主にフォーマルなシーンで用いられる「重ね衿」。振袖の印象が強い重ね衿ですが、女性の着物姿では多くの場面で活躍する小物です。
「どの着物にどんな重ね衿を合わせればいいの?」
「重ね衿を着用するときのマナーは?」
「重ね衿はどうやってつけたらいい?」
この記事では、そんな疑問にお答えします。
この記事の目次
重ね衿とは?
「重ね衿」は、着物の衿まわりを華やかにしてくれるアイテムです。
長さ120~130cm、幅10~12㎝位 の長方形の布で、長襦袢と着物の衿の間にはさんで使用します。
重ね衿を着物衿に沿い5~8mmの幅でちらりと見えるように着付けることで、何枚もの着物を重ねて着ているように見せることができます。
着用時に好みの巾に折って着れる広衿タイプが主流ですが、あらかじめ巾が狭く仕立ててあるバチ衿タイプも。
伊達衿や半衿との違い
重ね衿と伊達衿、半衿とはどうちがうのでしょうか?
「伊達衿」は重ね衿の別名で、どちらも同じものをさします。
年代や地域を問わず、重ね衿と伊達衿の2通りの呼び方で定着しているのが面白いですね。
一方で「半衿」は、長襦袢の衿部分に縫い付ける替え衿のことで、まったくの別物。
同じ「衿」の付く着物用小物で混同しやすいですが、重ね衿(伊達衿)と半衿では用途にちがいがあるので覚えておきましょう。
重ね衿を付ける意味
重ね衿を付ける意味はいくつかあります。
ひとつは、昔からのお祝い事の慣習が由来。
大正時代までの礼装では、「幾重にもお祝いを重ねる」という意味から何枚もの着物を重ねて着ていました。その名残で、現代では着物を重ねて着る略式として主にフォーマルな席で重ね衿が用いられます。
もうひとつには、コーディネートのポイントとしての意味合いです。
重ね衿を付けることで、顔周りが華やかになったり、着物の印象が変わったり。.現代では特にファッション的な意味合いで使われることも増えています。
着物別で選ぶ重ね衿
重ね衿には様々な種類があり、合わせる着物によって使い分けが必要です。
素材は基本的には正絹で、綸子(りんず)、羽二重(はぶたえ)、塩瀬(しおぜ)、縮緬(ちりめん)などの生地があります。色も無数にあり、近年では柄物や飾りのついたものも多くあります。
ルールとしては、礼装では白の無地、準礼装では淡色の無地の重ね衿を選びます。
一方で、振袖や浴衣などファッション性の高い着物の重ね衿は、飾りのついたものやレース素材なども。
着物ごとに合わせる重ね衿の決まり事があるため、下記を参考にしてみてください。
着物の種類 | 重ね衿の素材 | 重ね衿の色 | 柄・飾り |
黒留袖 | ※比翼仕立てのため不要 | ||
色留袖 | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬 | 礼装用は白、準礼装用は淡色であれば何色でも | 無地または織柄 |
訪問着 | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬 | 準礼装用は白または淡色、それ以外では着物、帯に合わせて | 無地または織柄 |
色無地 | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬 | 準礼装用は白または淡色、それ以外では着物、帯に合わせて | 無地または織柄 |
付け下げ | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬 | 準礼装用は白、それ以外では着物、帯に合わせて | 無地または織柄 |
小紋 | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬 | 着物、帯に合わせて | 無地または織柄 |
振袖・袴 | 綸子、羽二重、塩瀬、縮緬、ポリエステルなど | 着物、帯に合わせて | 無地、織柄、刺繍、染め柄、ラインストーン、レースなど |
浴衣 | 木綿、ポリエステルなど | 浴衣、帯に合わせて | 無地、織柄、刺繍、染め柄、ラインストーン、レースなど |
留袖
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着物の中でもっとも格の高い留袖。
留袖の重ね衿は黒留袖、色留袖で異なります。
黒留袖は比翼仕立てといって、白羽二重の着物を重ね着しているように見せる仕立てが一般的。
すでに比翼の白い生地が重なるため、黒留袖に重ね衿は不要です。
色留袖でも比翼仕立てになっている場合は重ね衿はいりません。
ただし近年では、着用の幅を広げるためにあえて比翼仕立てにしない色留袖が増えています。
その場合、黒留袖と同格の礼装で着る場合には白の重ね衿を用います。
また色留袖を訪問着と同格の準礼装として着用する時には、淡い色の上品な重ね衿を選びおしゃれを楽しむことができますよ。フォーマルな場では無地で華美にならない織柄のものを選びましょう。
訪問着
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入学式や七五三、また華やかなお祝いの席などで活躍の場が多い訪問着。
フォーマルな場面で訪問着をより格調高く装いたい時には、白またはパステルカラーなどの淡い色で無地の重ね衿がおすすめです。
また、食事会やパーティーなど形式にとらわれずファッションを楽しむ席では、着物や帯に合わせて好みの色の重ね衿を選ぶのも良いでしょう。
色無地
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色無地は紋の有無や合わせる小物によって、幅広いシーンで着用できる便利な着物です。
一つ紋のついた色無地に白または薄い色で無地の重ね衿をつければ、留袖に次ぐ格の改まった装いに。
パーティーやちょっとしたお出かけの場では、着物や帯に合わせた色の重ね衿でコーディネートを楽しむことができます。
ただし、華美をさけるお茶席では重ね衿はあまり見かけません。
付け下げ
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控えめな柄付けにより使い道の広い付け下げ。
付け下げをフォーマルな場で着用する際は、白または着物の地色よりも薄い色の重ね衿を選ぶことで訪問着と同格になります。
観劇や食事会などの席では、着物や帯に合った色であれば何色の重ね衿でも◎。
基本的には柄のない無地の重ね衿がおすすめです。
小紋
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小紋は柄行きや合わせる帯によって、カジュアルにもよそ行きにも使えます。
江戸小紋や品のある色柄の小紋をフォーマルな席で着用する場合は、白または淡い色の重ね衿を付けると改まった印象になります。
普段着としてお出かけに着ていく際は、好みの色の重ね衿をつければコーディネートのポイントに。
いずれも無地がベターです。
振袖・袴
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成人式がメインの着用シーンとなる未婚女性の正装・振袖。
振袖に合わせる重ね衿は、色や柄に決まりがないためかなり自由度が高いです。
ラインストーンや花の刺繍などの入った今時のものから、十二単風に何色もの色が重なった重ね衿も。
着物や帯、好みに合わせて楽しく選ぶことができます。
卒業式等で袴を着用する際も同様に重ね衿を付けます。
袴に合わせる着物は振袖・二尺袖・訪問着・色無地・小紋など様々。着物や帯に合わせて好みの色柄の重ね衿を選びましょう。
ただし、袴レンタルでついてくる重ね衿は一色使いのシンプルなものがほとんど。
個性を出したい場合は、振袖用の華やかなものを購入することで個性を出すことができます。
浴衣
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夏に涼しく装う浴衣。
重ね衿の本来の意味合いとはまったく異なりますが、近年では浴衣にアクセサリー感覚で重ね衿を付けるパターンも。
浴衣用の重ね衿はレースやフリルなど、夏向けの涼し気な素材が多く見られます。
重ね衿の付け方
着物ごとに合わせる重ね衿について詳しくわかったところで、次は重ね衿の付け方について解説します。
重ね衿を付ける方法は2パターン。縫い付ける方法とクリップで留める方法があります。
縫い付ける
重ね衿がずれてくることが心配な場合には、着物の衿に直接縫い付ける方法がおすすめです。
着物衿に重ね衿を縫い付けることできっちり止まるため、着崩れの心配がありません。
<縫い付け方>
1.広衿の重ね衿の場合、半分に折る。バチ衿の場合はそのままでOK。
2.着物の衿と伊達衿をピンチや洗濯ばさみで留める。
着物の中央(背中心)と、中央から左右10㎝ほどの3ヵ所留めると安定する。
※背の衣紋部分から重ね衿が見えないよう5mm程度下げて留めること
3.ピンチで留めた範囲で着物の衿裏と重ね衿を縫い付ける。縫い方はざっくりで◎。
4.完成!
クリップで留める
重ね衿を購入すると、ほとんどの場合小さなクリップ(ピン)が3個ほど付いてきます。
付属のクリップを使えばより手軽に重ね衿を取り付けることができますよ。
<クリップの留め方>
1.広衿の重ね衿の場合、半分に折る。バチ衿の場合はそのままでOK。
2.着物の衿と伊達衿を重ねる。
3.クリップを3ヵ所上向きに留める。
1つを着物の中央(背中心)につけ、残り2つを中央から左右10㎝ほどのところで留めると安定する。
4.完成!
重ね衿の着用シーン
重ね衿を着用するのは、基本的にはフォーマルなシーンです。
着物に重ね衿を付けることでより改まった装いになり、着物の格が上がります。
近年では浴衣などのカジュアルな着物に重ね衿を付けているのを見かけることもありますが、それはあくまで例外。ファッションを楽しむ意味合いが強いので、重ね衿を付けることが基本ではないことを覚えておきましょう。
重ね衿の着用シーンとマナーについて下記にまとめました。
結婚式などのお祝いの席
結婚式をはじめとするお祝いの席は、重ね衿を付けるのにぴったりなシーンです。
「喜ばしいことが重ねてありますように」という気持ちを込めて重ね衿を着用することで、お祝いの席がより喜びに満ちたものになるでしょう。
また、重ね衿を付けることで装いがより華やかかつ格式高いものとなるため、お祝いの席にふさわしいコーディネートがかないます。
華やかなパーティーなど
パーティーや同窓会などの華やかなシーンも、重ね衿を着用するのにふさわしい場面です。
華やかな着物に重ね衿を付けることで、顔周りの印象をより引き立たせることができます。
個性的な色合いの重ね衿でお洒落を楽しむのもよいでしょう。
正装が求められるシーン以外では、決まり事にとらわれ過ぎず自由な装いで自分を表現してみてください。
重ね衿NG!弔事
同じフォーマルなシーンでも、葬儀や告別式といった弔事で重ね衿を着用するのはNGです。
理由は慶事とちがい「二重に重ねる」ことが不吉であるため。重ね衿のルールの中でも特に覚えておきたい事柄です。
同じ理由で、弔事では名古屋帯で一重太鼓をしめるのがマナーとされています。
重ね衿のお手入れ・保管方法
せっかく購入した重ね衿。長く使えるようにお手入れや保管方法には気を付けたいものです。
ここでは、重ね衿のお手入れ方法と保管グッズを紹介します。
重ね衿の洗い方
そもそも重ね衿は自宅で洗えるのでしょうか?
重ね衿のお手入れの方法は素材によって異なりますが、基本的には自宅での手洗いは難しいので専門店のクリーニングに出すのがベターです。
◆正絹の重ね衿
絹の重ね衿は、素人ではお手入れが難しいもの。専門店のクリーニングに出すのがおすすめです。
正絹は水洗いすると縮んでしまうため、自宅で洗うのは難しい素材。ベンジンなどを使用してシミ抜きをする方法もありますが、かえって輪ジミになってしまったり毛羽立ちがおきたりとトラブルも多く見られます。
汚れがついてしまった時は、なるべく早めにクリーニングに出しましょう。
◆ポリエステルなどの化繊、木綿の重ね衿
化繊や木綿の重ね衿は、自宅で手洗いが可能です。汚れの部分におしゃれ着洗剤などをつけて洗います。
しかし、毛羽立ちや変色の可能性もあるのであくまで自己責任で。一番安心なのはやはりクリーニングに出すことです。
◆刺繍や飾りのついた重ね衿
刺繍が施された重ね衿やラインストーンなどの飾りがついた重ね衿は、特にお手入れが難しい品物です。せっかくの刺繍や飾りがよれたり取れてしまうことのないよう、専門店にクリーニングを依頼しましょう。
重ね衿のおすすめ保管グッズ
重ね衿を大切に保管するためには、どんなアイテムがあるとよいのでしょうか。
あると便利な重ね衿保管グッズ2品を紹介します。
【ミニたとう紙】
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着物を入れるたとう紙を小さくした「ミニたとう紙」。
小物の帯締め、帯揚げ、重ね衿をまとめて入れておくことができます。ミニたとう紙に入れてそのまま箪笥にしまえばOK。
何より見た目が可愛くて、箪笥を開けるたびに癒されそうです。
【和小物プロガード】
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機能性フィルムで大切な小物を守る「和小物プロガード」もおすすめです。
ファスナータイプの密封袋で、防カビ、防虫効果も。頻繁に使わない重ね衿だからこそ、保護力の高い収納グッズに保管しておくと安心ですよ。
まとめ
重ね衿はフォーマルなシーンを中心に、着物姿をより華やかに、格調高いものにしてくれる小物です。基本的なルールを踏まえてのぞむ場にふさわしい色柄の重ね衿を選びましょう。
顔周りに近い重ね衿は、合わせる人のベースカラーによって似合う色も千差万別。どうしてもしっくりこない場合は、似合う色診断などを受けるのもおすすめですよ。
TPOに合わせて、また好みや似合う色柄の重ね衿を選んでコーディネートを楽しんでみてください。