最高級麻織物宮古上布とは?歴史や特徴、着用シーンや体験工房を紹介

最高級麻織物宮古上布とは?歴史や特徴、着用シーンや体験工房を紹介

沖縄からさらに南下した位置にある宮古島。
透明度が高く美しいコバルトブルーの海は、異国を思わせる雰囲気があります。
宮古島はマリンアクティビティのイメージがとても強いですが、最高級品と言われている伝統工芸品の産地でもあります。

「宮古上布」と呼ばれるその布は、古くから宮古島の産業として名を馳せていました。今でこそ伝統工芸品として名高い宮古上布ですが、悲しい歴史を乗り越え、今に至る一面もあります。
この記事では、宮古島の伝統的工芸品である宮古上布について解説していきます。宮古上布の特徴や歴史、着用できるシーンまで余すことなくお伝えしていきますので、是非最後までご覧ください。

宮古上布とは?

そもそも宮古上布を初めて聞いた、という方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
宮古上布は、宮古島で生産されている麻の織物のことを指します。名前に入っている「上布」は一番上等な布という意味合いがあります。つまり、宮古島で作られている最高品質の着物であるということになります。
また宮古上布は越後上布、近江上布と並ぶ日本三大上布にも数えられるほど質の良い麻織物としても有名です。宮古上布の指定条件や原料について、詳しく解説していきます。

宮古上布の指定要項

宮古上布を名乗るには、指定の条件をクリアしなければなりません。

「文部科学大臣が指定する重要無形文化財の制作技術の指定要件」
「経済産業大臣が指定する伝統的工芸品の制作技術の指定要件」

この2つの厳しい検査をクリアして初めて、宮古上布と名乗れるのです。
さらにこれらの条件がクリアすると、重要無形文化財の証である証紙が発行されます。この証紙にはいくつか種類があり、使用されている材料の違いなどによって変わってきます。証紙の種類について簡単に説明いたします。

証紙の種類 証紙を発行する組合 使用している糸、原料など
重要無形文化財指定の宮古上布の証紙 宮古織物事業協同組合 経糸、緯糸ともに手績みの苧麻糸を使用しています。
「宮古苧麻織物」「宮古麻織」「宮古織」の証紙 宮古織物事業協同組合 「宮古苧麻織」…経糸にラミー糸、緯糸に手績み糸を使用しています。
「宮古麻織」…経糸、緯糸ともにラミー糸を使用しています。
「宮古織」…経糸に木綿糸、緯糸にラミー糸を使用しています。
草木染の宮古上布に貼られる証紙 宮古織物事業協同組合 草木染の基準に達したものに発行される証紙です。

証紙は言わば私たち消費者にも分かりやすく区別できるための品質表示です。
宮古島の伝統織物を目にした際は、是非一度確認してみてください。

国の重要無形文化財の指定要項

宮古上布は、1978年に重要無形文化財に認定されています。
まず、以下の指定条件をクリアしなければなりません。

・すべて苧麻を手紡ぎした糸を使用すること。
・絣糸は、伝統的な「手結」または「手括り」によるもの。(伝統的工芸品の指定要件では「締機」による絣糸作りも含まれる)
・純正植物染による染色であること。
・手織り(越後上布はいざり機による織り)
・仕上げ加工は木槌による手打ちを行い、使用する糊は天然の道具を用いて調整すること。

国の伝統的工芸品の指定要項

国の重要無形文化財の指定基準がクリアできたら、次は1975年に指定された経済産業大臣による伝統的工芸品に指定される条件もパスしなければなりません。

・手績みの苧麻糸を使用すること。
・絣糸は「締機」または「手括り」によるものであること。
・染色は植物性染料によること。
・「先染めの平織」と「手投杼」による打ち込みにより制作されたものであること。

これらの条件を潜り抜け、宮古上布は初めて私たちが手にすることができるのです。

参考、引用
着物買取女将【宮古上布とは?】着物の特徴や柄、価格、見分け方、作家を紹介!

着物 nui とりどり 宮古上布の着物や帯の歴史 特徴 証紙 見分け方 お手入れ方法など

最高級の麻織物『宮古上布』の特徴

では、宮古上布は厳しい検査を潜り抜けてきた貴重な織物であることが分かりましたが、具体的にどのような特徴を持つ織物なのでしょうか。
最高級品と言われている宮古上布の特徴は、麻の織物でありながら光沢があり滑らかな肌触りをしています。蝋を引いたようと表現されており、私たちが想像する麻織物とは少し違います。
さらに「独特の絣模様」「色合い」「苧麻を原料としている」と言った特徴もあり、宮古上布がいかに特別な織物であるかを伺わせます。

括染めによる精緻な絣模様が美しい

宮古上布の模様を、間近で見たことがあるでしょうか。一見すると何でもない生地に見えますが、よく見ると細かい絣模様があるのが確認できます。
括染めによって染め上げられた糸で白い小さな十文字(十字絣)を織り込み、柄を出します。また総絣といって、花、亀甲、銭玉と言った生活に身近な柄を布全体に織り込んでいくのが大きな特徴でもあります。細かい柄だと一反仕上げるのに3ヶ月を要すると言われており、途方もない作業であることが分かります。
かつての宮古島では女の子が生まれるとたいそう喜ばれ、さらに手先が器用な女の子は貴重な織り手として大事に育てていました。女の子が2,3人いれば赤瓦屋根の立派な家が建つほどで、それだけ宮古上布は島の一大産業として発展していました。

参考、引用
伝統工芸 青山スクエア 宮古上布

琉球藍が生み出す深い色味

琉球藍が生み出す深い色味

宮古上布の特徴と言えば、何と言っても夜空を思わせるほどの深い紺色であるというところにもあります。
この藍色は沖縄で採れる琉球藍を使用した染料に漬け込むことで出すことができます。琉球藍は宮古上布以外にも沖縄の染物や織物の染料として使用されており、沖縄の伝統工芸品になくてはならない植物です。
現在は紺色以外の宮古上布も制作されていますが、やはり伝統的なものは琉球藍で染めた糸を織り込んだ宮古上布となります。

苧麻の繊維を一本ずつ手で裂いた細い糸

宮古上布はイラクサ科の多年生低木である「苧麻」を原料としています。別名「からむし」と言われており、宮古島では「ブー」と呼ばれています。
宮古島はとても温暖な気候のため生育が良く、35日~40日の間隔で刈り取りを行います。年に4~5回ほど収穫されますが、5月~6月に採れる苧麻は「うりずんブー」と呼ばれ、最も質が良いとされています。
刈り取った苧麻はまず表皮を剥いでいきます。剥いだ表皮を水に浸けてあく抜きを行った後、裏側にアワビの貝殻(ミミ貝)を当ててしごいて繊維のみを採ります。
繊維を1本1本手で裂いて作った細い糸で作られる宮古上布は、通気性に優れており、また親から子、子から孫まで着られるほど丈夫で長持ちする布なのです。

参考、引用
工芸ジャパン 宮古上布

宮古織物事業協同組合 宮古上布

宮古上布の着用シーンとコーディネート


宮古上布は格があり、着られる場所とそうでない場所があります。どのシーンにも着用できるわけではないので、注意しましょう。
宮古上布が着られるシーンと、おすすめのコーディネートについてまとめました。
また気になるお手入れ方法についても説明していますので、是非目を通しておきましょう。

宮古上布は夏のおしゃれ着物

宮古上布が活躍できるのは、7月~8月の盛夏の時期です。またおしゃれ着に分類されますので、宮古上布は夏のお出かけ着として活躍する着物、ということになります。
通気性が良くさらっとしているので、日本の不快な夏を快適に過ごしていただけます。

宮古上布と芭蕉布の帯を組み合わせたザ・沖縄コーディネートです。
どちらも素朴ですが地味になりすぎずとても素敵です。

古典的な絣模様の宮古上布に羅の名古屋帯が映えてとても涼しげな印象です。

近年は気候変動がすさまじく早い時期から暑く、秋になっても残暑が残っており、夏の時期が長引いています。せっかくのおしゃれ着ですので、ご自身の体調や気温に合わせて、着物の決まりごとにとらわれず自由に楽しんでみてはいかがでしょうか。

宮古上布に合わせる帯は夏の名古屋帯

盛夏の着物である宮古上布には、夏の名古屋帯を合わせましょう。
夏の素材である麻帯や絽、紗、羅の帯が最も適していますので、是非揃えてあげてください。
それでも悩んでしまった場合には博多帯もおすすめです。1年を通して着用できるとても便利な帯なので、1つ持っておくと重宝するでしょう。

渋めの宮古上布に京紅型の帯がとてもよくマッチしています。

生成りの麻帯を合わせることで全体的に明るくなり、とても涼しげです。
とてもシンプルな組み合わせなので、帯揚げや帯締めなど、小物で遊んであげると色んな表情を見せてくれます。

帯についてまとめた記事もありますので、併せてご覧ください。

麻素材の宮古上布は自宅で洗濯OK

宮古上布は価格が高価なため、自宅の手入れは難しいと思われがちです。
ですが、麻の素材ですので、意外にも自分でお手入れができてしまう優れものでもあるのです。
自宅で洗う場合は手洗い、もしくは洗濯機の手洗いコースを選択しましょう。基本的には水洗いで十分なのですが、汚れが気になる箇所があればおしゃれ着洗い用の洗剤を使用し、優しくもみ洗いします。
脱水したら着物用ハンガーにかけて陰干しをし、その後たんすにしまってください。
それでも汚れが気になる場合は悉皆屋さんなど、専門のクリーニング店にお願いしましょう。

クリーニングについて詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてくださいね。

宮古上布の歴史

宮古上布は数百年という歴史を持つとても古い織物です。
その長い歴史の間に、薩摩藩の侵略や第二次世界大戦に巻き込まれ、幾度となく佳境に立たされることになります。
現在に至るまでの経緯について、説明していきます。

500年前から続く宮古島の麻布

今から約400年以上も前のお話です。
琉球から中国へ貢物を運ぶため、船を出していました。ところが台風に遭遇してしまい、船は沈没しかけてしまいます。宮古島の役人であった真栄という男性は、とても泳ぎが達者であったそうです。彼は勇敢にも荒れ狂う海に飛び込み、船の修復を行いました。真栄のおかげで船は軌道修正に成功し、無事に乗り越えることができたのです。
そのことを知った当時の琉球王は褒美に真栄を位の高い役人に昇進させ、その功績を讃えました。真栄の妻である稲石(いないし)は恩を報いるため、紺地の上布である「綾錆布(あやさびふ)」という布を王に献上しました。
この綾錆布が宮古上布のはじまりであったと言われています。

地域密着型総合サイト 癒しの宮古島 宮古上布 上布の歴史

薩摩藩による琉球王国の侵略と貢納布

17世紀に入ると、宮古島をはじめ琉球王国は薩摩藩に侵略されてしまいます。
薩摩藩に支配されてしまった島民は、「人頭税」と呼ばれる無理ゲーのような重い税を課せられしまうことになります。
この人頭税がとても厄介なもので、長い間宮古島の人々を苦しめてきました。
高さが140センチほどの人頭税石の身長を越した者は、年齢や働ける状態のあるなしに関わらす税を納めなければなりませんでした。男性は粟を、女性は宮古上布をそれぞれ納付したのです。
ただ納付するだけなら良いのですが、役人の厳しい監視下の中で寝る間も削り、ひたすら宮古上布を織り続けなければなりませんでした。中学生ぐらいの子供から怪我や病気で動くことすらままならない者、老人、さらに妊婦にも同じように税がかけられました。
また役人は監視しやすいように家で作業することを禁じ、「苧績屋(ブンミャー)」と呼ばれる作業所のような小屋を作り、そこで作業するように命じます。
少しでもうまく織りあげることが出来なければ、処罰が待っていました。
さらに厳しい監視の中で作業することは、肉体的にも精神的にも耐えがたいものだったでしょう。
とても悲しい話ではありますが、宮古上布はこうした厳しい監視下の中だったからこそ技術的にも進歩を遂げ、発展していったのです。

参考、引用
工芸ジャパン 宮古上布

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沖縄戦の苦境と終戦後の復興

明治に入るとようやく人頭税制度は廃止され、平和が訪れましたが、沖縄戦の影響を受け再び困難に陥ってしまいます。
戦時下真っ只中である1940年、贅沢品や高級品の製造が禁止されました。宮古上布も例外なく製造を中止に追い込まれ、生産数が激減してしまいます。
終戦後の1946年には本格的に宮古上布を復興させるため、宮古織物業組合を設立します。だた、戦後の原料不足や織り手の減少の影響で復興は困難を極め、生産数はなかなか増えず、大きく衰退してしまいます。
それでも1975年には沖縄県初の経済産業大臣による伝統的工芸品に指定されました。さらに1978年にはその技術が認められ、文部科学大臣より重要無形文化財に認定されるまでになります。
生産数は減少したままですが、2003年には宮古上布の手績み技術が文化庁による国選定文化財保存技術として認められ、確実に宮古上布の継承が行われていることが伺えます。
現在、宮古上布は80代から90代のおばあたちを中心に守られています。技術を後世に伝えるため、後継者の育成も行われています。

参考、引用
宮古島キッズネット 宮古上布物語

宮古上布の製造工程

宮古上布は苧麻の繊維を手績みし、その糸を染め上げてから織る作業に入ります。
分業制で制作されており、専門の職人がそれぞれの工程を担当するスタイルです。
着物用はもちろん、現在は観光客や若い方向けにさまざまな商品が開発され、宮古上布になじみがなくても作品の美しさを知ることができます。
宮古上布はどのように制作され、私たちの元に届くのでしょうか。

苧麻から繊維をとる

宮古上布の原料は、「苧麻」と呼ばれるイラクサ科の植物です。宮古島では苧麻を栽培するところから始めます。
年に4回~5回の収穫時期があり、中でも5月~6月に収穫される苧麻は「うりずんブー」と呼ばれ、とても質が良いことで知られています。

苧績み

経糸、緯糸ともに手績みの糸を使用するため、使用する糸を手で績んでいきます。
苧麻の繊維を1本1本手で裂き、結び目を作らずに1本の糸を作ります。それができたら糸車に糸をかけ、よりをかけます。作業に慣れているベテランでも、1反分仕上げるのに3ヶ月を要する途方もない作業になります。
パソコン作業が辛くて目が痛いなんて言ったら、宮古上布を作っているおばあたちに叱られてしまうでしょう。

図案と絣締め

柄を出すための模様を描きます。
方眼紙のマス目に十字絣を描き入れてデザインしていきます。
整経した糸に糊付けをし、乾いたら締機によって絣締めを行っていきます。絣締めを行った糸はむしろ状になるため、「絣むしろ」と呼ばれています。

染色

染色に使うのは、沖縄で採れる琉球藍です。
藍染液に絣糸を漬け込んで色を染み込ませます。染めたら糸を天日干しにする作業を20回ほど繰り返して宮古上布独特の色合いを出します。

仮筬通し

染色が終わった糸を織機に装着させる作業です。
デザインした図案に合うように仮筬に通します。きれいに柄が出るように、気をつけながら糸を通していきます。

製織

ここまで出来たら、いよいよ織りあげる作業に入ります。
糸のズレを修正しながら少しずつ織っていくため、ベテランの織り手でも1日20センチほどしか織りあげることができません。
わずかなズレも仕上がりに影響してしまうため、慎重に進めなければならないのです。

砧打ち

織りあがった反物は洗濯し、陰干しをします。
その後さつまいもの澱粉を全体につけ、糊付けをして小さくたたんでおきます。そしてたたんだ状態でアカギの台の上に置き、イスノキで作った木槌で生地をまんべんなくたたいていきます。
この木槌が4キロという大変な重さがあり、その木槌で約3時間生地をたたいていくのです。
非常に根気と力が必要な作業ですが、この木槌でたたく作業によって独特な光沢と滑らかさが生まれ、美しい宮古上布が出来上がるのです。

参考、引用
伝統工芸 青山スクエア 宮古上布

宮古上布の工房見学や体験はできる?

宮古上布は年々織り手が減っており、制作数もどんどん減少しています。
技術と伝統を後世に伝えるため、現在は宮古上布の制作体験を行っている工房もあるのです。
とても貴重な宮古上布を、是非体験してみてください。

宮古島市体験工芸村

宮古島市熱帯植物園内にある体験工房です。
宮古島のテーマパークのような施設で、宮古上布以外にも伝統工芸の体験ができます。お子様から大人も楽しめる施設ですので、ご家族で体験してみてはいかがでしょうか。

営業時間:10時~18時
定休日:水曜日
体験内容:苧麻糸のストラップ作り 60分 ¥2,200円
     マット織 90分 ¥2,200円

宮古島市伝統工芸品センター

宮古島市上野にある工房です。
宮古上布の着物や小物類の展示、販売を行っています。
以前は体験も行っていたのですが、現在は見学のみになっています。貴重な宮古上布に触れられる工房のため紹介いたします。

営業時間:9時~16時半
定休日:年末年始、他
体験内容:現在は体験を行っていません。見学の際はお電話等で確認してから伺ってくださいね。

まとめ

宮古上布は2度も歴史の荒波にもまれ、現在まで継承されてきました。
今でこそ美しい織物ですが、その背景には宮古島の人々が命をかけて生み出し、守ってきた歴史があります。まさに宮古島の人々の魂の作品でもあるのです。
こうした背景も知ることができると、宮古上布の味方も変わってくるのではないでしょうか。
私たちは、宮古島の、また日本の貴重な財産である宮古上布を先人たちがしてきたように守り、後世に伝えていかなくてはなりません。