西陣御召=本しぼ織?着用シーンや定義、他産地の御召や種類を紹介

西陣御召=本しぼ織?着用シーンや定義、他産地の御召や種類を紹介

西陣御召をご存じでしょうか?
薄くて丈夫、着心地もよく、気品があり、着物愛好家からも人気の高い着物です。カジュアルからセミフォーマルまで使えるため、普段使いからちょっとしたお食事会まで活躍してくれます。

しかし、西陣と聞くと帯をイメージする方も多く、西陣御召と聞いても

「どんな着物なの?」
「着用できるシーンが着物の柄や帯によって変わるって本当?」
「コーディネートで気を付けることはある?」

など、わからないことが多いのではないでしょうか?

そこで今回は、近年人気が再燃している西陣御召についてまとめました。知っておきたい基本情報はもちろん、他の生産地との違いやコーディネートのポイントもご紹介します。

西陣御召をこれから着ようと思っている方はもちろん、興味があるだけという方もぜひ最後までご覧ください。

本しぼ織(西陣御召)とは西陣織の技法のひとつ

西陣御召は、京都・西陣地域で作られている、糸を染めてから織る先染めの絹織物です。西陣織のひとつ「本しぼ織」の名前で国の伝統的工芸品にも指定されています。

表面にシボと呼ばれる凹凸があるのが特徴です。独特のツヤとさらりとした肌触りが生まれ、体にそっと寄り添ってくれる着心地のよさがあります。

織物の中でも格が高く、セミフォーマルからカジュアルまで対応する懐の深さも魅力のひとつ。着物の柄や合わせる帯によって、さまざまな場面で活躍してくれる着物です。

伝統的工芸品『西陣織』の本しぼ織

西陣織は、京都市の北西部・西陣で製造されている先染めの織物です。1976(昭和51)年2月26日、国の伝統的工芸品に指定されました。登録数は12種類もあり、西陣御召は「本しぼ織」の名前で認定されています。

伝統的工芸品として認められ、伝統マークを付与される条件は以下の通りです。

1.先染めまたは先練りの平織りまたは二重織りであること
2.糸は、下撚りの後、米のりなどの植物性糊料を手作業でもみ込んだ御召糸を使用すること
3.御召糸の撚糸には、八丁式ねん糸機を用いること。
4.「湯もみ」でしぼ出しを行うこと。
5.たて糸は、1cmに100本以上織り込まれていること。

材料から製法、織り込む糸の本数に至るまで、細かな制約があります。
伝統的工芸品を名乗れるのは、上記の技術や技法を使用して制作されたしぼ出し織物のみ。
条件に従って生産されている「御召」は西陣でも少なく、稀少性の高い生地と言えます。

本しぼ織の特徴

本しぼ織最大の特徴は、表面にあるシボです。
生地表面に現れた凹凸によって、以下のような風合いや着心地を生み出します。

・薄くて丈夫
・高級感と優しさが同居するツヤ感
・裾さばきのよさ
・体に添う着心地のよさ
・着崩れのしにくさ

シボは、強い撚りをかけた糸(御召緯:おめしぬき)を経糸緯糸両方に使って織り込んだ後、ぬるま湯でもみ込むことで表れます。
細かく入った凹凸は控えめですが、着物を纏う人の所作に合わせて光が屈折し、落ち着いた深みのある輝きが宿ります。

他産地の御召

京都・西陣の西陣御召のほかに、新潟の塩沢御召(しおざわおめし・または本塩沢)や、山形の白鷹御召が有名です。
生地表面のしぼや緯糸に強撚糸を使用するなど、共通点の多い3つの御召ですが、それぞれ産地・製法・特徴が異なります。

御召 産地 製法 特徴
西陣御召 京都市西陣地域 先練り
(糸の油分を落とす精錬工程をしてから生地を織る)
※一部後練りの生地もあり
・経糸緯糸ともに強撚糸を使用
・高級感のある光沢
・控えめなしぼ
塩沢御召(本塩沢) 新潟県南魚沼市 後練り
(生地を織ってから精錬する)
・優美で上品な雰囲気
・細かな絣模様
白鷹御召 山形県白鷹町 後練り ・「鬼しぼ」とも言われるシボの大きさ
・板締めという技法で染められる

本塩沢とも呼ばれる塩沢御召は、奈良時代から織物が盛んな新潟県の塩沢地方が産地です。麻織物「越後上布」の技術を絹に応用して生まれ、亀甲絣や十字絣などの細かな絣模様が入っています。

「鬼しぼ」と言われる大きなしぼが特徴の白鷹御召は、山形県白鷹町で作られている着物です。全国で白鷹御召にのみ残っているのが、「板締め」という染色方法。板で挟んで染めた強撚糸を用いて文様を織りだしています。

3つの産地の中で、西陣御召は最もフォーマル寄りとされています。糸の油分を落とす精錬工程を、絹糸の状態で行っているためです。密度が高く、コシとツヤのある織物に仕上がります。
対して、塩沢御召と白鷹御召は、後練りの生地。織りあげた後に精錬を行っているため、シャリ感と素朴な風合いが特徴です。

西陣御召でも後練りの生地が生産されているなど一部例外もありますが、同じ御召でも産地によって特徴が異なります。

▼塩沢御召に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。

西陣御召の種類

西陣御召は、柄や織り方によって種類分けされています。

柄による種類

西陣御召を柄で種類を分けると以下の通りです。

・無地御召
・縞御召
・絣御召

御召は、柄によって着用シーンが異なるため、選ぶ際の重要なポイントでもあります。
それぞれ特徴を見ていきましょう。

無地御召

無地御召は、その名の通り柄のない御召です。
紋を入れると着物の格が上がり、セミフォーマルの場面にも着用できます。袋帯や織の名古屋帯であらたまった装いも可能。
そのシンプルさから、女性用・男性用ともに広く使われているタイプです。

縞御召

縞御召は、縞模様が入った御召です。大名縞(だいみょうしま)、万筋(まんすじ)、棒縞(ぼうじま)や子持ち縞(こもちじま)など、縞の太さや色でさらに種類が分けられます。

縞が細かいものほどフォーマル向き。落ち着いた色合いで細かな縞御召は特に格が高く、遊び心溢れる色使いの縞御召はおしゃれ着向きとされています。

絣御召

絣御召は、文様が織られた御召です。染色時に染めない部分を作った経糸と緯糸を使い、模様を織りだしています。
代表的な文様は、矢羽根絣や十字絣、蚊絣。柄が細かいほどあらたまった印象になります。

織り方による種類

織り方による西陣御召の種類は以下の通りです。

・風通御召
・縫取御召
・紋御召
・上代御召

風通御召(ふうつうおめし)

風通御召は、生地の表と裏で異なる色糸を用いて模様を表現した御召です。
二重構造になっており、表と裏では配色が反転しているのが特徴。
リバーシブルタイプも販売されていますが、単衣に仕立てて色の違いを楽しみたい生地です。

縫取御召(ぬいとりおめし)

縫取御召は、地の糸以外に金糸や銀糸、色糸を使って文様を織りだした御召です。
模様はまるで刺繍のように見え、豪華な仕上がりになります。袋帯など格の高い帯を合わせれば、無地御召同様、あらたまった席にも着用可能です。

紋御召

紋御召は、無地御召に地紋が施された御召です。
遠目では無地のように見えても、所作によって文様の光沢が浮き上がって見えます。色無地感覚で着られる着物で、帯合わせを変えれば幅広く活躍してくれる御召です。

上代御召

上代御召は、本来生糸のみのところ、紬糸も用いて織られた御召です。御召のシャリ感と、紬の素朴で柔らかな風合いの両方が楽しめます。
上代御召の中でも文様を織りだしたものは、特に「紋上代御召(もんじょうだいおめし)」と呼ばれています。

西陣御召の着用シーンや注意点

御召は織りの着物でありながら、格は染めと織りの着物の中間と言われています。中でも西陣御召は、セミフォーマルからカジュアルまで使えるオールマイティな着物です。

しかし、一番困るのが「柄によって格が異なる」ことではないでしょうか。
「ちょっとした席で失礼にはならない柄ってどれ?」
「帯次第でカジュアルに…というけれど、どの組み合わせがカジュアルなの?」
と、選択肢が多いからこそ迷ってしまう方も多いでしょう。

ここからは、西陣御召の着用シーンと注意点をご紹介します。

▼コーディネートで気を付けたい帯の格については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

セミフォーマルにも使える万能着物

江戸時代将軍が好んでお召しになったことからその名前がついたとされる御召。

特に無地御召や紋御召などに一つ紋を入れれば、略礼装として着用可能。ホテルでのお食事会やコンサート、カジュアルなパーティーなど、大人の社交着として活躍してくれます。

セミフォーマルとしてコーディネートするなら、華やかな袋帯や名古屋帯を。
着物と同系色の帯を合わせ、帯締めや帯揚げに差し色を入れて引き締めれば落ち着いた装いに。反対にパッと目を惹くような帯を合わせても、シンプルな着物が帯の柄や色を引き立たせてくれます。

ただし、あくまでセミフォーマルなので、金糸や銀糸が使われている格式高い帯は避けたほうがよいでしょう。

洒落着物として活躍の西陣御召

織り模様が入っている御召や紋のない無地の御召は、洒落着・普段着として着用します。
昔は落ち着いた色柄が多かった御召も、最近は明るくきれいな色合いとデザインのものが増えました。観劇や美術館へのおでかけ、カフェで食事などのほか、日常使いの着物としても活躍してくれます。

普段着として合わせるなら、しゃれ袋帯、織りや染めの名古屋帯などがおすすめです。
可愛い柄の帯で遊び心をプラスしたり、アンティークの帯を合わせてレトロな雰囲気にしたりと、イメージする着姿に合わせて最も自由なコーディネートを楽しめます。

▼普段着については、こちらの記事で詳しく解説しています。

本しぼ織の御召は特に水に注意!

強撚糸を使っている御召は水に弱いため、着用時には特に注意が必要です。
もともと絹は水分に弱い性質を持っていますが、強い撚りをかけた糸を使う御召では、水分による縮みが大きく、もとに戻すのが難しくなってしまいます。
雨に濡れないよう気を付けていても、保管中の湿気で縮んでしまう場合もあるほどです。

一番の対策はこまめに着て風を通すことですが、難しい場合は『ガード加工(パールトーン加工)』を施す方法もあります。雨や汗などの水分で縮むのを防ぎ、表面に汚れがつきにくくなるようにするため、撥水性を付与する加工です。

しかし、加工を施したからといっても、限度を超えれば濡れてしまいます。縮む可能性もゼロではありません。一度シミができると取れにくくなるデメリットもあります。

加工をするかどうか迷ったら、着用シーンや着る頻度に合わせて検討してください。飲食時に着ることが多い場合や、保管期間が長い場合は撥水加工があると安心です。
また、メーカーごとの特性や保証期間なども異なるので、事前に説明を受けてからお願いしましょう。

▼着物のお手入れや保管に関しては、以下の記事で詳しくご紹介しています。

西陣御召の歴史

御召は、中国から日本に技術が伝わったことから始まりました。
ここからは、西陣御召の歴史をご紹介します。

柳条縮緬は中国発祥

御召の起源は中国です。1573年から1592年の間に中国から大阪の堺に技術が伝えられると、日本でも生産されるようになります。
「御召(御召縮緬)」の名前が広がる前は、「柳条縮緬」と呼ばれていました。

一方、京都では5~6世紀にはすでに織物の生産が始まっていたと言われています。「西陣」の名前がつけられたのも、応仁の乱(1467年)後に織り手が生産を再開した場所が西軍の陣地後だったためです。
この頃、大陸から伝来した高機(たかはた)技術を取り入れ、現在へと続く先染めの織物の基礎が確立します。
海外からの技術や意匠も積極的に取り入れ、時代の最先端を担う高級織物の産地としての地位を築いていきました。

将軍・徳川家斉が愛した「御召」

「御召」の名前が生まれたのは、江戸時代中期。徳川11代将軍家斉(いえなり)が好んで着用し、「将軍のお召し物」から名前がつけられたとされています。
男物として始まった御召は、後に女性も着るようになり、江戸時代から明治時代にかけては礼装用として認識されていました。

一世を風靡した「東の銘仙、西の御召」

明治時代になると一般の人々も御召を着られるようになり、「東の銘仙、西の御召」と言われるほど一世を風靡します。

大柄な矢羽根(矢絣)の御召に、海老茶えびちゃ色の袴姿を合わせた女学生のスタイルが大流行。大正時代までに描かれた美人画には、御召を身に纏った女性の姿が多く見られ、女性にとって御召は憧れの着物でした。

戦後、御召は西陣を始め日本各地で盛んに生産されますが、当時の模様はおしゃれ柄が多かったために徐々に「正装用には向かない」と認識されるようになります。
水で縮む性質から着用を避けられるようになり、さらに礼装には染めの着物という認識が定着すると、御召の需要は減少。現在ではわずかに生産されるのみとなりました。

しかし、近年御召は再び注目を集めています。
着物を着る機会がさらに少なくなった現代では、少ない着物で幅広く活躍してくれる御召の万能さに気付き始めたのかもしれません。

西陣御召の工房見学や体験はできる?

西陣御召限定で体験を行う工房はありませんが、機織りや染色の体験ができる施設があります。
実際に目で見て触れられる体験は、貴重な機会。作業の難しさや繊細さをぜひ体験してみてください。

※掲載内容はすべて2024年5月現在の情報です

西陣織工業組合

京都市にある西陣織工業組合は、西陣織を紹介する史料を展示している施設です。
体験できるのは、約20㎝×30㎝のテーブルセンターを手織りする体験。ミニ手機は50台設置しているため、友人同士や家族が同時に作品を作れます。
施設内では、職人による実演も行っているので、繊細な作業を見学するだけでも勉強になりますよ。

体験名 手織体験
所要時間 約40分
対象 小学校5年生以上
料金(税込) 一般:2,530円(15名以上:2,200円)
学生:2,200円(15名以上:1,980円)

▼施設概要

西陣織会館
住所 京都市上京区堀川通今出川南入ル 西側
Googleマップ
アクセス 【市バス】京都駅より9番、約30分。最寄バス停「堀川今出川」にて下車、徒歩1~2分
【地下鉄】烏丸線「今出川」駅にて下車、徒歩約10分
※有料駐車場あり
開館時間 10:00~16:00
休館日 毎週月曜日・年末年始(12月29日~1月3日)
※月曜日が祝日の場合、翌火曜日が休館
入館料 無料
電話番号 電話番号
075-451-9231
FAX 075-432-6156

H・A・T・A・O・T・O-手織り教室はたおと-

H・A・T・A・O・T・O-手織り教室はたおと-は、本格的な手織りや染色を講座で学べる学校です。織物産地である桐生の織物協同組合の推薦校として指定されています。

初心者から経験者まで幅広いニーズに応えてくれるカリキュラムが魅力。体験講座や教室見学も可能です。ひとクラス少人数なので、丁寧な指導を受けながら、糸を染めるところから織りまで自分の手で着物や帯を作り上げる貴重な体験ができます。
コース内容を以下にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

▼施設概要

東京校 毛呂山校
住所 東京都台東区柳橋1-30-5 KYビル301
Googleマップ
埼玉県入間郡毛呂山町葛貫122-2
Googleマップ
電話番号 03-3861-5218 049-295-5018
アクセス 【電車】
JR、都営地下鉄浅草線浅草橋駅より徒歩3分
【電車】JR毛呂駅、東武越生線武州長瀬駅より徒歩17分
【バス】
・東武越生線東毛呂駅より埼玉医大保健医療センター行きバス10分
バス停毛呂石原徒歩3分
・JR川越線高麗川駅より埼玉医大行きバス15分

※2校以外に桐生校(群馬県)がありますが、2024年5月現在、生徒募集は行っていません。

手織コース

1人1台のオリジナル織り機を使い、さまざまな作品を織っていくコースです。
4つのカリキュラムがあり、滅多に作れない着物の着尺や帯も作れるのが魅力。自分のレベルに合わせてステップアップができます。

コース 内容 授業料※1 実施校※2
初等科 ・製織の基礎
・テーブルセンター
・マフラー
・見本織り
・クッション
13,000円(月額) 東京校
毛呂山校
高等科 ・柄織りマフラー
・ノッティング
・木綿縞着尺(染色実習)
13,000円(月額) 東京校
毛呂山校
専修科 ・縫い取り
・正絹帯地(染色実習)
・袋織り
・綴織り
・正絹着尺(染色実習)
13,000円(月額) 東京校
毛呂山校
研究科 ・着尺
・帯地
・服地
・インテリアなど自由
11,000円(月額) 東京校
毛呂山校

※1:授業料に加えて、入学金(30,000円)+管理費(3,000円/月)・作品展準備金(800円/月)・事務通信費(1,500円/年)が必要です。
※2:実施校によってクラス・時間が異なります。詳しくはホームページの「コース案内・手織りコース」をご覧ください。

染色コース

埼玉県入間郡の毛呂山校でのみ受けられるのが染色コースです。自然豊かな環境で、四季の草木や藍を使い、絹のショールやマフラーなどを染色します。

受講できるのは、手織りコースを受けている方のみ。草木の採取から染色液の抽出方法までマンツーマンでの指導を受けられます。受講する月によって染色材料が異なるのも魅力です。

コース名 染色糸染コース
受講対象者 手織りコース受講者
(手織りコースでの作品作りに使用)
内容 ・実習前に染色の基本がわかる講義
・実習:綿糸・絹糸を化学染料での染色と、絹糸の草木染を行う3回のカリキュラム
※草木染の月ごとのテーマはコース案内をご覧ください。
実施校 毛呂山校(埼玉県)
開校日 毎月第1土曜日

まとめ

京都・西陣地域で今も生産されている西陣御召。生地表面にあるシボが特徴で、着る人の所作によって変わる表情が品の良さも感じさせます。

明治時代から大正時代にかけて、御召は女性の憧れでした。全国各地で生産されていましたが、徐々に生産量は減少。伝統的工芸品の条件にのっとって製造されている西陣御召も決して多くはありません。

しかし、織物でありながらセミフォーマルにも着て行ける懐の広さから、近年再び価値が見出され始めています。コーディネート次第で幅広く着られて、裾さばきがよく着崩れもしにくいため、着物初心者にもおすすめの着物です。

着姿をワンランクアップさせてくれる西陣御召を纏い、着物で出かける機会を増やしてみませんか?