着物の種類

2022.12.13

正絹の着物って何?絹織物の歴史と特徴、木綿との違いを解説

正絹の着物って何?絹織物の歴史と特徴、木綿との違いを解説

正絹は「しょうけん」と読み、英語でいうと「シルク」です。
エレガントな雰囲気が演出できるので、成人式や結婚式など人生の大きなイベントを迎える際に着用する着物に多く使われます。
この記事では正絹という素材や正絹の着物の取り扱い方を知りたい方に向けて、絹織物について詳しくまとめています。
歴史や特徴はもちろん、正絹のメリットとデメリット、木綿(もめん)の着物との違いやお手入れ方法なども幅広く解説しているので、是非とも最後までご覧ください。

正絹とは?

正絹とは?

絹を用いた製品はたくさんありますが、特に正絹は「絹を100%使用している」という意味になります。
着物について知る前に、まずは絹にはどのような特徴があり、織物にした際のメリット・デメリットは何なのかを知りましょう。
化繊や木綿との違いも解説しますので、着物の素材選びで悩んでいる方は目を通しておくことをおすすめします。

絹の特徴

絹は非常に肌触りが良くなめらかな素材であるため、光沢感が生まれやすく高級感あふれる仕上がりになります。
「繊維の女王」とも評される絹のメリットとデメリットをご紹介します。

絹のメリット

絹の最大のメリットは、着心地がとても良いことです。
絹には同じ天然繊維であるコットンの約1.5倍もの吸湿性と放湿性に優れているため、着用するとサラッとしていて肌触りが大変気持ちいいのです。
また、熱伝導率が低いので夏は涼しく冬は暖かく着用でき、保湿性もあるため静電気が起こりづらいという特徴もあります。
さらに絹にしか出せない独特の光沢感があり、しなやかさや優美さ、高級感や豪華さを感じられます。
絹織物を着用すると自信がつくので堂々と振る舞えるようになる人が多く、高貴な雰囲気をまとっているので人から一目置かれる存在になりやすいでしょう。

絹のデメリット

絹は繊細な素材ですので、水に濡れると光沢感がなくなって色落ちするため、管理がしづらいことがデメリットとして挙げられます。
家庭用洗濯機に入れて洗濯することはもっての外で、一度濡れると乾燥しても元の状態には戻らず、汗染みができやすいので汗をかかないよう注意して着なければなりません。
摩擦にも弱いため、強くこすれると繊維が毛羽立って見栄えが悪くなることにも留意が必要です。
加えて、動物性の繊維なので粗悪な環境で保管すると虫に食われる可能性が高く、紫外線に長時間さらされると変色する恐れもあります。
着用時や管理時には細心の注意を払う必要があり、洗濯したい場合は専門のクリーニング業者に依頼しましょう。

絹の原材料

絹とは蚕(かいこ)という昆虫がつくる繭(まゆ)から採れる繊維を加工したものです。
繭は蚕の家となるもので、楕円形をしており、大きさは大体3〜4センチになります。
1つの繭からは800〜1,200メートルもの長さ、かつ太さが0.01ミリメートルの糸が採取でき、これをより合わせて生まれたものが絹糸と呼ばれます。
着物1着分の生地をつくるためには、約50キログラム(繭5,000個分)もの繭が必要になるため、正絹はとても高級品になるのです。
ちなみに蚕は自然界には存在せず、完全に家畜化されて人間がいなければ生きていけない生き物となりました。

化繊や木綿との違い

絹は自然由来の糸ですから、とても傷みやすく加工に手間暇がかかります。
そのため、仕上がった見た目が絹に近くなり取り扱いやすくなることから、ポリエステルといった化学繊維で織られる場合もあります。
化学繊維は耐久性に優れて水で洗えるので、絹よりもはるかに管理がしやすく、何より正絹よりも圧倒的に安価であることが特徴です。
また、同じく自然由来の糸として木綿も挙げられます。
木綿も洗濯できて手頃な値段で販売されており、着心地が軽やかで普段使いしやすいことがメリットです。
ただ、化学繊維や木綿には光沢感や高級感がないので、絹ほど格式がなく、見た目も安っぽくなるという違いがあります。

絹の歴史

絹の歴史

絹自体の性質が分かったところで、歴史も見ていきましょう。
絹は非常に長い歴史をもつ素材なので、是非とも思いを馳せながらお読みください。

絹のはじまり

絹は中国で生まれ、正確な時期は不明ですが紀元前5,000~3,000年頃に製造が始められたと言われています。
最初は宮廷でのみ製造されていましたが、貿易を通じてやがて中東やローマにまで絹織物が運ばれるようになり、徐々に蚕や養蚕技術が伝わっていったようです。
日本には弥生時代に養蚕技術が大陸から伝来したといわれており、柔らかくて光沢のある絹は支配階級の衣服に採用されるようになります。
奈良時代には納税品として麻や苧麻と同様に絹が納められていたという記録があることから、当時から価値が高いものとして認識されていることが分かりますね。
また、古墳時代には秦氏(はたし・はたうじ)という渡来人が現在の京都周辺に住み着き、絹織物の技術を伝えたことで西陣織が始まったとも言われています。

江戸時代の絹

江戸時代の初めには、現代の着物の生地となる麻・絹・木綿が出そろうようになります。
寛永5年(1628年)に幕府が発布した衣服に関する規制では、「百姓は布・木綿たるべし」「百姓の女房は紬着物までは苦しからず」とあります。
「農夫は布(麻)と木綿を着るべきで、その妻は紬までは着てもよい」と定められているのです。
紬(つむぎ)とは養蚕した繭から絹糸を紡ぐ時に出たくず繭から紡ぐ糸で織った布で、商品価値が低く、絹でありながら庶民も着てもよいというものでした。
江戸中期には経済が発展したことから、幕府や各大名の財政状態が悪くなり、反対に商人が豊かになるという逆転現象が起きました。
そのため「奢侈(しゃし)禁止令」という贅沢を禁止する規制をたびたび出します。
日本人がこぞって木綿を着る時代となりましたが、人生儀礼には絹の着物を用いることが許されており、庶民も晴れ着を一枚は持っていました。

近代の絹

明治時代になると西洋より洋服が入ってきましたが、当時は高級なものだったので庶民は着物を着続けました。
明治時代には現在の群馬県富岡市に富岡製糸場という製造工場が建設されたことで、糸が大量生産されるようになります。
昭和時代に入って戦争が始まると贅沢禁止令が出され、羽織丈が短くなるなど絹を節約するようになった結果、途絶えてしまった着物の技法も多いのです。
現代になって復活した代表的な技法には「辻が花」といったものが挙げられ、見た目の美しさや技術力の高さはもちろん、平和の象徴として高い評価を得ることもあります。
また最近では洗える絹なども登場したことで、今一度、絹糸や着物文化が見直されています。

着物における絹の種類

着物における絹の種類

絹で着物を仕立てる場合、用いる絹は2種類あります。
それぞれ製法や特徴が異なりますので、チェックしていきましょう。

生糸

生糸は「きいと」と読み、蚕の繭から引き出した極細い繭糸を数本そろえて繰った糸を指します。
生糸の表面には「セリシン」というたんぱく質が覆っており、粘着質であるため糸同士がくっつきやすく、糸が千切れづらくなるという性質があります。
しかしセリシンがついたままだと糸を織ったり染色しづらくなったりするため、石けんや灰汁といったアルカリ性の薬品を使って少し除去しなければなりません。
セリシンの除去具合によって風合いが異なるので、職人の腕の見せどころとも言えるでしょう。

紬糸

繭自体に欠陥があり、屑繭(くずまゆ)という生糸にできない繭から紡いだ糸を紬糸(つむぎいと)と呼びます。
屑繭を煮て糸を柔らかくしたものを伸ばした真綿をつくり、それを原料にしたものです。
生糸ほどの光沢感がないため洗練された印象はないですが、素朴さや軽やかさが感じられる仕上がりになります。
ちなみに生糸で織られた絹織物を一等品と位置づけることに対して、紬糸で織られたものは二等品となります。

正絹の着物を仕立てる際の注意点

正絹の着物を仕立てる際の注意点

正絹の着物を自分で仕立てたいと考えている方に向けて、注意点をいくつかご紹介します。
以下のポイントを知らずに糸を用意したり手入れしたりすると、せっかく仕立てた着物が台無しになってしまうので気をつけてくださいね。

裏地・縫い糸も正絹で揃えよう

絹は湿気を吸いやすいという特性があるため、必ず少しずつ縮みが生じます。
一方で化繊は縮みが起きないため、もし裏地を化繊にして仕立てると表地の絹と違いが出てたるみが起きる可能性が高いです。
もちろん縫い糸も化繊にするとバランスが崩れやすくなるため、表地・裏地・縫い糸はすべて正絹で揃えるようにしましょう。
補足いたしますと、洗える正絹の反物である「ふるるん」は、縫い糸も専用のものを使用しているため縮みづらいことが特徴です。

絞りの着物はアイロンに注意

絹の着物の中でも、特に絞りのものはクリーニングに注意しましょう。
絞りはアイロンによって伸びやすいため、洋服と同様にアイロンがけをすると美しいデザインが崩れてしまったり、風合いが損なわれたりしてしまいます。
基本的に着物専門のクリーニング店では知識のあるプロが行うので問題ありませんが、一般の洋服クリーニング店に出す場合は発注時にアイロンがけの有無などしっかり確認を取ってください。

正絹着物のお手入れ方法

正絹着物のお手入れ方法

正絹の着物は、注意を払ってお手入れをしましょう。
虫がつかないように定期的に陰干しをして、保管の時は箪笥を少し開けておいたり、除湿剤・証紙(しょうし)・きものキーパーなどのアイテムを使ったりして湿気をこもらせないように気をつけてください。
また、当て布をしたり、スチームは使わないようにしたりするなど、アイロンがけにも気を配りましょう。
絹は洗うと縮むのでおすすめしませんが、縮んでもかまわないという人はお洒落着用洗剤で押し洗いします。
正絹の着物を長く扱いたい・崩れないように綺麗に洗いたいと思うなら、着物専門のクリーニング店の利用をおすすめします。

正絹の着物に関するQ&A

正絹の着物に関するQ&A

正絹の着物は着物の中でも最も高価な部類に入り、なかなか着る機会がないので多くの疑問を持っている人が少なくないでしょう。
そこで、正絹でよくある質問を解答とともにいくつかまとめました。

Q.礼装には正絹でないとダメ?

A.成人式や結婚式など、フォーマルな場面での礼装には正絹の着物を着用することをおすすめします。
通過儀礼として重要な行事ですので、最も格の高い黒留袖や本振袖といった第一礼装は正絹でつくられていることが多いです。
絶対に正絹でなければならないというほど厳密な規定はどこにもないものの、社会通念上、正絹の着物での参列が望ましいでしょう。

Q.子供の七五三で正絹の着物を着せるのが心配。おすすめは?

A.いくらおめでたい七五三といえども、食べ物をこぼしたり転んだりしやすい子供に正絹の着物を着せることには抵抗がありますよね。
大事な通過儀礼ですので、できれば正絹が望ましいです。
正絹は仕立て直しができるため水に濡らさなければ多少汚れても何とかなりますし、撥水加工・撥油加工が施されている「ガード加工」がされている着物であれば汚れる心配を軽減できます。
また、子供にシルクアレルギーがあったり、どうしても正絹の着物を用意できなかったりする場合は化繊の着物もおすすめです。
汚れが取れやすくてすぐに洗えるので、子供にも安心して着させられるでしょう。

Q.正絹の着物をリサイクルで買う時の注意点は?

A.着物を中古で購入する場合は、自分の身の丈に合っている寸法かどうかをしっかり確認しましょう。
また、正絹は汚れがつきやすく落ちづらいため、汚れの有無を裏地まできちんと確認することをおすすめします。
実際に着用してみて、縮んでいてきついところはないか、目立つ場所に汚れがついていないかなどをチェックしてくださいね。

まとめ

正絹まとめ

正絹は着物の素材の中でも、その見た目の美しさや製造の難しさから最高級品とされています。
非常に長い歴史を持ち、肌触りが抜群に良かったり放湿性が優秀だったりとメリットがたくさんあります。
ただし、「虫に食われやすい」「摩擦や水に弱い」「自分で洗濯がしづらい」などデメリットも多いため、着物の素材を選ぶときには充分に注意しましょう。
正絹でできた着物は値段が高くなりやすいので気軽には着られませんが、人生儀礼や華々しい式典などに参加する際は是非とも着用したいですね!