絞り染めの着物とは?総絞りや疋田絞りなどの意味や工程、体験工房も紹介

絞り染めの着物とは?総絞りや疋田絞りなどの意味や工程、体験工房も紹介

日本の伝統工芸のひとつに、絞り染めという技法があります。
着物の伝統工芸ということはなんとなく知識はあっても、詳しいことはよくわからない方も多いのではないでしょうか。
また、絞り染めは一種類ではなく、たくさんの種類が存在します。

「絞り染めって、どんなもの?」
「どんな種類があるの?」

この記事を開いている方も、このように感じているのではないでしょうか。
今回は、日本を代表する染めの技法である絞り染めについて解説していきます。種類や製造工程、体験できる工房の情報など、絞り染めに関する情報を余すことなくお伝えします。どのようにして絞り染めは生まれているのか、一緒に見ていきましょう。

絞りの着物とは?

絞りとは染の技法の一種のことで、絞りの着物はこの技法が使用された着物のことを言います。
模様にしたい部分の布を糸で括り、器具で挟んだり、縫い絞ったりして染料に浸します。そうすることで、模様を表現するのです。
それでは、具体的に解説していきます。

奈良時代から受け継がれる染色技法

染色の歴史はとても古く、発祥は6世紀頃のインド、もしくは中国だと言われています。染色の技術は日本だけでなく世界各地で独自の進化を遂げてきました。
日本における最古の絞り染めは奈良時代にあり、法隆寺と正倉院などに現存する染織遺品があります。
中国から伝わった文様染色法に、纐纈(こうけち)、夾纈(きょうけち)、蝋纈(ろうけち)と呼ばれるものがあります。これらの技法は三纈(さんけち)と呼ばれ、奈良時代大流行しました。
現在の絞り染めは、纐纈であると言われています。

絞りの技法

絞りの技法、と言っても、一つではありません。
現在は主に手絞りと機械絞りに分けられています。どのような違いがあるのか、それぞれ解説します。

手絞り

手絞りとは、機械を一切使用せず、全て手作業で行う絞りの技法のことです。手作業のため完成までに膨大な作業時間を要しますが、その仕上がりの美しさは思わず見とれてしまう程です。

機械絞り

機械絞りは、その名の通り機械を使用して作業します。
ただ、機械と言っても工場のように全てマシーンやロボットにお任せ、というわけではありません。絞り染め専用の器具を用いるだけですので、実質手作業とあまり変わらないのです。手作業よりやりやすくなる、と認識した方が良いでしょう。

プリント加工

現代はとても便利なもので、プリント絞りやシワ加工といった、絞り染め風の着物もあります。
絞りの柄を生地にプリントをするので、絞り特有の凹凸がないのが特徴です。更に絞りの風合いを出すためシワ加工を施すこともあります。手絞りの着物ともなるとそれなりに高価になってしまいますので、もっと手軽に絞りの着物を楽しみたい方におすすめです。

『総絞り』は手間が桁違い

総絞りは、着物の布地全てに絞りが施されています。
絞りは生地を小さくつまんで糸で括り、染色の時に色が染み込まないようにします。総絞りですので、この括る作業を延々と繰り返すのです。
この総絞りは、ものにもよりますが一つの着物におよそ二十数万個以上の糸で括った粒があると言われています。
しかも一人の職人が最初から最後まで、全て手作業で行います。職人が変わると作品の出来上がりに影響してしまうので、交代はできません。
作業は一日に数百から数千個しか括れないため、全て仕上がるまでに一年以上もかかります。総絞りの着物は、職人の絶え間ない努力と果てしない程の時間をかけて生み出された最高傑作なのです。

絞り染めの制作工程

絞り染めは、様々な工程を経て完成します。
布を糸で括って、染色しておしまい、ではありません。絞り染めが出来上がるまでの一連の作業をそれぞれ説明していきます。

図案・デザイン

どのような模様にして、どこに配置するのかデザインを決め、下絵を作ります。絞りの柄が綺麗に出るよう、考えながら設計します。

下絵型彫り

柿渋を引いた渋紙に、ポンチと木槌と呼ばれる道具を使用して穴を開け、型紙を作ります。絞りの種類によっては二丁刀を使い、線状にくり抜いて作成します。

下絵刷込

型紙を生地の上に置き、丸刷毛に青花をつけて模様を刷り込みます。
青花は水に浸けると消える露草の花汁のことで、チャコペンのような役割を持っています。

絞括

下絵に沿って布を糸で括る作業を行います。縫い締めたり、板で挟んだり、絞りの種類に合わせた方法で作成していきます。手作業のため、非常に根気のいる作業になります。

漂白

下絵刷込の作業で使用した青花を落とします。
このとき、漂白が足りないと染めの作業に影響が出ますし、漂白しすぎても生地を傷めることがあります。漂白の作業も、気を抜くことは許されません。

染め分け

桶絞りや帽子絞りなどの染め分けの技法を使用し、染めない部分を防染していきます。

染色

生地を染料にいれ、染めていきます。
目的の色にするには、 まず薄色から染めていき、徐々に目的の色に近づけていきます。これも熟練の職人にしかできない技なのです。

糸引き

生地が染め上がったら、いよいよ括った糸をほどきます。糸はしっかりと縫い付けられているので、生地を切ってしまわないように慎重に行います。

湯のし

蒸気を当て、絞りの風合いを残しながら生地の幅を広げます。
絞りの部分とそうでない部分は違う湯のし器具を使用し、美しく仕上げます。

絞り染めの代表的な種類

絞り、と一口に言っても、その種類は様々です。基本は布を括り付けて染色する手順なのですが、わずかな制作工程の違いで、全く別の絞りとして分類されます。
ここでは、それぞれの絞りの特徴を説明していきます。

京鹿の子絞り

京鹿の子絞りは、京都で生産されている絞り染めです。京都で生産されていることと、子鹿の背中の斑点の模様に似ていることからこの名前が付けられました。
1976年には伝統工芸品にも指定されています。
代表的なものに疋田絞りや一目絞りがあり、その種類は50種類以上もあります。絞りの粒がとても細かく、他の染色に比べて完成までに長い年月を要します。

疋田絞り

京鹿の子絞りの技法の一つです。
絞り台という器具に専用の針を通し、綿糸で4回巻き付けて制作します。一尺(約38㎝)の間に粗い物で20粒、細かいもので60粒括り付けられます。熟練の職人でも、一日300粒しか括れないと言われています。いかに大変な労力と技術が必要なのかが分かります。

本疋田絞り

疋田絞りが4回巻き付けて粒を作成するのに対し、本疋田絞りは絹糸で7回絞り、最後の1回を根元で巻き付ける(計8回)方法で作成します。
そのため疋田絞りよりも目が細かく、粒がしっかりしているのが特徴です。本疋田絞りは途方もない手間と時間をかけて制作するため最高級品と言われており、一番安価な着物でも数百万円の価格帯になっています。

一目絞り

模様の輪郭や線柄を描くときに用いられる技法です。絞り目は絹糸で2回巻いて括ります。人目絞り、目交、目染などとも呼ばれていました。疋田絞りや本疋田絞りと併用される場合は、まず一目絞りから施されます。

有松・鳴海絞り

愛知県名古屋市の有松、鳴海地区で生産されている絞り染めの技法です。
とても種類が多いのも特徴で、100種類を超える技法があると言われており、伝統工芸品にも指定されています。また一つの工程を一人が行う、完全分業制で制作されていることも大きな特徴のひとつです。

南部絞り

南部絞りは、東北地方の南部と呼ばれる地域(青森県~岩手県)で生産されている絞り染めの技法です。
南部藩の重要産物として江戸幕府などへの献上品上納品、また諸国大名家への土産品として珍重されていた、歴史のあるものなのです。
代表的な染めに「紫根染め」、「茜染め」があり、その独特な色合いの美しさが人気の絞り染めでもあります。

絞り染め着物の有名作家・工房

今日の絞り染めは、代々継承されているからこそ、実際に見たり、着たりして触れることができるのです。
そこには、技術を守ってきた職人たちの類まれなる努力があります。
絞り染めを継承している作家や工房はたくさんあるのですが、今回は代表的ともいえる作家と工房について紹介します。

藤娘きぬたや

藤娘きぬたやは、愛知県名古屋市に拠点を置き、絞り染めの製造、販売を行っているメーカーです。
京絞りの技法にオリジナルを加えた「きぬたや絞り」を生み出し、現在も新作を発信し続けています。その鮮やかな色彩は「きぬたやカラー」と呼ばれ、国内のみならず、海外でも定評を受けています。
数年前に元卓球選手の福原愛さんが、自身の結婚会見できぬたやの絞りの振袖を着用し、話題になっています。

久保田一竹

久保田一竹は、辻が花を現代によみがえらせた染織作家です。
辻が花は一度途絶えてしまったこと、詳細が明らかになっていないこと、現存する作品が少ないことから「幻の染」と呼ばれています。
久保田一竹は辻が花の復元に尽力を注ぎ、オリジナルの技法を加えた「一竹辻が花」を完成させています。その作品はスミソニアン博物館に展示されるなど、海外でも高い評価を受けています。

絞りの着物・帯のQ&A

絞りの着物は、とても美しいですが扱いに困ることが多々ありますね。とても繊細な一面を持つ絞りの着物は、特に丁寧に扱わなければなりません。
また、絞りの着物は礼装として着られるのかなど、格が良くわからないという方も多いのではないでしょうか。絞りの着物の格や、更に着ていける場所についても説明しますので、こちらもご覧ください。

Q.洗濯やしみ抜きはどうしたらいい?

浴衣など素材が綿の物であれば自宅で洗濯が可能です。(ネットに入れ、手洗いか洗濯機の手洗いコースで洗えます。)
絹は水に弱く縮む可能性がある為、正絹の絞りであれば専門のクリーニングに出すのがベターです。また、クリーニングに出すときは、必ず絞りの風合いを壊さないよう念押しをしてください。
しみ抜きも同様に、専門のクリーニングに出すのがおすすめです。

Q.絞りにアイロンをかけてもいい?

かけられますが、注意が必要です。
そもそも絞りの生地はしわが目立たないので、基本的にアイロンは必要ありません。どうしてもしわが気になりアイロンを当てたいという場合は、スチームを当てながらふんわりとかけるようにしましょう。
せっかくのシボが消えてしまうので、間違ってもしっかり当てないように気を付けてくださいね。

Q.絞りの着物を着ていく場所や、格が知りたい

絞りの着物は値段が高価であることから格が高いと思われがちですが、実はあまり高くありません。総絞りなど柄が全面にあるものはおしゃれ着の位置づけになりますので、ショッピングやランチ会など、カジュアルな場での着用が好ましいです。
柄が絵羽模様になっている訪問着や振袖であれば格が上がりますので、結婚式や成人のお祝い、パーティーなど、フォーマルな場で着用することができます。

Q.絞りの着物や帯のおすすめの仕立て方は?

絞りの着物はおしゃれ着に分類されますので、お仕立ては小紋が一番おすすめです。小紋はショッピング、食事、観劇など、フォーマル以外の場で着用することができます。(着物上級者は旅行も着物で行っています!)
絞りの帯もおしゃれ着に分類されますので、名古屋帯に仕立ててコーディネートの幅を広げましょう。

絞り染めを体験するには?

最後に、絞り染めを体験できる工房を紹介します。
体験する際は必ず各ホームページで営業時間や料金の確認をし、また体験の予約も忘れずに入れてから向かってください。

京都絞り工芸館

京都絞り工芸館は、京都の二条城付近にある、絞り染めの美術館です。
日本で唯一の絞り染め専門の美術館となっており、その中に体験できる工房が併設されています。
開館時間:9:00 – 17:00
入館料:大人800円 / 中・高校生500円 / 小学生300円
体験料:雪花絞りのスカーフ 4,000円~
絞り染めの体験をした方には美術館の入館料が無料となる特典もついています。(変更になっている可能性もあるので、来館の際は確認してから足を運んでくださいね。)

絞り染め体験工房いづつ

いづつは明治創業の老舗絞り染めメーカーでもあります。
京都市中京区に店舗を構え、現在は自社で製造している絞り染めの小物の販売や絞り染めの体験工房として運営しています。
染め体験コース:初心者コース 所要時間10分~ 1,650円
体験時間が10時から16時までの間に1時間おきの受付となっていますので、しっかり確認をしてから予約をしてください。
気軽に体験できる初心者コースからじっくり体験できる上級者コースまで、幅広い体験メニューがあります。
旅行の際は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

和なり屋

和なり屋は東京都台東区にある藍染を主に行う工房です。
藍染と機織りが主体ではありますが、本格的な糸絞りコースが用意されています。
3時間で巾着を仕上げることができ、またほぼマンツーマンで受けられるのでじっくり体験してみたいという方におすすめです。
営業時間 10:00~18:00
お休みは不定休となっています。
キャンセル料が発生してしまうので、予約する際はキャンセルポリシーにもよく目を通しておきましょう。
料金の記載がないので、体験してみたい方はお店に直接問い合わせてください。

まとめ

絞り染めについて解説してきましたが、少しでも興味を持っていただけたでしょうか。また少しでも身近に感じていただけたでしょうか。
絞りは決して値段が高価な着物というだけでなく、古くから受け継がれてきた日本の美しさ、荘厳さがあります。
これまで絞りの着物はなんとなく避けてきたという方も、興味があるという方も、一度着てみませんか。
そして、是非絞り染めの世界を楽しんでください。