「小千谷縮ってどんな着物?」
「越後上布との違いは?」
「製品によって価格が大きく違うのはなぜ?」
夏着物として根強い人気の小千谷縮。生地表面にシボがあり、さらりとした着心地が特徴の麻織物です。
長い歴史の中で受け継がれてきた技術は、世界無形文化遺産にも登録されています。
しかし、産地が同じ越後上布との違いや歴史をしっかり把握している方は少ないのではないでしょうか?
さらに製品によって価格に大きな開きがあり、何がどう違うのかわかりにくいよね。
そこで今回は、小千谷縮の基礎知識から製造工程、材料や製造工程による種類の違いまでまとめました。
最後には、お手入れ方法や、コーディネートのポイントもご紹介しています。
本記事を読めば小千谷縮を深く理解できますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
小千谷縮とは?
小千谷縮とは、新潟県小千谷市周辺で生産されている麻織物です。
生地の表面には「シボ」と呼ばれる独特の凹凸があり、さらりとした着心地から夏に適した着物として日本人に好まれてきました。
1955年には国の重要無形文化財、2009年にはユネスコ世界無形文化遺産登録され、国際的にも高い評価を受けています。
麻織物の最高峰とも言われている伝統的工芸品です。
『縮』と呼ばれる織物
着物でいうところの縮とは、織る際に強く撚りをかけて糊止めした「強撚糸(きょうねんし)」を使用し、織りあがった後にお湯の中でもむ「湯もみ」を行った生地をさします。
湯もみで糊のコーティングが取れ、撚りが戻って生地の表面に「シボ」が生まれるのが特徴です。
シボは、夏着物に使用される理由のひとつでもあります。
肌に触れる面積が減り、盛夏の暑い季節でも涼しく快適な着心地を生むためです。
原料が絹や木綿などでも縮は作られますが、小千谷縮では麻を使用しています。
シボが特徴の歴史ある麻縮の着物
小千谷縮の特徴は、生地の表面にある波状の凹凸「シボ」です。
撚りを強くかけた糸を使用し、織りあがった後に行う湯もみで糊が取れ、撚りが戻って現れます。
シボによる清涼感のある着心地は、夏に適した着物と言われる所以です。
現代の小千谷縮はラミー糸が主流
重要無形文化財に指定されている小千谷縮は苧麻(ちょま)から手で績(う)み、糸を作りますが、現代ではラミー糸と呼ばれる機械紡績糸が主流になっています。
というのも、伝統的な製法では糸づくりはもちろん、生地になるまですべての工程が手作業。多くの手間と時間がかかり、製作に何年もかかる場合も少なくありません。
量産が難しく、価格が高い傾向にある小千谷縮を、低く抑えてくれるのがラミー糸です。
着物の世界では手で績んだ苧麻の糸に対し、機械紡績糸をラミー糸と呼び、区別しています。
手績みの苧麻糸は、細く裂いてよりつないで1本の糸にしているため、太さに多少違いが出るのが特徴です。
一方、機械紡績のラミー糸は一度細かくしてから機械で固めて糸にしたもので、太さは均一になります。
重要無形文化財に指定されていないからといって、劣化品になるわけではありません。
ラミー糸をたて糸よこ糸両方に使用した小千谷縮は、国の伝統的工芸品に認定されています。
現在流通している小千谷縮は、大きく分けて3種類。
材料や技法の違いなど、詳しくは「小千谷縮の種類」で後述します。
麻の歴史と小千谷縮
小千谷縮は、奈良時代から新潟県周辺で織られてきた越後上布がルーツです。
ここからは、越後上布から生まれ、現代にまで受け継がれてきた小千谷縮の歴史をご紹介します。
越後上布と小千谷縮
「蝉の羽」に例えられることもある繊細な織物である越後上布は、夏物としては最高級の麻織物です。
正倉院にも残っているほど長い歴史のある越後上布の技法を応用し、小千谷縮は作られました。
1670年頃、明石から来た堀次郎将俊が縮の技法を伝え、この地で生産されていた越後上布を改良して生み出されたと言われています。
もともと小千谷縮と越後上布は、江戸時代から明治時代には「越後縮(えちごちぢみ)」と一緒に呼ばれていました。
後に小千谷地域で生産されるものを「小千谷縮」、南魚沼地域で生産されるものを「越後上布」と呼び分けるようになりますが、製造方法はほぼ同じです。
違いは、撚りの強さ。小千谷縮は緯糸に強い撚りのかかった糸を使用するのに対し、越後上布は弱い撚りの糸を使用します。
織りあがった生地を湯もみする工程も小千谷縮の特徴です。
国の重要無形文化財総合指定第一号に指定
江戸時代に最盛期を迎えた小千谷縮ですが、明治時代以降は工業化が進み、手仕事で生産する職人が減少していきます。
伝統的な技法を守り、未来へ伝えていくために設立されたのが、越後上布・小千谷縮布技術保存協会です。
1955年には日本の重要無形文化財総合指定第一号に指定されました。
重要無形文化財の指定条件は以下の通りです。
・使用する糸はすべて苧麻を手作業で績んだ糸であること
・絣模様を織る場合、糸に防染用の糸を巻きつけてから染める「手くびり」の技法で行うこと
・手織機の一種であるいざり機(地機とも言う)を使用すること
・シボ取りを行うのは、湯もみ・足踏みのみであること
・さらしは雪ざらしで行われること
5つすべての条件を満たした製品のみが、重要無形文化財の指定を受けられます。
ユネスコ無形文化遺産に登録された日本第一号の染織技術
小千谷縮は、長い間地域の風土に根ざし、技術が継承されてきました。
しかし、徐々に原料である苧麻の生産量減少や職人の高齢化が進み、技術や技法の継承が危ぶまれてしまいます。
「緊急に保護する必要のある無形文化遺産」として、小千谷縮の技術は越後上布とともにユネスコの無形文化遺産に登録されました。染色技術では日本で第一号となる認定です。
認定には国の重要無形文化財と同じ5つの条件クリアが必須。
越後上布・小千谷縮布技術保存協会では、苧績み・織り・絣の3部門で保存と継承に力を入れ、講習会を開くなど後継者の育成を行っています。
小千谷縮の製造工程
小千谷縮の製造工程は、以下の通りです。
1.苧麻の栽培
2.苧績み(手うみ)
3.絣つくり
4.製織
5.湯もみ
6.雪ざらし
越後上布と共通している部分も多いですが、小千谷縮はシボを出すための強撚糸と湯もみが特徴です。
ここからは、重要無形文化財にも指定されている技法に基づく小千谷縮の製造工程を解説します。
苧麻の栽培
小千谷縮の原料となる苧麻は、主に福島県昭和村で栽培されています。
高品質の苧麻を生産すると名高い産地です。
刈った苧麻は、2〜3時間水に浸して皮をむき、繊維だけ取り出したものを乾燥させ、糸の原料となる青苧が作られます。
苧績み(手うみ)
原料となる青苧を糸にする作業が苧績み(おうみ)です。
ぬるま湯につけて柔らかくしてから爪で細かく裂いていき、先をより合わせてつなぎ、糸にしていきます。
つないだ箇所が抜けないよう注意することはもちろん、自然のものを均一の太さにつないでいくのは、並々ならぬ技術が必要です。
ベテランの職人で1日に績むのは5〜6g。1反に800gの糸を使うと考えると、膨大な時間と手間のかかる作業です。
絣つくり
次の作業が、絣の図案に基づき、染色する部分としない部分を写した定規の作成です。
作った定規をよこ糸に当てて印をつける墨付けを行います。
次に糸につけられた墨を目印に、綿糸や古くなった苧麻糸で固く巻いていきます。糸を巻いた部分が、染色しても白く残る部分です。
模様の出来を左右するため、染料が染みこまないように熟練の技が必要になります。
製織
糸の準備ができたら、いざり機を使用して織っていきます。
いざり機にセットされたたて糸を、シマキという腰当てで張る力を調整し、足首にかけた紐を曳いてたて糸を交差させる仕組みです。
たて糸が上下に開いた部分に、よこ糸を巻いた杼(ひ)という舟形の道具を通して織りあげていきます。
湯もみ
湯もみは、織りあがった生地をぬるま湯の中に入れ、手でもむ作業です。
糸の糊や汚れなどを落とし、生地にしなやかさが生まれ、独特の風合いを出します。
小千谷縮の特徴であるシボを出す重要な工程です。
雪ざらし
雪ざらしは、2~4月の晴れた日に、雪の上で生地を1週間ほどさらす工程です。
麻に含まれている色素が抜け、雪のように白くなる天然の漂白効果があります。
もともとの麻は少し茶を帯びた色。薬剤を使わず雪ざらしで漂白することで、布を傷めず、絣の色も落ち着き、白さが長持ちします。
雪の上に広げられた大量の反物は、小千谷地方で春を告げる風物詩です。
小千谷縮の種類
小千谷縮とひとくくりにしても、市場に出ている製品は価格が大きく異なる場合があります。
時に100倍以上の差になるのは、重要無形文化財や伝統的工芸品に登録されている、材料や製造工程などの要件が異なるためです。
今回は以下の3種類に分類し、表にまとめました。
材料 | 織りの方法 | |
重要無形文化財指定品 | 手績み | 地機 |
手織りの伝統的工芸品 | 紡績ラミー | 高機 |
機械織の普及品 | 紡績ラミー | 自動織機 |
本来、手績み苧糸とラミー糸を併せて使用したものや、半自動の織機が使われているものなどさらに細かく分類されているのですが、今回はわかりやすく3種類に限定して比較しています。
まずはそれぞれの特徴と違いを見ていきましょう。
重要無形文化財指定品
重要無形文化財に指定されている製品は「小千谷縮の製造工程」で解説した通りに生産されたものをいいます。
伝統的な技法を守って作られた、昔ながらの小千谷縮と言えるでしょう。
糸を作るだけで1年、いざり機での織りには数か月を要します。
手績みの苧糸では張りすぎて切れてしまう恐れがあるため、いざり機を使用しなければ織れません。
1反できあがるのに2年ほどかかり、さらに材料の確保や職人の技術が必要となるため、店頭で見られる可能性は低くなっています。
手績みの苧麻糸を100%使用し、いざり機で織りあげた小千谷縮は最高級品です。
価格は他の製品と比べられない程、迫力ある風合いを醸し出しています。
▼新潟県小千谷市が作成した国の重要文化財としての小千谷縮をPRする動画です。
手織り伝統的工芸品
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伝統的工芸品に指定された製品は、重要無形文化財の条件を緩和して作られています。
1.苧麻を手績みした糸ではなく、ラミー糸
2.いざり機ではなく、高機や半自動機などの手織り
紡績ラミー糸を使用してコストを抑えながら、手織りの風合いも楽しめる製品です。
機械では難しい絣模様を織れるのも手織りならでは。
条件を満たした製品には、産地を証明する「小千谷織物之証」と「伝統マーク(「伝」のロゴと赤い丸)」が添付されています。
機械織りの普及品
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製造工程をさらに簡略化したものが機械織りで作られた普及品です。
シボを出す湯もみは手もみになり、雪ざらしも省略されています。
織りには自動織機を使用しているため、絣柄を出すのが難しく、シンプルな柄が多いのが特徴です。
手頃な値段で販売されている小千谷縮は、ほとんどが「機械織りの普及品」。
着物だけでなく、洋服や雑貨など広く商品展開しており、モダンな柄も多く、幅広い年代の方々が手にしやすくなっています。
▼小千谷市が作成した、現代で活躍する小千谷縮を紹介する動画です。
麻着物『小千谷縮』の洗濯・お手入れ方法
夏に着る小千谷縮は、汗やにおい、汚れなどが気になる方も多いでしょう。
ここからは、洗濯の方法やお手入れの注意点をご紹介します。
自宅で手洗いが可能
麻織物である小千谷縮は、自宅で手洗い可能です。
おしゃれ着モードで脱水しないコースなら洗濯機でもできますが、できれば手洗いがおすすめ。
汗やにおいが気になる時はおしゃれ着用の中性洗剤を使用し、基本的に水洗いを行いましょう。
汗の気になる夏場に着たら、その都度きれいにして保管したいもの。
普段着や浴衣などのカジュアル着物なので、よほどのことがなければクリーニングに出さなくても問題はありません。
ただし、気になる汚れがある場合や、サイズがギリギリで縮むと困る場合、高価な小千谷縮の場合は無理せず、悉皆屋や専門店に相談しましょう。
▼着物のクリーニングに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
手洗いの手順
いくら自宅で洗えると言っても、初めて行う場合は失敗したらどうしようと考えてしまいますよね。お気に入りの着物であればなおさらです。
そこで、生地を傷めにくい手洗いの手順を以下にまとめました。
1.着物を洗う容器に合わせた長さにたたむ
2.洗剤を使用する場合はごく薄く、水に溶かす
3.2~3回、水の中で優しく押し洗い
4.泡がなくなるのを確認するまですすぐ
5.軽く水を絞る
6.叩いて形を整えてから日陰で干す
7.半乾きの状態でたたみ、シーツなどの薄い布に挟んで重し(雑誌など)をする
8.半日もすればピンとした小千谷縮の洗い上がり
自重でシワが伸びるため、水が滴っている状態で干すのがポイント。
パリっとした着心地が好みであれば、洗濯用のりの使用も可能です。
手洗いは生地を傷めず、織り目もきれいに仕上がります。
意外と簡単なので、自宅での手洗いにチャレンジしてみてください。
お手入れの注意点
小千谷縮をお手入れする際に注意したいポイントをまとめました。
・お湯は使わない(縮む)
・生地同士を強くこすらない(白く擦れる)
・直射日光は避ける(生地にダメージを与える)
・アイロンをする際は当て布を(ダメージの原因に)
※押さえつけすぎるとシボ感がなくなるため注意
特に、麻は乾燥や熱に弱い性質を持っています。日光に当てすぎたり、高温のアイロンをかけたりするのはNGです。
生地が白くなってしまうため、強くこするのも避けてください。
袖や衿の汚れが気になる場合は、繊維に沿って湯部でしごき出すように落としましょう。
袖口まで長さのある着物用ハンガーがあると、形も整えやすくきれいに干せるのでおすすめです。
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小千谷縮のコーディネート
小千谷縮は6〜9月の夏に着られる着物ですが、着こなしには2通りがあります。
・夏着物として:6・7・9月
・浴衣として:8月
小千谷縮はシンプルな柄が多く、帯合わせによって大きく雰囲気が変わるのも特徴です。
ベーシックなデザインでコーディネートしやすく、飽きることなく着物を楽しめます。
小物を変えれば、秋の入り口である9月にも活躍してくれるのも嬉しいですね。
ただ、小千谷縮は透け感があるため、和装の下着を必ず身に着けるなど注意してください。
▼着付けに必要なアイテムに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
夏着物として
夏着物として小千谷縮を着る時は、長襦袢を着て半衿を出し、お太鼓を締めます。
足元には足袋に下駄か草履を履くため、浴衣よりもきちんとした大人の装いが楽しめるスタイルです。
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盛夏と思うような暑い日もある6・7月には、淡いブルーやグレーの小千谷縮がおすすめ。
帯もブルーで合わせると、より涼しげな雰囲気にまとまります。
9月に入ったら、帯締めや帯留めなどの小物を秋物に変えて楽しみましょう。
まだ暑い日が続くので、長襦袢は夏物で半衿を秋物にするのもいいですね。
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2色が入った帯揚げは、1つで2通りのコーディネートが楽しめるアイテム。
色合わせによっては夏と秋、両方に使えますよ。
夏は淡い色だった帯を、紺や黒など濃い色に変えても印象ががらりと変わります。
浴衣として
浴衣として小千谷縮を着る場合は、襦袢を着ずに肌着の上に直接着物を着付け、半幅帯を締めます。
足元は裸足に下駄。着るものが少なく、暑さを感じにくいスタイルです。
小千谷縮の浴衣は、シンプルで上品な色合いの、大人向けのものがおすすめ。
半幅帯も浴衣と同系色で合わせると、落ち着いた大人っぽい印象になります。
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夏着物と同じくブルー系もいいですが、黄色が入った浴衣ならエネルギッシュな印象に。
白・紫・黄色・水色と多くの色が使われている反物なので、帯や小物に同じ色を合わせれば統一感が出て、コーディネートにも悩みません。
透け感のある帯を締めると、より一層涼しげに。
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レースの名古屋帯を締めても、涼しさが伝わってきますよ。
季節感が一目で伝わる帯を締めて楽しむのもいいですね。
まとめ
表面のシボが特徴の麻織物・小千谷縮。さらりとした着心地から暑い夏でも涼しく着られると今でも人気の高い着物です。
ユネスコ世界無形文化遺産にも登録された伝統技術を守り、今も新潟県で生産されています。
昔ながらの製法で作られた反物は目が飛び出るほど高価ですが、比較的手に取りやすい伝統的工芸品や普及品も生産されています。
雪の中で生み出される小千谷縮を夏に身にまとい、その着心地や歴史の長さを体感してみませんか?