夏着物の定番素材である絽。生地にすき間があり、透け感が暑さの中で涼しさを演出してくれます。
カジュアルからフォーマルまで幅広く使われているため、夏着物の最初の1枚にもおすすめです。
しかし、暑い夏でも絽で軽やかに着物を着こなしてみたいと思っても、
「夏でも快適に着られるって本当?」
「自宅でも洗えるの?」
「夏用って言うけど、着用時期に細かな決まりはある?」
など、多くの疑問をお持ちではないでしょうか?
種類もたくさんあってわかりにくいですよね。
そこで今回は、夏着物に使われる絽についてまとめました。
知っておきたい基本情報や、絽を使った着物製品ごとに着用時期の違いもご紹介します。
なんと、製品によっては体感に合わせて1年中使えるものもあるんですよ。
夏も着物を着たいと思っている方はもちろん、暑い日でも快適に着物生活を送りたい方もぜひ最後までご覧ください。
▼夏の着物「薄物」に関してはこちらの記事で解説しています。
この記事の目次
絽とは?
絽とは、「絽目(ろめ)」と呼ばれる特有の細かい穴が縞のように入っている生地です。もじり織(またはからみ織)と平織を組み合わせて織られています。
もじり織とは、経糸2本をねじってからませ緯糸と織っていく技法のこと。もじり織の部分に特徴であるすき間が生まれます。
後染めもできるため、絽は訪問着や付け下げなどのフォーマルな着物にも向いています。
優れた通気性と透け感から、夏用の「薄物」として使われ、着物のほか帯や襦袢、半衿など、さまざまな和装アイテムに使われている生地です。
絽の特徴
絽の特徴は以下の通りです。
・生地にすき間がある
・通気性に優れる
・紗より透けにくい
・しわやスリップ(※)に強い
絽は生地の目が開いていることから、通気性がよくて涼しい素材です。
奇数のよこ糸ごとにたて糸をからめて織っていき、定期的に隙間を作っています。
すき間が等間隔で開いている紗と比べ、絽は定期的にすき間が開いているので、絽のほうが透け感が少ないのも特徴です。
透ける生地ですが、もじり織で糸と糸を複雑にからませている絽は耐久性があるため、絽はしわやスリップに強い素材です。ハリがあり、しっかりとした生地になっています。
※スリップ:繊維は切られることなく糸が引っ張られて形が崩れること。生地が歪に寄ること。別名「糸引け」。
絽の着物はいつ着る?
絽の着物は、本来夏の6〜8月に着ます。
しかし、近年は5月・6月から9月にかけて暑い日が続くようになりました。さらに、4月や10月にも夏を思わせるような汗ばむ日もあります。
そのため、絽の着用時期は昔よりも緩やかになっているのが現状です。
着物を着る人の体感によって着用時期は変化していますが、茶道や華道など、昔ながらの着用時期を守っているところもあります。
季節感を大切にしている場所へ絽の着物を着ていきたい場合は、周囲の方にまず相談しましょう。
流派ごとに決まりごとが異なる場合もあるので、先生や先輩にアドバイスを受けてから選ぶのがおすすめです。
※絽の着物製品ごとの着用時期については後述します。
組織図で見る絽と紗の違い
絽と同じく夏物に使われる素材に「紗」があります。
同じもじり織の絽と紗ですが、織り方を知ると違いが理解しやすいでしょう。
もじり織は、隣合う経糸をねじっていく織り方です。経糸を交差させた部分は糸がつまらないためにすき間が生まれます。
そして、絽と紗ではすき間を作るもじり織が入る間隔が異なるのです。
紗は緯糸1本ごとにもじり織。
絽はもじり織をした後、次のもじり織までに平織が入ります。
(平織の入り方については「織り方の違いによる絽の種類」で後述)
そのため、紗はすき間が全体に細かく入っているのに対し、絽はすき間が縞模様のように入っているのが特徴です。
絽か紗か判断に困ったら、すき間の間隔に注目してください。
※絽と紗の格の違いについて
昔から「絽はフォーマル、紗はカジュアルかセミフォーマルまで」と言われていましたが、現代では定義も薄れつつあります。
無地の紋紗をフォーマルに着用することも可能です。
▼同じもじり織が使われ、夏用の素材である「羅」については以下の記事で詳しく解説しています。
絽の素材は?洗えるの?
絽は着物ではなく、生地の織り方の名前なので、使われる素材はさまざまです。
代表的なものを以下にまとめました。
・絹
・木綿
・麻
・ポリエステル など
夏場に着物を着るなら気になるのが汗です。汗はカビやシミの原因になってしまうため、夏場に着た後なら直ぐにでも洗いたいですよね。
木綿や麻、ポリエステルは洗える素材なので、自宅でも洗濯ができます。
絹は、縮む可能性があるため自分では洗えない素材です。
中には絹でもご自身でお手入れしている方もいますが、あまりおすすめはできません。
洗濯した後に丈や裄が短くなって後悔する可能性もありますので、安心して任せられるクリーニングに出しましょう。
しかし、最近は絹でも自宅で洗える製品が登場しています。上記以外にも機能性に優れ、着心地もよい素材が次々に開発されているのです。
絽を購入する際には、まず使われている素材をチェックし、自宅で洗えるのか、クリーニングなのか確認しましょう。その上でご自分が夏着物を着る頻度やお手入れのしやすさで選んでみてください。
▼着物のクリーニングに関しては以下の記事で詳しく紹介しています。
▼着物の素材ごとのメリット・デメリットに関してはこちらの記事も参考にしてください。
絽が平織を取り入れた理由は柄を描くため?
絽が平織を取り入れた理由は、細かな柄を描くためです。
諸説あるものの、紗は平安時代、絽は江戸時代に誕生したと考えられています。
江戸時代は染色技術が発達した時代。すき間が細かくあいている紗では、繊細で美しい絵柄をきれいに染められません。
着物は豪華で格式のある染めが主役です。途中に平織が入る絽が生まれたことで、正装に向く留袖や訪問着、付け下げなどにも対応できるようになりました。
染めで絵や柄が付けられる絽が夏のフォーマルな場では重宝され発展してきたと考えられます。
刺繍の技法「絽刺し」とは?
「絽」が入った言葉に「絽刺し」があります。日本刺繍のひとつで、絽の生地を縦の目に沿って糸を刺していく技法です。
絹糸を同方向にしっかりと刺し、生地を残さないのが特徴で、絹糸の光沢感と立体感が楽しめます。
平安時代には公家の間に流行し、上流階級の女性にとってたしなみとされていました。
大正・昭和の頃には絽刺しを施した帯や着物を婚礼で身に着けたり、嫁入り道具にしたりすることがステータスになるほどです。
着物や帯にはアップリケのように使えるのが魅力です。無地の着物や帯に絽刺しをつけることで刺繍のデザインが際立ち、気品に満ちた仕上がりになります。
シミのできた場所に縫いつければ、帯や着物を復活させたり、長く使い続けたりすることも可能です。
絽の種類
絽は、使われている糸の違いによる種類分けと、織り方の違いによる種類分けがあります。
糸の違いによる絽の種類
絽は、糸の種類によって呼び方が変わります。絽の呼び方と糸の種類を以下の表にまとめました。
絽の呼び方 | 糸の種類 |
平絽 | 平糸(撚っていない糸) |
駒絽 | 駒糸(強い撚りのかかった糸) |
絽縮緬 | 強い撚りがかかった縮緬用の糸 |
壁絽 | 壁糸(強く撚りのかかった糸を細い平糸に巻きつかせるようにした糸) |
それぞれの特徴や用途を簡単にご紹介します。
平絽
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平絽は、撚りのかかっていない平糸を使用した絽です。柔らかな手触りで、生地にツヤがあります。
羽二重(※)のようにしなやかで、男性やお坊さん用の着物として使われるのが一般的です。
女性用では夏用の襦袢や喪服などもありますが、夏だと肌にまとわりつくと感じる方もいます。
※羽二重は平織の生地のこと。細い経糸2本と緯糸1本を交差させて織ります。滑らかな光沢が生まれ、軽くて柔らかい肌触りが特徴です。
駒絽(こまろ)
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駒絽には、強い撚りのかかった駒糸を使用していますが、シボと呼ばれる凸凹はあまり目立ちません。サラッとした肌触りとしゃり感が特徴です。落ち着いた雰囲気と品の良さがあります。
着物はもちろん、帯や長襦袢など幅広く使用され、絽では最もスタンダードなタイプです。
絽縮緬
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絽縮緬は、縮緬用の強撚糸を使っているため、シボがしっかりと出ています。
透け感が少なく、とてもしなやか。涼しげではありますが、縮みやすい生地です。
着物のほか、半衿や帯揚げなどにも使われています。
ただ、透け感が少ない絽縮緬は盛夏(7〜8月)ではなく、単衣の時期(6月・9月)に使うという考え方もあります。
(※「絽の着物製品と着用時期」の帯・小物類の中で詳しく解説)
壁絽
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壁絽には、壁糸を使用しています。壁糸とは、細い平糸に強く撚りのかかった糸を巻きつかせるようにした糸のことです。
さらりとした手触りが特徴で、肌襦袢や長襦袢などに使用されています。
織り方の違いによる絽の種類
織り方による絽の種類は、以下の6種類です。
・3本絽
・5本絽
・13本絽
・乱絽
・経絽
・紋絽
「〇本絽」と呼ばれる種類分けは、途中で平織りが入る緯糸の本数から名前が来ています。
絽目(すき間)が入る間隔は、清涼感に違いが生まれる重要な部分です。
ちなみに、数字の部分は捩り織の部分が崩れないように必ず奇数になっています。偶数にすると経糸と緯糸の関係がうまくいかず、通気性が損なわれてしまうためです。
数字部分にも着目しながら、それぞれの特徴と用途を見ていきましょう。
3本絽(3越:みこし)
3本絽は、絽目と絽目の間に緯糸3本分の平織りを入れたものです。
緯糸3本ごとにすき間があいているため、軽やかで通気性にも優れています。
付け下げや訪問着へ使われることが多い織り方です。
5本絽(5越:いつこし)
絽目と絽目の間に緯糸5本分の平織りをいれたものが5本絽です。
喪服や小紋などに使われています。
13本絽(13越)
13本絽は、絽目と絽目の間に緯糸13本分の平織りが入ります。絽目がほとんど入らず、平織りの部分が多い生地です。
帯などに使われています。
乱路
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乱絽は、絽目の間に入る平織部分が不規則なものを言います。
1つの生地に3本絽や5本絽、7本絽などが混在しているため、絽目の間隔が同じではありません。
襦袢のほか、浴衣などにも使用されています。
経絽
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緯糸に経糸を絡めるのではなく、経糸に緯糸をからめて織ったものが経絽です。横ではなく縦方向にすき間の列ができます。
一般的にフォーマル向きとされている絽の中で、ややカジュアル寄りとされている種類です。
紋絽
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紋絽は、絽に文様を織りだしたものです。
着物のほか、帯や襦袢、羽織に帯揚げなど幅広く使われています。
絽の着物製品と着用時期
絽の着物製品と、それぞれの着用時期の目安は以下の通りです。
絽の種類 | 着用時期 |
着物 | 6~8月末 |
帯 | 5月下旬または6月上旬頃~9月上旬 |
長襦袢 | 5月~10月 (中には1年中という人も) |
小物類(半襟や帯揚げなど) | 6月~9月初旬 |
絽は夏の暑い時期に着る「薄物」です。着用時期は6月〜8月いっぱいまでとされています。
しかし、近年の温暖化の影響で5月や9月でも暑い日があるため、絶対に守らなければならない決まりではなくなってきました。
今回ご紹介する着用時期はあくまでも目安として、自分なりの快適な着こなしを探してください。
▼コーディネートのコツやポイントは「薄物」の記事で詳しくご紹介しています。
絽の着物は2種類
絽の着物は以下の2種類があります。
・フォーマル向け
・カジュアルの向け
どちらも着用時期は6〜8月末です。
絽は紗ほど透け感が少ないとはいえ、着こなすには暑さ・汗対策や透け防止は必須。
ポリエステルや麻など自宅で洗濯ができる素材を選んだり、涼しげな淡い色ではなく濃い色の着物で透けを防いだり、と着こなすには少しコツが必要です。
それぞれ着用シーンや選ぶポイント、コーディネートのコツを簡単に解説します。
▼着物の格については以下の記事もあわせてご覧ください。
フォーマルの絽着物
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フォーマル向けの絽着物は、留袖や訪問着、付け下げや喪服です。
夏に結婚式などの式典に参加するには、絽の色留袖や訪問着がおすすめ。しかし、会場に冷房がかかっている場合が多く、夏用の着物を持っている方が少ない現代では、袷で出席する方も多くなっています。
最近は夏物のレンタルもありますので、会場の雰囲気や、周囲の参加者の装いに合わせて選びましょう。
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茶道や華道などは、先生や先輩に相談がおすすめです。流派ごとに細かく決められている場合もあるため、一度確認しておきましょう。
着物が絽なら帯や袋帯も絽でできたものを選ぶと、着物とのバランスもよく、きっちりした印象になります。金や銀が入った織の袋帯は、華やかな雰囲気の式典にぴったりです。
ただ、夏物として人気の淡い色の着物は透ける可能性が高いため、下に着る襦袢の色や寸法には気を付けましょう。
濃い色の着物にして透けないように配慮し、帯や小物の素材や色で涼しさを演出するのもおすすめです。
▼結婚式で基本となる第一礼装に関してはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
▼訪問着や色留袖に関してはこちらもご覧ください。
カジュアルの絽着物
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カジュアル向けの絽着物は、色無地と小紋です。
色無地は紋がひとつでも入ると準礼装となり、フォーマル着物に入りますので注意しましょう。
着用できるシーンは、レストランなどでの食事や観劇などの外出です。小紋はちょっとした買い物にも向いています。
絽のカジュアル着物に合わせるなら、帯は絽や紗、麻がおすすめです。
特に紗や麻は、カジュアルシーンにこそ活用したい素材。蝉時雨や真夏のギラギラとした太陽の下でも爽やかな風が吹いているような粋な装いができますよ。
▼普段着・洒落着はこちらの記事で詳しく解説しています。
▼色無地の格や着用シーンについてはこちらの記事もあわせてご覧ください。
▼小紋はこちら。
帯
絽帯の着用時期は、5月下旬または6月上旬頃〜9月上旬です。単衣の着物にも合わせられるため、夏中締められます。
袋帯・名古屋帯ともに作られており、柄や素材によってフォーマルからカジュアルまで幅広く使える帯です。
ただ全体にシボの入った「絽縮緬」は、真夏の使用は避けたほうがよいとする考え方もあります。シボがある分、少し暑苦しく感じてしまうためです。
最近ではルールも緩くなっていますが、もし気になる場合は絽縮緬の帯の場合は、6月や9月の単衣の時期に合わせたほうが良いでしょう。
また、絽の帯といえば「絽綴れ」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
絽綴れは、経糸が見えない織りあがりの綴れ地に、絽目を通した生地を名古屋帯に仕立てたものです。おしゃれ着はもちろん、金糸や銀糸が入った帯なら礼装にも使えます。
帯と着物との合わせ方は、全体のバランスが大切です。素材や柄、雰囲気なども関わるため、一度全体を見てからコーディネートを決めましょう。
長襦袢
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絽は長襦袢でも定番の素材です。基本的に盛夏用ですが、5月や9月、ときには10月まで暑い近年は着用する期間が延びています。
半衿を夏用ではなく袷用のものをつければ、見た目で夏の襦袢とはわかりません。
礼装用の白い長襦袢以外は、色や柄など組み合わせは自由。薄い色ではなく濃い色(茶色や辛子色など)の長襦袢は、袖口から覗いたときパッと見ても夏用とはわからないため、夏以外にも着られます。
ただ、絽や紗など夏の透ける着物には、白い長襦袢が基本です。
特に「うそつき襦袢」などの袖と身頃で色が異なる襦袢は、着物の上から見えてしまいます。丈の短さも透けて見えるので、裄丈、袖丈、身丈が自分に合っているものを選びましょう。
長襦袢の下に着る肌襦袢にも、絽を使用した製品が販売されています。暑がりの方は、1年中着用しているほど。その日の体感によって調整できます。
肌に近く、汗や皮脂など汚れが気になる襦袢は、麻や綿などの洗える素材がおすすめです。特に麻は肌にまとわりつく感覚が少なく、盛夏の襦袢で人気があります。
夏以外にも使えるので、肌触りや手入れのしやすさで選びましょう。
半衿・帯揚げなど小物類
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半衿や帯揚げなどの小物類にも絽が使われています。着用は6月〜9月初旬。
これから夏着物を楽しみたいなら、夏中使える絽の半衿や帯揚げを1枚持っておくと便利です。
単衣や薄物、夏の着物ならフォーマルからカジュアルまで合わせられます。
以前はシボがあって透け感の少ない絽縮緬は暑く見えるため、単衣に使うのが一般的でした。現在は夏の間ずっと使っている方も増えています。
絽縮緬を長く使いたい場合は、ボリュームのあるものではなく、薄手のものを選びましょう。
▼半衿の格や季節による素材の違いについてはこちらの記事も参考にしてください。
まとめ
絽目が整然と並び、凛とした華やかさが魅力の絽。着物や帯、襦袢など広く用いられ、カジュアルからフォーマルまで活躍してくれます。
着物を着ることに慣れても、夏着物はハードルが高いと感じがちです。
ルールが緩やかになったとはいえ、絽は最長で5ヶ月、場合によっては2ヶ月しか着られません。だからこそ、季節感を演出してくれる粋な生地なのです。
外から見える着物や帯、小物類は夏のみですが、暑さ調整できる長襦袢や肌襦袢は、1年中使える優れもの。
汗が気になる季節、自宅で洗える麻や綿などの素材を選んでみてください。
まずは帯揚げなどの小物や襦袢で、透け感や雰囲気を確かめるのもおすすめです。
暑い夏、纏う人の軽やかさを引き立ててくれる絽で、見た目にも涼しく快適な着物生活を過ごしてみませんか?