいものをさす言葉として使われていたといいます。

有力武家のみに許された格式高い着物

日本で織られるようになった唐織は、平安時代の十二単の上着にも使われていた浮織や紋様織の技法が進化し発展していきます。
将軍や側近など有力な武家だけが所有を許可された特別な織物となっていきました。当時の繁栄を示すかのような華やかな柄が多く見られます。

能装束の代表へ

武家だけに許されていた唐織は、室町時代になると能楽の衣装にも見られるようになります。
将軍を始めとした武家や公家が、能を積極的に援助したためです。
能役者たちは報酬として与えられた衣服を、そのままや仕立て直しをして舞台衣装に使っていました。

武家にしか許されない唐織が能装束に見られるのは、後ろ盾となった時の権力者の存在が大きかったのです。

能装束としての唐織

能が演劇としての地位を確立した室町時代には、特に役柄による装束の規制はありませんでした。しかし、江戸幕府が能を儀式用の芸能に定めると、現在にもつながる装束の使い分けが確立していきます。

能装束の中で最も華やかな唐織は、主に女役の上着に使われる衣装です。
赤が入っている紅入(いろいり)は若い女性役、使っていない紅無(いろなし)は中年以上と、年齢によって使い分けられています。

簡素な舞台の上、最小限の動きのみで演じられる能にとって衣装は大切な要素。着飾るだけではなく、役柄の身分や年齢、性格、さらに心情を語る重要な役割を持ち、今日まで伝えられています。

花嫁衣装へ

刺繍の風情や、金銀の箔を布に刷りつけて模様にした摺り箔の美しい技術も加わってさらに豪華になった唐織、花嫁衣裳である打ち掛けにも使われるようになります。
白無垢を着て婚礼を終えると、色物と呼ばれる赤い衣装に色直しするのが一般的になりました。

現代でも色打ち掛けや帯に唐織が用いられ、最高級の織物として憧れの的になっています。

唐織の製造工程

唐織の製造工程は、大きく分けると以下の通りです。

1.企画・デザインの制作
2.原料準備
3.機(はた)準備
4.製織
5.仕上げ

唐織は、専門の職人による分業制です。20以上もの作業を経て織られています。
今回は中でも重要な工程である以下の4工程について簡単にご紹介します。

・紋意匠図
・紋彫
・糸繰
・製織

紋意匠図

紋意匠図とは、織物の設計図です。これから織りあげる唐織のデザインを方眼紙に写し、糸の色によって塗り分け、織り方も書き込んでいきます。

紋彫

紋意匠図の後に行う工程が「紋彫」です。紋意匠図をもとに紋紙に穴を彫っていきます。
紋紙は、ジャガードと呼ばれる織機に経糸の上げ下げを伝える指令書のようなもの。
織物は上下させた経糸の間を緯糸を通すことで生地になっていきます。ひとつでも間違えると、デザインが変わってしまうほど重要な工程です。

※ジャガードとは、フランスで1801年に開発された自動織機。紋紙にあけられた穴を読み取り、経糸を動かして複雑な紋様を織りあげます。

糸繰

糸繰は、原料である糸を準備する工程のひとつです。染色された糸を扱いやすいように糸枠に巻き取っていきます。
織りあげるデザインによって必要となる色や本数はさまざま。
緯糸は糸枠に巻き取った後、さらに緯管(棒状の管)に巻いていきます。

製織

準備を終えた糸を機織り機に通すと、いよいよ織りの工程です。
機織りの部品である綜絖(そうこう)に通した経糸が上下する間を、緯糸を入れた舟形の杼(ひ)を左右に往復させて、生地を織っていきます。

織りの最中も、織り手はチェックを欠かせません。紋意匠図を確認をしながら、丁寧に織りあげられます。

唐織の表現技法

唐織最大の特徴である立体感は、以下の技法を使用して表現されます。

・錦地紋様
・細か伏せ紋様
・荒伏せ紋様
・浮織①針とじ紋様
・浮織②針とじ倍腰紋様

ここからは、唐織の特徴を生み出す表現技法を簡単にご紹介します。

錦地紋様

錦地紋様は、土台となる織り組織です。経糸2、緯糸1の「三綾」の割合で繰り返し織ります。
経糸と緯糸の割合を2:1と1:2の2種類使うと、最も平坦な表現ができる技法です。

細か伏せ紋様

土台となる錦地紋様の次に行うのが、細か伏せ紋様です。薄い文様に使われ、金箔など紙製の素材を経糸でおさえて織り込んでいきます。
箔のほかにも細い金糸などの糸を用いますが、模様付きの箔を使用するだけで絵になる技法です。

荒伏せ紋様

荒伏せ紋様は、箔織と浮織の中間に位置する技法です。
経糸10〜20数本ごとに使用する糸を決め、一定の割合で絵緯糸(模様を表現するための糸)をおさえていきます。

浮織①針とじ紋様

当初の浮織は緯糸を押さえる方法は絵柄の形でしかなかったのですが、大きな柄あるいは長く緯糸が渡ると引っかかりなどで支障をきたしました。桃山時代に職人の技術で所々押さえられていますが、あらかじめ決めて押さえる様になったのは明治にフランスからジャガードが輸入されてからです。今は長くても15mm前後で押さえられています。

浮織のひとつである針とじ紋様は、15㎜前後で緯糸をおさえる技法です。
大きな柄などで緯糸を長く渡らせた状態だと引っかかりやすかったため、用いられるようになりました。
安土桃山時代にはところどころおさえる手法が使われていましたが、明治時代にジャガードが導入されると、前もって決めておさえています。

浮織②針とじ倍越紋様

浮いた広い面積を浮織1の針とじでは、とじた経糸の太さによって表面に穴の開いた様なくせがでます。(まわりの花の部分) これをなくすために使われる最も手間のかかる、同じ所を二度縫い取る倍越と呼ばれる技法です。(うさぎの部分)

浮織のひとつである針とじ倍越紋様は、同じ場所を2回縫う「倍越」という技法です。(緯糸は1腰、2越と数えます)
針とじの技法を用いると経糸の太さによっては見えてしまう穴をなくすために用いられる、最も手間のかかる技法です。

まとめ

唐織は、まるで刺繍のように浮き上がって見える模様が特徴の織物です。
中国・唐から伝わった美術的織物が、日本で独自に発展しました。武家や公家の庇護を受けた唐織は、能装束や花嫁衣装として現代にも伝わっています。

重厚感がありながら、職人の技術によって快適な着心地の唐織は、礼装用の袋帯としても人気。多種多様な紋様から好きな柄を選び、豪華さと上品さを兼ね備えた着物姿でお出かけしてみませんか?